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第65話 偽聖女編⑨

「うぎゃああああ!いやあああああ!」


(アンタ、悪趣味ね…。)


アタシは目の前で心眼を使うリディアに、”リディア”の処刑風景を見せられていた。リディア迫真の断末魔が頭の中に響き、これが本当の光景だったらと考えるだけでゾッとする。



_遡ること幾日。

オーウェン公爵がレッドフォード別邸に来る前に、アタシとリディアは話し合いをしていた。


「あ、そうだ。この先に起こりえるかもしれない話。」

「え、何?」

「あ、いやでも、アディ怒るかも。」

「言う前から決めつけるんじゃないわよ。まずは言ってみなさい、聞いてあげるから。」

「じゃあ、言う。これが上手くいけば、今回の件が一気に解決へ近づくと思うの。」


「まず、私がミネルバと国王の命令で殺されるの。」

「は?」


何を言い出すのかしらこの子。

いや、何でも否定から入るのは良くないわよね。話しは最後まで聞いてみましょう。


「多分今回の接触で、私がレティシア・レッドフォードだってことはミネルバにバレているはずなの。ミネルバは私を処刑したがっていた。これを逃すとは思えない。」

「うんうん、それで?」

「ミネルバにかけた心臓爆発の術を永続的なものにしなかったのはわざと。術が解けた後に、彼女は絶対ローゼシア国王に私が来た事を話すはずだから。」

「つまり?」

「ミネルバは聖女リディアの処刑を提案して、国王はそれを受け入れるはず。で…」


リディアは一呼吸置いて、机の上に置いてあるカップを手に取り紅茶を飲む。ちょっと、続きが気になるじゃないの。


「一度私が殺されれば、みんな私が本当に死んだと信じるはずなの。だから、私はわざと捕まって、殺されてこようと思うの。」

「…それがどう解決に繋がるの?」

「私はご神体が無事な限り消えることはないの。だけど、仮にも神の化身を殺して世界が無事で済むはずがない。」

「そうね。アンタの言う通りなら、神の消えた世界が迎えるのは終末。」

「…なんだけど、ご神体に危害を加えない限りは本当に世界が滅んじゃったりはしないと思う。自然災害で世界人口の1割~3割が死ぬ程度で済むはず。」

「大大大惨事よ。もーう!許可できるわけないでしょ!」


一応リディアの案を聞いてみたけど、この時点で前途が多難すぎる。だけど、普通の人間であるアタシはこの子の案を聞いてサポートする以外のことができない。悲しいけど、アタシは無力で役立たずなの。


「最後まで話を聞いて!」

「はい。」

「私が処刑され、世界に終焉が近づくのは確か。でも、それは一時的なものなの。総人口が1~3割減るくらいの大災害が起きたくらいで徐々に収まって、世界は元に戻るの。」

「そんな低反発素材のクッションみたいなことになるのね、世界が…。」

「うん。傷を付けられるのは、あくまで私という具現化されただけの存在であってご神体そのものではないから。」


そう言うと、リディアが『ここからは賭けなんだけどね』と小さく付け加える。


「世界の終焉に対応するために、王族はミネルバを頼ろうとするはず。だけど、あの人にそんな力はない。ミネルバは役に立たないと切り捨てる王族が次に頼るのは、きっとアディ。」

「なんで?」

「もう!察しが悪い!聖女リディアのご神体を持っている可能性が高いのはレッドフォード伯爵だって、王族が気付くの!」

「今のアタシが言うのも何だけど、気付くかしら。この国の王族相当アレよ。」


ええ、ミネルバとかいう怪しい人物の召喚を奇跡と崇めて、聖女リディアを排除しようとするくらいにはアレよ。


「来なくてダメそうなときは、私のご神体を持って王族を脅しに行ってほしいの。『このままだと世界が滅んじゃうけど、聖女リディア・アッシュクロフトのご神体はアタシのところにあるからどうにかできるかもしれないわ~チラッ?』って。」

「すると、どうなる算段なの?」

「…で、王族および国の中枢を丸め込んで、ミネルバの逆転移と私たちへの協力の契約を結ばせるの。この契約に私の力を込めておいて、逆らった者から死ぬようにしておいてあげる。」


アタシはリディアに言われるがまま、計画を紙に書き記していく。リディアは書記であるアタシのことなんて気にも留めていないから、所々文字が潰れてしまうわ。後で解読しなきゃいけなくなるかも。


ていうかこの子、心臓を爆発させるとか死ぬとか物騒な保険の魔法が多いわね。


「で、ご神体から私が再び具現化されて、王族と一緒にミネルバの逆転移をする!って感じ。」

「まあ、上手くいけばの話ね…。」

「大丈夫、細かいところは私の未来視の力を駆使しつつ調整するから。」

「あらやだ便利。」




「変更。未来視の結果、私自身が処刑されてしまうと思いのほか世界がやばいことになるって分かった。」

「だから言ったじゃないの!」

「幻影!私のリアルな幻影を作る案ならいけると思うの!アディまずは見ててよ。」


そう言うと、リディアは自身の幻影を作り出し、目の前には本物のリディアと幻影のリディアの2人が生まれた。

リディア曰く2人は連動しつつも独立した存在らしく、意識を共有しつつ別々の動きができるのだとか。


「わあ…アンタすごいのね…。」


アタシは驚きのあまり、雑な感想しか言えなくなっていた。それくらい、目の前の出来事が現実離れしすぎていたのよ。


「”幻影の私が殺されても、世界への影響は少しで済むはず。”」

「こっちの本物の私が死ぬことに比べたらね。」


幻影のリディアと本物のリディアが交互に喋りながら、アタシに解説を続ける。アタシはどちらに顔を向ければいいのか分からず、顔を左右に揺らすおもちゃのような状態になっている。


「この状態ならどうだろう。未来視してみるね。」




数分後、アタシはリディアの未来視の結果を共有されていた。脳内に映像が広がるのは何とも言えない不思議な感覚に苛まれるわ。


「…まあ、アンタ自身が処刑されるよりはマシ、ね…。」

「でしょう?ではこの案で行きましょう。幻影リディアは処刑され、おそらく灰は海に撒かれて死んだとみなされるでしょう。」


アタシはリディアの言うことを聞き、彼女の案を飲み込んだ。



「ということで、健闘を祈ります。レッドフォード伯爵。」


________。


…と、いうのが数日前。

こうして、アタシたちは実体のある幻影リディアを作り出す案を採用し、芝居を打つことになったの。

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