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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

何をされたら離婚してもいいのだろう?

作者: 瀬崎遊

 何をされたら離婚してもいいのだろう?


 性格の不一致?

 性交渉の不一致?

 浮気をされたら?

 暴力を振るわれたら?

 外に子供が出来たら?

 なんとなくこの人じゃないと思うようになってしまったら?


 人によって我慢の限界は違うとは思うけれど、私の場合どの程度だったら離婚しても許されるのだろう?


 結婚してたった一年だけど、何となくこの人じゃないと思っていて、性格も合わないし、独りよがりの性交渉が嫌で、浮気され、暴力を振るわれ、他の女性に子供ができたら離婚してもいいかな?


 それは仕方ないよと誰もが思ってくれるのかな?

 それともまだ我慢が足りないと思われるのかな?


 顔中、青や赤、紫に黄色に彩られ、口元は何箇所も切れて瘡蓋(かさぶた)になっている。

 首には紫色の輪がくっきりと鏡に映っていた。

 

「これは離婚してもいい理由になるのかしら?」

 服を着ているから解らないけれど全身同じようなものだった。

 痛みのない場所がない。


 両親も弟妹も健在だけれど、なぜだか私だけ愛されなかった実家には離婚しても帰れない。そんな私はここでずっと我慢し続けなければならないのかな?




 今日もノックもなく扉が開いて怒声と共に夫が入ってくる。

 外で気に入らないことがあったのかな?

 今日はいつにも増して機嫌が悪い。

 胸ぐらを掴まれてまた左側の顔を殴られた。

 私の歯が当たったのか「痛い」と叫んで私を突き飛ばして床に転がしてお腹や背中を蹴り始め、あらゆる場所を踏みにじられた。


 痛みのあまりに気を失っていたら、上半身だけをベッドに預ける形でドレスの裾をまくりあげられて、夫が腰を振っていた。

 これも凄く痛くて私は(うめ)いた。

 中に吐き出して夫は満足したのか、ようやく解放された。

 時間的には大した時間は経っていないのかもしれないけれど、私が感じた時間は永遠と言ってもいいほどのものだった。


 ベッドに上半身を預けた格好をとっていられなくて、膝から崩れ落ちた。

 ベッドのシーツに赤い筋がついた。

 シーツを汚してしまったわ・・・。

 血の汚れは取れにくいって言っていたのに申し訳ないことをしたわ。


 メイドが四人やって来て私を抱えて体を拭ってくれて、手当をしてくれた。

 ベッドに寝かされて気を失って、意識を取り戻したら翌日になっている。

 そんな朝が何ヶ月も続いている。



 結婚当初はこんなふうではなかった。

 お互いに初々しい感じに触れ合い少しずつ距離を詰めて満たされる関係になったと思う。

 何が変わるきっかけだったのか・・・多分、一人の友人だという男を連れて帰ってきたときだと思う。


 その男が何を言ったのか、夫が腹を立てて追い出した。

 そのあと直ぐベッドに連れ込まれて少し手荒く扱われた。

 それでもたまには荒々しいものも楽しいかもしれないと思えたのはその時だけだった。


 力ずくで扱われるようになり、体中に青痣が浮かぶようになり、私が痛がったり嫌がるとそのことを執拗に責め立てるようになった。

 流石に受け止めきれなくなって、拒絶すると殴られた。

 乱暴には扱われていたけれど、殴られたのは初めてで私は夫に怯えた。


 身を震わせる私に腹が立つのか、暴力はエスカレートしていく。

 初めて私の顔が腫れ上がって誰か解らないような顔になった時、夫は翌日から帰らなくなり、時折帰ってきては私に暴力を振るって私を犯した。


 私は夫を見るだけで震えるようになり、その姿を見て夫は腹を立てるようだった。

 夫がお腹の大きな女性を連れて帰ってきた。

 その女性のことは蝶よ花よと大切に扱っていた。

 

