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第93話 勿論採用です!

 リミエンに戻って来たら、味の無いゼリーを見付けた。

 これ幸いとルケイドに押し付けた俺はルンルン気分だ。


 グラニュー糖が無いので百点満点のゼリーは作れないかも知れないが、シロップは多分作れるし、麦芽糖も既に出回り始めたようだからそれなりの物は作れるだろう。

 俺にゼラチンを押し付けられたルケイドは迷惑そうだけどね。


 明日昼過ぎに店主と商業ギルドで待ち合わせをすることにして、冒険者ギルドへと足を向けた。


 途中でクレス糖を使った串焼きと、俺の行き付けの屋台の串焼きを食べ比べるイベントもあったが割愛しよう。

 味なんて個人の好みだもんな。


 串焼きの屋台の隣に居る、クッシュさんからパンケーキの屋台を引き継いだ女の子に挨拶すると、エマさんに耳を引っ張られたのは何故だろう?

 俺ってそんなにデレデレしてたのかな?


 そう言や、もう結構な期間エメルダ雑貨店にもろくに行って無いな。エリスちゃん達は元気にしてるかな?

 他にもルシエンさんに革ジャンを新調してもらわないといけないし…あ、革ジャン着る機会は魔熊の森を抜けてキリアスに行くイベントが最後になるのかな?


 魔力を無くしたせいで、隣の領に買い付けに行く依頼も冒険者としての正式依頼は無くなったし。

 でも革ジャンは普段着にしても構わない。俺がデザインしたターミ○ーターⅡモデルの革ジャンを着た人を何人か見た。

 中には袖無しバージョンや飾りリベットを打ったモデルもあった。


 リミエンの夏はそれ程極端に暑くならないし、冬も平地で雪が降るほど冷えることはないらしい。年中小麦の栽培が出来るのは、小麦の品種と土壌に含まれる魔素と気候のお陰だろうか。


 小麦の話はともかく、タンクトップやいかにも夏物です!と言った服装は普通の服飾店では販売されていない。

 タンクトップも肩を出した服も無い。露出のある服は夜会服ぐらいなので実に悲しい。

 少なくともリミエンの通りに膝上丈のスカートを履いている人は居ない。


 アイドルグループのプロデュースに当たり、まずはこの服飾文化を破壊せねば…。

 そんなことを考えながら冒険者ギルドのドアを開けようとするが、中が何か騒がしい。厄介なトラブルかな?

 チラリと俺を見るエマさんに、

「俺は無関係だよね?」

と自信なく呟いてドアを開ける。


 中では受付カウンターの前でミランダさんと見慣れぬギルド嬢が何やら言い争っていた。

 ただ、その見慣れぬ方に俺の視線が釘付けにはなった。そして、

「採用っ!」

とつい声が出てしまった。


 俺に気が付いたミランダさんが、アンタ何言ってんの?!と言う顔をするが、こんなことを気にしてはいけない。


「クレストさん…帰って来て、のっけから何言ってんの?」

「ただいまです、が先でしたね」

「…そうだけど、そうじゃないわよ。

 何が採用っ!なのよ?」


 何を言ってんですか!は、俺の方が言いたいよ。


「そのギルドの制服…新しいデザイン?」

「そんな訳はないでしょ。この子、動きにくいからって、スカートの裾を切っちゃったのよ! こんな非常識な子、初めて見たわ」


 ふむふむ、なるほど、魔改造制服と言う訳ですな。膝小僧の見えている…いや、膝上五センチのプリーツスカートか。

 実にけしからん。これを許せないとは…。


「このスカート、駄目なの? 良いと思うよ」

「ダメに決まってるわ!」

「…そうかな? 動き易くしたんなら別に良いと思うけど」

「動き易さはともかく、はしたないわ!」


 やはりこの国には文化大革命が必要か。


「ミランダさん、クレストさんはそう言うの好きなの」

とエマさんが顔を恥ずかしそうに言うと、ミランダさんが少し固まった。


「誰にも嗜好はあるもんね。

 でもギルド職員として、それは認められません」

「勿体ない。スカートが長ければそれだけ製造コストも上がるんだよ。

 それにその人、何さんだっけ?が普通に着てるってことは、キリアスじゃ当たり前の服なんでしょ?」

「アイリスですっ!

