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第91話 名前が決まりました

 アルジェンの朝チュンに起こされ、ロイが裸のアルジェンに抱き付くハプニングがあったが、まだそれはマシだった…。

 そう、今、俺はスオーリー副団長に朝の訓練を受けているのだ。


「オラオラっ! 足を止めると斬られるぞ!」


 両手剣(本物!)を笑顔でブンブンと振り回す様はまさに人の姿をした悪鬼だ!

 絶対持つ武器を間違えてるよ!

 剣じゃなくて金棒持ってる方が似合ってる!

 剣を躱すと容赦なく拳や蹴りまで飛んでくる。


「目だけ良くても儂には勝てんぞ!

 孫を抱っこさせる前に死ぬつもりか!」

「俺はおっさんの息子じゃねえ!」


 返事をしたとたんに腹にドゴッとおっさんの膝が入り、腹が裂けたかと思うほどの激痛にのたうち回る。


「ハイハーイ! 治療休憩に入るのです!」


 アルジェンが一瞬で『治癒』魔法を掛けて俺を立たせる。

 休憩時間は僅か数秒間だ。


「今度こそ、あの鬼教官にガツンと入れてやるのデス! ファイっ!」

「あの程度の蹴りを受けるとは、かなりナマっていますね。帰ってからの訓練メニューを追加しましょうか」


 鬼はここに二人も居た…。



 世界が違えば体罰だと言われるようなシゴキを受け、倒されても治療されて又倒される無限ループを味わった後の朝食は小さなバナナ付きだった…このダンジョン産だし、皆のお皿にも乗ってはいるから今夜やろうって意味はないよね?

 それともキリアスでは集団でヤル文化があるのか?

 ところ変われば何とやらだから、意外とオープンな性的環境なのかも…。


 結局俺と遊んだ副団長は、その後にルーファスさん、フリットジークさん、ベルさん、そしてブリュナーさんとの手合わせを楽しんでご満悦だ。

 これだから脳まで筋肉製の人種は嫌いなんだよ。


 その副団長は、フリットジークさんの案内で釣りに出掛け、昼に戻ってきて飯食ってからリミエンに帰るそうだ。

 俺達リミエン組はこの後すぐに出るので副団長と簡単に別れを済ませる。


 ちなみに、こちらでも釣りに出るときは麦わら帽子が標準装備らしい。


 今はビステルさんがリミエンに帰っているので、帰りは街道に出来たキャンプ地で馬車を借りることになる。

 そこに出るのに新しく出来たダンジョンを通りたいと、武闘派に成長しつつある子供達がリクエストしてきた。


 牙馬のランスとブリッジをそちらのダンジョンに入れる訳にはいかないので、エマさんとオリビアさんがダンジョン入り口で待つことにして、俺、ブリュナーさん、ロイとルーチェ、そして魔道熊猫騎士がコボルトダンジョンを通ることにした。


 ラビィ達を先頭にミニダンジョンに足を入れる。暫く続く真っ直ぐな通路を越えた辺りで小柄な人陰を見付けると、

「コボルト発見なのです!」

とアルジェンが叫ぶ。

 

「私がヤルの!」

と帯電したのかバチバチと音を立てる小さな雷を纏う手を挙げたルーチェが前に出るなり、『ライトニング!』と叫んで青白い稲妻を右手から放った。


 コボルトに向けて超高速で走った稲妻は空気を焦がした匂いを残しながら消え去り、胸を黒焦げにしたコボルトの遺体だけを残していった。


 両手を腰に当てる魔女っ子を見て、こっそりと溜息をつく。

 俺としてはロイはともかくルーチェにはお淑やかな女性に育って欲しいのだが。


「次に出て来た奴は僕がヤルっ!」

とブリュナーさんから渡された腰の剣をポンと叩いてアピールするロイの戦いっぷりは見てみたい。


 ドアを開けると遭遇するコボルトに、ワイヤーフレームで表現されたダンジョンを探索する古き良き時代のコンピューターゲームを連想する。


「二匹! 手を出さないで!」


 落ち着いた様子で一撃で一体ずつ倒して行くチビっ子剣士に、成長したなぁと感心するばかりだ。

 このダンジョンのルートは完全にロイの頭に入っているらしく、

「ここの部屋はまだ工事中だけど、次の階に続く階段が出来るそうだよ」

と言いながら、ある部屋のドアをロイが開けた。


「…なあ、下に行く階段があるよな?」


 てっきり工事現場によくある立て看板があるものだと期待したのだが、その期待を裏切るように小さな部屋の中央にポッカリ穴が開き、階段と『地下一階はこちら』と書かれた看板が設置されていた。


