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第39話 リディアの戸惑い

Side:リディア


「取り乱しちゃったけど、改めて。いただきます。」

「どうぞー。」


私は反対側の長椅子に座りながら、アディの様子を眺める。アディは私に食べないのかと尋ねてきたけど、私は誰よりも早く、最初にアディに食べて欲しかったから遠慮した。何より、アディのために作ったのだから、私が食べては意味がない。


いつもなら一緒に食べる流れになっていただろうけど、アディはそんな私の気持ちを察してくれたのか、それ以上は何も言わずにいてくれた。


「ん~!美味しい!初めて作ったのよね?お店と同じクオリティね!」


お世辞も入っているかもしれないけど、アディの素直な言葉とリアクションが嬉しかった。何より、私の作った食べ物をアディが喜んでくれている事実が嬉しかった。


(アディの食べる姿、可愛いかも。)


アディは背も高いし、鍛えているからそこそこ筋肉質でもあるとは本人談。可愛いという言葉より格好いいという言葉が似合う人だとは思う。だけど、スイーツを食べて顔を綻ばせている彼の姿は、可愛いという言葉の方が似合う気がした。


ぽかぽかと心臓が温かく包まれるような感覚がする。さっきから顔の熱が引いていないような気がして、少し部屋自体が暑く感じる。


「クリスティが、手伝ってくれたの。」


私は照れる気持ちを隠すように、話題を絞り出す。アディはもぐもぐと咀嚼しながら静かに頷いていた。


「クリスティって確かお菓子作りが趣味よね。なるほど、2人で一緒に裏で計画していたのね。」


『あの子にもお礼言っておかなくちゃ』と言いながら、アディはカップに口をつけて紅茶を飲む。

アディは使用人のことも1人1人きちんと把握し、よく見ている。クリスティはレッドフォード邸の住み込みの使用人だし、それくらいのことは知っていてもおかしくはないと思う。他の使用人から噂で聞いて把握している可能性だってある。


「…?」


だけど、何故だろう。そんなことを考えて、ひどく寂しい気持ちになった。



________。


その日の夜、私は自室でアディの会社の新作のお菓子に囲まれていた。今日の朝にアディから受け取らなかったお菓子たちを、おやつの後に受け取ったのだった。


自室に備え付けられている冷蔵庫から、冷やされた紅茶の容器を取り出してカップに注ぐ。私は次々にお菓子の袋を開けて、机の上に置いていく。


「はあ…。」


今日何度目か分からない溜息をついた。悶々としているのは、アディにミックスベリータルトを振舞ったあの15時のおやつ以降から。私はずっと、言葉にできない不快感に駆られていた。


(アディがタルトを食べているのを、見ていただけだったからかもしれない。)


ガサゴソとお菓子の袋に手を突っ込み、数個まとめて口の中に詰め込んで頬張る。もしゃもしゃと咀嚼する音が頭の中に響いて、お菓子で上書きされていくような気がする。

甘いお菓子を食べたらしょっぱいお菓子に手を付け、それを交互に繰り返す。半ば作業のように食べていたら、いつの間にかあの悶々とした不快感は消え去っていた。私には”これ”が足りていなかったのかもしれない。


人身売買組織に誘拐されて、アディを傷つけられ、彼を失うかもしれない恐怖に駆られて。

アディを労わりたくて、彼に感謝の気持ちを伝えたくて、人の手を借りながらも美味しいと言ってもらえるタルトを作って。


「ごくごく…ぷあっ。自分時間ってやつかな。」


椅子に座りながら足を組み、カップに入っていた紅茶を飲み干す。おかわりを注ぐために、私は再び紅茶が入っている容器を手にして傾ける。


「…別に、アディのことが好きとかではないもん。」


誰もいない部屋に向かって、誰に言うわけでもなく言葉を口に出す。傍から見たら、言い訳にしか聞こえないかもしれない。

…言い訳?何の?別に私はアディのこと好きじゃないもん。いや、好きではある。訂正するね、人として好きなの。男の人としてってことではないもん。


心の中で呟きながら、私はアディが数日間目を覚まさなかったときのことを思い出す。


________。


「アタシは簡単に死なないから安心しなさい。何ならアンタより後に死ぬつもりだから。」

「…えへへ。じゃあアディも数千年生きられるんだね。」

「ええ、数万年だって生きてやろうじゃないの。アンタのお墓に真っ赤な薔薇を供えてあげるわ。」

「えへへ。やったね、楽しみ。」


________。


アディは数日の間ずっと、ほとんど動かないまま寝ていた。微かに上下する胸と呼吸の音だけが、彼の生きている証だった。

そして私を励ますための嘘だったとしても、私と共に長い時を過ごしてくれると言ってくれて嬉しかった。お世辞でもそういうことを言ってくれる人は、今まで出会ったことなかったから。抱き締めてくれたときに感じた彼の心臓の音を思い出し、目を閉じる。


「…今日はもう、お腹いっぱい。」


目を開けた私は、机の上に広げられたお菓子の袋の封を閉じて、お菓子を保管している籠の中にしまっていく。いつもより早い時間だけど、早くお風呂に入って寝てしまおうと思った。


私はアディの部屋にバスボムを選びにいくため、自室を後にした。

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