第40話 アタシにも友達はいるの。
「よし!行くわよ!シートベルトはしたかしら!?」
「しました!アドルディ隊長!」
「よろしい!では出発します!」
とある日。アタシとリディアは朝から移動車に乗り込み、茶番を繰り広げていたわ。鍵を差し込み、大きく捻るとエンジンが鳴る音がする。
_遡ること数週間前。
アタシは1通の手紙をリディアに渡して読んでもらいながら、ある提案をしていた。
「王都にある仕立て屋『フィッツシモンズ』…。聞いたことあるような。」
「以前王都にいたアンタなら聞いたことあるかもしれないわね。」
_仕立て屋『フィッツシモンズ』。
主に衣服をオーダーメイドで作っている、王都にある老舗の仕立て屋よ。親族12代にわたって継いできている老舗の仕立て屋だから、リディアが知っていてもおかしくはないわね。現在の店主はテオドア・フィッツシモンズという老齢の男性で、ケイティという孫娘が見習いとして働いているわ。
「その孫娘がアタシの学生時代の同級生…お友達なの。」
「へえ、アディって友達いたんだ。」
「ははっ、てめえ泣かすぞ。」
アタシは笑顔でリディアの軽口を受け流す。このやりとりにも慣れたものね。
「アタシの娘である”レティシアちゃん”に、練習台になってほしいらしいのよ。」
「ふむふむ。」
「子供服のオーダーメイドを受けるにあたって、ノウハウを増やしたいとのことね。」
「なるほど。」
リディアは読んでいた手紙を机の上に置き、棚に駆け寄ってガサゴソと何かを探し始めた。いつ買ったのか分からない雑誌類が散乱し、散らばっていく。
「私、こういう服が欲しい!」
アタシはリディアの手から雑誌を受け取り、示されたページの部位を見る。そこに写っていたのは、白と藍色を基調とし、赤いスカーフを着けたマリンワンピースだった。
「あら、可愛いわね。」
「でしょ?あとね、似ているけどちょっと違うこのセーラーワンピースってやつも欲しいの。」
リディアは目を輝かせながら、あれもこれもと雑誌を広げていく。お洋服を目の前にしてテンションが上がっちゃう気持ち、すごく分かるわ。
「引き受けるってことでいいのね?」
「うん!いつ頃になるのかな。」
「まだ予定は未定なのよ。向こうと日程を合わせるから、決まり次第教えるわね。」
「わーい!楽しみ!」
と、言うようなことがあったのが数週間前。そこからフィッツシモンズことケイティとアタシの予定を擦り合わせ、今日になったということよ。
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「今日のリディアさんのメイクのポイントは?」
「林檎リップの2番、少しピンクに近い赤。大人っぽい中にある子供らしさが可愛いの。」
アタシは運転している姿勢のまま、リディアに尋ねてみる。リディアは今日のために、おしゃれをしてきたらしい。お洋服もメイクもバッチリ仕上げて、ご機嫌気味ね。
仕立ての際には最低限の衣服に着替えさせられるけど、それは指摘しないで黙っておきましょう。
「お洋服の仕立ては、多分2900年ぶりくらいかも。」
あらやだヘビーな話が始まってしまったわ。
「個人的な衣服…プライベートな服は仕立てたことがなくて、いつも神官が用意した適当な服だったの。部屋着って言うのかな。」
「当時仕立てたのは、人前に出るための衣装ってこと?」
「そう。聖女たるもの、相応の衣服を身に纏わないと示しが付かないって、当時の国王が手配したの。」
かの国王のせいで人前に出る機会は無くなっちゃったけどね、とリディアは窓の外を眺めながら話す。
「ケイティってどんな人なの?」
昔話に飽きたのか、リディアが話の内容を現代に戻した。話題に上がったのは、今日これから会うケイティについてだった。
「ケイティ?普通の女の子よ。」
「普通…?」
「普通。」
リディアは何か納得ができないみたいな顔をしているけど、それ以上は深く聞いてこなかった。何が引っかかるのよ。
「…会ったことない人を、偏見で決めつけるのは良くないよね。」
隣から小さな声で何か聞こえた気がしたけど、エンジンの音と走行音に掻き消され、その声がアタシに届くことはなかった。




