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第94話 王都だと?

 冒険者ギルドに行ったらアイドル候補生をゲットした。

 見た目良し、歌も良し、性格は…

 まぁ何とかなるだろ、芸能界なんて多分そんな人の集まりだし。


「で、クレスト君は明日からどうする予定だい?

 貯水池の視察は後に回して」

「何を言ってんですか!

 そこが最優先事項でしょ!」


 そう言ったところでガチャリとドアが開いて、レイドルさんが勝手に入ってきた。

 俺が帰ってきたって陰の人から報告が入ってたんだな。


「今の最優先事項はガバルドシオンの献上品だ。

 それとお前、また町の中で何やら首を突っ込んで来たらしいな」

「おーぃ、そっちに情報行くの早過ぎじゃない? 個人情報保護法プリーズ!」

「部下にはお前の動向は最優先で報告するよう厳命してあるから心配するな」

「その命令、なる早で取り消してよ」

「えーと、この人、勝手に執務室に入って来たわね。ギルドの偉い人よね?

 タメ口のきけるクレストさんって凄い人なんだ!」


 勝手に感動しているアイリスさんを見て、

「ダンジョンではリリーさんに会わせないように工作したのに意味ないし…」

とエマさんが漏らす。


「確かあの人もスカートが邪魔って捲り上げてたか」

とルケイドが答える。


 ダンジョンにもう一人、潜入組の人が来てたのか。その人のことは後でブリュナーさんに教えてもらおう。

 使えそうなら貰おうかな。


「凄い奴なのは確かだが、礼儀知らずだと後で痛い目を見るから早めに直して貰いたいものだ」

「そうだね。仕事が出来ても態度が悪い人は上の人から叩かれる。

 まぁ、クレスト君の場合は叩き返すに決まってるから心配はしてないけど」

「…実は結構な問題児?」


 何故かアイリスさんから同情するような視線を向けられる。

 それならアイリスさんも問題児だろ。俺だけ問題児みたいに言うなって。


「でさ、献上品はもう出来たの?」

「大体はな。焼き印も押してある」

「それなら俺って要らなくない?」

「国の諜報機関を甘く見るなよ。喜べ、お前が実質上のオーナーだとしっかりバレている」

「それの何処に喜ぶ要素があるんだよ?」

「献上品を持って王都見物に行けるぞ、費用は商業ギルド持ちでな」

「はぁっ?! 何言ってんの!」


 話が跳びすぎてない?

 俺が持ってくのっておかしくない?


「そう言うのって、作った人が持ってくもんじゃないの?」

「一つの献上品を納めるだけで職人三人が王都までホイホイ行けるか?

 その間の仕事はどうする?

 お前が思っている以上に、あの雑貨店は繁盛してるぞ。そんな暇は無い」

「俺だってマジックハンドコンテストとか貯水池関係とか…色々あるよ」

「そうですよ!

 クレストさんにはライスからスイーツを作ってもらう約束なんです!

 それにシロップも作るそうだし、樹から出る甘い液体を探すのも重要なんですよ!」


 エマさんのは食べ物関係だけだよね?


「あ! そう言えばジョルジュさんの船はいつ頃戻って来るか情報あります?

 椰子の実が必要な案件があるんですよ!」

「それなら明日中には港に着く予定だ」

「明日か!それは楽しみだな!

「椰子の実なんて何に使う?

 よくあんな物を大量発注したもんだ」

「椰子の実って以外と役に立つんだよ。

 馬鹿にしてる人には教えてあげない」


 俺がそう言うとレイドルさんの大きな手がグワッと開いて俺の額を鷲掴みにし、グイグイと力を込めだした。頭蓋骨にヒビが入るかと思うくらい痛い。


「痛い痛い! 暴力反対! 脳みそ飛び出るからやめて!」

「なら素直に吐け」

「たく何処のマフィアだよ…。

 仕方ないなぁ、椰子の実って中の液体を飲むだけじゃなくて、殻が色々使えるんだよ。

 そのまま燃やせば良い燃料になるし、殻の炭が空気や水の汚れを吸着する働きがあるんだよ」

「へぇ、そうだったんだ。ナタデココしか知らなかった」


 ルケイド君…それはバラしたら駄目なヤツ!

 ココナッツジュースと殻の炭だけで誤魔化そうと思ってたのに。


「ナタデ…なんだそれは?」

「椰子の実の汁を発酵させて作る食べ物。独特の食感があって好き嫌いが別れるかな」

「食料が増えるのは良いことだ。完成したら報告しろ」

「発酵食品は簡単には作れないよ。俺も作ったことなんて無いんだし。失敗して腐らせる方が多いはず」


 ナタ菌ってのが必要なんだけど、それって何処で採れるんだろ?

