いつもの場所で
初めて小説書いてみました。
小さな王国の王宮でアメリアは今日も慌ただしく働いている。
「アメリア!書斎の掃除はすんだかい?」
「アメリア!廊下の花瓶の水は?」
「洋服のシミ取りはやったかい?」
「はい、ただいまー!」
バタバタと走り回りながらやっとの思いで返事をする。ここで働くようになってもう5年になるがまだまだ下っ端のアメリアは覚えることは多いし、毎日がてんてこ舞いだ。息つく暇もないのである。
「アメリア、この封書を届けておくれ」
やっと落ち着いてきた頃、侍女長より封書の束を受け取った。
「はい、ただいまー!」
心なしか声が弾む。何日かに1度あるこの仕事がアメリアは好きだった。
「急がなくていいからね。気をつけて行っておいで」
侍女長の心遣いが嬉しい。アメリアはウキウキしながら王宮を出た。
―――
さてさて、郵便局への封書も届けた。
あとは王宮に戻るだけ。そんな簡単な仕事の途中、アメリアは裏門から王宮入ると人通りの少ない壁の隅に腰掛けた。ここからがこの仕事の醍醐味だ。
(今日も疲れたー。)
先程街で買ったクッキーをポケットから、1つ出す。
(これよこれ。おいし~。)
洋菓子店ルシアーノのクッキー。
これを1つ食べることがアメリアの至福の時だった。
所謂サボり行為である。
ほんの少しの時間だが、慌ただしくすぎる王宮の中で唯一この時が心の安らぎだった。
長く働いていると上手にサボるコツを覚える。先輩達からは働き続けたいなら、根を詰めすぎないことだと教わった。
そんな教えに従い、アメリアが口の中の甘くて香ばしい味に浸っていると、壁の向こうから足音が近づいてきた。
咄嗟に隠そうとするも、姿が見えて手が止まる。
(いつもの人…)
アメリアと同世代の衛兵だ。平均的な身長に細み体型。顔は色白でこちらも平均的な顔をしている。
今までもアメリアのささやかなサボり時間には、彼を目にすることが多かった。
彼はいつもの事だといったようにこちらを一瞥したのち、少し頭を下げて前を通り過ぎる。
それを見送ったアメリアは残りのクッキーも全て口に含んだ。
「そうだ!私も仕事!仕事!」
思い出したかのように手を2、3回パンパンと払ったのち、アメリアは仕事へ戻った。
―――
何ヶ月か経ったある日のこと。
アメリアは王宮の陰に腰掛け、おなじみのクッキーを食べようとしていた。そうすると、いつもの彼が会釈をし前を横切る。
キュルキュルキュル
可愛い音が鳴った。
何の音かな?と思ったアメリアだが、目の前の彼の耳が真っ赤になっていることに気がついた。
「あのー。1枚食べます?」
なぜ自分が声をかけたのかわからない。この少しのおサボりを見逃してくれている彼に、恩返しをしたかったのかもしれない。
「ありがとうございます。いただきます。」
そうとうお腹がすいていたのか、彼は申し訳なさそうに言いクッキーを受け取った。
「うまい…」
「ね!おいしいですよね!このクッキー。ルシアーノって店なんですけど、いつも昼過ぎには売り切れちゃうの。だから、このお使いの時しか食べられなくって
ダメなんですけど、ちょっとだけ寄り道しちゃうんです。でもいつもサボってる訳じゃないんですよ。普段は私真面目にやってるんです。でもいつもサボってるとこ見られちゃってますもんね。説得力ないか!」
アメリアはまくし立てるように話した。
何だか彼に悪い印象を持って欲しくなかったのである。
そんなアメリアを見て
「大丈夫。わかってるから…
今日はありがとう」
少しだけ微笑んだ彼はまた仕事に戻っていった。
(笑うこともあるんだな)
残されたアメリアはなんだか呆けてしまった
それからというもの。アメリアと彼、フランクは一言二言、会話をするようになった。
もちろん仕事中なので、そんなに長くは話すことはないが、アメリアはクッキーを1枚多く買うようになったし、フランクも街で珍しいお菓子をアメリアにお土産にと買ってきてくれた。
父か兄くらしか男性と話したことがなかったアメリアにとって、フランクは初めての男友達であり王宮で気のおける存在となったのである。
そんな二人が少しだけ進展する話はまた別のお話。