「昨日までは無かったのに」

「昨日も来てたのか」

「毎日来てたよ」


 コボルト相手に無敵の強さを見せるぐらいに成長していたのは、毎日ここで訓練していたからか。


「今日のところは私めが行って参ります。

 親方様達は先にキャンプ地に向かってください。二度程戦ってから追いかけますので」


 有無を言わさぬ様子でそう言ったブリュナーさんがスタスタと階段を降りていく。


「ブリュナーさんに逆らうのはやめとこうな」


 朝の地獄の訓練を思い出した俺は即座に回れ右だ。それにはロイも賛成らしい。


「パパが大人の対応をしたのです!」

「ちゃうで。あれはびびっただけや」

『あの人、クレストさんより武術の腕は上だからね』

「旨い物を食わせてくれる人には逆らわない!

 これが世渡りってやつなんだよ!」

「それは負け惜しみなのです!

 でも昨日のご飯を考えたのは、あの人らしいのです!

 逆らってはいけないのです!」

「そうやった。ブリュナーはんは、鮭を食わせてくれるんやった。ワイも従うで!」

『トマトソースパスタは美味しかった。また作ってくれるかな?』


 どうやらこの三人も食い物には勝てないようだ。よし、何かあったときにはブリュナーさんに任せよう。


 俺達がミニダンジョンを出てエマさん、オリビアさんと合流すると、子供達を牙馬に乗せてもらう。

 アルジェンとドランさんは勝手に牙馬の首辺りに飛んで行き、べったりとたてがみにしがみ付いたようだ。

 ドランさんを知らない人には、猫が馬にベタベタしているように見えるだろう。


 ブリュナーさんもこのタイミングで追い付いたので、皆で山を下り始めた。

 ラビィを加えた男性陣は牙馬の横を徒歩で進む。一度禿げ山にしたのだが、今は背丈の低い雑草が生い茂って茶色い山肌が淡い緑色に模様替えを終えている。

 フカフカの芝生なら遊ぶのに良いのだが、残念ながらこの山の表面は土が流れてゴツゴツしているので、斜面を滑り降りるアクティビティには向いていない。


 結構な早さで山を一気に下り、丁字路に出来たキャンプ地に一度小休止の為に立ち寄った。

 俺はこのキャンプ地に入るのは初めてだが、他の皆は一度は来ているみたいで元軍曹のムーライ管理人に笑顔で挨拶していた。


「昨日、スオーリー副団長殿がダンジョンに向かわれましたが無事に会えましたか?」

とブリュナーさんにムーライさんが聞き、ブリュナーさんとムーライさんが何か話を始めた。


 二人から離れて街道を見ていると、リミエン方面から真新しい馬車が二台入ってきた。

 一台目の御者台に居るのは、たしか鋼材店で会ったお兄さんだ。二台目の人は知らないが、多分鋼材店の人なんだろう。


 馬車を止めると、御者台から降りてきたお兄さんが俺に挨拶をする。


「クレストさん、おはようございます」

「あ、おはようございます。たしか『ラファクト鋼材店』の…」

「グレックだ。

 で、この馬車は量産型カラバッサの試作機だ」

「もう形になったんですかっ!」


 材料をタイタニウムから鋼に変更しただけだと思われるかも知れないが、一品物と量産機では細かな違いが出てくるものだ。

 そこには生産性の向上だけでなくや耐久性、信頼性の向上も含まれる。

 勿論メンテナンスのし易さも要検討事項である。


「今は耐久性の検証中だ。

 ビステルさんとうちの錬金術師が作った足回りのお陰でかなり衝撃を吸収出来るから、耐久性も上がってるだろうな」


 ゴムタイヤ擬きとオイルを封入したサスペンション装備だから、衝撃が減るのは当たり前。

 そのサスペンションとベアリングは高精度の金属加工技術が必要なので、今のところビステルさんにしか作れない。

 その状況を打破する為に技術の進んでいるキリアスの人達を移住させることにしたのだが、これは大きな声で言うつもりはない。あくまで結果的にそうなったと思わせるように仕向けるつもりである。


「後は貯水池迄みたいに道路を綺麗にしてもらえれば、時短になるんだがな。

 あぁ、この『アイアンホース』も普通の馬車の一割半近くは早く走れるぞ」

と嬉しそうにグレックさんがカラバッサ擬きの車体をポンと叩く。


 何のひねりもない名前だな。もう少し捻った名前が欲しいものだ。


「アイアンホースなんて可愛くないですよ!

