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第63話 偽聖女編⑦

Side:ミネルバ


「お呼びでしょうか、新聖女ミネルバ。」


私はこの世界の本を読みながら、声のする方へ視線を向ける。そこにいたのは、今さっき私が呼び出したこの国の王様。えっと、名前なんだっけ。ライアンみたいな名前の人。


聖女リディアを名乗る子供がここに来てから、2日が経過した。何か秘密をばらしたら心臓が爆発する術をかけたとか言ってたけど、もうそろそろ大丈夫でしょ。


「ライアン。」

「…ライオネルです。」


少し不服そうな顔をしながら、目の前のおじさん…王様がそう答える。そうだ、ライオネルだった。この世界、外国人っぽい名前の人ばかりで全然覚えられない。1人か2人くらい太郎とか花子って名前の人いないのかな。


「ライオネル、数日前に偽聖女であるリディアが私の元に訪れました。」

「何だと…!?何故すぐに言わなかった!?」

「変な術をかけられて言えなかったんですよー。私に危害を加えようとしてきたから返り討ちにしましたけど。」


私が少し甘えた声を出して辛そうに話しただけなのに、このライオネルとかいう王様はコロッと信じてくれる。この人の後ろにいる部下?大臣?がどう思っているかは知らないけど、多分この国は王様であるライオネルの言うことが絶対なんだろうな。


「偽聖女リディアは脅威です。今回は私1人が対峙するだけで済みましたけど、もしかしたら今後は王様が、その家族が、犠牲になりかもしれません。」

「うむ…そうだな…。」


ライオネルは顎に手を当てながら難しそうな顔をして考えている。

私の中では、もう答えは出ているっていうのに。


「偽聖女リディアの正体と居場所が分かりました。これを機にさくっと処刑してしまいましょう。」

「何!?それは真か!?」

「私を誰だと思っているんですか?新聖女ミネルバですよ?」


私は自信ありげに胸を張り、話を続ける。ライオネルは早く言葉の続きを聞かせろという表情で私を見ている。


「偽聖女リディアが私の元に訪れた際、彼女の過去を見てみたのです。するとすると…分かりましたよ!あの者が逃げてから今までどう過ごしていたのか、今どこにいるのかも。」


私は演説のように、声に抑揚を付けて力説する。ライオネルが、大臣が、私の言葉に釘付けになっている様が心地良い。


「セントサザール領の領主、アドルディ・レッドフォード伯爵が養子を迎えたのはご存じですか?」

「…ああ、そんな話を聞いたな。花街で保護した薄汚い浮浪児だったとか。名前は確か…何だったかな。」

「レティシア・レッドフォードです、殿下。」


ライオネルの後ろに控えていたおじさんが小さく答える。この人は何故か覚えている。オーウェン公爵って人だ。


「花街の件、それは全て嘘です。逃亡した偽聖女リディアに脅されて、レッドフォード伯爵は彼女を保護したのです。」

「それは真実なのだな?」

「ええ、私の力で過去を見ましたから。」


そう、これはあの日私が見た偽聖女リディアの過去から得られた情報だ。レッドフォード伯爵は普段セントサザール領の本宅にいるはずだけど、今は王都にある別邸にいることも突き止めている。そこに、偽聖女がいることも。


「偽聖女リディアは現在、アドルディ・レッドフォード伯爵の王都にある別邸にいます。」


私は目を細め、口角を上げながらライオネルに微笑む。ごくりと喉を鳴らす音が、こちらまで聞こえた気がした。


「ローゼシア国王ライオネル、新聖女ミネルバ・ローズブレイドの名の元に命じます。リディア・アッシュクロフトを名乗る偽物の聖女を処刑しなさい。」



________。


Side:アドルディ


終わりというのは突然やってくるものなの。

両親の死でそれを経験していたのに、アタシは少し油断していたのかもしれない。




リディアがミネルバの元に偵察に行ってから、更に数日が経過していたわ。王都のレッドフォード別邸に響く怒声と足音を聞き、アタシとリディアは顔を合わせた。

時々聞こえる女性使用人の悲鳴を無視して、その足音はアタシたちのいるこの部屋にまっすぐ来た。勢いよく扉が開けられ、ドアの軋む音が小さく鳴る。


「動くな!ローゼシア王国政府管轄の兵隊だ!」

「ちょっと何なの!?」


軍服を着た男たちが、次々とアタシとリディアのいる部屋に入ってきたわ。アタシは焦りつつもリディアを背後に隠すように移動し、男たちと対峙する。


「残念だ、レッドフォード伯爵。まさか私に嘘をついていたなんて。」


軍服の男たちを掻き分けるように登場したのは、以前アタシに聖女リディアの行方を聞いてきたあのオーウェン公爵だった。リディアはアタシの足の隙間から向こうを覗き、急いで隠れる素振りを見せる。姿は丸見えで意味をなしていないんだけど、やらないよりマシな心理状況なのでしょうね。


「…あら、公爵様。ごきげんよう。」

「茶番はいい。その後ろにいる小娘をこちらに渡せ。」

「…嫌。」


リディアはオーウェン公爵を拒絶し、より一層強くアタシのズボンを掴む。オーウェン公爵は視線をアタシの足元に向け、リディアを威嚇するように強い語気で話を進める。


「お前の正体は分かっているんだ。レティシア・レッドフォード…いや、リディア・アッシュクロフト!」

「…!」

「お前たち、王からの命令だ!あの小娘を捉えろ!レッドフォード伯爵は抵抗しないでもらいたい。命を奪うような真似はしたくない。」


オーウェン公爵がそう指示すると、数名の男たちがアタシとリディアを引き剥がす。リディアの悲鳴が部屋に響き、アタシは必死に手を伸ばす。


「痛い!やめて!アディ、アディ!」

「ちょっとアンタたち、レディの扱いがなっていないんじゃなくて!?痛っ!誰よ今アタシの髪を引きちぎった奴!!」


銃と剣を突きつけられ、抵抗空しくアタシとリディアは引き剥がされた。物理防御魔法も魔法防御魔法もできる隙がなく、何より変な抵抗の仕方をすると殺されかねない状況だと判断した。


「レティシア…!」

「アディ…。」

「レティシア…か。まだ茶番を続けるか。まあいい。お前たち、小娘を連行しろ。抵抗するなら催眠魔法でもかけて大人しくさせろ。」


アタシは力の限り抵抗して体を捩ってみるけど、兵隊相手にはびくともしない。隙を見つけて大きく動いてみたけど、そのまま体を床に押さえつけられて余計に身動きが取れなくなった。


「レティシア…!!」


アタシは床に肺を圧迫される感覚を感じながら、力いっぱいリディアを呼ぶ。リディアは拘束されて項垂れたまま、アタシの方を一度だけ見て視線を床に戻した。


「レティシア、いやリディア・アッシュクロフト。最後に義理の父に言いたいことは?」


オーウェン公爵に声を掛けられたリディアは顔を上げ、アタシの方を再び見る。リディアはすっかり参ってしまったようで、か細く弱弱しく声を出す。


「アディ…抵抗はやめて。私、アディが傷つくところは見たくないの…。」

「………レティシア。」


アタシは最後まで、レティシア呼びを辞めなかった。リディアは少し悲しそうに目を伏せると、顔を振って笑顔を見せる。


「私なら大丈夫だから。アディ、信じて。」




「だから、さようなら。今までありがとう。」

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