第7話『土壌整備は簡潔に』
さーて……どうしようか。
地下水でもひければ早いんだろうが、生憎と魔大陸……特にエラウス付近には、川が存在しない。
土の栄養価はかなり高いが、水分がごく稀に降る雨だけだ。
まあ、そういうことだから大きな川を作る。
とりあえずは湖だな。
「闇魔法『ブラックホール』」
俺が上空に飛んでそう唱えると、半径100キロ圏内の土が、ブラックホールに吸い込まれる。
ブラックホールを解除し、次の魔法を唱える。
「水魔法『ラデュラドス』」
ラデュラドスの言葉に反応して生成された巨大な水の塊は、ブラックホールによって作り出された穴に大量の水を張り、湖ができる。
「生成魔法〈フォレストウッド〉、〈礫岩〉、〈柵〉
破壊魔法〈ロストアース〉」
俺は湖の周りに巨大な木を何本か植えると、さらにその間を通る川になるための地面の凹みを作り、そこに防水の礫を敷き詰める。
さらに直径50キロに渡る礫が敷き詰められた何本もの凹み(エラウス等の地面以外がある場所は調整した)に転落防止の柵を作り、湖から水を流す。
水はそのまま、ものすごい勢いで礫岩の上を流れ、やがて海や別の川と合流する。
とりあえず、川(用水路)はこれで完成だな。江戸時代に作られた川崎の二ヶ領用水は凄い時間がかかったらしいが、魔法を使えば一瞬だ。流石魔法だな。
「な、なんだ!?」
「何が……川!? 何でこんな所に川が……だが、やたら整備されてる……用水路に使えるんじゃないか!?」
「本当だ! 久々に……野菜が食えるかもしれないぞ!」
「ああ、本当に水なんだ! 水を飲んだのは一体いつぶりだろう……」
突然できた川に気づいて、エラウスから何人か出てきた。
「まさか、あいつ……」
お、その中には酒場の親父もいるな。
「民衆、静まれ! この湖や用水路は我々ロルカス領の所有物だ! 無断で用水を使用することを禁ずる!」
は!? なんだって!? なんでそんなことを……どんだけ金が欲しいんだ!
「この用水路を作った者は、ルカスの街にある役所に出頭せよ!」
それだけ言うと、役人っぽい男は去っていった。
仕方ない……行くか。
◇◆◇◆◇
「ほう……貴様があの用水路と湖をつくったのか。あれだけ繊細な彫刻まで、見事な物だな。しかし、勝手に領民に富を与えるような真似をされるのは困るのだよ……」
あ、褒められたっぽい? 確かに、あの柵の魔法に関しては俺の記憶にある彫刻を適当に掘っていく設定をしたからな。
いやいや、何を言ってるんだ俺は。勝手に領民に富を与えるのが禁止? 領民をどれだけ苦しめる気だ?
「だが、貴様のその魔術の実力は欲しい。だから、取り引きをしよう。こちらが指定した物を造る代わりに、あの水を領民が使う権利を与える。どうだ?」
はあ……いやしかし、呆れて物も言えないな。魔王をこき使おうとする悪魔がいるか? フツー。
「お前じゃ話にならん。魔王の顔をちゃんと覚えている偉いヤツを出せ。話はそれからだ」
「ハッ! 魔王様がこんな辺境の地に来るわけがなかろう!」
俺の言葉を聞いた悪魔さんは、鼻で笑う。
どうも、絶賛取り調べ中の魔王様です。
この悪魔さん、この領ではそこそこ偉い人らしいですが、悪魔の頂点魔王様には関係ないですね。
「副長っ! 大変ですっ!」
「おい! いつもノックしろって言ってるだろ!」
「そんなことより、大ニュースです! このアル・ドット魔王国は、戦争をします!」
は? え? ちょ、ちょっと待て、ハルム君何やってんの!? 開国するよって言ったよね!? 何、「不平等条約で有利な所にいたなら、便利だよね!」って平和をぶった切った思考でもしてんの!?
