最終話 おかえり。
Side:リディア
アディと私が離れ離れになって、10年が経過した。
私は王都に戻り、聖女リディアとして復帰した。今では、聖女リディアとしての威厳が数千年前と同じように復活した。最初は半信半疑だったローゼシア国民たちも、私の与える神託の数々を目の当たりにし、徐々にだけど信じていくようになった。
聖女の処刑によって起こった世界各地の自然変動からも立ち直り、ローゼシア王国も災害の面影を感じさせないほどになった。
そして私は契約通り、聖女リディアの代わりとなる魔法具の製作に着手した。全長10メートルほどになるこの魔法具は、心臓部に聖女リディアのご神体である金剛石を配置し、そこから発する魔法で動いている。魔法と機械を組み合わせた最新の技術を駆使し、わずか数年で魔法具は完成した。
じゃあ約束の10年目まで何をしていたのかと言うと、魔法具の運用の安定化を図っていた。完成した最初の1年は、ご神体から流れる魔法の量にブレがあった。それがご神体側の問題なのか、魔法具側の問題なのか、試行錯誤を繰り返していた。
次に、魔法具に必要なメンテナンスの自動化を確立させるために研究を重ねていた。これが結構厄介で、自動化が安定するまでに数年かかった。
そして、魔法具とは関係なく、聖女リディアとして民を導くお仕事。神託を授け、人々の信仰としての心の支えになり、聖女リディアはローゼシア王国の象徴として世界中に知れ渡ることになった。
約束通り、アディはこまめに手紙をくれた。
日常の些細なことから重要そうなことまで、私に色々教えてくれた。たまにレッドフォード社の新作コスメやお菓子も送ってくれて、今日に至るまで私は贈られてきたそれを大事に消費した。
コスメが好きな聖女様ということで、大人に憧れる一部の子供たちにすごい懐かれて、たまにメイクの仕方を教えたりレッドフォード社の商品を刷り込んでみたりもしている。
この10年の間に、エミリ・ハイバーンが結婚して子供も生まれたらしいよ。覚えてるかな、アディとお茶会をしていたあの女の子だよ。
…あ、もちろん相手はアディじゃないよ。
写真も同封されていて、幸せそうなエミリとその旦那さんと子供たちが写っていたのは記憶に新しい。私からこっそり、エミリに向けて祝福の魔法玉を贈っておいた。
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「3、2、1………目標の年月達成。これで魔法具の安定化の目標は達成だね。」
「リディア様、お疲れさまでした。我々も感無量でございます。」
「ううん、私1人では成し遂げられなかったよ。みんなのおかげでもある。本当にありがとう。」
この魔法具製作にあたって、特殊なプロジェクトチームが結成された。さっき私に声を掛けてきたのは、ウィリアムという上級魔導士の機械師の人。
私とチームのみんなは手を合わせて喜び、魔法具の正式な完成を祝福した。
そして約束の日、私はアディへの手紙の手紙に、魔法具の完成と再会の希望を記した。しばらくしてアディからも手紙が届き、レッドフォード邸一同でお待ちしていると返信が来た。ジャネスもヨハネもクリスティも、今だにレッドフォード邸で働いているんだって。
(みんなに会うの、楽しみ。)
私はきちんとローゼシア政府へ手続きをし、王都を離れることになった。
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Side:アドルディ
いやあね、あの後うちは大騒ぎだったわよ。そりゃそうよね、使用人のみんなからしてみれば、主人の娘が実は逃げてきた聖女でしたって話なんだもの。自分の国の伝承にある聖女様が、うちにいた暴食娘だったなんて、みんな信じられないって顔をしていたわ。
「旦那様、白髪がありますよ。」
「え、嘘。やだ抜いて。」
リディアと別れてから10年、アタシは変わらずセントサザール領の領主として、レッドフォード社の経営者としてキビキビと働いていたわ。
10年の時の流れは残酷ね。白髪を指摘されるわ、肌の艶がなくなるわ、昔より衰えを感じるわで。…あらやだ、ネガティブなことばかりじゃないのよ。ポジティブな話をしましょうね。
我が社で開発していたモンスタっち、あれ今まで人気なのはローゼシア国内だけでの話だったのよ。それが、今では世界中で流行っているの。とある国の王族がモンスタっちを気に入ってね、アクセサリーとしてプライベートで身に着けていたらしいの。それが公衆の目に止まって話題になって、他国でも人気がポーンと跳ね上がった、とのことよ。
リディアがメイク大好き聖女様としてこの国の一部の子供たちから支持を受けているとのことで、レッドフォード社の子供向けメイク用品も良い感じに売れているわね。
最近は他国でも小さい子向けの化粧品の需要が上がっているらしく、うちの商品の人気はローゼシア国内に留まらないわね。ありがたい話しよ。
…と、アタシの話はさておき。そろそろリディアが来る頃かしら。アタシも準備しましょうね。
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1時間後、アタシは1人レッドフォード邸の敷地内の門の手前に佇んでいる。使用人のみんなも出迎えたいと言っていたけど、室内で待機してもらうことにしたわ。
手紙でのやりとりはしていたけど、顔を合わせての再会は10年ぶりなの。2人でその喜びを分かち合いたいじゃない?
ポケットに忍ばせていたコンパクトで髪とメイクの確認をしていたら、一台の移動車が門の前で止まったわ。ドアの開く音がし、中から見たことのある髪色の女性が降りてくるのが見える。
移動車の運転手らしき人物はその女性と二言三言交わすと、ドアを閉めて移動車を走らせて元来た道を戻っていったわ。
女性はしばらく周りの景色を見つめた後、こちらを振り向いた。
「…久しぶり、アディ。」
「こんにちは、リディア。」
アタシとリディアは2人で顔を合わせ、お互いに微笑む。
リディアは昔の雰囲気を少し残しつつも、年齢相応の大人の女性になっていた。小さかった身長も伸びて、アタシの腰くらいのあった頭が今では胸元にあるわ。
「アンタ、確かに背は伸びたけど相変わらず小さいわね。140㎝くらい?」
「もっとあるよ、151㎝!アディがでかすぎるだけだよ!」
アタシは軽口を投げかけ、リディアがそれに呆れながら答える。懐かしいけど、むず痒いわね。アタシを脅して転がり込んできた、尊大な態度の少女はもういないんだもの。
「やっとアンタの気持ちに答えられるわね。」
「そうだね。アディ、改めて私の気持ちを聞いてほしいの。」
リディアは持っていた鞄を地面に置くと、息をすうっと吸い込む。両手で口を多い、メガホンのようにして声を出す。
「アディ、大好きです!私と、リディア・アッシュクロフトと、結婚してください!」
リディアは前屈みになりながら声を出し、少しふらつきながら元の姿勢に戻る。
成人したリディアからのプロポーズ、真面目に受け取る以外ないわよね。
「謹んでお受けいたします。どうぞ、よろしくお願いします。」
アタシの言葉に、リディアはしばらく固まる。言葉の意味を理解したのか、ぱあっと笑顔になると、こちらに向かって駆け足で走ってくる。
アタシの胸に飛び込んできたリディアを、アタシは両手で受け止め抱き締める。リディアはアタシに抱えられながら、『やったー!』とか『嬉しい!』と零して全身をバタつかせている。
「言い忘れていた!アディ、ただいま!」
「ふふ、そうね。リディア、おかえり。」
リディアの耳を飾っている宝石のイヤリングが、太陽に照らされてキラリと輝いた。




