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羊の短編集。

贖罪。

作者: シュレディンガーの羊
掲載日:2011/09/02



俺に盾はいらない。

ただ、剣と折れない心があればいい。



俺を許さないでほしい。

優しい君はいつでも一人で泣いていた。

周りには明るさばかり振り撒いているのに。

俺はそんな君を守る剣になりたかった。

例え、君がそれを望まなくても。

もう誰からも君が傷つけられるのは見たくない。

本当は知っている。

きっと君は俺が剣を振るうことを悲しむだろう。

そして、それが君を守るためだと知れば苦しむだろう。

けれど、それを知っても俺は剣を振りかざすのをやめない。

だから、俺を許さないでほしい。

そうすれば、俺は俺のために剣を振るうことができる。

俺が俺の意志で動いた結果。

黒く赤く染まるのは俺だけでいい。

だから、どうか笑っていて。


だから、どうか俺を許さないで。




「どうして……?」


私は呆然と呟いた。

血溜まりを広げる兵士と、その血に濡れた剣を持つ青年を見比べる。

青年は黙ったまま視線だけは外さない。

その瞳には悲しみと諦めが浮かんでいた。


「殺した、の?ねぇ、答えてよ……」


青年の表情が痛みを堪えるように歪む。

否定しない彼に私は小さく首を振る。


「違う、そんなことが言いたいんじゃない」


責められるわけがない。

彼は私を守っただけ。

彼が剣を抜かなければ、確実に私は殺されていた。

でも、違う。

本当は違う。

彼を人殺しにしたのは私だ。

なら私は、私のやれることは。

たったひとつしかない。


「私は、」


泣くな、そう自分を叱咤する。

青年の瞳をまっすぐと見つめて言う。


「あなたを許さない」


彼がゆっくりと目をつむった。

握りしめた拳が痛くて、胸が、痛くて。

俯いた途端に目頭が熱くなる。

そして、彼が言った。


「許さなくていいから、傍にいさせてくれ」


答えることができなくて、私は俯いたまま立ちすくんだ。

そんな私を彼が優しく抱きしめて囁いた。


「許さないでくれてありがとう」




私はもう二度と彼に想いを告げることはできない。

私にできるのは彼を許さないことだけ。

彼を殺人鬼にしないことだけ。

彼を苦しませ、自分に嘘をつくことだけ。

私たちの贖罪はゆるされないこと。

彼は私に。

私はこの想いを。

許されない。


ずっと。




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