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第34話 リディアの企み

Side:リディア


私はアディの部屋を出ると、そそくさと書斎に行く。さっきアディの部屋に持って行った本はカモフラージュで、本当の目的はこっちのメモ用紙。分厚い本の背を揃えて、元の位置に戻していく。


「あった、これだ。」


私は本来の目的の本、『美味しいお菓子の作り方』を手に、書斎を後にした。



_______。


「あ、お嬢様。どうでしたか?」

「聞けたよ!アディの好き…好き?食べたいもの!」


私は自室に戻ると、部屋で待機していたクリスティにメモ用紙を渡す。クリスティはその間、私の部屋を整頓していたらしい。机の上に散らばっていたメイク用品やお菓子が、綺麗さっぱり元の位置に戻されていた。


「旦那様、お酒って言いませんでしたか?」

「言った!クリスティの言う通りだった!」


私とクリスティは、顔を合わせて小さく笑った。クリスティの予想が当たったからだった。




_今から1時間ほど前。


私はクリスティを自室に呼び出し、ある提案をしていた。


「旦那様に何かしてあげたい、ですか。」


私はうんうんと大きく頷き、続きを話した。


私が誘拐された件で、アディにはたくさん迷惑をかけてしまった。アディ自身への怪我や被害もそうだけど、会社や領主としてのお仕事も調整してもらって、そのせいかアディは今仕事に追われている様子。私が代わりに仕事をこなせれば良いんだけど、そうはいかない。アディの仕事はアディにしかできないのだ。


そこで思いついたのは、アディの好きなものを作って食べてもらおうというものだった。それなら私にもできそうだし、アディに形としてお返しとお礼ができる。クリスティとか一部の人には協力してもらう必要があるけど。


「…でも、何もしないのが一番なのかな。」

「お嬢様?」

「先日の件も、私が本が欲しいって言わなきゃ起きなかったのかもって。」


色々言ってから、私は急に不安になった。私が何か行動を起こすから良くないことが起こるのではないかと。クリスティだって、あの時私が町に行きたいって言わなければ、頭を怪我しなくて済んだのかもしれないのにって。

私は何もしないで、部屋に閉じこもっていたほうがいいのかもしれない。聖神殿の一室にいた、聖女リディアのように…。


「お嬢様!」

「え?へぶぅ…。」


下を向いて俯いていた私を、クリスティは大きな声で呼び止めた。顔を上げると、私の顔の横に彼女の手が伸びていて、両頬をムニっと掴まれた。その指先は、ちょっとだけ温かくて痛い。


「あれは全部誘拐犯が悪いんです!被害者であるお嬢様が気に病むことではありません!」

「クリスティ…。」


クリスティは私の頬を掴んだ手を、そのまま頭のほうに持っていく。頭のてっぺんから前髪にかけて撫でられて、彼女の手の重みと体温で少し泣きそうになった。涙は出なかったけど、服の袖でぐしぐしと両目を拭く。


「考えましょう、旦那様のためにできることを。」

「…うん。」


こうして話し合った結果、出た結論が『アディのために料理を作りたい』だった。



________。


「なるほど、ミックスベリーのタルトですか。」

「うん。私、料理したことないんだけど、作れるかな。」


私はさっき取ってきた本を読みながら、クリスティに話しかける。アディに料理を振舞いたいとは言ったものの、私自身は料理の経験が皆無なのだ。茹で卵なら作れそうな自信がある、くらいのものなのに、いきなりタルトなんて作れるのだろうか。自分で提案しておいて、今更不安になってきた。


「もちろんです!あたしがお手伝いしますので、ご安心を!」


クリスティは握りこぶしを作ると、胸を張って自信気に答えてくれた。聞いてみると、クリスティは休みの日にはお菓子を作って、他の住み込みの使用人に振舞うほどらしい。これは頼りがいがあるかも。


「ではまず、材料から書き出していきましょう。」

「うん。お金は私が出すから安心して。アディから貰ったお小遣いを、貯金してるの。」

「まあ、偉いですね!」


私は紙に必要な材料を書いていく。一部の食材は既に家にあるから、料理人の人たちに使わせてもらえるものがあるか聞かなくちゃ。厨房はクリスティの自室を使わせてくれるって。器具も揃っているから大丈夫そう。


「ミックスベリーって言うくらいだから、ラズベリー、ブルーベリー、苺…」

「フィリング…タルトの中身はどうしましょう?」


タルトの中身。そういえば、タルトって生地を焼いて、お皿みたいな生地の中に色々詰め込むんだっけ。お菓子の定番といえば生クリーム?あ、カスタードとか美味しいかも。


「どう…しよう。ベリーにカスタードって変?」

「変じゃありませんよ、お店にはそういうタルトもあります!」

「クリスティ的にはどう思う?昔作ったことのあるタルトで美味しかったのとか。」


クリスティは少し考える素振りを見せると、何かを思い付いたのか、ぱあっと表情を明るくしてこちらに視線を向けた。


「アーモンドクリームのタルトが美味しかったです!」

「アーモンドクリーム?」

「カスタードと作り方はあまり変わらないのですが、小麦粉の代わりにアーモンドパウダーを使用するんです。」


(うむむ、聞いているだけでお腹が空いてくる。)


アディの食べたいものを聞きだすまでは良かったけど、細かい好みや要望までは聞けなかった。本当はアーモンド嫌いって言われたらどうしよう。でも、グリフォンをそのまま生で食べそうなアディだから、多分大丈夫だよね。


「…私の心のアディが、どういうことよ!って言ってる…。」

「え?」

「…ううん、こっちの話し。」



ああでもないこうでもないと話を重ねていたら、私とクリスティで考え方がすれ違っていることに気が付いた。

私は火を通さず、そのままフルーツを盛り付けるタイプのタルトを想像していたのに対して、クリスティは盛り付けた後にオーブンで焼いて、粉砂糖を振りかけるタルトを想像していたらしい。早めに気が付いて良かった。

クリスティは私の考えていた方法で作ろうと言ってくれたけど、加熱されたベリーの酸味と風味を想像したら、クリスティの言う作り方で作りたくなってしまった。


遠慮気味なクリスティを押し切るように、私は彼女の案を採用した。

決して自分が食べたいからではない。



「…こんな感じで良いかな?」

「…そうですね、良いと思います。」



クリスティと書いたメモを見返して、最終確認をする。

決行は明後日、ご武運を!なんてね。

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