8話 ヨロイさん「1日目の終わり」
グレゴリーさんの案内で、クレセンティアのことを知れた俺たちは、夕方にはミアさんと合流できた。
「お疲れ様、ヨロイさん、アム。どうだった?」
「楽しかったで!」
《この街の美しさを教えてもらったよ》
本当に美しかった、グレゴリーさんが誇りに思ってるのもよく分かる。
ミアさんは俺たちの感想を聞くと、可愛らしく笑った。
「ふふっそうなのね、良かったら宿で詳しく聞かせてほしいわ。もう部屋は取ってきたから、行きましょう」
ミアさんが取った宿は、職人街の大通りから脇道にそれた場所にあった。
一見すると他の工房と見た目がそう変わらず、立地も相まって観光客などは来なさそうだ。
「この谷底にある宿屋は、大体が華美な雰囲気とはかけ離れてるわね。観光客はみんな丘の上に上がっちゃうから」
部屋に上がり、椅子に腰を下ろしたミアさんがそう教えてくれた。
なるほど、納得できる理由だ。
《確かに、丘の上は派手な建物が多かった》
「でしょう?反対に、私たち商人みたいな人は職人街に用があるから、ここみたいな宿で十分なのよね」
確かに、屋内も見た目と違わずに質素だが、小綺麗に手入れされている。
料金も1人で40銅冠と割安だし、仕事目的で来てる人なら文句なしだろう。
「まあ、あと付け加えるとすると、観光客の相手をしたくないっていう宿屋さんも職人街には多いのよ」
いいのかそれで。
その後、夕食までの間に俺たちは今日の出来事を共有した。
「へえ、グレゴリーさんは、技術や調和を重視する人なのね」
《言動的に、あまりお金持ちへの羨望とかはなかったね》
「街のこと褒めるとな、嬉しそうにしてたで!」
ふむふむと、ミアさんは手帳にペンを走らせていく。
商人の性なのだろう、何気ない感想もきっと重要な情報なんだ。
「気が合いそうね、機会があったら私もお話させてもらいたいわ」
確かに、根本的なところでミアさんとグレゴリーさんは、少し似ている気がする。
それがなにかと説明するのは難しいけど、彼女たちが重要視していることが似ているのかもしれない。
《ミアさんはどうだった?》
彼女の話も聞きたい、それはアムもそうなのかミアさんが語るのを楽しみにしているようだ。
「私?そうね…元々、私は次のお祭りで、この街の職人みんなで商売をしたいと考えていたのよ」
《すごく大掛かりだね》
「やっぱりそう思うかしら?」
恥ずかしそうに彼女は笑ったが、それは自分を卑下するようなものではなかった。
《でも、できそうなんでしょ?》
「ええ、今日はそのための一歩を踏み出せたわ。一部の職人さんたちと、まずは一週間で一つの商品を考えることになったのよ」
「おー!なに作るんや?」
「そうねぇ……」
ミアさんは、問いかけてきたアムの方をじっと見た後、何事かをひらめいたようだ。
「子ども向けの、小さい楽器のセットなんていいかもしれないわ。そうしたら、アムにも試供品を試してもらえるでしょう?」
「楽器もらえるんか!?」
微笑ましいアムの反応は、ミアさんも手応えを感じたようだ。
「ええ、子ども用の楽器ってそんなにないのよね。あったとしても結構なお値段しちゃうし、気軽に触れられる楽器っていうのは、我ながらいいアイデアね」
上機嫌にアイデアを書き留めていく。
きっと、彼女の仕事は上手くいくだろう。
そう思っていたら、俺の方にも質問が飛んできた。
「ヨロイさんは何かこういうのがあったらいいなっていう物はある?楽器に限らなくても、なんでもいいわよ」
欲しい物、か……。
なんだろう?パッと思いつかないなぁ。
俺が首を傾げていると、ミアさんが苦笑した。
「あまり深刻に悩まなくていいのよ。今じゃなくても、後で何か思いついたら言ってちょうだい」
むう、できればミアさんの助けになりたかったけど、思いつかない物はしょうがない。
暇な時に考えておこう。
「話を戻しましょうか。とりあえず、私はこの1週間が勝負ね。慎重派の人たちも納得させる成果をあげなきゃいけないわ」
そう言う彼女の瞳は、決意に満ち満ちていた。
「たぶん、お祭り当日は2人にもお店を手伝ってもらうことになるわ」
《うん。任せて》
「アムも頑張るで!」
今の段階だと俺にできることはなにもない。
ミアさんの計画が上手くいくことを祈っておこう。
とりあえず、俺は俺自身のため、グレゴリーさんからしっかり音楽を教わってこよう。