 その裏で私は相も変わらず殴られて犯されていた。

 子供を産めと言われたが精神的なものなのか、肉体的なものなのか、月のものが来なくなり妊娠はかなり難しいのではないかと思われた。

 それに、子供がこんな目に遭うとしたら耐えられない。

 妊娠をしたくないと心から願った。

 私の願いは通じたのか、妊娠するような兆候はなかった。



 夫が連れて帰った女性が女の子供を産むと私が至らないから子ができないのだと責め立てられるようになった。

 出産が済むと女性と子供はどこかへやられて、私にはどうなったのか解らなくなった。




 朝、メイドが四人やって来て私の身支度を整えてくれる。

 あまりの痛みに呻き声を我慢できない。

 今日は謝罪すら口にできなかった。

 誰かがやって来て私を見て「今日は一段と酷い・・・」と声を漏らした。

 声で執事のバルだと気がついた。


 私はメイド達に抱えられて階下へと連れて行かれる。

 痛みが酷くて耐えられないから動かさないでと言いたいのに、くぐもった言葉にしかならない。


 メイド二人に支えられて多分、馬車に乗せられた。

 今日は目蓋(まぶた)が腫れて目が開かなくて、視界が狭い。

 私の前に誰かが座ると馬車が動き出した。

 その振動が体中の痛みに響いて声が漏れる。


 優しい励ましを受けるけれど、頭の中は『痛い、痛い、痛い』しか考えられない。

 長い時間痛い思いをさせられて、馬車を降ろされる。

 誰かが声を呑む音が聞こえて誰かに抱き上げられた。

 私が呻くと「すまない。少し我慢してくれ」と知らない声が聞こえて、我慢しているとそっとベッドと思われる場所に寝かされた。


 ガタガタ、ガチャガチャ、バタバタ。

 色んな音が聞こえて知らない人の声が聞こえる。

 バルの声とメイドのアーチャの声も聞こえる事に少し気を緩めると、私はまた意識を失った。



 意識は取り戻したけれど目蓋の腫れはひいていなくて、ここがどこか解らない。

 両腕と左足にギブスが巻かれていて、ここは病院なのかもしれないと思った。


「奥様!!」

 アーチャの声がして首を動かそうとしたら「動かないでください」とアーチャが言った。

 私は言われた通りに動かずにじっとした。

 アーチャが人を呼ぶ声が聞こえて誰かがやって来て「痛み止めだよ」と言って口の中に薬を入れてくれて、水を飲ませてくれた。


 かなり喉が渇いていたのかゆっくりとだったけれどコップ一杯の水を飲んだ。

 水が口の中で()みて呻くことになったけれど、乾きは潤すことが出来た。

「もう少し頑張って起きていて。スープを持って来させるからそれだけ飲んで」

 

 私は小さく頷いて、意識が遠のきそうになるのを必死でこらえた。

 小さな匙で口に何度も運ばれるスープは苦痛だったけれど、空腹を埋めてくれた。

「頑張ったね」

 その言葉を最後まで聞いたのか?聞こえなかったのか?意識が遠のいていった。


 同じようなことが何度か続いて口の中が沁みなくなった。

 口を大きく開くことは出来なかったけれど小さな野菜の固形物が口に運ばれるようになった。

「薬に眠くなる成分が入っているから、眠くなったら寝て、目が覚めたら食べてを繰り返そう」


 ここに運ばれてどれくらい経ったのか、視界が広くなりボソボソと喋れるようになった。

 起きていられる時間も長くなり、知らない人に色々と聞かれた。

 バルが「本当のことを正直に答えてかまいません」と言うので私は聞かれたことに素直に答えた。



 目の腫れがひいて口が開くようになり、痛みに呻くけれどベッドに座れるようにもなった。

 食事も普通食が食べられるようになった。

 それから時が経ってバルから事のあらましを説明された。



 夫のあまりにひどい暴行を隠し通せなくなってバルが病院へ連れてきてくれた。

 病院の門番の人が私の酷い怪我に驚いて警邏隊に届け出た。

 警邏隊の人達が私の様子を見に来て、バルに誰がやったんだと問い詰め、夫がやったと伝え警邏隊は即座に夫を逮捕した。

 初めは口を噤んでいた夫だったが、厳しい取り調べで私に暴力を振るった事を白状してしまった。


 使用人の証言と私の日記が見つかり、そして私が証言したことで夫の罪が確定した。

 夫は貴族ではありえない強制労働三年という重い罰が科せられた。

 けれど私は三年経ったら出てくるのかと震え上がった。


 バルが夫の資産を現金化しているので元気になったら他所の土地へ行って小さな家を買ってそこで暮らしましょうと言った。



 退院が許可された時には病院に運ばれてから四ヶ月が経っていた。

 怪我だけならばもう少し早く退院できたのだけれど、夫との離婚、慰謝料の支払いなど色々なことを進めるにあたって私に帰る家がないことが解っていたので、新しい家を準備するまでに時間がかかった。


 連れ帰られたのは病院から三週間も掛かる遠い地で、バルとアーチャともう一人スザンナというメイドがついてきてくれることになった。


「奥様、今までお助けできなかった不甲斐ない私達にお腹だちでしょうが、奥様の体を休めるためには私どもの同行を認めて欲しいのです」

 私は喜んで受け入れた。

 付いてきてもらえなくては私の生活は立ち行かなくなるだろう。

 

