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三題噺もどき4

サンド

作者: 狐彪

三題噺もどき―ろっぴゃくななじゅうに。

 



 パソコンのキーボードから手を離し、猫背になっていた背中を伸ばす。

 勢い背もたれに体重を預けてしまったせいで、いつも以上に悲鳴が聞こえた。

 これもそろそろ変え時かと何度も思ったが、思うだけでどうにも行動には移せない。

 使い慣れたものというのは、なんにでも愛着が湧くものだろう。まぁ私のこれは愛着なんて可愛いものではなくて、単に面倒なだけなのだけど。

「……ふぅ」

 かけていた眼鏡をはずしながら、ため息が漏れる。

 手は無意識に目頭をもんでいて、さすがに疲れたなと思った。

 慣れた仕事ではあるが、目を長時間使うのは色々とよくないのだろう。ブルーライトカットの眼鏡を使っているけれど、果たして効果はあるのだろうかと思ってしまう。

「……」

 気持ち楽になった視界の端に、壁に掛けられている時計をいれる。

 針の刺す時間は、丁度休憩の時間だった。

 そろそろ準備の終わった従者が呼びに来る頃だろうか。

 割と時間を気にしないようにしていても、習慣とは恐ろしいものだ。極度に追い詰められたり疲れたり集中していたりしない限り、こうして体が休息を求める。

 まぁ、集中していても切れるときは切れるが。

「……、」

 くる―と、小さく腹が鳴る。

 昨日、散歩ついでにいらぬものを食ったからか、少々腹の調子が悪い。いや、ある意味ではいいのか。余計に腹が減るのだ。休憩のこの時間にこんな風になる事なんてなかったのに。

 まぁ、それでへたに食欲に応えて食べると、よくないだろうから普段通りの量しか食べていないが、腹は減るものだ。

「……」

 あの、白百合を抱えた少女は、病院の前に適当に置いてきた。

 一応、外に備え付けられていた呼び鈴を押したし、看護師らしき人間が出てきたのも確認はしたから、大丈夫だろう。その後どうなっているかは私にはあずかり知らぬところだ。

 まぁ、縁は切っておいたし、これから先自分からまた頭を突っ込まない限りは何も起きないだろう。また巻き込まれたらもう、それはそういう運命だと諦めるしかない。

「……」

 くる―と、また小さく腹が鳴る。

 たまには、呼びに来るより先にリビングに向かうとするか。

 そう決め、机に置かれたマグカップを手に取りながら、椅子から立ち上がる。

 また椅子の悲鳴が聞こえたが、聞かぬ振りだ。

 そのまま、戸に手を伸ばし、開こうとした瞬間に。

「あ」

 手は空を切り、戸が外から押し開かれた。

 ぶつからなかっただけよかったのか。

 タイミング悪く、いや、タイミング良く、呼びに来た従者とバッティングした。

「――ご主人」

 珍しく、少し驚いたような声が聞こえた。

 目の前には、見慣れた小柄な少年が立っている。今日はシンプルなエプロンをつけているようだ。昨日少々ご機嫌を損ねたので、どうだろうかと思ったが、引きずらないようで何より。……いや、今朝は少し引きずっていたな。パンに味噌汁と納豆だった。

「―休憩にしますか」

「あぁ、うん」

 私のその返事を聞き、さっさと踵を返す。

 電気のついた廊下は、仕事明けの目には痛々しいが、これはもういつものことだ。部屋の電気をつけない私が悪い―らしい。別に仕事に支障はないからいいと思うのだけど。

「……」

 リビングはすでに準備が整えられ、あとは、飲み物を淹れるだけという所か。

 手に持っていたマグカップをシンクに置き、お湯が沸くのを待つ。

 今日は甘いものなのか、コーヒーの準備がされていた。

「今日は何を作ったんだ?」

「ましゅまろサンドです」

「サンド?」

 机の上をよく見れば、クッキーか何かに挟まれた白いものが見えた。

 なるほど、ましゅまろを、挟んだものか。なにやら、珍しくシンプルなものを作ったんだな。

 そのクッキーの方は、多分作ったのだろう。何種類か見えている。

 中身の方は……。

「ましゅまろも作ったのか?」

「?えぇ、もちろん」

 さすがというかなんというか……シンプルなものをと思ったがそうでもなかったな。

 まぁ、いつまでも泣き続けるこの腹をどうにか黙らせられれば、何でもいいのだけど。

 コイツの作る菓子は大抵うまいからな、少しは満足するだろう。

「……いただきます」

「はい、どうぞ」




「ましゅまろ以外も入ってるのか?」

「あぁ、これはチョコ、こっちのは苺ジャムでこの辺りは少しクリームチーズを入れてみました」

「ほぉ……」

「お気に召しましたか」

「全部美味い」

「それはよかったです」









 お題:運命・百合・ましゅまろ

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