 勿論仮称ですよね?」

とバッドなネーミングセンスのエマさんがクチバシを突っこんできた。

 何故エマさんがカラバッサ擬きのネーミングに参戦してきたのか不明だが。


「カラバッサじゃなくて、何か良いアイデアがあるのか?」

「まだ無いです。でもアイアンホースは駄目です。堅すぎて女性に嫌われます!」

「…そう言うもんか?」

「おれに聞くなよ」


 確かに女性受けしないのは間違い無いだろうが、馬車を購入するのは男性客の方が多いだろう。

 女性受けするネーミングは必要無いと思って良いのでは?


 いや、同じような性能の自動車なら、デザインやネーミングは重要だし、既婚者ならパートナーに相談ぐらいはするかもな。

 そうなると、ネーミングも多少は女性受けを狙っても良いのかも。


「何か候補はあるの?」

「えーとね…カラバッサは野菜ぽいからもう少し馬車っぽいのが良いかな。

 例えば…ハチロークン、ゼットンとか、スイカラインとか…」


 よく色々思い付くな。スイカラインには笑ったけど。

 

「ママ!ズルイのです!

 私も名前を始めとして出すのです!」


 ランスの首に停まってじっとしていたアルジェンが突然パタパタ飛んで来て、参戦を表明した。当然初めてアルジェンを見たグレックさんは驚いていたが、アルジェンは気にしないらしい。


「ポルチェ、ムスタンヌ、…とかどうなのです?」


 二人とも割と自動車に関連した名前を出してくるなぁ…でもパクリ感がどれもある。


「パパならどんな名前を付けるのです?」

「女性受けしそうなく名前だよね。

 フランチェス、ティーノ…いや、カラバッサって繭っぽいからコクーンとかココンとか」


 試作機の外装が白っぽく塗られていて繭っぽいのだ。どちらも繭を扱う企業の名や商品名に使われていそうだから、受けは良いと思うのだ。


「ココンはパッとしないが、コクーンなら悪くないな」

「コクーンよりラクーンの方が可愛いイメージね」

 

 確かに可愛いけど、馬車にアライグマって付けるのはどうなんだ? 


「ラクーンか。少しラクラクなイメージもあってカラバッサ擬きに合っているし、韻も悪くないな」

と何故かグレックさんにもアライグマは好印象のようだ。

 ハチロークンに比べれば遙かにマシだけど、俺的にはハチロークンも嫌いじゃない…本家に比べるとめちゃくちゃ遅そうだけど。


「オヤジにラクーンで良いか聞いてみるか。

 …で、その羽根の生えてるのは妖精か?」

「私はアルジェン! ママとパパの娘なのです!」


 妖精かと聞かれてるから、それだと返事になってないぞ。グレックさんも微妙な顔をしてるし。


「娘なのか。随分チッコイのが生まれたんだな。さすがクレストさんだ」


 …それ、マジで言ってるの?


「そんな訳あるかい。アルジェンはダンジョン生まれの妖精みたいなもんだよ。

 懐いているから家族扱いしてるけどな」

「ワイもおるで!」

『僕も居るよ!』


 ラビィとドランさんまでやって来て、ついでにルーチェも遊び始めたから出発まで暫く掛かりそうだ。


「それで、もう一台のラクーンに乗ってるのは?」

と御者台から降りてこない人をそっと示す。


「ああ、あの人は輸送業ギルドの幹部だ。

 ラクーンの実地試験で付いて来たんだよ。ラクーンを貯水池までの送迎用に使うかどうか調査するんだとさ。

 ラクーンは新機構を搭載してるから、ギルドも少々神経質になってんだよ。式典の途中で壊れたら恥ずかしいだろ?」


 そう言うことなのか。

 カラバッサは強度が十分あるタイタニウム製だから故障は少ないだろうが、鋼鉄製のラクーンのステアリング機構は信頼性が少し落ちるからな。


 ここでアレニムさんにアルミニウム合金を作って貰って、伯爵用の車両を作ることを打ち明けたらどうなるかな?

 まだアルミニウムの生産には着手出来ていないから、やっぱりそれがスタートしてからにしておこう。

 早いとこアルミニウムが欲しいぜ!

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