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3話 ヨロイさん「降り積もる歴史」

「おうおめぇら!共鳴木が手に入ったぞ!」


 客間から出たマリウスさんが開口一番にそう言うと、集中して作業していたであろう工房内が一気にざわついた。

 それほどまでにミアさんが調達した共鳴木は希少なのだろう。


「ナマモンの共鳴木だ、よく見ておけよ」


 マリウスさんがそう告げて慎重に台の上に置くと、そこへお弟子さんたちがわらわらと集まってきた。


 最も近くで素材を観察しているのが、既に職人の風格漂う人たち、たぶん高弟だろう。

 その周りをまだ若い子達が囲んでいる、勉強の機会を逃すまいと必死だ。


「共鳴木の未加工品なんて初めて見ます!」

「俺だって2回くらいだよ、拝んだことあるのは」


 若い子たちは見るからに興奮しているが、高弟側もその昂りを抑えきれていないのが見て取れる。


「いつか、これを扱える職人になりてぇ…!」


 一人の若い見習いの子がそう言うと、お弟子さんたちが次々に「いや、俺が」「俺だよ」と熱を上げていく。


 その様子を微笑ましく眺めていたマリウスさんが、嬉しそうに言った。


「ありがとうよ、あいつらに良い経験をさせてやれた」

「お礼なんてそんな、私も勉強させていただいてる立場です」

「謙虚だねぇ。そうだ、いいもん見せてやろう、着いてきな」


 そういうと、マリウスさんは工房の奥の扉を開けた。

 俺達は彼に続くと、そこには地下へ降りる石造りの階段があった。

 一段降りるたびに、ひんやりとした空気が増していくように感じる。


「すっごいなぁ、土の中にも家があるんか」

「はっはっ特別な場所でな、こうでもしないといけねぇのさ」


 あっそういや俺も起きた時はなんか地下に居たわ。


「もしかして、見せたいものって……」

「ミアちゃんは気がついたかい?そら、ここだ」


 階段を降りきったところには、地上の物よりもさらに重厚な扉があった。

 特殊な構造の鍵をマリウスさんが開け、俺達を中に招き入れる。


 石壁に覆われたその部屋に踏み入れると、まず嗅覚が反応した。

 木の匂い、それもとても古いものだ。

 左右を見れば棚が備え付けられていて、そこには様々な色合いの木材が整然と並べられていた。


「やっぱり、乾燥室……」

「かんそーしつ?」

「楽器の木材はね、乾燥させてから使うのよ。それも何十年もの間ね」

《そんな長い間…ここで?》

「おうよ。それこそ俺が生まれる前から、ここで保管されてきたものなんてのもあるぜ」


 気の遠くなる話だ…彼らはその長い時間、木が安らかに眠り、熟すのを待っているのか。


「まあ、ここを見てもらいたいってのはそうなんだが…肝心なのはこの奥よ」


 そう言って彼は、部屋の奥にある最も存在感のある棚から、幾重にも包まれた白い布を取りだした。


 マリウスさんはその布を、一枚一枚、丁寧に取り外していく。


「……」


 ミアさんが食い入るように見つめている。

 アムも、事の重大さがよく分かっているのか口に両手を当てて、静寂を保とうと必死だ。


 ヴェールが覆い隠していたのは、この部屋の「王」だった。


 深いブラウンの色を讃えながらも決して地味ではなく、部屋の僅かな光を見事に自身を彩る飾りとしている。

 降り積もった歴史が元々備えていた性質を昇華させたのだろうか。

 ただそこに在るだけで威厳すら感じさせる。


「共鳴、木…」


 感動を含んだ音色で、ミアさんが呟いた。


 これが。

 これこそが完成した共鳴木なのか。


「100年物よ、ミアちゃんのお陰でこいつを使える。そして、今度は君がもたらした物が、100年の時を超えるんだ」

「……すごい」


 彼女は感無量と言わんばかりだ。

 100年。

 人が生まれて、子どもが生まれて、さらにその子どもが大人になったくらいで、やっとたどり着けるかといった年月。


 それを乗り越えたものが眼の前にあるこの王たる木。

 そしてこれからその試練を乗り越えるのが、ミアさんの持ってきた共鳴木なんだ。


《やったね、ミアさん》

「ヨロイさん」


 彼女が俺の方を見つめた。

 まだ、ミアさんは自分の心の振動を抑えきれてないようだ。


《君の仕事の成果が、ずっと先の未来の人たちの目にも触れるんだ》

「そうね。ええ、そうね…!」


 その光景を想像したのか、彼女は力強く拳を握った。


「でも、これだけで満足してはいられないわ。この木に負けないように、他の仕事も後世に残す気概でいかないと!」

「はっはっ、いい啖呵だ!やっぱり大物になるぜミアちゃんは!」

「なるでー!」

《なるなる》

「あ、いや、その…みんなに言われると照れるわね」


 俺達のおだてに、ミアさんは少し頬を朱に染めた。

 和やかな雰囲気なところに、お弟子さんの声が上階から響いた。


「すいません師匠!グレゴリーさんがいらっしゃいました!」

「あっいけね、そういや呼びに行かせてたんだったわ」


 そういえばそうだった。



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