第58話 偽聖女編②
_王都 レッドフォード別邸
レッドフォード別邸近くにある倉庫に移動車を停め、歩くこと数十秒。煌びやかな王都の建物に紛れて佇むのはアタシの別邸。
白を基調とした石造りの建物は、いつの代だったか分からない当時の当主の好みであると、お父様から聞かされたのを思い出す。
門番に話しかけ開けてもらうと、1人の女性使用人が静かに待っていた。アタシたちに気が付くとぱあっと笑顔になり、腰を低くし挨拶をする。
「あらあら旦那様!お久しぶりです!」
「セーラ久しぶりね!急にごめんなさいね、押しかけちゃって。」
彼女はセーラ・ブラック。この別邸の数少ない使用人で、管理人である使用人の代理としても働いてくれているメイドの1人よ。
「何をおっしゃいます!旦那様のおうちですから、いつでも来ていただいてよろしいんですよ!…ところで、そちらのお嬢様が例の?」
何度目か分からないやりとりをし、セーラにリディアことレティシアを紹介する。
何か気になることがあるのか、リディアはじっとセーラの顔を見つめている。セーラが笑顔のまま不思議そうにリディアの顔を見つめ返していると、リディアが口を開いた。
「あ、分かった。クリスティに似ているんだ。」
「あら。あらあらあら!お嬢様、娘のことをご存じですのね!」
「ご存じも何も、私の専属の使用人としてとてもお世話になっているよ。」
「あらあら、まあ。恐れ多いです。」
そういえば、リディアには言ったことなかったわね。ここにクリスティのお母様であるセーラがいるって話。する機会もなければきっかけもなかったから、当たり前といえば当たり前なんだけどね。
使用人のプライベートな話だから、クリスティの父親、セーラの夫となる人物の話は聞いたことないけど、リディアが一目見て分かるくらいにはクリスティとセーラは似ているってことね。
「お話を遮ってごめんなさいね。セーラ、部屋を1つ開けてもらえたかしら?」
クリスティの話で盛り上がっている2人を遮り、アタシはセーラに本題をぶつける。しゃがんでリディアに対応していたセーラは立ち上がり、アタシの目を見て返答した。
「もちろん、24時間いつ来ていただいても大丈夫なように管理していますので。」
セーラは小さく頭を下げ、簡単に現状の別邸の説明をしてくれた。建物自体は古いけど、内装は時代に合わせて都度改築しているから、その辺りの心配はないでしょうね。
「アタシが来ているからって、部屋の前で待機してくれなくてもいいからね。用があるときは、内部電話で知らせるから。」
「かしこまりました。お嬢様にもお部屋は用意してありますので、ご安心を!」
セーラはクリスティに似た笑顔でアタシたちに笑いかける。じっとセーラを見つめているリディアの手を引き、アタシたちは用意された部屋に向かった。
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「今から心眼を使って王城の様子を確かめるね。アディも見るよね?」
「そんな簡単に画面共有みたいなことできるの?」
「一応ね。低画質になるかもしれないけど。」
「アンタの力って電子機器みたいな性能なのね…。」
リディアは詠唱を唱えると、アタシに向けても詠唱を唱え始めた。リディアの詠唱を認識してすぐ、目の前の景色が王城の門の前に切り替わる。目の前に広がる景色は確かに室外なのに、周りに漂う空気感はこの部屋の室内なので、ちぐはぐな雰囲気に少し戸惑う。
「レッドフォード伯爵、王城の内部構造をこの場で覚えてください。今後役に立つかもしれないので。」
「了解したわ。」
アタシは言われるがまま、リディアの言う言葉と目の前に広がる景色を頭に叩き込む。王城には数える程度行ったことあるけど、国をまとめる国王が住まう場所なだけあって、華やかさは段違いね。
「この廊下の端に、小さな扉があるでしょう。ここが、聖神殿に繋がる通路の1つです。他にも2階のトイレ横、3階の東の小部屋の横などありますが、それは後で説明します。」
リディアの言う通路を進んでしばらくすると、謁見の間と呼ぶのがふさわしい開けた場所に出てきた。察するに、ここがリディアがかつて人々に神託を授けていた場所なのね。
「聖神殿の謁見の間の左奥にある通路の先に、石造りの螺旋階段があります。その上に、聖女リディアの個室があります。」
今回は心眼を通してみている映像なので、階段をすっ飛ばしてふわーっと上階まで飛ばされる。
階段を上がった先に、石でできた厳重な扉の前に辿り着いた。アタシたちはその扉をすり抜けると、部屋の中に入った。
(…話には聞いていたけど、本当、想像していた通りの牢獄って感じね。)
部屋には簡易的な机と椅子とベッド、奥にあるのがお手洗いかしら。
「…ここにはいない。それなら、聖神殿3階にある個室のどこかにいるかもしれません。」
来た道を辿り、着いたのは謁見の間の上にある個室が並ぶ通りの一角。一部屋ずつ見て回る手間をかけるまでもなく、その部屋は見つかったわ。
「警備兵がこんなにもいるなんて。」
「入ってみましょう。」
リディアは何の躊躇いもなく、該当の部屋に視点を移す。
目の前にいたのは、リディアが以前変装していたと言っていた、”黒髪にオレンジの瞳を持つ少女”だった。




