贖罪。
俺に盾はいらない。
ただ、剣と折れない心があればいい。
俺を許さないでほしい。
優しい君はいつでも一人で泣いていた。
周りには明るさばかり振り撒いているのに。
俺はそんな君を守る剣になりたかった。
例え、君がそれを望まなくても。
もう誰からも君が傷つけられるのは見たくない。
本当は知っている。
きっと君は俺が剣を振るうことを悲しむだろう。
そして、それが君を守るためだと知れば苦しむだろう。
けれど、それを知っても俺は剣を振りかざすのをやめない。
だから、俺を許さないでほしい。
そうすれば、俺は俺のために剣を振るうことができる。
俺が俺の意志で動いた結果。
黒く赤く染まるのは俺だけでいい。
だから、どうか笑っていて。
だから、どうか俺を許さないで。
「どうして……?」
私は呆然と呟いた。
血溜まりを広げる兵士と、その血に濡れた剣を持つ青年を見比べる。
青年は黙ったまま視線だけは外さない。
その瞳には悲しみと諦めが浮かんでいた。
「殺した、の?ねぇ、答えてよ……」
青年の表情が痛みを堪えるように歪む。
否定しない彼に私は小さく首を振る。
「違う、そんなことが言いたいんじゃない」
責められるわけがない。
彼は私を守っただけ。
彼が剣を抜かなければ、確実に私は殺されていた。
でも、違う。
本当は違う。
彼を人殺しにしたのは私だ。
なら私は、私のやれることは。
たったひとつしかない。
「私は、」
泣くな、そう自分を叱咤する。
青年の瞳をまっすぐと見つめて言う。
「あなたを許さない」
彼がゆっくりと目をつむった。
握りしめた拳が痛くて、胸が、痛くて。
俯いた途端に目頭が熱くなる。
そして、彼が言った。
「許さなくていいから、傍にいさせてくれ」
答えることができなくて、私は俯いたまま立ちすくんだ。
そんな私を彼が優しく抱きしめて囁いた。
「許さないでくれてありがとう」
私はもう二度と彼に想いを告げることはできない。
私にできるのは彼を許さないことだけ。
彼を殺人鬼にしないことだけ。
彼を苦しませ、自分に嘘をつくことだけ。
私たちの贖罪はゆるされないこと。
彼は私に。
私はこの想いを。
許されない。
ずっと。