「ふむ……そうか、なら尚更貴様の実力が欲しいな。我が軍に入団しないか?」
「悪いね、それどころじゃなくなった。一刻も早くあのバカを叱らないと……私の実力はわかるよね?」
「くっ……」
「転移・魔城オール」
◇◆◇◆◇
俺が白い光と共に地面に降り立つと、兵士が「あっ!」と声をあげて駆け寄る。
「魔王様、ここにおられましたか! 探しました! 魔王補佐が、戦争を!」
ああ、本当のことだったのか。
「聞いたよ、ハルムを探してるんだけど……」
「コチラです!」
兵士はそう言うと、俺を先導して城の中をズンズンと進んでいく。
やがて謁見の間につながる扉の前に着くと、ハルム君がそこに立っていた。
「ハルム、何があったのか簡潔に説明してくれるか?」
「ええ、私は移動の途中、アシュラ帝国の者に襲撃されました。そこでアシュラ帝国が軍隊を派遣していることを知り、皆に知らせている次第です」
ああ、なんだ、ハルム君に落ち度はないのか。
おそらく、あの勇者の一件だろう。きっと、真勇者も動くな……。そうだ、ちょっとアシュラ帝国をかき乱してみるか。
「ハルム君、今までの状況の説明と、何かあった時にこのカードを地面に叩きつけて。俺は、ちょっと出かけてくる」
俺がそう言うと、ハルム君は悲しそうな顔をする。
「ご迷惑をおかけして、申し訳ありません……」
「イヤイヤ、ハルム君は悪くないじゃん。まあ、気にしないで。俺がなんとかするから」
俺はそう言って、翼を生やす魔法で空を飛び、アシュラ帝国へと向かった。
◇◆◇◆◇
「変化技術『人化』」
俺は裏路地に着地し、男の人間の姿に見た目を変えると、適当にブラブラと歩いて、チンピラに絡まれるのを待つ。ちなみに、人の姿になると一般人を瞬殺できる程度に身体能力はダウンしてしまう。
「おうおうニーチャン、金目のもんを置いてきな!」
お、早速出た! このテンプレ感とか、まさに異世界のチンピラって感じだ。
「おいおい、誰に向かって言ってるんだ?」
「ハッ! やっちまえ!」
チンピラは集団になって俺に襲いかかってくるが、それをかわし、チンピラの髪を掴み……軽く投げ飛ばす。
「おい! 喧嘩だ! あの男、強いぜ! 相手はヤタガルの一味だ!」
なんか観客が集まってきたな……。仕方ない、派手にやってやるか。
「チッ!」
「おいおい、逃がさねえぜ?」
撤退しようとするチンピラを捕まえ、地面に軽く投げ、チンピラの顔の真横の地面に拳で小さなクレーターを作り、話しかける。
「ヒイッ!」
「なあ……俺の仲間になれよ」
「は……はあッ!?」
「いいだろ? あ、それともボスの所に連れてってくれるか?」
「くっ……わ、わかった。ついてきな」
俺がチンピラ軍団についていくと、やがて古ぼけた小屋にたどり着く。
「ボス、助けてくだせぇ!」
「……? なんだお前、俺の部下に手を出したのか?」
俺に向かって、ボスと呼ばれた大男が顔を近づける。
俺はニッと笑い、こう言った。
「お前らのボスになりたいんだ」
「なるほど、タイマン希望者か。いいぜ、お前が勝ったら俺や俺の部下は、お前の手足になってやる。その代わり……そうだな、俺が勝ったら俺の言うことを全て聞いてもらうぞ?」
「ああ、それで行こう」
男は俺の言葉に嬉しそうに頷き、拳を振りかぶった。
「おっと」
俺はそれをステップでかわし、男の蹴りを腕でガードする。
おお、相当重い蹴りだな。レベルはかなり高そうだ。だがまあ……俺の敵じゃない。
「氷魔法『凍結』」
片脚で立っていた男は滑り、ずっこけ……るかと思ったが、バク宙で上手く回避したな。
「滅魔法『終焉』」
滅魔法!? なんでチンピラのボスがそんなん使えんの!?
「くっそ! 妨害魔法『ジャミング』」
俺は滅魔法の魔力を妨げると、その魔力で狂乱の渦を作り、消滅させる。
「ふっ! 流石、俺にタイマンを挑むだけあるな!」
男はそう言うと、俺にフックを決める。
俺はそれを手で防ぎ、そのまま掴んで腕を折る。
「治癒魔法『ヒール』」
男は俺から脱出すると、魔法で腕を直し、詠唱を唱える。
「変化技術『熊王』」
男は熊の特徴を持つ人間となり、俺にキバを剥いた。




