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『夕焼けに遊ぶ』【1】再会と進展

この物語は、美咲という少女が母との再会を通じて自分の歩む道を見つめ直す姿を描いています。舞台となる満願寺は、自然豊かな山々に囲まれ、鐘の音や夕焼け、星空が日々の営みを優しく包み込む場所です。第一話では、美咲が母を訪ねる道中と、一緒に過ごす穏やかな一日を通じて、母娘の絆があらためて確かめられていきます。

『夕焼けに遊ぶ』 【1】再会と進展

カーテンからこぼれてくる白い光で美咲は目が覚めた。

窓を開けると土手の桜の老木が、枝を窓の近くまで伸ばしている。

『邪魔な枝』と思ったが若葉の緑色が濃くなっていた。

その上に綺麗な青空が広がっていた。

『五月晴れだ!』 下を流れる川面はキラキラ光っている、春が来ていた。

『満願寺から見る新緑は綺麗だろうなー』と思い、2階から駆け下りて、おばあさんの所に行った。

「文ちゃん、今日満願寺に行く」

おばあさんの名前が文子なので、ぶんちゃんと呼んでいた。

「これから行くのかい、連絡はしてあるの?」

「まだだけど、ビックリさせるつもり、泊って来ても言い?」

「甘えておいで」 美咲は部屋のリックにお泊りセットの着替えなどを詰め準備を終えた。

美咲の父は医師だったが山が大好きだった。

美咲が2歳の時、父は念願のヒマラヤ登山隊の医者として参加した、

しかし雪崩に巻き込まれてしまった。

救助されるまで母は現地で待ったが、発見されるまで、2ケ月間滞在した。

発見されて、ご遺体と一緒に日本に戻った。

父は「医者辞めても由緒あるお寺を継ぎたい」と言っていた。

その後、実家の満願寺のご住職が病死された。

母は『自分が父に代わりたい』と、本山の2年間修行に出かけた。

その後、住職に任命された。

美咲は祖母に育てられ高校2年生になった。

『美咲の母は尼です。名前は妙蓮、満願寺の住職です』『住職になった母の気持ちが少し理解が出来るようになってきた』


朝食を食べ終わり

「文ちゃん私が居ないと寂しいよね、・・本当に行っても良い?」

「我慢するよ!」

「お土産を持って行くんだよ、」と5千円札を渡した。

「ワカッタ有難う」後片付けを手伝ってから、リックをかついで降りてきた。

「行ってきます」と大声で言って玄関を出た。

「気を付けてね、お母さんよろしく」の声が後ろから聞こえた。

美咲は陸上の選手だった、はやる気持ちが駅まで走らせた。

母に会えるのと、この青空を見て明るく軽やかな気持ちで走った。

途中の洋菓子店で母の好きなクッキーを買って JR白嶺駅に着いた。

満願寺へは駅から『湯川温泉』行バスに乗る、 時刻表を見ると九時五十分発だった、 少し待っているとバスが来た。

美咲はいつも前の席に座わる、見る風景は同じだ。

それでも心が弾んだ、次第に山が近くなってくると、嬉しくなってくる。

四十分程で満願寺前バス停に着いた。

バスのステップから飛び降りた、360度若葉に覆われた山々が見渡せた。

広葉樹の雑木林が多彩な若葉で迎えてくれた。

若葉が、燃える様に輝いている。

思っていた通りの風景がそこにあった。

バス停の左から上り坂が伸びている、左側は石積みをした段々畑が田植えを待っていた、坂道の右側は緩やかな崖になっていた。

崖の斜面には多くの山菜が芽を出している、その下に小川が湯川に向かい流れている。

それらを見ながら登っていた、坂道は苦にはならなかった。

20分程歩くと満願寺の入り口に着いた。

荒削りの石畳の先に大きな杉の木が左右に植わった石段が上に続いている。

息をついてから、一気に駆け上がった100段を数えて上に着いた。

視界が急に開けた。 小高い丘の上に満願寺が建っていた。

息を切らしながら、後ろをみたバス停から見た景色とは全然違っている。

上から見る新緑の山はもっと綺麗だ。

湯川は山の峰を縫うように流れ温泉街の付近では左右から多くの流れを集め、幅広くなり下流に白波を立てて流れている。

山の上に広がる空は朝に見た空とは違っていた

「何て澄み切った青い空なのだろう」

山並みの空には雲一つない綺麗な青空が広がっていた。

『来てよかった!』

大きく深呼吸すると息の切れるのが直ぐに収まった。

境内には桜の木が数本見え、楓の木も枝を伸ばしていた。

阿弥陀堂の後ろには大きなイチョウの木が頭を出している。 その横に朴ノ木が見える。

岩を配した池には蓮の葉が大きくなっていた。

いつも見た風景だが春の風景は格別綺麗だ。

右側に鐘楼がある、美咲は満寿寺に来ると鐘を突いた。

