第5話『荒れてしまった大陸』
「……ん」
「……起きたか?」
「……え? 誰?」
俺は、混乱したまま、額に手を当てる。確か……あぁ、そうだ、アリスの竜巻に吹き飛ばされたんだったっけ……ここにいるってことは……え? ここどこ? っていうか、このおっさん、誰?
「……おっさんか。まぁ、いいだろう。俺の名はラグラス」
ラグラス……どっかで聞いたことが……あ、そうだ。思い出した。ハルム君の記憶に名前があったな。
魔帝ラグラス、100の魔眼を作り出した……夢見だっけ? それの能力持ちの、行方不明者。
「私の名は、ララ・ミリュシュ・サタン。
……それにしても、ここら辺の地面は、随分と枯れていますね」
「貴様、中央部の出身か?」
あ、俺のこと知られていないっぽい。出身地聞かれてるくらいだし。
「ええ、まあ、ちょっと事件で飛ばされてしまいまして……」
「なるほど、通りで高い能力と……無駄な知識が多い」
む、無駄……? っていうか、この人(?)俺のステータス見れるのか?
「ああ、奴には貴様の面倒を見ていろと頼まれてな。魔帝の後継者に相応しい人物だ! っと、奴は喜んでいたな」
……奴? 誰かが俺を、この人の元まで運んだのか?
「察しがいいな。だが……その右目の『時見』の魔眼はハリボテか?」
……なにそれ、全然知らなかったんですけど。
「……魔眼の使い方を知らないのか? 右目に魔力を集中させてみろ」
俺は言われた通りに、右目に魔力を集中する。すると……なんだ? これは……昔のここか?
俺の右目には、たくさんの見慣れた姿……人間が、緑豊かなこの近辺で魔族たちを……なんだこれ!?
「この土地は昔……俺が統治していた頃、人間たちの要塞だった。魔大陸と呼ばれるこの土地は、とてつもなく広く……廃れている。魔族を人間たちが迫害し……この廃れた大地に追いやった。その人間たちは、ここ……アリウス荒野に要塞を建て、魔族たちを奴隷として狩りはじめた」
俺は、右目の魔力を抜きながら、ラグラスの話を聞いた。
……まぁ、わからなくもない。俺はこうして魔族と馴染めたが、人間たちにとって、魔族とは未知の存在だ。未知とは、驚怖に直結する。そして、驚怖を倒した高揚感と、驚怖を征服する支配感は止まらなくなる……まるで、前世の昔の地球みたいだな……
「地球……それが貴様のいた世界か。なるほど、勇者たちもそこから来ているのか」
……? まさか、このおっさん地球を滅ぼす気か? 次元も超えているのに?
「……真魔王、とりあえず貴様を近場の街に送る。そこからは自力でなんとかなるか?」
「ええ……大丈夫です」
俺がそう答えると、おっさんは転移魔法で街……エラウスという街に飛んだ。
「おお……」
俺はエラウスの街を眺める。うーん……なんていうか、活気がない。それに、こころなしか街の民衆はみんなやつれているように見える。
「では、俺はこれで失礼する。なにかあったらこの場所に行くといい。運が良ければ、俺に会えるだろう」
俺は、おっさんが差し出した紙片を受け取りながら、「では、これで」と、返事をした。
さて……これからどうするか。ぶっちゃっけ転移魔法で帰るのは簡単なんだが、それよりもこの街のことが気になる。
かなり辺境の方に来たみたいだし、中央部……城付近では見れない物がなにか、見れるかもしれない。
あ、ちなみに言っとくが、アリュシアは南って言っても、元々荒野だったし、城からは割と近いんだ。
エラウスは西の端の端……隣国と隣り合わせの町だ。
ちなみに、アルドット王国はオーストラリアのように魔大陸そのものを支配している。……まあ魔大陸は広くて、王国もいくつかの統制下に分かれているんだけどね。イメージとしてはEU連合に近いかな?
