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第25話 リディア誘拐編⑨

「ふむ、では話を聞かせてもらおうか。簡潔に頼む。」


アタシは頷くと、ウッドヴィル侯爵に事の経緯を説明した。


セントサザール領の雑木林で我が娘、レティシア・レッドフォードが誘拐されたこと。

こちらの独自の情報網により、レティシアは現在ウェステト領の北部の森にある廃墟、バノックハウスにいること。

レティシアを誘拐したのは東洋人を中心に構成されている人身売買グループで、今回の首謀者はジャッド・ウォンという人物であること。

現在拘束されている子供たちは全部で5人で、2~3日後に海外に運ばれるからそれまでに助け出したいこと。


「…ほう!それはまことか!?」

「ええ、ほぼ間違いないと思いますわ。」


侯爵は目を見開き、強い目力でこちらを見据えてくる。アタシは負けじと見つめ返し、臆さないように手に力を入れる。


「ジャッド・ウォンのことはわしも追いかけていたのだ!あいつ、とうとう尻尾を出しやがったな!」


満足げな侯爵に大して水を差すように、アタシは疑問を投げかけてみた。


「でも侯爵、良いのですか?」

「何がだ?」

「アタシの言うことを鵜呑みにして。侯爵視点だと、絶対的な情報とは限らないのでは?」


侯爵は小さく唸り、腕を組む。そして目を閉じ、部屋には沈黙が訪れる。

机の上に置かれていたお茶請けの個包装紙がバランスを崩し、くしゃっと音を立ててずれ落ちる。

侯爵は静かに目を開き、その眼光はゆっくりとアタシの目を捉えた。


「お前さんが嘘をつくメリットがないと判断したからだ。」

「…と、言いますと?」

「アドルディ少年は今、先代レッドフォード伯爵の後を継いで、会社と領主と務めていると聞いておる。」


侯爵が抑揚のない声で淡々と真実を繋いでいく。彼の声には、確固たる自信と確信が秘められているような気がした。


「忙しい時間を浪費してまで、嘘を言いに来る必要がない。まずそれが1点、わしはお前さん自身を信頼している。」

「それは…ありがとうございます。」

「そしてもう1点!情報を信頼し得る確信がある。」


侯爵はビシッとアタシの顔を目掛けて指を差した。


「見くびるなよ、アドルディ少年。わしは60年近くウェステト領の領主として、様々な問題に対応してきた。こちらにも相応の情報網はある。」

「…つまり?」

「あるのだよ、こちらにも!お前さんと全く同じ情報が!しかも今回、お前さんの娘が誘拐されたことで、あのバノックハウスを叩く理由ができた!」


『娘の件は災難だが、こちらにも都合の良いことなんだ』とウッドヴィル侯爵は語る。

どうやら、1つ目の目的の5割くらいは叶えることができたんじゃないかしら。あとは一気に畳み掛けるわよ。


「ウッドヴィル侯爵にお願いがあるんです。」

「申せ。」

「1つは、アタシがウェステト領の北の森…件のバノックハウスに行く許可をいただきたいんですの。」

「もう1つは?」

「今回のバノックハウスへの襲撃、ウェステト領の自警団を通さずにアタシ自身が対応できるようにしていただきたいんです。」


侯爵は少し黙ったのち、くつくつと笑い声をあげた。不思議に思って見つめていたら、突然爆発するかのように大きな声を上げて豪快に笑い始めるからびっくりしちゃった。


「自警団のやつらなど、端から信用しとらん!このわし、ウッドヴィル侯爵とウッドヴィルの兵のみで行くつもりだ!そこにお前さん1人が増えたところで何も変わらん!構わず着いてこい!」


侯爵はうんうんと大きく頷きながら、腕を組み直した。

予想通りだったとはいえ、当初の要望を全て叶えてもらえそうで内心ホッとしたわ。


「…で、だ。アドルディ少年、いや、レッドフォード伯爵。」


「ウェステト領の自警団を通したくない理由は何だ?わしは確かに自警団が嫌いだ。だが、お前さんにはそれ以外の思惑があるな?お前さんの要望を受け入れて協力してやるんだ、それくらいは話せ。」


やっぱりその話題は避けられないかと、少し頭が痛くなるような気がした。若干手に汗を握る感覚を覚えたが、動揺を悟られないように集中する。


どうしましょう?リディアのことを素直に言う?

