第57話 偽聖女編①
いつもの日常を過ごしていたアタシたちの元に、その知らせは突然届いた。
「聖女リディアの帰還の知らせ!?」
「え!?」
_今から数分前。
執事のジャネスが手紙が届いたと、急ぎで持ってきてくれた。
何をそんなに急いでいるのか尋ねてみたら、なんとその手紙は王族から来た手紙だと言うじゃない。
アタシはジャネスを下がらせ、部屋にいたリディアと共にその手紙を開封したわ。
王族からの知らせの手紙には衝撃的なことが記してあった。
”行方不明だった聖女リディアが帰還した”と。
「えっ…じゃあアンタ誰?」
「ちょっとアディ!!」
「ごめんなさい冗談よ。いやでも、王族がこんな嘘を言うとは思えないわ。何が起きているの?」
そして文はそれだけに留まらず、こんな信じられないことも書いてあった。
”今まで我がローゼシア王国に君臨していた聖女は偽物だった!”
”偽聖女を捉え次第、速やかに内密に処刑する方針である!”
手紙の文章をそのまま受け取るなら、本物の聖女が現れたため、偽物の聖女であるリディア・アッシュクロフトを処刑するってことね。え?
「え?」
「どういうことだろう…ちょっと私にも理解できない…。王城で、聖神殿で、何かが起きているってこと…?」
アタシもリディアも動揺しすぎて、思わず言っていることがしっちゃかめっちゃかになっている気がするわ。落ち着きましょう、落ち着けないけど。
「待って、過去と未来を見る力は聖女リディアにしか持ちえない。リディア、アタシの過去も未来も両方見てちょうだい。」
「わ、わかった…。」
「しくしくしく…。」
「…どう、アディ?」
「揺ぎ無くアタシの悲しい過去です…一言一句違わずアタシの過去です…。」
アタシは床に正座しながら、顔を覆い咽び泣く。
試しにリディアに過去視の力を使ってみてもらったけど、間違いなくアタシの過去を的確に当てたわ。いや、アタシはもう実証済みだから、他の人が良いのかもしれないわね。
「ジャネス、ジャネス!いらっしゃい!」
大きな声でドアに向かって声をかけると、恐る恐るジャネスが扉を開けて入室してきた。安心なさい、取って食べたりしないから。過去の暴露によって尊厳は破壊されるかもしれないけど。
「聖女リディアにしか持ちえない力って分かる?」
「ええ、この国の常識ですから。過去と未来を見る力です。」
「そうよね、ということで、はい。」
そう言ってアタシは、リディアを抱えてジャネスの目の前に差し出す。リディアは持ち上げられたぬいぐるみみたいに、されるがまま力を使う。
「うぐぅ…。お嬢様、何故それを…。」
「…聖女だから、かな…?」
「…やっぱり、この子の力は本物よね。最終確認のためにクリスティも呼ぼうかしら。」
「やめましょう、こんなことは…彼女にいらぬ咎を背負わせる必要はないのです…。」
膝から崩れ落ちていたジャネスが、胸を抑えながら立ち上がる。アタシとジャネスは2人して肩を震わせ、失われた尊厳を取り戻すように呼吸を繰り返す。
「じゃあ、次は未来を見てくれる?重要なところは見なくていいの、些細なことで。」
「待ってください旦那様、何故このようなことを…。」
意気消沈しているジャネスに対し、アタシは事の経緯を説明する。ジャネスも最初のアタシたちと同じように驚き、リディアに詰め寄っていった。だけど、過去を視られたことにより、ジャネスのリディアに向ける疑いは8割晴れたような雰囲気ね。
「…アディの未来、見えた。」
「…どんな?」
「お酒を控えないと、このままだと1年後に5㎏太ってる……。」
「いやーーーーー!!!」
お酒やめたらアタシ何を生きがいに生きればいいの…!!
でも太るのも嫌…!!
「ジャネスはね、半年後にへそくりが奥さんに見つかる…というかバレる。結構な大金だね、自室の本棚の4段目の左から6番目の本の中。」
「えっ………え?」
「隠し場所、定期的に変えると良いと思うよ。」
6歳の女の子にへそくりの場所をダメ出しされているおじさん、中々見られない光景だと思うと感慨深いわね。どこがよ。
「…アディ、私を王都に連れて行って。王城に、聖神殿に行ってみる。」
「行くのは良いけど、聖神殿に行くってどうやってよ?」
「私の力を使えば、姿を隠して侵入できる。はず。」
「はずって。不安が残る言い方ね。」
だけど現状、解決策が全く見当たらない。というか、アタシは聖女や王族側の事情を全く知らないから、この件は完全にリディアのアシストに専念する他ない気がするわ。
「行きましょうか、王都に。」
「…!ありがとう、アディ!」
「ジャネス、度々すまないわね。また屋敷の留守、頼んだわよ。」
アタシはジャネスの返事を聞くことなく、移動車のキーを取り出して部屋を出た。駆け足気味で、リディアと倉庫に向かう。
本当にどうなっているの?この偽聖女騒動、一筋縄ではいかないんじゃないかしら。




