第19話(終章):オープンソース化された世界と、新しい通常運転
観測者のシステムが書き換えられてから、数ヶ月の月日が流れた。
世界は劇的な変化を遂げていた。
王都では奴隷制度が完全に消滅。俺が提供した【物流陣】を活用した自律ギルドが立ち上がり、解放された人々の再訓練と生活支援がスムーズに行われている。
また、世界中に降り注いだ観測者の光により、都市ごとに【観測者霧】をオンオフできる「プライバシー圏」が確立された。人々は監視される恐怖から解放され、自らの意志で情報を選ぶ自由を手に入れたのだ。
そして森都。
俺は街の外れに『合成教導所』という小さな看板を掲げた工房を開いていた。
「先生! 【小火球】と【風歩】の合成、出力係数を間違えたらどうなりますか?」
「おっと、そこは注意しろ。計算式を間違えると火傷じゃ済まないぞ。安全第一のモットーを忘れるなよ」
俺の【解析模倣】は他人に譲れないが、安全な「合成のロジック(思考法)」を教えることはできる。魔法をブラックボックスにせず、誰もが構造を理解して使えるようにするための、公開APIのような教育だ。
そこへ、教導所の扉を開けて見慣れた姿が入ってきた。
「迅、お疲れ様。今日の評議会、無事に終わったわ」
森都の議長代行として忙しい日々を送るリアナだ。彼女の瞳はもう魔力反動の痛みを感じさせることなく、穏やかな黄金色を湛えている。
「お疲れ、議長さん。そういえば、さっき北の砦から手紙が届いてたぞ」
「魔族将のグラトス様から?」
「ああ。『観測の縛りが消えて、うちの連中も活気づいている。次はお前と、純粋な武の手合わせを楽しみにしているぞ』だってさ。……冗談じゃない、あんな筋肉だるまの魔法とやり合うのは御免だね」
俺が肩をすくめると、リアナはくすくすと笑った。
「それに、王都のセヴラン監査官からも定期連絡があったわ。今度は双方向の監査システムについて、迅に技術的な相談があるそうよ」
「あの堅物メガネ、すっかりアジャイル開発の虜になっちまったな」
かつての敵たちが、今は立場を超えて新しい世界を回すための仲間になっている。
窓の外を見ると、自由な風が森都の街を吹き抜けていた。
理不尽なバグも、不当な支配もない。もしエラーが起きても、何度でも修正して選び直すことができる世界。
「……いいアップデートだっただろ?」
「ええ。最高のエンジニアが、世界を塗り替えてくれたからね」
リアナが優しく微笑み、俺の手をぎゅっと握った。
俺の視界には、もう禍々しい支配の紋式は浮かんでいない。見えるのは、人々の営みが織りなす、温かくて自由な、新しい日常の光だけだった。
(了)
これにて完結です。
実験的に書き溜めた物を修正しながら投稿しましたが、初期に書いた物なので設定を生かしきれず内容もかなら薄い感じになってしましました。
いつか、この作品をベースに長編がかけたらなあと思っています。




