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明るい女

作者: 雨宮氷弦
掲載日:2026/05/14

「早く買いたいんだけど、決め手に欠けるんだ」


 男は新しいマットレスが欲しかった。毎朝背中の痛みで目が覚める。寝不足で辛い。早く何とかしなければならなかった。


 良さそうなものほど値段が高い。ネット販売のみで実店舗が無いブランドのものは試し寝できない。踏ん切りがつかない。今使っているものをどける場所が無いので捨てないといけないが、そうすると新しいマットレスが体に合わなかった時に取り返しがつかない。かれこれ一年以上考えていた。


「大丈夫だよ。これなら返品できるみたいだし、とりあえず買ってみたら?」


 喫茶店の向かいの席でカプチーノを一口飲んでから、女は落ち着いた口調でそう提案した。


「素敵なマットレス。私もこれ、使ってみたいな」


 ゆったりとした動作でタブレットの情報を閲覧しながら、女は明るい表情で湯気の立つ白いカップに軽く指をかけている。


「そっか」


 カップの曲線に添う形で折りたたまれている女の指先をぼんやり眺めていると、男の不安は砂糖が溶けるように和らいだ。


「試すだけ、試してみればいいのか」


 うん、と言って、女が笑った。


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