4話 ヨロイさん「宮廷音楽家との出会い」
地下から客間に戻った俺たちを待っていたのは、1人の気怠げな青年だった。
彼はマリウスさんをジロリと睨みつけると、苛立ちを含んだ声で彼を咎めた。
「どういうことだマリウス。人を呼びつけておいて、出迎えもせんとは」
「わりぃな、優先する客がいたもんだからよ」
「……そやつらか」
今度はその鋭い白銀の瞳が俺たちを射抜いた。
若そうな見た目に反してかなり尊大な口調だが、特にそれをマリウスさんが咎めることはない。
年はかなり離れているが、友人同士というのは本当なのだろう。
「お前さん、いま迷走中だろ?この人らが良いヒントになるんじゃねぇかと思ってな、紹介させてくれよ」
「余計な世話を……」
そう言いつつも、彼の剣呑な雰囲気が幾分か和らいだ。
ただとっつきにくいだけの人という訳ではなさそうだ。
その弛緩した空気を見逃さず、ミアさんが動いた。
「あの、はじめまして。私、ミア・ゴトウィートと申します、商人です。こちらは…」
「アムと、ヨロイの兄さんやで!」
ぺこりと頭を下げたミアさんに、アムが続いて、俺もしっかりと礼をした。
「妙ちきりんな連中だな」
「あはは……」
本当にそうだから困る。
ミアさんも返す言葉がないから、曖昧な笑みを浮かべることしかできない。
「まあ、商人、お前はいい。鎧の男、なんで錆びた鎧を着ているんだ、脱げ」
「あの、諸事情で脱げないんです…あと喋れないんです」
「どういう事情だそれは!?」
ミアさんの弁明に鋭いツッコミが入る。
だがマジにその通りなんだからとても困る。
でもそういう事情なんです。
「まあ、まあ、もうこの際いい。そこのちっこいのはなんだ、アムとか言ったな」
「アムはゴーレムやで!ヨロイの兄さんの通訳しとるんや!」
「おかしいだろう!?」
耐えられないとばかりに彼は叫んだ。
「なんでゴーレムが喋れて貴様が喋れん!?というかなんでゴーレムが言葉を操る!?」
《本当にごめんなさい》
「ごめんなー」
「喋る件については、その、物好きな学者から取引で…」
ぜえ、はあ、と肺から出し切った空気を補充すべく方で息をしている。
今まで出会った人の中で、たぶん一番常識的な人なんだな。
「もういい、疲れた…。名前ぐらいは教えてやろう、私の名はグレゴリー・アンブローズ」
「グレゴリー…って、あのグレゴリーさん!?」
「どうしたんや姉さん?」
眼前の青年、グレゴリーさんの正体に心当たりのあるミアさんは、俺達に向けていつもより若干早口で説明してくれた。
「このアステリア王国の宮廷音楽家よ。若くして色んな奏楽会や大公演に顔を出している、超一流のヴァイオリニストなのよ」
とんでもない人だな!
ただツッコミが上手いだけの人じゃなかったんだ。
てっきり、マリウスさんが将来的に目が出ると見込んでる若者、くらいなものかと思っていた。
二人が対等な友人関係なのも頷ける地位の人だわ。
「ふーん…?」
あ、でもアムにはいまいちピンと来てないなこれ。
「で、こいつらがなんだって言うんだ?」
「おう、実はよ、ヨロイさんとアムくんに音楽を教えてやってくんねぇか?」
「この、私がかぁ!?」
信じられないアホを見るような目で、彼はマリウスさんのことを見た。
うん、俺もその人アホだと思うわ。
「いいだろ?どうせ祭りまで暇じゃねぇか」
「暇ではないわ!どうすれば完璧な仕上がりになるか考えあぐねてるところよ!」
「暇じゃねぇか」
あ、すごい。
すごい勢いでグレゴリーさんが押されていく。
「兄ちゃんがアムたちにオンガクを教えてくれるんか?よろしゅうなぁ!」
「いや、だから、私は…」
特に悪気もなく、アムが追撃を加える。
思わずたじろいだグレゴリーさんの肩に、悪どい親父が腕を回した。
「まあ、待てよグレゴリー。もしこの話を受けてくれるってんなら、最高の共鳴木でお前さんの楽器を作ってやってもいいぜ?」
「……なに?」
「100年モノだぜ?」
なにやら小声で密談が繰り広げられている。
ちなみに俺には丸聞こえだ、なんかやたらよく聞こえる。
「……よかろう、やってやる」
「よし、物わかりのいい男はモテるぜ!なあミアちゃん!」
「あ、あはは…なんだかすみません……」
ミアさんに振るんじゃない、困ってるだろうが。
このおっさんと友達になるのはやめといたほうがいいんじゃないか、グレゴリーさん。
まあでも、こんな機会滅多にないし、俺も張り切って勉強させてもらうとしよう。




