乙女ゲームの悪役令嬢に転せ……え!? 義理の妹はシンデレラ?
いろいろあって悪役令嬢に転生した私こと25歳独身年齢イコール彼氏なしの事務員の明野サヤは。
「オーッホッホ! ……サンドリヨン? まだ窓の桟に埃が残っているわよ!?」
「ごめんなさいお義姉さま! でも、はたきがもうぼろぼろで……」
「おだまりなさい!」
「オーッホッホ! ……サンドリヨン? このスープに虫が入っていたわよ!?」
「ごめんなさいお義姉さま! でも、最近台所にコバエが……」
「おだまりなさい!」
「オーッホッホ! ……ハイパーベンチレイション? まだお洗濯が終わってないのかしら!?」
「ごめんなさいお義姉さま! でも、私別に過呼吸じゃ……」
「おだまりなさい!」
「カモンベイベ! ……ドゥザロ○モーション?」
「ごめんなさいお義姉さま! でも、私続きわからないから……」
「おだまりなさい!」
人生の春を謳歌していた。ないこれメッチャ楽しい。あとサンドリヨンちゃんめっちゃ可愛い。
私が転生したゲーム、『シンデレラ・ストーリーズ~四人の王子があなたに求婚~』は有り体に言ってクソゲーである。まず設定がひどい。シンデレラって書いてるのに主人公の名前はサンドリヨン。いやあってるんだけど。
まあともかくシンデレラが共通イベントでガラスの靴ポイして回収してからが個別ルートなんだけど、その王子がいろいろひどい。
まず一人目、キング・アーサー。円卓と祖国はどうした。性格はまともだけどずっとエクスカリバーもってる。正当派爽やかイケメンでパッケージのど真ん中。
次に二人目、織田信長。いやお前王子じゃないから。常に横にいる森蘭丸はショタだけど攻略できない重大な不具合。
続いて三人目、ツタンカーメン。一番マトモなシナリオのくせに例の金ピカマスクを外さない。全部のシーン台無し。
割とどうでもいい四人目、中大兄皇子。まさかの日本人二人目。皇子言いたかっただけ。ヒゲ。
最後五人目、隠しキャラの惑星の王子様。宇宙人。いろいろギリギリ。最後生まれた惑星に帰る。
次にシステム上のバグ。まずオートモードにすると主役の音声がバグる。めっちゃ震える。あとは中大兄皇子のバグ。驚いた時だけなぜか全裸のCGになる。スキップはもう自分でボタン押したほうが早いしオートセーブは三十分ごとに別ファイルを作り続けゲーム機の内部ストレージの容量を無駄に食い続ける別名逆襲のシンデレラ。
肝心なゲームシステムだけど、ノベルゲーかとおもいきや何故かステータスがある。サンドリヨンの行動と意地悪な姉の悪戯によりステータスが変化。5つのステータスの中で一番多いのに対応したシナリオに移行するのだが、ここで現在の愛すべきサンドリヨンのステータスを確認しておこうと思う。
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サンドリヨン ランク:58 ガラスの靴;25
スタミナ:62/100 ■■■■■■□□□□ 全回復まで後0:38
EXP:2458/2500 ■■■■■■■■■□
ステータス
ブリテン:195
本能寺:103
ピラミッド建設時の労働者の賃金:250
大化の改新:3
やさしさ:ff2fdf
△特定商取引法に基づく表記
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モロバレである。もうえっどのルートいっちゃうんだろうみたいな楽しさは全然ない。やさしさバグってる。ていうかガラスの靴めっちゃ余ってる。無駄に課金アイテムで5個で1回ガチャが引ける。5%の確率で手に入る高級家電はサイクロン掃除機。最初の一回で手に入るレアアイテムははたき。しかも個別ルートに入ると使い道はない。だってお姫様だから。メーカーが流行りに乗っかって現金回収したいのが見え見えである。
というわけでSレアの紙パック掃除機で掃除をしているサンドリヨンにちょっと悪戯をしてみたいと思う。
「オーッホッホ! ……サンドリヨン? アレの名前はなんだっけ!?」
「ごごめめごえめごめごめ」
くそっ、オートモード使ってやがる。
「アレよアレ! アレの名前よ!」
私は叫ぶ。するとサンドリヨンは掃除機の電源を切り、私に向き合って笑顔で聞き返す。
「アレ、ですか……?」
「そうよ、あのお弁当に入っている緑のやつ!」
がってんのいったサンドリヨンちゃんはあーと声を漏らして何度も頷く。激キャワである。
「……明智光秀!」
テーレッテレー! 景気のいい音楽が部屋中に響く。
サンドリヨン は 本能寺 が 50 上がった。
ランクアップ! スタミナ全回復! 60レベル到達で家電プラチナチケットが貰えるよ! SSRのホットプレートは次回イベント『やいちゃえ! BBQ&比叡山』で特攻五倍!