 これぐらいの丈ならキリアスでは普通なんです!」


 キリアスからの潜入者がギルドで働いていると聞いていたので、恐らくこの初対面のギルド嬢がそうじゃないかと思ったが、正解だったな。


「ギルドがいらないって言うなら俺が貰うよ」

「ちょっとクレストさんっ!」

「あら、エマに堂々と浮気宣言かしらねぇ。やるもんだわ」


 そう言ってミランダさんが俺の左右の頬をギュッと抓り、それを見てエマさんも後ろから俺の両耳を強く引っ張る。


「おや、誰かと思えばクレスト君か。

 もう帰って来たんだ。ダンジョン、君が居ない間にかなり整備されてたでしょ?」

と騒ぎを聞いてか、ライエルさんが執務室から顔を出した。


「ギルドマスター権限で、この子のスカートをどうにかしてください!」


 ミランダさんがアイリスさんのスカートを指差すが、

「ギルド規定にスカート丈の項目は無いからねぇ」

とライエルさんは首を横に振って本を見せる。

 どうやらミランダさんとアイリスさんが言い合っている間に、ギルド規定を調べていたらしい。


「こんなスカートを認めると風紀が乱れます!」


 ここは女性は顔以外見せちゃイケないルールのある中東の国じゃないんだから、そんな考えは古いと思うんだけど。

 それに俺が見たキリアスの通りを歩く女性は、召喚者が多かったせいか現代風の衣服を着用していて、俺には違和感が無かったのだ。

 むしろコンラッドの長いスカートは民族衣装みたいで逆に違和感があるんだよね。


「ミランダ君の言い分は分かった。

 それよりそろそろ依頼から戻ってくる子達が増えてくる時間だから、受付カウンターに座ってて。

 アイリス君とクレスト君達は執務室に」


 有無を言わさぬ口調にミランダさんも仕方なく従い、呼ばれた俺たち達は執務室に入る。


「随分早く戻って来たね。ダンジョンの方はもう良いのかい?」

「リンゴの扱いを悩んでて」

「それは商業ギルド案件だ。向こうで聞いてくれないか」


 そりゃそうだ。


「貯水池でも温泉が出た話はコッチに来てる?」

「あぁ、それなら現地で作業している子達が毎日温泉に浸かりたいと言って、仮設の風呂場を作ったらしい。

 だからと言って無秩序な欲情は持たないように願いたいが」

「浴場だけに…? まぁ、それはいいや。

 そこに温泉旅館を作って、客寄せにアイドルグループの公演を行うつもりでさ」


 レイドルさん達がどこまで本気を出してくれるか、まだ分からないけどね。


「そのグループにアイリス君をと?

 一目惚れして嫁に欲しかった訳ではないんだね?」

「当たり前です!」

「なんだ、つまらん」


 一回この人の首、絞めても良いかな?

 良いよね?


「そうだったの? てっきり…」

とエマさん。そんなわけ無いでしょ!


「ほんと、ビックリしたよ」


 ルケイドよ、お前もか!


「ふむ、アイリス君にはギルド職員として働いて貰おうと思っていたのだが、どうも我の強い子でね。

 中々の考えものだったんだ。

 クレスト君が預かってくれるなら、任せてみようか」

「本当ですか!」

「ダメです! あんな短いスカートの子と一緒に居るなんて許せません!」

「そこは文化の違いなんだけど」


 俺のマネージャーさんが強固に反対してくるなぁ。

 あらためてアイリスさんを見てみると、ルケイドと同じぐらいの年齢で薄く化粧をしているが素でも美少女と言って間違いない。

 後は歌と踊りができるかどうかだな。


「えっと、クレストさんが私の身受け人になると?」

「仕事の面倒は見るけど、身受け人はやっぱりライエルさんだよ。俺だと色々問題あるからさ」

「当然ですっ!」


 エマさん、そんなにアイリスさんの事を嫌わなくても良いのに。


「そのアイドルグループって、何十人とか?」

と、ルケイドはアルファベット三文字か何処かの坂の四十八を連想したらしい。


「そのアイドルグループって何ですか?」

「露出の多い服を着て、人前で歌って踊るらしいわよ。破廉恥ですっ!」

「下着だけとか、途中で脱ぐショーで無ければ平気ですよ。

 私に事務職は向いていないんです!

