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第5話 使用人たちと緊急会議よ。

第1話はこちらです→https://syosetu.com/usernoveldatamanage/top/ncode/2773390/noveldataid/26180134/

午前10時少し過ぎ。

アタシはとある人物たちがこの仕事部屋に来るのを待っていた。その人物とは_。


コンコンッ


「旦那様、失礼します。ジャネス、ヨハネ、クリスティ、ただいま来ました。」

「どうぞ、入ってちょうだい。」


ジャネス、ヨハネ、クリスティ。この3人はリディアを拾ったあの日あの部屋にいて、以来アタシとリディアのお世話をし、リディアの真実を知っている数少ない使用人たちよ。


「忙しい中悪いわね、まあ座って。」


失礼しますと小さく発し、3人が目の前の長椅子に着席する。

アタシは3人分のカップを用意し、紅茶を注ぐ。以前リディアにむしり取られた個包装のお菓子が入っている籠を差し出し、みんなに勧める。

3人は遠慮することなくお菓子を受け取り、カップの横に置く。みんな知ってるのよ、お菓子を遠慮して受け取らないほうが、後々めんどくさいことになるってね。


「今回集まってもらったのは他でもない、あの日保護した女の子の話よ。」


3人の視線が一斉にアタシに集まる。

みんな想像はしていたのか、驚いたり狼狽えたりする様子はない。


「お嬢様に何か?」


”お嬢様”


そう、3人にはリディアをこう呼ぶように言いつけてあるわ。

リディアという名前は基本的に、この国に伝わる神の末裔の少女、リディア・アッシュクロフトを示す名前なの。

たまに聖女リディアをリスペクトして、自分の娘にリディアという名前をつける人もいるけど、基本的にリディアといえばこの国の聖女を示しているのよ。


あの子がリディアという名前を名乗ること自体には問題ないのだけど、本人である以上リディアを名乗るのは別の火種になりかねないと判断したの。

リディア自身は表向きには”レティシア・レッドフォード”と名乗り、あの日あの場にいた3人の使用人たちはみなあの子のことを”お嬢様”と呼ぶことにしているわ。


表向きにはレッドフォード家の当主であるアドルディ・レッドフォードの養子になった少女、レティシア・レッドフォード。3人以外の使用人とアタシの関係者はそう思っているはずよ。