「うるせぇ!」
本能寺上がりすぎだけどそれ以上にガチャの宣伝が唐突に射幸心を煽ってくる。いや次回イベント知らねぇよ。
――とまあ、常日頃からこんな感じである。
そういう訳で私の当面の目標は、ザ・ベスト・オブ乙女ゲーム主人公の激キャワサンドリヨンちゃんに至極まっとうな生活を送らせることであった。
とりあえず、このままだとカーメンルート一直線なので、それだけは避けたい。やっぱり私としては正統派のキング・アーサーと祖国放り出しのウルトラ激アマハッピーエンドを迎えて欲しいからとりあえずブリテンが上がりそうな悪戯を日課にしている。そういうわけで、私は朝食のサンドリヨンちゃんお手製アジフライ定食にケチをつける事にした。
「ちょっとサンドリヨン! この朝飯どういうことよ!」
「えっ、お義姉さまお魚のフライが食べたいと言っていたから……」
「私が食べたいのはねえ、フィッシュアンドチップス! わかる? フィッシュアンドチップスよ!」
「えっと……アジフライとどう違うのですか?」
「それは……」
やばい、私食べたこと無い。だけどイギリスの料理のことなら知っている。ネットに書いてあったから。
「油がギトギトで恐ろしくまずいのよ」
「お義姉さまは……それがたべたいと?」
「いや全然」
あ、しまったつい本音が。
テーレッテレー! サンドリヨン は 本能寺が 20 上がった。
くそっ、アジフライが和食扱いだから。
「と、も、か、く! あんたはさっさと私のブラウスにアイロンかけるの! わかる? ア!」
「ナ!」
ナってどこからきた。誤植か。
「イ!」
「イ!」
よし、軌道修正できたぞ。
「ロン!」
「ル川!」
テーレッテレー! ピラミッド建設時の労働者の賃金が5上がった。
「クソがッ!」
思わず机を叩く。びっくりするぐらいクソゲーで泣きたくなる。
「ともかく! 私は午後からでかけるから、ソレまでに用意しておいてよね!」
「わかりましたお義姉さま……どちらにいかれるんですか?」
不安げな顔でもじもじしながら聞いてくるサンドリヨンちゃん。ほんとうは太ももの間に顔面突っ込んでスーハーしたいのだけれど、今の私は悪役令嬢。その気持をぐっとこらえて鼻血はハンカチで拭いて平静な態度を崩さずに答える。
「あんたに関係ないでしょ!」
「わかわわかかくぁかわか」
くそステータス上がったらすぐオートモードにしやがって。
「別に、あんたが知りたいなら教えてあげてもいいわよ」
「えっ、本当ですですででです」
途中で興味持つのやめんな畜生。
だけどまあ、この子には言わないほうが良いのだろう。
なにせこれから会いに行くのは、とってもこわい魔女なのだから。
魔女の家は人里離れた森の中にある。背の高い針葉樹と毒々しい色のキノコで彩られるその森にうら若き乙女は立ち入ろうなんてしない。けれど私は違う、行かねばならない。運命の舞踏会の日に、かぼちゃの馬車とかガラスの靴とか用意してもらわないといけないのだから。
魔女の家はほとんどもう家と呼べないぐらいの代物で、丸太や廃材が織りなす奇跡的なバランスが辛うじて建築物としての体裁を保っている。というわけで、私はそのボロボロのドアを蹴飛ばして中に入る。
「ヒイッ!?」
「邪魔するわよ」
そこにいたのはテンプレ老婆。フード鷲鼻しわだらけのおばあちゃん。なんか紫色の鍋をかきまわしている。
「あんたが魔女?」
「あの、どちら様……」
怯えるババアを尻目に、部屋にあったソファに腰を掛ける。全然掃除が行き届いてないのか、埃が舞い立つ。
「あのね、私には妹がいるの」
「あの、ですからどちら様……」
「ああっ!?」
