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第49話 呪いの手紙編⑥

5年ほど前、このロジャー魔法大病院のE棟にヘンリー・マッカリースという少年が入院していた。

ヘンリー少年の両親は最初こそ彼の看病やお見舞いに来ていたが、次第に来なくなりいつしか蒸発してしまった。

ヘンリー少年は入院当初から唯一の趣味である文通をしていた。

相手の名前は分からない。ヘンリー少年しか知らないのだった。


ある時、文通の相手から手紙が一切来なくなった。

ヘンリー少年はずっと待っていた。1週間、1か月、1年経っても手紙の返事は来なかった。


ヘンリー少年は文通相手にもらった手紙に、住所が書いてることを思い出した。

今まで書き溜めた手紙を両手に持ち、夜中に病院を抜け出した。


あの日以来、ヘンリー少年を見た者は誰もいない。



自警団にも連絡が行ったが、身寄りのない少年の捜索は早々に打ち切られてしまった。

きっとヘンリー少年は人ならざる者にこの世から連れ去られてしまったのだ。


ヘンリー少年は今でも手紙を書いて送っている。

彼の思いが呪いとなり、手紙にこもって人々に呪いを振りまいている。

『僕の文通の相手になって!』てね。


ヘンリー少年に手紙を届ければ、きっと呪いの手紙は来なくなる。

だけど誰も、ヘンリー少年の居場所を知らないのだ。


今日も誰かの元に、呪いの手紙が届く。

お返事待ってます、ヘンリーより。



_______。


「昔、このE棟に物書きのお姉さんが入院していたらしくて、その人がこの話の発端だって言われています。」

「で、それ以来、細々と言い伝えられている都市伝説と化したってこと?何とも、後味の良くないお話ね。」


アタシはデニーの話を聞いて、肩をすくめた。一応紙とペンを取り出してメモはしていたんだけど、途中で手が止まっちゃったわ。


「ふむふむ、なるほど。その文通相手のことだったんだ。”マリア・オーブリー”って。」


静かな病室にリディアの声が響いた。アタシもデニーもマクミランさんも『?』という表情になった。


「さっき、デニーとお母さんの手を見せてもらったでしょ?その時に見えたの。ヘンリー・マッカリースという男の子と、マリア・オーブリーという女の子のことが。」


アタシはびっくりして思わずペンを落としてしまったわ。マクミラン親子は不思議そうにアタシを見つめていたから、咳払いと謝罪をしてペンを取る。リディアあの子、デニーの話を聞きながらそんな情報を握っていたのね。


「この物語を作ったという物書きのお姉さんのこともデニーの手は教えてくれたんだ。フランシス・カーネルって女の人らしいよ。」

「うーん…一応メモしておきましょうか…。」

「…すごいね、レティシアちゃんってそんなことが分かっちゃうの!?」


デニーは目を輝かせながら、リディアの方を見つめた。リディアは褒められているのに喜ぶ様子もなく、淡々と言葉を繋ぐ。おかしいわね、最初は明るく彼に話しかけていたのに、過去視をして話を聞いた途端大人しくなっちゃった。彼の気まずい過去まで一緒に見てしまったのかしら。


「ちょこっとだけだよ。大袈裟。」

「いやいや、ちょこっとでもすごいよ!僕なんて、初級魔法の適性があるのに全然使えないんだもん!」


魔法の力をべた褒めされて、段々とリディアは照れくさくなってきたのかまんざらでもないといった対応をし始めた。魔法談義で盛り上がっている2人を尻目に、アタシは今後調べる要点をまとめる。


・ヘンリー・マッカリースについて

・マリア・オーブリーについて

・リディアがマクミラン親子から得た情報について後で聞く


(幽霊とかおばけとか、結構オカルト方面の話になっていきそうね。)


呪いの手紙が実在している以上、”ヘンリー少年の手紙”をただのオカルト話にしておくわけにはいかない気がするわ。

アタシが1人で悩んでいると、いつの間にかデニーがリディアと文通をしてみたいという話になっていたわ。


「1度だけで良いんだ!ヘンリー少年じゃないけど、僕もやってみたいなって。」

「こら、デニー!レッドフォード伯爵の娘さんになんてこと言うの!」


マクミランさんは息子が粗相をしたと感じたのか、焦って引き留めている。アタシ的にはリディアの意思に任せるって感じだけど、当の本人はどう答えるのかしら。


「…別にいいよ。頻繁には返せないかもしれないけど、私でよければ。」

「本当!?わーい!」

「ふ、2人とも…!レッドフォード伯爵、すみません。うちの子の言うこと真に受けないでいただいて大丈夫ですから…!」


慌てるマクミランさんと勝手に話を進める少年少女の2人の態度の差が面白くて、アタシは思わずふふっと笑ってしまった。


「いいえ、構いませんわ。レティシアがやると言うなら、アタシは止めませんわ。」


そう答えると、2人はぱあっと花が開くような笑顔を見せてくれた。若者はこうで良いのよ、やりたいことをやりなさい。人に迷惑をかけない範囲でね!




「それでは、アタシたちはこれで失礼しますね。マクミランさん、デニー、今日はありがとうございます。」

「ばいばいデニー!お手紙書くね!」

「うん、レティシア!届くの待っててね!」

「すみません、大したお話もできなかった上に、こんなことにまで…。」


アタシはペコペコと頭を下げているマクミランさんを窘め、改めてお礼を言って病院を後にした。

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