 ここから出して下さい! これマジで!」


 アイリスさん的には問題無しなら第一関門は突破か。


「歌や踊りは興味ある?」

「途中で脱ぐって何よ? そんなのダメですから!」

「勿論脱がないし、お客様にはノータッチをお願いするし。

 あ、警備員も配置しなきゃ」

「クレスト兄、今は警備員の問題じゃないよ。エマさんも一旦落ち着いてよ」


 まだステージの設計も必要だとか考えている場合じゃないか。


「歌ですか? 赤ヘラですね…では少しだけ…

 アァメージングブレース~ハゥスィ~ザサゥン~♪」


 異世界語翻訳が機能しないのは、意味のある言葉ではないと判断されたからか?

 久し振りに英語を聞いた気がするが、それより彼女の歌の上手さにビックリだ。

 この曲を知っているルケイドもメッチャ驚いている。


 トンでも勇者ばかりがクローズアップされる中、こんな楽曲を残した人も居たのかと嬉しくなる。


「それはひょっとして、勇者の世界の歌なのかい?」

「はい! 意味は全然知りません! でも養母がよく歌っていたので覚えたんです」


 なるほど、耳コピで受け継がれていってんだね。そう言う風習はこれからも残して欲しいもんだ。


「これ、魔法の勇者が伝えた歌らしいですよ」


 …その情報は欲しく無かった。

 ひょっとして召喚された時に持っていた機器に入っていた楽曲の一つなのかもね。

 いや、伝え聞く限り魔法の勇者が神の奇跡に関する歌なんて聴くとは思えないから、他の誰かが持ち込んだCDか何かを再生出来るようしたと考えるのが正解かも。


「今でもその原盤は東のエルフの領地に保管されてるって話ですけど」


 バルム婆か…あの人も転生者だから、地球の文化は残したいと考えるのは不自然な事じゃないか。性格はかなり残念だったけどね。


「あ、そのエルフの依頼…『悪魔の欠片』ってやつは本当にライエルさんに任せてオッケーなんですか?」

「私には因縁があってね。どうしても滅ぼさないと気が済まない相手なんだ。

 ウチのサウザスに任せようと思って王都にプラチナバットを飛ばしてある」

「サウザスさん? 今は宮廷魔法士ですよね?」

「本人は現場に出たいといつもぼやいているよ。それに放置するとコンラッドにも被害が出る。

 実際リミエンにも一体入り込んでいたんだ」


 そのサウザスさんは知らないけど、ライエルさんが信用している人なら大丈夫だろう。

 でも宮廷魔法士か…ライエルさんって、とんでもない人を動かせるんだね。


「あ、エルフはどうでも良くて、結局私は?」

「勿論第一期生に合格っ!」

「一期生? 良く分からないけど、ありがとうございます!」


 迷わずビシッと親指を立てるとアイリスがその手を両手で包んだが、直後にその手をエマさんが振り落とす。


「私はこのミニスカ女を認めませんから!」

「クレスト兄がこうなったら聞く耳持たなくなるよ」

「クレスト君には後でエルフ領行きも頼むから、無視しないで欲しいんだが」

「エルフ領より私の未来の方が大事なんです!

 踊り子でも歌い手でも人間国宝でも何でもやるので、事務職だけは勘弁してください!」


 何かよく分かっていないけど、俺にこの子を押し付けたライエルさんもホクホク顔だし、俺も歌の上手い子をゲット出来たから、キリアスから移住してきて貰ったのは正解だったな。

 ほんと、情けは人のためならずってやつだよね…え?誰だよ、ご都合主義とか言ってるそこの貴方はっ!

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