第23話 リディア誘拐編⑦
_時刻は深夜の12時を過ぎていた。
一通りやることが終わって明日の準備をしていたら突然、リディアから連絡があったの。
(良かった、無事なのね。)
(緊張感が解れてきたからなのか、ねむねむ。でも、これだけは伝えておきたくて。)
アタシは急いで机の上にある紙とペンを手繰り寄せる。インクが少しこぼれて服に付いたけど、それどころではない。
(今私がいるのは、誘拐された子たちが閉じ込められている牢屋のようなものみたい。)
(牢屋…何人か他にも誘拐された子がいるのね?)
(うん、今日お話しした子はダットっていってね、お父さんの知り合いだって言わないと殺すって言われて誘拐されたんだって。)
…!ダット少年!こんなにも知っている名前が並ぶことがあって、赤の他人ですなんてことになるかしら。間違いなく、2人の捜査官が検挙した人物と同じであると考えても良いんじゃないの?
(後ね、おおまかな場所も分かったの。)
(ほんと!?どこ!?)
(ここはウェステト領にある北部の森の中みたい。詳しい位置は口では言えないんだけど、ウェステト領のおしりのくぼみみたいな地形の場所あるじゃん?その辺り。)
(どんな説明の仕方よ。)
他に言い方が分からないんだもんとリディアは軽口を叩く。
言われた場所を確認するために、アタシはウェステト領のざっくりとした地図を描く。
本当におおまかにだけど、場所がどこなのか分かるだけでもありがたい。
(森の名前は分からないけど、この場所はバノックハウスって呼ばれている小さなお屋敷…の廃墟みたい。かつ、人身売買シンジケートの1つの拠点。)
(人身売買…。アンタが聖女リディアであることがバレた可能性は?)
(バレていないとは思うけど、魔法適性があることはバレちゃった。)
まあ、今時魔法適性は簡単な市販のキットで調べることもできるからね。それくらいのことはバレても仕方がないわね。
(今いる子たちが海外に運ばれるのが3日後。それまでに助けてほしいの。)
(3日後ね。分かったわ。)
(あとね、ここの拠点のリーダーが分かったの。ジャッド・ウォンって人らしいよ。)
_ジャッド・ウォン。
叩くべき相手が誰なのかようやく分かった。途端に目の奥が熱くなり、ペンを持つ手先に力が入る。リディアの力のおかげね、アタシ1人では何もできない。
(あ、ユニコーンの子供の件、役所に連絡した?)
ユニコーン?…しまった、今の今まで忘れてしまっていた。
(ごめんなさい、忘れていたわ。明日の朝、連絡するわね。)
(よろしく。ふぁ~…ねむむ。アディ、おやすみ。3日以内に来てね~。あと、帰ったら苺のタルトが食べたいな。)
頭の中にかかる靄のような感覚がなくなり、リディアの声も聞こえなくなる。
アタシは目の前に広がる殴り書きのメモを眺めながら、明日について考える。
「…とりあえず、お風呂に入ってからにしましょ。」
アタシは椅子から立ち上がり、お風呂に向かう。
今日はいつものルーティンであるバスボムを選ぶ余裕がなかった。
________。
「はい、はい、もういないかもしれませんけど…はい。じゃあよろしくお願いします。」
_次の日。リディアの言っていたユニコーンの子供の件で、アタシは朝一番に役所に電話をしていた。電話での会話にも関わらず、アタシはペコペコと受話器片手にジェスチャーと愛想を振りまく。仕方ないじゃない、何となく雰囲気でやっちゃうんだもの。
「…さてと。次!」
「お久しぶりです、ウッドヴィル侯爵。セントサザール領のアドルディ・レッドフォードです。」
ダミアン・ウッドヴィル侯爵。リディアがいるとされているウェステト領の領主で、現ウッドヴィル家の当主の老齢の男性よ。見た目は普通のおじいちゃんだけど、国境付近の領地を任されているだけあって、仕事に向かう姿勢は容赦がないの。
『おお、アドルディ少年か。どうした。』
「あらやだ侯爵、アタシもうそんな子供じゃありませんのに。」
無意識に受話器を持つ手に力が入る。何度か会ったことのある人だけど、相手は侯爵でアタシより高い地位を持っている。加えて、何回りも年上だから、当然威圧感もあるの。
「単刀直入に言います、アタシの娘が誘拐されましたの。」
『それは…なんと!』
「調査の結果、ウェステト領の北の森にある廃墟にいることが分かりましたの。…その件で、少しお話をさせていただきたくて。本日、どうしてもお時間を作っていただきたくてお電話をしました。」
無理かつ無礼なことをしているのは分かっているわ。でも時間がないの。
『ふっ。お前さんは運がいい。今日のわしは所謂オフだ。』
「!」
『今日中に来い。それが条件だ。』
「ありがとうございます!」
二言三言やりとりをしたのち、アタシはゆっくり受話器を戻した。今から向かえば、数時間でウッドヴィル邸に着くでしょう。
アタシは急いで移動車のキーを持ち、車庫に向かった。