言う必要があるのかしら?どこまで?少しぼかして言うのは?

でもそれはアタシの要望を受け入れてくれたウッドヴィル侯爵に対して不義理なのでは?

でも嘘も方便よ、きちんと考えなさいアタシ。


「…あの子が、セントサザール領の花街出身だと言うことはご存じかしら?ウッドヴィル侯爵。」

「…知らんな、初耳だ。」


アタシはふと、リディアが以前オーウェン公爵に言った嘘を思い出したの。これを活用できないかしら。

「花街の娼館が、人身売買と未成年の売春の件で摘発されたことがありますの。彼女は、その時の娼館にいた子です。」


侯爵は黙って話を聞いている。『ふむ、あの件か』とか『なるほど』、とか小さい声で言っている。


「あの時の摘発で大多数の子供は保護し、然るべき福祉に繋げることができました。しかし、一部の子は逃げ出してしまい、痕跡を追うことはできませんでした。」

「その時に逃げた子供のうち、唯一保護できたのがお前さんの娘…とかかな。」

「ええ、察しがいいですわね。さすがウッドヴィル侯爵。」


アタシの誉め言葉に乗ることもなく、侯爵は話を続ける。


「だが、お前さんが娼館の小娘1人を保護するだけの理由がないな。何故、その子だったんだ?」

「…あの子、現時点で中級以上の魔法が使用できることが分かったんです。」

「…ほう、それは珍しい。確かお前の娘さんはまだ6歳くらいと聞いていたが。」


_魔法適性。

文字の通り、魔法に関する能力や素質を示す言葉。魔法適性のランクは3つ、初級、中級、上級、そして聖女リディアのみが有すると言われている最上級。

大体の子供は5歳くらいまでの子供の頃に、魔法適性があるかどうかを調べられる。魔法適性がある場合、魔法に関する職に就くことを視野に入れたり、魔法の力をコントロールできるようにする必要があるからよ。

ここからが問題なんだけど、例えば上級以上の魔法適性があると判断された5歳の子供がいるとしましょう。魔法適性のある人は、10歳を過ぎてから年齢を重ねていくごとに使用できる魔法の種類とランクが増えていくの。その人自身の魔法適性ランクの最大値に達すると言われているのが、およそ13~14歳。つまり、中級以上の適性があると言われた例の子は、10歳を過ぎるまでは初級、12歳までに中級、14歳までに上級魔法を使えるようになるはずなの。


…アタシの言っていること、伝わっているかしら。

この法則に則ると、リディアが6歳の時点で中級以上の魔法を使えるのは異例ということになるの。


「これを知った摘発時の自警団が、当時の娘に魔法を使わせようと、遊び半分で手酷いことをしたんです。」


そんな事実はないけど。ていうか、リディアが中級以上の魔法が使えること以外嘘だけど。


「ああ、自警団ならやりかねんな。あいつらは性根が腐っておる。」

「あの子が自警団に保護されたら、国が管理する魔法研究所に行くことになるでしょう。しかし、自警団ですら面白半分であの子にちょっかいを出したんです。魔法研究所に引き取られたらどうなることかと思って…。」

「それで引き取ったと。なるほどな。確かに、レッドフォード家の後ろ盾は大きい。お前さんの娘も、こうなるのが一番良かったのかもな。」


これ以上込み入った話は野暮だと判断したのか、侯爵がこれ以上話を追及してくることはなかった。


「話はまとまった!!急いで会議をするぞ、レッドフォード伯爵!」

「ありがとうございます!感謝の念に堪えません、ウッドヴィル侯爵。」



「ピーターズ!わしの声が聞こえているな!?会議室にウッドヴィルの近衛兵を呼べ!急いでだ!」


侯爵はドアを豪快に開けると、廊下で控えていたピーターズさんに大きな声で指示を出す。


(決戦は明日になりそうね。)


アタシは椅子から立ち上がり、肩を回して鳴らしている侯爵の大きな背中を見つめた。

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