 果物の皮に付いている酢酸菌で試してみるかな。菌なんて眼に見えないから、サンプル作るのも大変なんだよ。椰子の殻に付いててくれたらラッキーなんだけど。


「で、そのナタ何とかが本命ではなくて、炭が必要なんだね?

 灰は昔から洗剤代わりや皮の鞣しに使われている。それにリミエンソープにも灰が必要だったよね」

「そうですよ。灰は資源ですから。

 椰子殻の炭は、汚れた空気から作業員を守る為の道具になるかも知れなくて」

「それだと炭臭くなりそうだな」


 言われてみれば。ガスマスクのフィルターに使うんだけど、炭の匂いはしないのかな?

 命の方が大事だから、炭臭いのは我慢して貰おうかな。

 よし、椰子の実洗剤のことは話さずに済んだな。


「明日港に到着か…さて、これから」

「待て。お前がまだ隠している物を教えろ。本命はそっちだろ」


 …話題を逸らそうとしたのに何故バレた?

 レイドルさんってやっぱりエスパーか?


「お前の顔を見れば、上手く誤魔化せてシメシメって思っていることぐらい商売人なら誰でも分かるぞ」

「この国の商売人、マジハンパねえ…」


 いかん、焦って変な言葉を使ってしまった…。


「ふむ、図星だったか。やはり言ってみるもんだ」

と言ってにやりと笑うってことは、カマを掛けたってこと?


「図ったな?」

「中途半端な隠し事をする方が悪い。

 もう少し商売人との付き合い方を勉強しないと、有り金全部持っていかれるぞ。

 とにかくお前は商売人としてはド三流だ。隠し事をするなら、何を言われようが隠し通せるようになれ」


 そんな人間にトリプルスター付きのゴールドカードなんて持たせるなよ。どう考えても人選ミスだろ。


「私としては、そう言う擦れていないクレスト君のままでいて欲しいと願うけどね」

「いえ、擦れるように努力します」


 ライエルさんは俺を便利に使うつもりだよな…まぁ今の所、イヤな仕事を押し付けられてる訳じゃないから我慢出来るけど。


「この男は相手にしてはならんようだな」

とアイリスさんがレイドルさんに警戒心を露わにした。


「アイリスさん、こちらは商業ギルド不動産部のレイドル副部長よ。

 建国百周年記念特別対策本部の本部長も兼務していて、クレストさん担当部長なの」

とエマさんがアイリスさんにレイドルさんを紹介したけど、俺の担当部長って何だ?


「非常識が服を着て歩いているクレストさんを唯一御せる人だと噂のか…」

「どんな噂だよ! 今勝手に作った噂だろ?」

「その噂、普通にその辺で流れてるからさ」


 ライエルさんが噂があることを肯定してガッカリだ。


「どれだけレイドルさんを高く買ってんだよ」

「非常識が服を着て歩いている所は否定しないのだな。お前も随分大人になったもんだ」

「うるせぇよ」

「なるほど。噂は本当らしいな」


 レイドルさんには少しだけ恩もあるから悪く扱わないだけだ…と思う。

 性格的にはサッパリしていて悪い人ではないと分かってるけど、何故か反骨精神が湧いてくる。


「恐らくクレスト君が成長すれば、第二のレイドルのようになるだろうね」


 同族嫌悪ってヤツか?

 レイドルさんみたいにはなりたくないんだけどね。 

 

「まあ、椰子の実やレイドルのことはともかくだ。

 王都行きは決定事項だから、ブリュナーさんに頼んで用意をしてもらうように。

 国王との謁見だから、それなりの対応をして欲しい」

「ソレなりで良いのかよ…」


 ライエルさんが軽く言うけど、そんな訳には行かないだろ。

 着ていく服だって作らないといけないだろうし、他には…何かあるのかな?


「礼儀作法なら帰ってからブリュナーに教えてもらえ。元侯爵家護衛の肩書きは伊達じゃないからな。

 ついでに普段のクチのきき方も修正してもらえ」

「急には無理~ブーっ」


 レイドルさんの手がまた俺の額を握り潰そうと襲い掛かってきたので避けようとすると、アイリスさんが後ろから俺の頭を抑えたのだ。

 そのせいで二度目のアイアンクローを食らう羽目に…。

 涙目になりながらアイリスさんに抗議すると、

「より上位の者に従うのは世渡りのコツだ」

とアッケラカンと言い放つ。


「俺、これから君の雇い主になるんだよ」

「パワハラ宣言と受け取って良いのか?」


 この子の採用取り消し、真剣に考えようか…


「レイドル、虐めるのは程々にしないと指の痕が残ってしまうぞ。そんなのが出来るのはリミエンじゃお前ぐらいしか居ないから」

「実積あるのっ!? この人、絶対職業間違ってるし!」


 リタの奴め! アイツのせいでレイドルさんは冒険者にならなかったんだから!

