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第20話 リディア誘拐編④

「申し訳ありません旦那様…!!あたしが着いていながらお嬢様が…!!お嬢様がっ…。」

「クリスティ、頭を上げてちょうだい。まずは貴女が無事だったからそれでいいの。」

「ですがっ…ですが!!お嬢様の身に何かあったら!!あたしは…あたしはっ……!!」

「大袈裟ね!大丈夫だって!あの子のことは貴女も知ってるでしょ?」


現在午後8時。

あの後、クリスティは無事に雑木林で発見されたわ。頭から少し出血があって気を失っていたけど、その場で医療車を呼んで病院に搬送してもらったわ。

病院で検査を受けて脳への損傷もなく、頭の傷も治癒魔法で治せるくらいのものだったから、その日のうちに帰宅してきたってわけ。


意識が戻ってからもずっとリディアの心配をしていて、こんな調子で少しパニックを起こしているみたいなの。クリスティ自身も怖い思いをしたはずなのに、リディアの心配ばかりしているわ。


まあ、都市伝説的に?えげつない折檻をする主人もいるみたいな話はあるらしいし?クリスティの心配はそちらかもしれないけど?アタシはそんなことしないわよ。何より、リディアがそう簡単にやられちゃうとは思えないからね。


とりあえず、魔法によって完治したとはいえ、怪我人が泣きながら謝っているのは見ていて気持ちの良いものじゃないわね。それに今回の件、クリスティ自身も被害者だから責める気なんてないわよ。


アタシは周りを見渡し、この部屋にはジャネスとクリスティしかいないことを確認する。


「…ここだけの話なんだけどね。」

「ううっ…ぐず…っう…」

「リディアから連絡があったの。通信魔法的なやつで。」

「っ…!?お嬢様から!?」

「しーっ!!」


アタシは慌ててクリスティを牽制する。自分が思っているより大きな声を出していたと自覚したクリスティは、口元を抑えて辺りをキョロキョロと見回す。


「お嬢様からはどのような連絡が?」


一緒に聞いていたジャネスが口を開く。

アタシはリディアから聞いた情報を掻い摘んで2人に話した。




「良かった…!お嬢様は無事なのですね…!!いえ、この状況自体は良くはないです、でも無事で、ああっ…!」


詳細を聞いたクリスティはボロボロと涙を流して泣き崩れている。まだ何も解決はしていないけど、リディアが無事だと知って心の底から安堵したみたい。アタシはそっとクリスティにティッシュの箱を渡しておいた。


「それにしても、北の方角ですか。セントサザール領の北部なのか、他の領地に行ってしまったか。」

「そう、そこが問題なのよ。」


セントサザール領を統治しているのはこのアタシ、レッドフォード伯爵なの。だから多少は好き勝手動いてもどうにか対応はできるんだけど、他の領地に行かれるとそうもいかないわ。


場合によっては他の領主と交渉をしないといけないかもしれないのが憂鬱で仕方がない。

いや、こんなこと考えてる場合じゃないんだけどね。


「アタシもアタシで調べているから、心配しないで。会社にはしばらく休むって連絡済みだから、リディアの捜索に専念するわ。」

「クリスティ、今日は仕事を終えて良いでしょう。私が旦那様についています。」

「っ…。あたしはおそらく捜索の力にはなれませんっ…。ですので…、お嬢様が帰ってきたときに、安心できるよう…っ、この屋敷を整えておきますっ…。」


泣き止んだと思ったクリスティの瞳から、大粒の涙が零れ落ちていく。心配しないでと肩を抱き寄せて安心させようとアタシは試みる。お〜よしよし。


「…あ。待って、もう一仕事あるわ。自警団に連絡をしたの。その事情聴取があるの。」


クリスティは住み込みで働いているメイドだから、実質家が屋敷の中にあるようなものなの。少し話し合って、一度クリスティを部屋に送り届けて、自警団が来たら再度呼んだほうがよさそうだと判断したわ。1人になって、少し心を落ち着けたいでしょうし。


「あ、クリスティ。リディアから通信魔法があったことは、自警団の人には言わないで欲しいの。」

「あ…そうですね。分かりました。」


通信魔法なんて高度な魔法、いくら魔法適正が強かったとしても子供が扱える代物ではない。通信魔法で現状を把握できていますなんて言った日には、リディアの素性がバレるのも時間の問題になってしまいかねない。


アタシとジャネスとクリスティはお互い顔を見合わせ、口裏を合わせる決意をした。




クリスティを住み込んでいる部屋に送り、改めてジャネスと話し合いをする。

その前にまず、魔法の鳥たちから得た情報をまとめましょう。


「お嬢様はセントサザール領から出ている可能性が高い…ですか。」

「ええ。魔法適性のないアタシの魔法の力では、他の領地に張られている結界を超えることはできなかったみたいなの。セントサザール領の領の境目あたりで鳥たちが消滅しちゃった。」

「…失礼ですが、旦那様。」

「何?」

「旦那様は魔法適性が全くないとお聞きしましたが…。」


ジャネスが申し訳なさそうに訪ねてくる。

そうだ、言い忘れていた。アタシがリディアの力を借りているということを。


「えっと、かくかくしかじかでね…。」




「…承知しました。話の腰を折って申し訳ありません。」

「いいのよ。で、続きだけどね…」


セントサザール領の道から真っすぐ北上した場合、辿り着く可能性があるのはシトハ領、イムドール領、ウェステト領の3つ。


(どれか1つでも絞ることができれば…。)


リディアの言っていたことから何か分かったりしないかしら。


①襲撃犯は東洋人の男3人組

②ローゼシア語が堪能だけど母国語らしき言葉も使用している

③名前はランホア、イーミン、ジュンハン

④うち1人は魔法適性持ち


「…ジャネス。ローゼシア生まれの東洋国人のコミュニティ組織があるのってどこだっけ?」

「確か、ウェステト領の西部です。」

「…ウェステト領。」


断言はできないけど、犯人たちはウェステト領周辺を根城にしている可能性もあるでしょうね。あそこは今、ウェステト領の領主であるウッドヴィル侯爵が東洋周辺国への人身売買組織の殲滅に躍起になっている場所でもあるから。


「…はあ。喉乾いちゃった。ジャネス、お水持ってきてくれる?」

「承知しました。」


ジャネスは頭を下げると、素早く退室する。足音が遠ざかっていくのを耳にし、アタシはぐっと伸びをする。


(ウェステト領の犯罪シンジケート…。)


一応、シトハ領とイムドール領の資料も確認はしなきゃダメよね。

アタシは急いで自室に行き、書類棚の中にある他の領地に関する資料を漁った

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