アルドット王国の主要都市……中央部は、主に富裕層が集まる。政治と経済の中心地で、すべての大きな事柄を最終的に決めるのは、中央部の魔王やその側近……つまり、俺とハルム君たちだ。
東の方は、あまり開拓されておらず、三人の貴族がいくつかの街と無数にある村を支配している。
魔大陸は極東……まあ日本みたいに最も東にあり、魔大陸と西の方にある国の間には、魔溝と呼ばれる巨大な魔力の溜まり場が存在して、流通の弁はない。
魔溝は確か、竜巻や嵐で吹き荒れ、いくつか存在する島も、火山噴火を繰り返すまさに天災と呼ばれる区域だ。魔溝は球状になっていて、誰も魔溝の中へは入れない……らしい。
いつか資源調査を行いたいけど、今はそれは置いておこう。
「うーん……」
やっぱり活気がない。
露店とかはあるし、冒険者も住民も多いけど、なんか、諦めのような物を感じる。
……とりあえず、酒場で話を聞いてみるか
◇◆◇◆◇
「いらっしゃい」
俺は店主の声を聞きながら、店主の目の前のカウンター席に座る。
「そうだな……オススメの料理と酒を頼む」
「あい了解」
店主はそれだけ言うと、鹿肉……いや、魔大陸の西に生息する鹿型の魔物、マトナカの肉をフライパンでジュッと炒める。
続いて香辛料のピリッとした匂いと、炒める香ばしい匂いが鼻先を掠める。
マトナカ肉のステーキ、シンプルだがそれゆえにコックの腕が問われるメニューだ。
「あいよ。マトナカ肉のステーキだ」
店主はそう言って、白い皿に綺麗に盛り付けられたステーキと、赤ワインの入ったグラスを俺の前に置く。
美味そうなのはいいんだけど……この赤ワイン、どこで手にいれたんだ?
今現在、アルドッドはどこの国とも交流してない、完璧な鎖国状態のはずだけど……。
こんな枯れた土地では、ブドウも育たないし……
「店主、随分と珍妙な酒を出すのだな」
俺はこの世界で初めて見た、赤ワインについて店主に訪ねる。
「あー……お前さん、中央部の出身か? ……これは絶対に秘密なんだがよ、随分と長い間鎖国をしていると、必ずどこかに綻びができるんだよ。この『ワイン』とかいう酒も、その綻びを通ってきたって訳だ」
なるほど……酒の密輸か、それ以外にも色々ありそうだ。
「店主、悪いがこの辺りで密輸している物品を教えてくれないか?」
「なんだよあんた、お偉いさんか?」
「悪い結果にはしないからさ」
俺がそう言うと、店主は渋々といった感じで密輸品について教えてくれた。
まあ、店主が話している間は食ってるんだがな。
「そうだなぁ……香辛料や肉はこっちでもよく採れるんだが、野菜が頗る足りてないんだよ。根菜類、葉物類とか、たくさんの野菜が仕入れられている。あとは、パンとか米なんかの炭水化物だな。芋なら育つんだが、この辺りはパンの方が人気だ」
野菜と主食類、それに酒……か。
コレらを隣国から裏で一括入手しているとして……考えられるのはオルポー王国だな。
あそこは身分差別も少ないし、奴隷制度もない。資源も豊富だ。
「ありがとう、店主。色々分かったよ」
俺は肉汁溢れる極ウマのステーキを食べ終え、店主に感謝を伝える。
いやぁ……噛めば噛むほどに旨味成分が溢れ出て、超うまかったな。
「おう、気にすんな。お代なんだがよ……エラウスじゃあ税が無茶苦茶高いんだ。この額……用意できるか?」
店主がそう言って差し出した紙には、日本円で¥123000と書かれている。
「……ああ、これでいいか?」
俺はそう言って、この世界では金剛銭と呼ばれる十万円分のダイヤでできた金貨を一枚と、一万円分の普通の金貨を二枚、千円分の普通の銀貨を三枚渡す。
「用意できんのか。やっぱり中央部は違うねェ」
「ああ、じゃあな。……これは情報料だ」
俺は去り際に金剛銭をカウンターに置き、店を出た。