 え? あぁ、レイドルさんが冒険者になってたら先輩ってことか…それもイヤな気がする。


「それはお前もだ。何故冒険者なんかやっている?

 実積は…ゴホン、受注回数は数えるぐらいだぞ」

「俺は内容が濃いの!

 回数より中身で勝負なの!

 レイドルさんだって今口ごもったでしょ!」

「そんなのは知らん。

 それよりサッサと雑貨店に顔を出してこい。バルドー達も心配している筈だ」


 都合悪いとすぐに話を変えるんだもん、ズルイ人だ。


「ちなみに王都行きは俺一人?

 スイナロ爺が表向きのオーナーなんだから行くに決まってるよね?」

「…あのセクハラ爺を王宮なんかに連れて行ってみろ。

 伯爵にまで危害が及ぶぞ」


 そんな人が商業ギルドの中に居て大丈夫なの?


「王都までなら、通常の移動で道中三回町で宿泊、三回野営になる六泊七日のコースだ。距離的には約二百六十キロメトルだ。

 カラバッサを出せば、君のことだから毎回野営にして五日で到着するんじゃないかな?」


 カラバッサなら一日六十キロメトルは移動出来る。ランスとブリッジに牽いてもらえばもう少し距離を延ばせると思うけど、他の馬を怖がらせるから馬房に入れられないんだよ。


 歯を見せなくても他の馬が怖がるそうだから、牙馬独特の魔力か何かを出しているのかも。

 それを隠蔽して、普通の馬に偽装出来る方法はないのかな?


 ドランさんならドラゴンだし、アルジェンも魔界蟲本体さんの知識で何か知ってるかもな。

 帰ったら聞いてみるか。


「七日が五日か。それは良いな。更に道路整備を行えば王都まで四日も夢ではないか。

 いや、宿場町のことを考えると立ち寄る拠点数を減らすのはマズイのか」


 レイドルさんがたまに日本でも話題になる、バイパス開通による旧道沿いの寂れと同じ問題に頭を悩ませ始めた。

 道が多少良くなっただけなら一日の移動距離は同じで、単に出発時間を遅らせるか、もしくは早く目的地に到着する程度の変化しかないだろう。

 これがプラスでカラバッサを使うと移動距離は一気に延ばせるので話が変わってくる。


 徒歩の移動なら道路整備程度は大した影響にはならないかも。

 それに街道沿いに新しい集落を作るってのもアリだと思う。

 ついでに言えば、もっと移動する人を増やすことも必要だ。


 基本的にここは観光旅行の無い世界なのだが、現在貯水池周辺を開発してリゾート地にしているように、各地域がもっと観光資源を作り出すべきなのだ。

 その為にはより街道の安全確保が必要だが、冒険者を使ってドンドン人の安全圏を広げていけば良いのだ。


「王都行きかぁ。私も付いて行こうかな」

とエマさんが漏らす。

 そうすると絶対ウチのチビッ子達も付いて来るし、子供達も行きたいと言い出すだろう。


 でもエマさんと二人っきりになれる機会なんだよな…俺だって夜の運動会を期待しない訳がないだろ。

 子供達は連れていかない方向で上手くいけないかな?


「そうだな…ヨシ、君達が王都に行っている間、残った皆でダンジョンに果物もろもろ狩りに行こうか」

とライエルさんが案を出してくれた。

 それは良い手だな。子供達二人もあのダンジョンを気に入っているし、新しい友達も出来たからね。

 

 出来れば牛を沢山捕まえて欲しい。今後乳製品の需要は増える一方だから、ミレットさん達だけだと足りなくなる可能性が高い。

 他の酪農家がどれだけ居るか知らないけど、そう多くはないと思うし。


「ちょっと待て。カラバッサを使うとそちらにも注目が集まる。

 カラバッサではなく、開発中の擬きで行く方が良い。それに輸送業ギルド関係者も居た方が新型馬車のセールスになる。

 御者は輸送業ギルドから派遣させろ」


 確かにそうだな。見た目はダサく作っているけど、御者台が囲われている馬車なんて他にはないから一目で従来の馬車とは違うとばれるだろう。


「新型の御披露目を兼ねて行くのかい?

 それならステラ君に御者を頼もう。工房主だから説明するのに丁度良いだろう」

「ステラさんだって急には動けないでしょ?

 往復十日も拘束するんだよ」

「王都迄の長距離走行試験も必要だと言ってたから断らないって。

 念の為、誰かに聞きに行かせようか」


 何故かレイドルさんとライエルさんが勝手にステラさんを御者に御指名だ。

 それならステラさんも旦那さんと一緒に動いて貰おうかな。

 きっと彼女もたまには…って思うだろう。

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