本当の姿は、このローゼシア王国の象徴として崇められている神の末裔の少女、リディア・アッシュクロフトなんだけどね。


「分かっていると思うけど、あの子は”レティシア・レッドフォード”。もしくは”お嬢様”。あれはアタシと貴方たちだけの秘密。」

3人は真剣な面持ちでコクコクと頷いている。

ここまでは3人にとっても承知の内容。伝えたいのはここからよ。


「先日あの子に言われれ初めて知ったんだけどね、貴方たちにある魔法をかけたらしいの。」

「ある魔法、ですか?」

「そう、それは『あの子に関する真実を喋ろうとしたり誰かに伝えるようなことしたら、即座に心臓が破裂して死ぬ魔法』だって、ね。」

「え。」

「え…?」

「え!?」


三者三葉、驚きの表情と困惑を口に出したわ。そりゃそうなるのも分かるわよ。


「…誰にも言ってないわよね?」

「も、もちろんでございます。」

「私も、言っていません、絶対に!」

「あたしもです!聖女リディア様に誓って…!あっあっ…!」


誓われる対象である聖女リディアに接したことで呪いのような魔法をかけられているなんて、多分人生何度繰り返しても遭遇できないイベントでしょうね。全く嬉しくないけど。


「本当にそんな魔法をかけてくれたのか真偽は分からないわ。でも、確かめるすべもないの。」


リディアの秘密を言いふらしたら、じゃないものね。

『言おうとしたら』だものね。どんな魔法とトリガーになっているのかしら。

そういう繊細かつ大胆な設定で魔法をかけられるのも、最上級魔導士と言われているあの子の力なのでしょうね。


「あとね、ジャネスは知っていると思うから軽く聞いてくれるだけでいいんだけど。」


ジャネスは心当たりがあるのか、アタシから視線を外すことなく手に力を込めて背筋を伸ばした。

ヨハネとクリスティは何のことだかわからず、首をかしげながら少し前のめりになっている。


「リディ…レティシアが言っていたんだけどね。あの子、ここに来るまで王城の中心部にある聖神殿の一室に軟禁されていたみたいなの。」


アタシは掻い摘んで話した。

聖女リディアの過去について。

国王が代替わりするたびに、リディアは姿を変えて人と接していたこと。

2500年前の国王が、聖女リディアに関する資料を全て廃棄してしまったこと。

そのため、聖女リディアの真の姿を把握している者はアタシたち以外にいないこと。


「聖女リディアにそんな経緯が…。」


クリスティが手で口元を押さえながら絶句している。

信じていた話の、言い伝えられてきた国の象徴の偽りの姿を知って、ヨハネも黙ってしまっている。


「あの、ご主人様。この話、私たちにしてもよろしかったのですか?」

「ええ。レティシア本人から許可は得ているわ。ジャネスに至っては、目の間でこの話をされたものね。」


ヨハネの疑問はもっともね。

でも、リディアを拾ったあの日、あの部屋にいた3人には知る権利があると思うし、何より説明しておいたほうが対応がしやすいと思ったの。


「今日まで、レティシアにはこの屋敷の一部の区画のみ行き来することを許していたわ。3人も知っての通り、アタシの仕事部屋とプライベートルーム、食堂、そしてあの子の部屋ね。」

「はい、お嬢様の部屋に至っては、我々3人以外の使用人は出入りしていないはずです。旦那様から、使用人全員に通達がありましたから。」

「明日からね、レティシアを自由に過ごさせてあげたいの。」

「…と、言いますと。」


一息置いて、アタシは紅茶を一口飲む。


「屋敷全体を自由に行き来させてあげてもいいかなって思ったの。敷地内とはいえ、外に行くときは誰か使用人に着いていってもらうことになるけど。」

「旦那様がお決めになったことでしたら、我々は従うのみです。…でも、大丈夫なのでしょうか。」

「何が?」


そんなつもりはなかったけど、強い語気になってしまっていたみたい。ジャネスが口を閉ざそうとするから、構わず続きを言わせたわ。


「その、聖女…の見た目は我々以外知らないとのことですが。絶対とは言いきれないと思いまして。どこかの屋敷やゆかりの地に該当する資料や口伝が残っていた場合、彼女が聖女リディアであるとバレてしまうのではないかと。…過ぎたことを申し訳ありません。」

「いえ、大丈夫よ。言ってくれてありがとう。アタシもそれについて本人に聞いてみたの。でもあの子、『絶対に大丈夫だよ』の一点張りで。当事者である本人がそういうなら、アタシたちは信じて受け入れるしかないじゃない?」


この国において、あの子の髪色と目の色は特別珍しい色でもないわ。黄色の強いブロンドの髪の人も、暗い夜のような青い瞳の人も、探せば普通にいるからね。

問題となるなら、その2つが組み合わさることで、あの子が聖女リディアだとバレないかという点ね。リディア自身は大丈夫だと言っているけど、資料や口伝が絶対にない保障は無いと思うの。リディアの自信もアタシたちの不安も、根拠も証拠もないけどね。


「とりあえず、あの子に関して伝えたいことは言えたはずよ。今日の昼過ぎ、改めてアタシから全使用人にあの子の処遇について通達するわ。何か他に質問はある?」


方々から『大丈夫です』『ありません』『承知しました』と声が上がる。

今回の緊急会議はこれにてお開きね。


「3人とも、お紅茶とお菓子を食べてから仕事に戻りなさい。まだ冷めてはいないはずよ。」


失礼しますという声と共に、3人がカップを持ち紅茶を飲んでいく。

そんな様子をぼーっと見つめながら、アタシは今後について考えた。

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