鐘楼の石段を登り中に入った。 下がっていた綱を握り、思い切り後ろに体を倒し体重をかけて突いた。

静かな境内に低い梵鐘の音が響き、山々に吸い込まれてゆく。

綱を持ち直し、もう一度梵鐘を突いた。

その鳴り響く音を、鐘楼の柱に寄りかかり目を閉じて全身で感じた。

この鐘の音と一緒に、この空間を飛んで見たいと思った。

目を開けて大きく息を付いた、頭から嫌なことが消えてゆくのが感じられた。

社務所の扉が開き尼僧が顔を出した、美咲は我に帰って鐘楼の柱の影に隠れた。 尼僧は近づいてきた。

「誰かいますか」声が近づいて来る

美咲は柱の影から飛び出した。

「来たよ」

「いつ来たの」と微笑んだ。

美咲は母の懐に飛び込んだ、母は優しく抱きしめた。

久しぶりの母のぬくもりを感じてジッとしていた。

「美咲大きくなったね」と頭を撫ぜる手は自分の顔を超えていた。

「連絡をくれれば御馳走の用意をしたのに」と手を取り、庫裏の部屋に入った。

「お久しぶりです、お元気でしたか」

「そんな他人行儀な挨拶をするようになったの・・」と美咲を見た。

2人はよく似た親子だと思っていた、母の丸い目はいつも微笑みかけている。

ジッと見つめていると

「どうしたの」

「お母さんはいつもきれいだね」

「美咲も可愛くなったね」

2人は顔を見合わせ笑った、それからお喋りと笑い声が止まらない時間が過ぎた。

「阿弥陀様にお会いしたい」立ち上がった。

美咲は立ち上がり、渡り廊下から阿弥陀堂に行った。

台座の上に座禅を組み『結跏趺坐』でお座りになり、胸の位置で両手を合わせられ、優しいお顔で私を見ておられた。

「阿弥陀様はいつも優しく見ていらっしゃる。前に座ると落ち着くね。」

美咲は暫くお顔を見ていた慈悲深い目が前にいる人に語りかけている。

心を込めて母の事、文ちゃんの事を祈った。

「縁側に座わって外を見たい」と立ち上り観音堂の縁側に座った。

遮るものが無い180度の展望ができる、先ほど登って来た道が見える。

その奥には湯川の流れが確認できた。

陽を浴びながら座っていると、眠気が襲って来る。

ゆったりとした気分になり文ちゃんの事や、学校の事など話した。

「遅いお昼だけど何か作ろうか?」

「チャーハンが良い」母の手を引っ張り庫裏に行った。

「美咲が作ろうか?」「美咲は作れるのかい」

「文ちゃんの手伝いをしているから色々作れるよ」手際よくチャーハンを作り出した。

その姿を母は微笑みながら見ていた。その後、卵スープも作り、食卓に並べた。

「お母さん召し上がれ」

「美味しいね」と言って 一気に食べた、母を見て嬉しくてたまらなかった。

「上に住んでいる今野さんから『野菜を取りに来て』と連絡が方から一緒に行くかい」

「もちろん行くよ」母はリック持ち出して玄関を出た。

美咲も後を追いかけたが、母は案外早く登って行った。

「今野さん伺いました」「あら、このお嬢さんはどなた?」

「娘の美咲です」「美咲です、よろしくお願い致します。」

野菜畑移動した、春キャベツ、チンゲン菜、エンドウが見えた。

「文ちゃんがプランタンで作るけどこんな立派には出来ないヨ」

「沢山取って下さい」と言われ手に土を付けながら色々な野菜を頂いた。

リックにいれ満願寺に帰った。

お母さんは「これから檀家さんに行く予定があるから一人で大丈夫?」

「勉強しています。」


6時を過ぎた頃、「美咲~食事が出来たよ」呼ぶ声に美咲は勉強やめたて食堂に行った。すでに夕食の用意は出来ていた。

「いただきま~す」「お母さんの味付けは優しいね」美味しく食べた。

美咲は母と過ごすひとときを心から楽しんでいた。

お喋りと笑い声の絶えない時間が流れる、食卓を囲んだ。

「夕焼けを見たい」

阿弥陀堂の縁側に腰を下ろし、茜色に染まる空を二人で眺めた。

やがて空には一番星が輝き、次々に星々が現れる。

「お母さん、こんな綺麗な空をいつも見られて幸せだね」

美咲は流れ星を見つけ、思わず「あっ」と声をあげた。願いを唱える前に消えてしまう光。

何度も「あっ」と言いながら、空を見上げ続けた。

「美咲、何度『あっ』って言うの」

「だって、お願いする前に消えちゃうんだもん」

二人は顔を見合わせて笑った。


第一話「再会と進展」をお読みいただき、ありがとうございます。

美咲の視点から描かれる満願寺での一日は、自然の美しさと家族の温もりを重ね合わせています。鐘の音や夕暮れの空は、彼女の心を解きほぐし、母との距離を縮め

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