第28話 リディア誘拐編⑫
前方右側から複数人の男たちが走ってこっちに来る。人数は4人、うち2人は素手で、1人は刃物を持ち、1人は銃で援護射撃をする構えをしている。
「おらあ!!」
1人の男が拳を振り上げてくる。アタシはそれを受け止め、左へ受け流す。バランスを崩した男はそのまま地面に転んだ。
「素手ですってえ!?アタシのこと馬鹿にしてるのかしら!!」
もう1人がこちらに向かってくるのが見えたから、右足を後ろに下げ、腰を低くし力を入れて前へ踏み出す。勢いのまま男の眼前に入り込み、胸ぐらを掴んで投げ捨てる。
「このっ!!」
刃物を持った男と銃を手にした男が一斉にこちらに仕掛けてくる。アタシは地面に転がっていった男を持ち上げ、刃物男に向かって投げつける。人間が飛んでくると思わなかった刃物男は驚きひるんで、投げられた男と共にそのまま後ろ向きに倒れる。ごちーん!と大きな音が響き、刃物男が頭を抱えながら悶絶している。
様子を見るに、この刃物男と銃男は金で雇われただけの不良のようね。戦いにまるで慣れていない。指先が震えて、命のやり取りを怖がっているように見える。
よく周りを見てみると、この2人と同じような様子の青年たちが見受けられるわね。
「馬鹿にしてるのはテメエだよ!!気持ち悪い喋り方しやがって!!これでもくらえ!!」
他の銃を持っている男たちも、アタシとアランを目掛けて一斉に発砲してくる。
だけど、防御魔法を前に銃弾は成すすべがなかった。不思議な壁に阻まれているように、銃弾はカツンと音を立てて、アタシとアランに当たることなくその手前に落ちていく。
「な…!?」
「あら、防御魔法を見るのは初めてかしら?まあ、生きていて見る機会はほとんどないかもしれないわねっ!!」
驚き怯んでいる銃男に対し、アタシは足を引っ掛ける。アタシの足にかかって体制を崩した銃男は、大きな声を上げながら地面に倒れた。その際に銃を暴発させてしまったみたいで、銃男の右胸当たりが見る見るうちに血に染まっていく。
「ひ、怯むな!!デタラメだ!!さっきの弾丸は当たってなかっただけだ!!撃て撃てえ!!」
ファーストペンギンたちの背後にいた他のメンバーが、銃口をこちらに向けて一斉に発砲をする。
「アラン、お願いできる?」
「時間稼ぎとご対応感謝します、伯爵。」
アタシの背後にいたアランが飛び出し、銃を発砲していく。彼の放つ弾丸は、巧みに男たちの急所を外して撃ち抜いていった。次々と人が倒れ、中には逃げ出そうとしている者も見受けられる。アランはそんな脱兎も逃さず、足を、肩を撃ち抜いていく。アタシはアランにも防御魔法をかけたから、もちろん彼にも弾丸は通用しないわ。
そもそも、ここにいる組織のメンバーたちを殺す気はないの。みんな重要な参考人だからね。ウッドヴィル伯爵からも、やむを得ない場合を除いて全員捕えろと言われているわ。
アタシは床に倒れて伸びている男から刃物を奪い、自分の手にする。何人か立ち上がって起きそうな気配がしたから、頭を殴打して再び気絶させておいたわ。
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「うう…。」
「た、たすけてくれ…!俺は何も知らない、知らない…!」
「金をやるからって言われて着いてきただけなんだ…!俺は組織の人間じゃない…!」
最初の威勢はどこに行ったのか、男たちは完全に戦意を失って消沈していた。アランに撃たれた者が大半を締め、みんな腕から足から体中から血を流して呻いていた。
アタシとアランは男たちの武器を回収し、手の届かない遠いところにまとめて置いた。
「あらやだ、お洋服が血で汚れちゃったわね。」
汚れてもいい服は着てきたつもりだけど、やっぱり服が汚れるのは気分が良くないわね。
「アラン、手を出して。回復魔法を使うわね。」
「お気遣い感謝します。」
アタシはアランに魔法を施していく。ついでに、防御魔法もかけ直して、万全の状態にしておいたわ。回復魔法をかけ終えると、アランはお礼を言いながらコキコキと手首と首を鳴らし、背筋を伸ばした。リディアの回復魔法は、肩こりや疲労にも効くのかしらね。
静まり返ったダンスホールの外の廊下から、キシッキシッと床が軋む音が聞こえる。アタシは男から奪った刃物を手にし、アランは急いで銃に弾を装填した。緊張感を高めるアタシたち2人だったけど、扉の影から現れたのはレノルドだった。
「ああ良かった、2人とも無事でしたか!」
「レノルド!あなたも無事で何よりよ!」
アタシは思わず駆け寄ってきたレノルドを抱きしめる。レノルドが『ぐえっ』と小さく呻く声が聞こえ、急いで離す。無事を確かめられて良かったわ。
「レノルドも手伝ってくれる?」
「はい、何をしましょう。」
「倒れている男たちを縛り上げておくのよ。動かないようにね。」
アタシは魔法を使い、魔法縄を用意する。これは魔法の力で具現化しているだけのものだから、特殊な解除魔法無しでもナイフで切れる、特殊だけど特殊じゃない縄よ。普通の縄がないから、これで代用するわ。
「さてと、男たちも縛り上げたし。レノルドと合流できたところで…」
アタシは、さっきまで誰もいなかったダンスホールの舞台に視線を向ける。
現役時代の面影もなく朽ち果てたダンスホールの舞台には、1人の男と見慣れた少女が立っていた。
男は南国風のワイシャツに、所々ダメージの入ったジーンズを履いている。こんなところにいなければ、南国に来た観光客にしか見えないだろう。少女の後頭部に銃を突きつけながら、男が口を開いた。
「どーも、レッドフォード伯爵。僕の名前はジャッド・ウォンです。以後、よろしく~。」