ババアの態度が気に入らなかったので、床においてあった鍋を蹴飛ばす。うんうん、悪役はこうでなくっちゃ。あでも一応良い所のお嬢さんなんだからそれっぽくしないとね。
「あのね、私にはプリティーラブリーなアルティメット激キャワな義理の妹がいるの……魔女なら、私がここに来た理由わかるわよね?」
そう言うと、ババアはしたり顔で頷いた。なんだわかってくれてるじゃん。
「クヒヒヒ、その子を毒殺した」
「はああああああああああああっ!?」
私は立ち上がり、ババアの胸ぐらを掴む。
「今毒殺って言ったか? ああ!? プリティーラブリーなアルティメット激キャワな義理の妹って言ってんだろ! どこをどう聞き間違えたらそうなんだよ!? てめぇサンドリヨンちゃんに指一本触れてみろ簀巻きにしてナイル川に沈めるぞ!」
「えっ、だってここに来たって……」
「あーもうだめ、ぜんっぜんだめ。一から説明しないと駄目ね。年だけ食ってそんなこともわかんないのかしら」
「ワシ別に普通に暮らしてただけだし……」
「いい? サンドリヨンちゃんはね」
――それから五時間、私はサンドリヨンちゃんの可愛い所を親切丁寧に説明してあげた。
「わかったかしら?」
「イモウトサイコー、ギリノイモウトサイコー」
うんうん、理解者が増えるって嬉しいね。
「そこであなたには、舞踏会の日に彼女のところに行って欲しいの」
「それで何をすればいいんです?」
「そうねぇ……まずはかぼちゃの馬車と、あとはきれいなドレスとお……最後はやっぱりガラスの靴ね」
まあうちのサンドリヨンちゃん25個持ってるけど。
「えっと……それどうすれば」
「は? あんたが用意するに決まってるでしょ」
「あのっ……報酬」
ババアが余計な事を言い出すので、思わず舌打ちする。けれど私も馬鹿じゃない。こうなることぐらい想定していた。
「仕方ないわね」
用意していたものをポケットから取り出す。その撃鉄を下ろし、腰に据えたままババアが来た時にいじっていた鍋に狙いをつけて引き金を引いた。
――シングルアクションアーミー。
現代知識を元にして鍛冶屋に作らせた最強の近代兵器。そのシンプルながらも美しいフォルムはみるものの心を奪う、まさにキングオブリボルバー。19世紀に作られたこの傑作は、メンテナンス強度精度ともに申し分はない。ピースメーカー。願わくばこの銃がサンドリヨンちゃんの将来を平和にせんと切に願う私であった。
炸裂音が部屋に響き、ババアの鍋が粉々になる。それから笑顔でババアに向き合い、銃口を眉間につきつける。
「これで撃たれたいかしら?」
ババアは冷や汗を流しながら、ニッコリと笑顔で頷いてくれた。
「ただいまサンドリヨンちゃんいますぐババアのせいで結構値の張る銃弾を使った私を慰めていますぐギブミー!」
と叫びたくなるのをぐっとこらえて。
「今戻ったわ……サンドリヨン? サンドリヨン!」
「はい、お義姉さま」
台所からスリッパをぱたぱたとさせて、エプロン姿でお出迎え。私は淑女らしくポケットからハンカチを取り出し、可愛さのあまり溢れ出る鼻血を抑えながら尋ねる。
「今日の晩御飯は何かしら?」
「はい、カレーで」
「セーーーーフ!」
カレーはインド。インドはエジプトじゃない。イコールノットツタンカーメンノーモアカーメンイエスカレー。
「もちろんライスよね?」
「もちろんですお義姉さま」
私は食卓についてスプーンを握りしめる。サンドリヨンちゃん手作りカレーとあれば、ブログにフルサイズのデジ一で撮影してアップしてツイッターにも拡散希望のタグつけるレベルなのだが、この世界にインターネットはないので仕方ない。
「今日はですね……ご飯がターメリックライスなんですよ」
「ふん、あんたにしては気が利くじゃない」