「ありがとう。よろしくお願いします」

 着いた家は私一人暮らすだけならかなり贅沢な家だと思った。

 連絡を入れたけれど、入院中に両親達の見舞いは一度もなかった。

 そのおかげもあって、私はあっさりと夫からも両親達からも縁を切ることが出来た。

 ただし、私は平民となった。


 バル曰く死ぬまで働かなくても生きていけるだけのものはあるので心配はいらないと言われた。

 詳しいことを説明され、それが本当だと知ったけれどなにか仕事はしなければならないと感じていた。


 小物に刺繍をして売ったり、町の教会で子供達に文字の読み書きなんかを教えて町の人達と交流を持つようになった。

 それは今までの人生の中で一番穏やかで幸せな時間だった。


 止まっていた月のものも定期的にやってくるようになり、夫から受けた傷は癒やされていっていた。

 

 バルとスザンナが結婚して、可愛らしい男の子が生まれた。

 アーチャは近隣に住むパン屋の息子さんといい関係になっていて、結婚が秒読み状態になっていた。

 私は家族の幸せが嬉しくて仕方なかった。



 夫が捕まって四年の月日が流れて夫が強制労働の罰を終え、両親の下へ帰ると、お義父様は夫を拒絶した。

 犯罪者の子供は必要ないということなのだろう。

 夫は浮浪者のようになって、私を探しているとバルに聞かされた。


 私は名前も変えていたので簡単には見つからないですよ。とバル達に慰められながら怯えながら日々を送っていた。それから二年の月日が流れた。

 私は刺繍を納めていた商家の息子、クルリスと再婚していた。


 アーチャは結婚してパン屋の手伝いをするために辞めてしまって、バルとスザンナは屋敷に留まっていてくれた。

 

 クルリスが人を入れてくれて、小さな屋敷の手入れは事足りるようになり、バルはクルリスの仕事を手伝うようになった。

 私が妊娠して、子供が生まれて屋敷を手放して商家で住もうと話が出るようになり、私はそれを喜んで受け入れた。


 私は既に移り住んでいて、荷物だけを少しずつ運んでいる時、元夫が訪ねてきた。

 私の昔の名前を告げ、会わせろと暴れて「そんな名前の人はいません」と商家から来ていてくれた使用人が元夫に答えた。


 納得したのか、食べるものを恵んでくれと言って元夫は立ち去っていった。

 と聞かされた。

 商家に移っていて本当に良かったとクルリスが私を抱きしめてくれ、子供を抱きしめた。


 私は外に出られなくなり、出られないことにはそれほど困らなかった。

 ただ元夫がこの町から出ていくのを一日千秋の思いで待っていた。

 半年が経ち、一年が経っても元夫はこの町から立ち去らなかった。

 バルやスザンナ、アーチャの顔を知っているので、どこかで顔を合わせたら大変なことになるんじゃないかと不安で仕方なかった。


 そして私は元夫とアーチャが出くわしてしまったことを聞かされて震え上がった。

 なのに、夫はアーチャのことが解らなかったらしい。

 貴族が使用人の顔をも覚えていないのは本当なんだ。

 と悲しいような、助かったような複雑な思いがした。


 それから七ヶ月後、元夫はその年の一番寒い朝、道端で事切れていた。

 死因は寒さと飢えだと思われた。

 一通の手紙を後生大事に抱えていた。

 

 その手紙は私、元妻に宛てたものだった。

 ある男にお前の嫁さんは男好きのするいい女だなと言われて、取られると思ってしまってそのいらだちが妻に向かってしまったこと。

 一度始めた暴力を止めることができなくなってしまった。


 悪かった。許して欲しい。と始めは書かれていて、その後は自分の不遇はすべて私の責任だと書かれていて、だから私が責任を取るべきだとか、元夫の面倒を見るのは私の義務だとか書かれていた。


 正直、微妙な気持ちになったけれど、元夫のことはもう死んでしまったのだし、悪びれる必要はない。

 綺麗さっぱり忘れることにした。

 

 バルがエートッド様のご両親に連絡を取って遺体をどうするか話し合った。

 ご両親は死んでからも迷惑をかけるのか!!と激怒したものの埋葬するお金だけは払ったらしい。


 エートッド様は骨と灰になり、無縁仏として供養された。

前日の作品で、貴族女性が浮気されて子供を外で作られたくらいで離婚してもいいのかな?と思って書かれた作品です。


ここまでされたら離婚しても誰も文句を言わないだろうと思いました。



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― 新着の感想 ―
[気になる点] 途中出てきた見知らぬ女性はお試し妊娠させられたとかですか? [一言] 元夫の思考回路が意味不明。 原因になった友人とやらを頼りなさいよ。
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