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第21話 リディア誘拐編⑤

アタシは仕事部屋の書類棚から出した書類の山を見て、でかい溜息を吐いた。

見渡す限りの紙の山、山、山。


「この膨大な資料の中から探すのは…。そうだわ!」


リディアの魔法で探したい資料をピンポイントで出せないかしら!やってみる価値はあるわね。


(えっと。探すべきワードは東洋人、ランホア、イーミン、ジュンハン、犯罪…。)


「はっ!!」


頭の中で魔法を唱え、目の前の資料の山に手をかざす。

すると、資料の山が崩れ、何枚かの書類がアタシの顔面にめがけて飛んできた。


「へぶぅ!!」


おブスな声を出しちゃったじゃない!もう!

今の資料がぶつかってきたときの顔、絶対誰にも見せられないわね。リディアなんて過呼吸になるくらい笑うでしょうね。


「…!」


ビンゴかしら?何件かそれっぽい資料がヒットしたみたい。アタシは飛んできた書類を受け止め、手のうちにささっとまとめる。

同名の別人の可能性もあるから鵜呑みにするのは危険だけど、ひとまずこれらの資料を持って行きましょう。…その前に、散らばった書類を棚に戻すのが先かしらね。




________。


「これが誘拐犯たちの資料ですか?」

「おそらくね。同名の別人であることも考慮しないといけないから、断言はできないけど。」


ダン・ランホア、イン・イーミン、シャン・ジュンハン。

東洋人を中心に構成される、人身売買のシンジケートに所属する者たち。うち1人は魔法適性を持ち、催眠魔法をかけて被害者を眠らせて拉致する。

おそらく3人は末端でありリーダーは別にいる。

被害者は主に子供、特にローゼシア人の子供を狙っているのが特徴。

ウェステト領の北部の森の中に拠点があるとされているが、詳細は不明。


「…外道ですね。」

「本当にね。うちの領にも、把握できていない犯罪組織がいると思うと、他人事ではないんだけどね。」


ジャネスと2人で話し合っていると、控えめにドアがノックされた。

声をかけると1人のメイドが小さくドアの隙間から顔を出し、『自警団のトリンブル捜査官がいらっしゃいました』とだけ残して早々に去っていった。


「…さて、行きましょうか。ジャネスはクリスティを呼んできてくれるかしら?あと、お出しするお茶の用意もお願い。アタシは応接室でトリンブル捜査官の対応をしているから。」

「かしこまりました。」


ジャネスは小さく頭を下げると、足早に部屋を去った。さてと、アタシも早く向かったほうが良さそうね。

トリンブル捜査官は時間が押すのが嫌いな気難しい人なのよね。もう少し頭を柔らかくして生きられないものかしら、と思わずにはいられないわ。


部屋を出るときにつま先がドアに引っかかって、ガツンと大きな音が鳴った。

何だか嫌な兆候ね。アタシの股下が5mあるってことにしておきましょう。




エントランスに向かうと、恰幅の良い中年の男性が腕を組みながら煙草をふかしていた。アタシの姿に気が付くと、嫌そうな表情をしたのち、ポケットから携帯灰皿を取り出して煙草を仕舞い込んだ。


「5分の遅刻だ。この屋敷には時計がないようだな、レッドフォードの小僧。」


アタシがあいさつをする間もなく、嫌味が飛んできた。

まあ、対応までの時間が遅れたのはこちらの非だから?謝りますけどね?でも、約束の時間より早く来た捜査官には非がないのかしら?


「まあ、予定の時間にはまだ早かったと思いますわよ、トリンブル捜査官。時計を持ち歩いていらっしゃらないのかしら?」


ああやだアタシったら無意識に言い返しちゃったわ。こういう時は年配の相手に合わせてヘコヘコして、プライドを捨てたほうが事がうまく行くのは世の常なのにね。ああ愚か、アタシは愚か。


「時間前行動は社会人の基本だ、馬鹿垂れ。早く被害者に会わせろ。部屋に通せ。」


トリンブル捜査官はアタシの嫌味を無視して話を続ける。煙草の煙が残っているのか、周辺が少し煙たくて思わずむせる。


「げほっ。捜査官、レッドフォード邸は全部屋禁煙ですので!よろしくお願いいたしますね!」

「レッドフォードの小僧は煙草1本も吸えないケツの青いガキだからな。年長者として従ってやるからありがたく思え。」

「光栄ですわ~!」


オーウェン公爵といいトリンブル捜査官といいリディアといい、何でアタシの周りにはこういう尊大な態度の人ばかり集まるのかしら〜!?

類は友を呼ぶって?え?アタシもこの人たちと同系統なの?


「あのぉ…。」


トリンブル捜査官の後ろから、か細い男性の声が聞こえる。後ろを見てみると、彼の体に隠れて見えなかった、マッチ棒くらい細い部下らしき男性の姿が見えた。


「ご挨拶が遅れましたあ。初めましてわたくし、パトリック・コリンと申しま~す。」


コリンと名乗る捜査官は、恐る恐る名刺を取り出しアタシに渡してくる。思わずポカーンとしてしまって、慌ててこちらも名刺を取り出す。何だか、雰囲気も見た目も真逆のコンビね、この人たち。


「初めまして、アドルディ・レッドフォードよ。よろしくね。」

「レッドフォード伯爵!噂はかねがね~!ご両親の件の時も、トリンブル捜査官が担当したとお聞きしましたあ。」

「……。」


アタシは思わず笑顔のままコリン捜査官を見つめる。コリン捜査官は何かを察したのか、アワアワと言いながら謝罪している。


「…ごほん、コリン!」


トリンブル捜査官が大きく咳払いをする。場の空気が一気に崩れ、重苦しくなりかけた雰囲気が散っていくのが分かる。


「もういいだろう?早く部屋に案内してくれないか?」

「すすす、すみません~。」


アタシの後ろで控えていた使用人たちが、捜査官たちのコートを預かっていく。

様子を見計らって、アタシは応接室に2人を案内した。

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