第53話 呪いの手紙編⑩
ロジャー魔法大病院に向かう途中にある森への脇道を通って10分くらいの所に、件の墓地はあったわ。ここは縁者のいない人たちが埋葬されている、小規模な共同墓地らしいわ。他国の言葉を借りるなら、無縁仏ってやつね。
墓地の管理者は常時はいないらしく、全体的に雑草や植物が生い茂っている。アタシとリディアは辛うじて見える土の道を歩き、敷地内を移動する。
「…ここ、このお墓がヘンリーの。」
リディアが力を駆使し、ヘンリー少年のお墓を特定した。共同墓地なので1つのお墓に複数人が埋葬されているし、もちろん墓石に名前も掘られていない。名前が分からないまま亡くなる方もいるから、都度調べるようなことはしていないんでしょうね。
アタシとリディアはお墓周りの雑草を抜き、墓石に生えている苔や周りに落ちている小石や砂、埃を払っていく。
雑草に紛れて虫が飛び出してくるけど、アタシは淡々と摘んで森の中に放していく。リディアは興味深そうに虫を見つめているけど、触る勇気はないみたい。
_______。
「詠唱を開始します。少し離れなさい、レッドフォード伯爵。」
リディアに言われた通り、アタシは数歩下がってリディアの詠唱を眺めた。リディアの周りに魔法が集まり、森の木々が騒めく。
「”聖女リディアの名のもとに命じます。姿を見せなさい、ヘンリー・マッカリース”。」
リディアがそう言い終わるのと同時に、アタシたちの目の前に光の粒が集まり始めた。徐々に光は治まっていき、目の前に病院服姿の少年が佇む。
『君は…リディア!』
「久しぶり、ヘンリー。」
挨拶をしている2人を見て、アタシは少し驚いた。本当に夢の中で2人は会ったことある間柄だったのね。それに、リディアが本名を名乗っている。そこに驚いてしまったわ。
「ヘンリー、後ろにいるこの人はアディ。私の…お父さん。」
『わあ…初めまして。』
「初めましてヘンリー。お会いできて嬉しいわ。」
ヘンリーはアタシの左腕の呪いに気が付き、気まずそうな表情をした。アタシはそれに気が付き、隠すでもなく微笑んだ。
この場の空気を変えるべく、リディアが口を開く。
「ヘンリー、マリアからの手紙を預かってきたの。」
そう言ってリディアは、アタシに目配せをしてきた。アタシはそれを見て、鞄の中からマリアの手紙を取り出した。
「どうぞ、ヘンリー少年。」
『………。』
ヘンリーはびっくりして、目を見開いたまま交互に手紙とアタシとリディアを見ている。決心をしたのか、震える手で手紙を受け取り、ゆっくり息を吐く。
『…ありがとう、リディア、アディ。』
ヘンリーは泣きそうになりながら、手紙を抱き締めた。
『ボクの手紙のせいで、多くの人に呪いを振りまいてしまった。申し訳ない気持ちはあるんだ…。』
そう言いながら、ヘンリーはアタシの左腕を見つめる。アタシは左腕でバイバイするような動作を見せ、気にしていないアピールをする。
『だけど、それも今日で終われそう。もう誰も傷つけなくていいんだ…。』
「ヘンリー、私の力であなたの魂を癒します。永遠の安らぎを得られるように。」
ヘンリーは静かに頷くと、手紙を抱えたまま数歩下がって立ち尽くす。
そんなヘンリーにリディアは詠唱を始め、彼の周りに魔法の粒子が集まっていく。光り輝く粉をまとい、ヘンリーの魂は癒され消えていく。
消える間際に、彼は小さく口を開いた。
『本当にありがとう。』
そう言い残し、ヘンリーの魂は消えた。目の前には彼の眠る墓石と、リディアだけが残された。
「…おやすみなさい、ヘンリー・マッカリース。あなたに聖女リディア・アッシュクロフトの祝福がありますように。」
リディアがそう言った瞬間、アタシの左腕に鈍痛が走った。慌てて見てみると、真っ黒になっていた左腕が徐々に元の状態に戻っていくのが見えた。黒い蛇が巻き付いているような見た目になり、ボンっと音を立てて呪いが消え去った。
「…ヘンリーの魂は救われたのね。」
「…うん。これで、呪いの手紙も届かなくなるはず。」
アタシとリディアは一礼し、ヘンリーのお墓から立ち去る。
呪いの手紙はもう存在しない。魂に縛られて呪いと化してしまった少年はもういない。
リディアは何か思うことがあるのか、無言でアタシの左手を握ってきた。
アタシはそれに答えるように、少し強く握り返した。




