第27話 リディア誘拐編⑪
「良いか、アドルディ少年。俺らは表の玄関から正面突破する。お前さんはこの裏口から入って娘を探してこい。兵としてレノルドとアランを貸してやる。」
次の日、アタシとウッドヴィル伯爵は彼の移動車の中で最終の打ち合わせをしていた。
本来は全員正面玄関から突撃する予定だったけど、ウッドヴィル伯爵が気を利かせてくれて、アタシがリディア…レティシアを探しやすいようにって案を考えてくださったの。
「わしの隊のオズモンドが、ど派手な魔法玉で玄関をぶち破る。それを合図にバノックハウス内部に侵入するから、玄関方面に人が集まるはずだ。」
「アタシは様子を見つつ裏口から侵入し、娘を探して取り返すと。」
「うむ。最終的な目標は人質の救出と犯罪組織メンバーの拘束。リーダーであるジャッド・ウォンは最重要人物だから、可能であれば生かしたまま捕えたい。」
_健闘を祈るぞ、アドルディ少年。
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(ウッドヴィル伯爵がここまで手助けしてくれたんですもの。アタシもやり遂げなくちゃ。)
アタシはレノルドとアランと共に、屋敷の裏で待機している。ジャイルズは魔法適性持ちで、アランは物理攻撃専門らしいわ。
木々の間から漏れる木漏れ日を見ていると、今の自分が置かれている状況を忘れそうになってしまうほど和やかね。
「…っ…!」
「どうしました?レッドフォード伯爵。」
「ちょっと、立ち眩みがしただけよ。大丈夫。」
この感覚は、リディアからの連絡!こんなタイミングで何かしら?
アタシは2人に気取られないように、背中を向けてストレッチをするふりをする。
(リディア?どうしたの?)
(ジャッド・ウォンが何かを企んでいる。目的は分からないけど、今私とジャッド・ウォンと複数人の手下は2階奥にあるダンスホールにいるの。)
ここに来る前に、ウッドヴィル伯爵が用意してくれた屋敷内部の地図を頭に叩き込んでおいたわ。聞いただけで、どの辺りの部屋なのかが想像できる。
(2階奥のダンスホールね。他の子たちは?)
(以前言った、1階奥の牢屋の中。)
(分かったわ。すぐ助けに行くからね。)
そう言うといきなり会話が途切れ、視界がクリアになった。
リディアに何かあったのか、形容し難い不安に苛まれる。だけど、こんなところで弱気になっているわけにもいかず、アタシは両手で自分の頬を叩く。
頬を叩いた腕を下げた瞬間、表からドカーン!!という大きな音が聞こえた。
(来たわね!ウッドヴィル伯爵が正面突破した合図!)
正面玄関の爆音を聞きつけたのか、裏口のドアの向こうからバタバタと足音が遠ざかる音が聞こえる。
アタシとレノルドとアランは顔を見合わせ、裏口から屋敷内に侵入した。裏口はキッチンらしき場所に繋がっており、机にはジュースやお酒の瓶、食べかけのお菓子が置かれているのが見えた。
(あらやだーこんなところで自社製品を見つけてしまうなんて。)
机の上に置いてあったのは、レッドフォード社が扱っているポテトチップスの袋だった。
思わないところで自社製品を見つけてしまい、つい見つめてしまった。こんなことしてる場合じゃないっての!
アタシたち3人はキッチンから出て、目的地である2階のダンスホールを目指した。
遠くから、人々の乱闘する音が聞こえる。これは玄関で起きているやつね。
アタシとレノルドとアランは廊下を歩き、階段を目指す。だけど、そう簡単にはいかなくて。
「貴様ら!!どこから入ってきた!!」
怒鳴り声を聞いて、後ろを振り返る。そこには6人ほど、刃物やパイプを持った男たちがこちらに向かってきていた。
「行ってください、レッドフォード伯爵、アラン!」
レノルドが手に力を込め、魔法玉を放つ。男たちが吹き飛ばされ、壁にぶつかり血を流す。
男たちは急いで体勢を立て直すが、次に飛んで行ったのは魔法で作られた刃物の塊だった。レノルドは慣れた手つきで魔法の刃物を操り、男たちの足の腱や腕を切り飛ばしていく。
「レッドフォード伯爵、ここはレノンドに任せて我々はダンスホールに向かいましょう。」
「…分かったわ。レノルド、頼んだわよ!」
レノルドはこちらを見ることなく、男たちを相手にする。その背中に向けてアタシは、小さく回復魔法の加護を投げておいた。彼に聖女リディアの加護があらんことを。
________。
「ここね…!」
階段を駆け上がって廊下を右に行ったすぐそこに、ダンスホールの大きな扉はあった。
アタシは小さな声でアランに言うと、アランも頷き、ドアの端に身を寄せる。
「アラン下がって。扉を魔法で破壊するから。」
「はい、承知しました。」
アランを後ろに下がらせると、アタシは手の内に力を込める。アタシの作った魔法玉は閃光を伴い、大きな音を立ててダンスホールの扉を破壊する。
扉の前にジャッドの部下がいたらしいけど、魔法玉にぶつかって吹き飛ばされて伸びてしまったらしい。吹き飛ばされたドアの下敷きになって、動かない人が約数名。
アタシは歩いてダンスホールに入室する。アランもアタシの後を追い、後ろから着いて来る。
「お前がレッドフォード伯爵だな!?」
「あら、随分手厚いお出迎えね。」
ダンスホールには数十人の男が待ち構えていた。おそらく10人はいない、7~8人ね。
手に持っているのは刃物と銃で、見て分かる範囲に魔法適性持ちはいないみたい。
アタシは遠距離物理攻撃防御層の魔法を張りつつ、一歩一歩近づいていく。流石リディアの力、こんなこともできるのね。
「かかれ!!2人なんてあっという間だ!!この人数相手に舐め腐った対応取ったこと、後悔させてやれ!!」
男たちは雄たけびをあげると、いくつかの陣形に別れてこちらに向かってくる。
「アラン、後方支援は任せるわね。」
「了解です、伯爵。」
アランはアタシの背後で銃に弾薬を詰めている。仮に彼の撃ってきた弾丸がアタシに当たっても、さっきかけた防御魔法で大きな怪我にはならないはずよ。
「さて、アタシ特製のメイクを施されたいやつからかかってきなさい!」