そして私の前に置かれるカレーラス。黄金のご飯は綺麗に山盛りにされている。
――それはまるで。
「今日はですね、異国にあるというピラミッド風に盛り付け」
「ウオアアアアアアアアッ!」
私はスプーンを握りしめ、憎きピラミッドを突き崩す。
「全部混ぜちゃう派だからーっ! ビビンバみたいにまぜまぜしたほうが美味しいもんねーっ!」
誰に言うでもなく私は叫ぶ。くそっ、カーメン死ね、呪われて死ね。
「そういえばサンドリヨン? わたくし達、明日お城の舞踏会にお呼ばれしてるの」
継母もとい私の母親もとい私とサンドリヨンちゃんの間に入ってくるモブが口を開く。邪魔しやがって。
「あーあ、あなたはお留守番。わたくし達は豪華なパーティ」
「ですわね、お母様」
食卓の空気を悪くする、私の姉ことモブBがしゃべる。二人共家出てってくれないかなあ。
「はい、いってらっしゃいませ!」
でもマイエンジェルサンドリヨンちゃんは笑顔でそんあ事を言う。ざまあみろモブ共サンドリヨンちゃんはそんな俗世の集大成みたいなイベントに興味のない崇高な存在なのだ。
「……うらやましくないのかしら?」
「私、欲しい物って別にありますから……」
顔を赤らめて俯いて、恥ずかしそうにサンドリヨンちゃんがつぶやく。かわいいなぺろぺろしたいな。
「何が欲しいのかしら」
一応聞いてみる。もし実現可能なものだったら枕元にそっと置かねばならないから。
「あの……笑わないでくださいね」
それから満面の笑みを浮かべて、サンドリヨンちゃんが教えてくれる。
「イベント特攻の……SSRホットプレー」
「ウオアアアアアアアアッ!」
思わず叫んで立ち上がる。騙されてる、運営に騙されてる。
「いい、サンドリヨン! どうせ月が開けたら別のイベント始まるしというか5%なんて二十回引けば一個でますっていう確率じゃないの! わかる!? というか次のイベントって比叡山焼き討ちなんだからそんなのあなたが行く必要ないじゃない!」
「でも十連なら一回おまけだから……」
「それでも出ないのよ! そういうものなのよ!」
食卓が静まる。部屋に響くのは機械的な時計の針の音だけだった。
少し遅れて、サンドリヨンちゃんが鼻をすする音が聞こえる。
――泣かせて、しまった。
「お義姉さまなんて……大っ嫌い!」
そう言い残して、彼女は部屋へと逃げ出してしまった。追いかけてたくても出来なかった。
だって私の役割として、これが正解なのだから。
夜、布団にくるまりながら私はサンドリヨンちゃんのステータスを確認する。
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サンドリヨン ランク:59 ガラスの靴;15
スタミナ:12/102 ■□□□□□□□□□ 全回復まで後1:30
EXP:123/2550 ■□□□□□□□□□
ステータス
ブリテン:195
本能寺:153
ピラミッド建設時の労働者の賃金:255
大化の改新:3
やさしさ:ff2fdf
△特定商取引法に基づく表記
―――――――――――――――――――――――――――
このままだったら、カーメンルートは逃れられない。だが、まだ希望はある。やさしさは置いといて、ブリテンが二番目に高い。
だから私はシングル・アクション・アーミーを握りしめる。やるべきことは決まっている。
――ツタンカーメン、殺す。
舞踏会当日、私は誰よりも早く城に乗り込んでいた。もちろんツタンカーメンを殺すためだ。だが、いきなりは早い。まずは奴とお近づきになる。そのためにはまず、この場の空気に馴染む。一番目立つのは、やはりキング・アーサー。さすがに好青年というだけあって彼の周りには女達が群がっている。ちなみにツタンカーメンの仮面はなぜかスルーされている。だから私は次に目立つ、信長とカクテルグラスを交わしていた。
