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第61話 偽聖女編⑤

Side:リディア


アディの別邸で作戦会議をして数日後、私は単身で王城の敷地に侵入していた。ここは私にとって実家とも呼べる場所のはずなのに、逃げ出した今では敵地以外の何物でもない。


(まあ、そんな実家を捨てたのは私の選択だから、あれこれ言えた立場ではないんだけど。)


ただ、それはそれとして、偽物の聖女が出てくるのは想定外だった。私以外の魔導士が召喚術が成功すること自体が極々稀な出来事だから、完全に視野に入れていなかった。

ミネルバを召喚した魔導士が誰なのかは分からないけど、今はその点は問題ではない。まさか聖女リディアに、私に成り代わろうとするなんて。異世界転移者である彼女が、どこで聖女リディアについて学んだのかは分からない。なぜ上級魔導士が召喚術を使うことになったのかも分からない。


(この辺りは、本人に聞けば分かるかもしれないけど。)


私は王城内にある抜け穴のような道を辿り、着実に聖神殿に近づいていく。使えなくなっている部屋はいくつかあったけど、抜け道に関しては塞がれたり壊れたりしていないから問題なく通ることができた。


アディがいたら確実に通れない大きさの穴や道もあるから、やはり私1人で来て正解だった。アディは寸前まで心配していたけど、最後は私を信じて送り出してくれた。彼のためにも、私のためにも、失敗は許されない。


私は体を小さくしながら抜け道を通り、目的地である聖神殿のミネルバの部屋を目指した。


________。



「~♪」


色々な道を掻い潜って、ミネルバの部屋の柱の陰にまで辿り着いた。ミネルバは私に気が付いていないのか、椅子で寛ぎながら聞き慣れない歌を歌っている。元の世界で流行っていた曲だろうか。


私はミネルバに手をかざし、かなしばりの魔法をかける。異変に気が付いたミネルバがびっくりして椅子から立ち上がろうとしたけど、かなしばりの魔法のせいで体が動くことはない。念には念を入れ、『余計なことを喋ろうとした瞬間に心臓が爆発する術』と『変な行動をしようとした瞬間に心臓が爆発する術』もかけておいた。


「喋らないでください、ミネルバ。」

「…!」


私はミネルバの目の前に立ち、手をかざしながら小声で話しかける。私の予想が正しいなら、彼女は何らかの理由で聖女リディアと同じ力の一部を持っているだけであり、聖女リディアと同等の力は持っていない。賭けではあるけど、多分大丈夫。


「私はリディア・アッシュクロフト。貴女に『余計なことを喋ろうとした瞬間に心臓が爆発する術』と『変な行動をしようとした瞬間に心臓が爆発する術』をかけました。信じなくても結構ですが、死にたいなら逆らいなさい。」

「…。」

「2人きりで話しがしたいので、部屋の扉を閉めなさい。かなしばりの魔法だけは解きます。心臓が爆発する術だけはかけたままになるので、注意なさい。」


私はそう言って、ミネルバにかけたかなしばりの魔法を解除した。ミネルバはぎょっとした表情で私の方を見ている。半信半疑というところかな。


私的には逆らって自爆してもらっても良いんだけど、可能であるなら無傷のまま元の世界に返したい。ミネルバは恐る恐る立ち上がると、外にいる警備兵に『ちょっと1人で過ごしたいから』と言って扉を閉めた。重たそうな足取りのまま、彼女は元の席に座る。


「…まさか、来るとは思わなかった。役割を捨てて逃げた聖女様。」

「まあ、それは否定しません。異世界転移者さん。」

「…!何でそれを!?」

「リディア・アッシュクロフトを馬鹿にしたらいけません。これくらい、簡単に知ることができるのですから。」


私は仁王立ちになり、ふふんと鼻を鳴らしながら答える。ミネルバはそれが気に障ったのか、すごく嫌そうな顔をしている。


「貴女の動向を一部探らせていただきました。この世界の、この国の聖女に成り代わろうとしていますね。」

「だから何?あんた聖女の立場投げ出して逃げたんでしょ?良いじゃん、私が聖女になっても。」


私はミネルバに”聖女リディアの存在意義”について話した。神の化身としてこの世に顕現されたのが聖女リディアであること、世界は私自身であり私が消えたら世界が崩壊すること、ミネルバが聖女リディアになることは叶わないことを。レッドフォード伯爵に説明した時のことを思い出しながら、私は言葉を繋げていく。


「何故貴女が召喚されることになったのか、ご存じですか?」

「知らない。興味ない。」


ミネルバは全てを本気にしていないのか、やる気のない目つきで私のことを見ている。


「で、それが真実だったとして。証拠みたいなのないの?」

「ありません。私を殺す以外知るすべはないでしょう。」

「…あっそ。」


私の言葉を聞き終えたミネルバは、心底どうでもいいといった顔をしている。これは信じていない顔だ。


「じゃあ、私が正式に新聖女としてあんたを指名手配して処刑してあげる。偽聖女さん。」

「………。」

「言いたいことはそれだけ?」

「いいえ、まだあります。貴女の目的は何ですか。」


ミネルバはしばらく考え込むと、笑いながら私の方を見る。


「あんた、どうせこの後処刑されちゃうだろうし、…そうだな、これくらいなら教えてあげても良いかな。」

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