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13話 ヨロイさん「ヴァイオリン・レッスン」

 公園で音楽を奏でた翌日、俺とアムはグレゴリーさんの私邸を訪れる予定となっていた。


 一昨日登った、クラウン・ヒルの坂を登っていく。

 そうして彼の邸宅に到着する頃には、太陽が頂点に達して程よい暖かさで地上を照らしていた。


 周りを見ると、どこの家も立派な造りをしていて、ここが高級住宅街であると堂々と主張している。

 その例に漏れず、グレゴリーさんの邸宅も敷地こそ狭いものの、豪奢なものだった。


「ここがグレゴリーの兄ちゃんの家なんか?」

《みたいだね、とても立派な家だ。勝手に入っちゃっていいのかな》


 そう悩みつつ門扉に近づくと、中から一体のゴーレムが出てきた。


「わっゴーレムや」

《この街だとあんまり見なかったね、そういえば》


 そのゴーレムは、人より少し大きいくらいの全高で、外装の素材は岩のようだ。

 騎士風に象られたその容貌は、暴れていた頃のアムよりかなりスマートな印象を受ける。


「……」

「な、なんかアムたち、いかんことしたかな」

《いや、多分門番の役目だと思うんだけど……》


 そうなると、このまま中に入ってもいいものか、つまみ出されそうな気がする。


「……」


 俺たちが手をこまねいていると、ゴーレムが身を開いてくれた。

 通行の許可が降りたということだろう。


「あっどいてくれたで、通っていいんかな?」

《うん、行こう》


 門をくぐり中に入ると、レンガ造りの花壇で整備された庭があった。

 手入れされた庭にはこの季節に相応しく、コスモスやダリアが色とりどりに咲き誇っている。

 右手には2階建ての家があり、石畳の路が門から続いていた。

 

「これ、鳴らしたらいいんかな?」


 アムが指さしたのは、扉に付けられたドアノッカーのことだろう。


《アムが鳴らしてみる?》

「ええんか!?」

 

 抱っこされたアムが、四角い両手でドアノッカー持って、鈍いノック音を鳴らした。

 少し待つと、グレゴリーさんが出迎えてくれた。


「来たか、入れ」


 招きに応じて中に入って、彼の後をついていく。

 その間に、俺はあの門番のゴーレムについて質問した。


「ああ、あれか。宮廷から下賜されたものでな、お前の推測どおりに門番として使っている」

《他にゴーレムはいないんですか?》

「おらんな、人にせよゴーレムにせよ、あまり家の中を動き回れるのは好まん」


 なるほど、だとしたらゴーレムだけというのも納得だ。

 彼にとって許容できる最低限のラインが、門番の役割なんだろう。


「さあ、ここだ」


 通された部屋は、壁も床も木材で張られていた。

 昼のはずだが、あまり大きくない窓に分厚いカーテンがかかっているため、ランプで室内を照らしている。


「ここは俺の練習室だ、基本的にここでヴァイオリンの修練を積んでいる」

 《ああ、だから音に気を使った内装なんですね》


 うむ、と彼が応じながら、壁に掛けられていたヴァイオリンを手に取って、俺に差し出した。


「これはかつて俺が使っていたモノだ」


 受け取ったヴァイオリンには、僅かなキズが見受けられるものの、よく手入れされている様に見える。


「大切に使ってきたんやなぁ」


 ひょっこりと覗き込んできたアムが、俺の感想を代弁するように呟いた。


「……ああ、そうだな。見た目こそ安っぽいかもしれんが、しっかり整備はしてるから安心しろ」

《いえ、十分立派な楽器だと思うんですけど》


 やはり、宮廷音楽家まで上り詰めると審美眼も極まるのだろう。


「さあ、無駄話もそこそこにして、レッスンをするぞ。今日はアムが暇するかもしれんが、許せよ」

「ええで、ええで!音楽、聞くのも好きやで!」


 そんなこんなで世界一贅沢なグレゴリーさんの個人レッスンが始まった。

 最初こそ、小難しい音楽理論の話でもされるのかと思っていたが、そういう訳でもなく。


「お前のその特異な才を活かさん手はない、俺の演奏するのをそのまま真似ろ。理論だのなんだのはその後だ」


 というグレゴリーさんの指導方針もあり、俺は一日中ヴァイオリンと向き合うこととなった。


 しかし真似ると言っても、まずはそもそもキチンとした演奏法ができる必要があった。

 幼い子でも弾けることを考えられた公園のハープと違い、ヴァイオリンは正しい姿勢すら習得が難しい。


 俺が四苦八苦している間も、グレゴリーさんは演奏を行い手本を示し続けてくれた。




 それから4日が経った夜、俺たちはミアさんと宿でお互いの進捗について語り合っていた。


 この期間で、俺はようやく基本姿勢をマスターし、音階別に音を鳴らすことができるようになった。


「4日でヴァイオリンを弾けるようになったの?すごいじゃない!」

《いや、でもまだ演奏とかはとてもじゃないですけど、できないですよ》


 俺の謙遜に、ミアさんが少し怒ったように眉をひそめた。


「あのねヨロイさん、あんまり自分を低く見積もりすぎるのは、貴方にとっても周りの人にとっても失礼よ」


 カップに満たされた紅茶を口に含み、彼女は続けた。


「ヴァイオリンなんて、音を出せるようになるまで1,2ヶ月はかかるんだから。ちゃんと誇りを持ったほうがいいわ。ね、アム?」

「せやで!兄さんはすごいで!」

《き、気をつけます》


 確かに、俺が自分を下げるということは、他の人も見下しているということになりかねない。

 ちゃんと、自分のことに誇りを持てるようにならなきゃいけないんだな。


「あ、そうそう。話は変わるけれど、あなた達に朗報よ」


 そう言って、彼女はいつも使っているカバンから、何かを取り出して机の上に置いた。


「はい、これがこの前ひらめいたミニ楽器セットよ。アムにあげちゃうわ」

「わーー!これがアムでも弾ける楽器なんか!」


 受け渡されたセットを両手で持ちながら、ぴょこぴょこと跳ねてはしゃいでいる。


「中身はマリンバと、ミニハープと、笛ね」

「アムは笛吹けへんで?」

「ふふ、大丈夫よ、ちょっとした細工をしてあるから。持ってみなさい」


 言われるがままに、アムが木箱から小笛を取り出した。

 さて、どんな仕掛けが込められているんだろうか、その疑問はすぐに判明した。


「わっ、鳴った!」

「ふふ、でしょう? 風の魔法を込めたのよ。だから、アムは穴を押さえるだけでいいのよ」

「魔法の笛なんか!?」


 わーいと、笛を持ちながら部屋中を駆け回るアム。

 流石に通訳ができる状態ではないので、筆談でミアさんに質問した。


《魔法って、ミアさんが込めたの?》

「ええ、そうよ。本当に簡単な魔法だから、素人仕事でもなんとかなったわ」

《なんでもできるんだね、ミアさん》


 俺の称賛に、ミアさんは少し照れたように顔をそらした。


「できないことはやらないだけよ、褒められることじゃないわ」

《自分を卑下するのはよくないことなんじゃなかった?》

「むっ……」


 痛いところを突かれたのか、僅かに頬を膨らませたが、すぐに彼女の表情に笑顔が咲いた。


「ふふっ、そうね。じゃあ、ありがたく褒められておくことにするわ」

《うん、お互いにそうしよう》


 俺からは笑顔が伝えられないけど、俺の気持ちはわかってくれたと、そう思えた。


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