「ええ? 信長さんって第六天魔王だったんですか?」
「昔のことですよ……いやあ、あの時はヤンチャでして」
「信長さまは今でもヤンチャですよ」
「蘭丸、後で便所裏に来い」
世間話に花を咲かせながら、会場の空気を伺う。今この会場の中で一番の美女は控えめに言って私だった。なにせ他のモブは顔が書割なので美人の概念とか存在しない。
カーメンの様子を伺う。特に女性と会話すること無く、ひたすらクラッカーを食べている。仮面の上から。でも口を動かしていない……どうなってんだあれ。
――一瞬、会場全てが息を呑んだ。
扉を開けて入場するのは、まさしくこの世の美の女神。その名もサンドリヨン。下から読むとンヨリドンサ。別名シンデレラ。その神々しさたるや、まさしく絵画の世界から飛び出してきたようで。美の概念そのものと言っても過言ではない、金髪の天女がそこにいる。
ガラスのハイヒールを響かせて、彼女が一歩前を行く。会場の視線の全部を、彼女が奪う。
また一歩。モブ共がようやく美しさに気づき始める。
もう一歩。王子たちが彼女を見つける。それでようやく目の前にいる女性が運命の人だと気づいてしまう。
さらに、一歩。ツタンカーメンが転がるミニトマトを追いかけて走る。
――まずい。
遅かった。かがんだツタンカーメンに彼女が躓く。
「きゃっ!」
嬌声が響く。そして倒れそうになる彼女を、抱きかかえる男がいる。
「お」
もちろん、ツタンカーメンだ。
「お」
私は走る。隠し持っていたシングルアクションアーミーを抜き、撃鉄を下ろす。
狙うはもちろんカーメンの脳天。
「往生せいやあああああああああっ!」
叫ぶ。そしてその引き金を絞った。
――炸裂音が響く。
放たれた銃弾が、いまカーメンの仮面にあたる。
「……やったか!」
私は銃を降ろし、カーメンに駆け寄る。恐る恐るその仮面を見下ろせば、血の一滴も流れていない。
「……お義姉さま、一体何を!」
ツタンカーメンを抱きかかえながら、サンドリヨンちゃんが叫ぶ。
「あなたは知らなくていいわ」
だけどわかってくれなくていい。だってこれは彼女のためで、悪役としてやるべき事なのだから。
私はゆっくりとその仮面に手を伸ばす。銃弾の当たった場所には亀裂が入っていた。
ってあれ、これもしかして。カーメンの素顔見られるんじゃね?
私は銃を持ち替えて、そのまま銃床でカーメンのマスクを殴りつける。ヒビが入り、そして彼の素顔があらわになる。
大きな黒い瞳。逆たまご型の輪郭。それから銀色の肌。
「ໂອ້ຍ ມັນ ແມ່ນການເຈັບປວດ」
やべ、こいつ惑星の王子様だ。
「ກະລຸນາ ກາຍ ...... ບໍ່ວ່າຈະເປັນ ພັນລະຍາ ຂອງຕົນ ປະທັບໃຈກໍ ໂດຍ ຄວາມເມດຕາ ຂອງທ່ານ」
何言ってるかわかんないわ。
私はシングルアクションアーミーの銃床でもう一度殴りつける。今度は素顔という事もあって、簡単に気絶してくれた。かわいいかわいい彼女をこんな訳の分からない生命体に渡すつもりは毛頭ない。
「さて……帰りましょうサンドリヨン」
立ち上がり埃をはらって、彼女にそっと手を伸ばす。
「お義姉さま……」
私の手を取った彼女が、ゆっくりと立ち上がる。
「帰って……イベントに備えてガチャ引きましょう。お金は私が出してあげるわ」
笑顔でそう語りかけると、彼女は満面の笑みを返してくれて。
「……大好きです、お義姉さま!」
そんな世界一嬉しい言葉を、私にプレゼントしてくれた。