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第88話 合流するオッサン

 工場の中でアルジェン絡みのちょっとしたトラブルが発生したが、取り敢えず本人達は遺恨を残していないようで一安心。


 ルーファスさんが何か問いたげに俺を見るがスルーしよう。

 アルジェンが設置したのは木材と金属の加工工場で、小規模ながら溶鉱炉も併設されている。


「なんで工場の中に溶鉱炉なんて設置したんだ?

 熱くて他の加工作業なんて出来ないだろ?

 別の建物に設置したほうが良いんじゃないか?」


 製鉄エリアと工作エリアの間に仕切りはあるが、熱が伝わって室温は馬鹿みたいに上がる筈だ。

 どう考えても溶鉱炉なんて別の建物に設置すべきだとルーファスさんに意見してみる。


「それなぁ、俺も最初はそう思ったんだけどな。

 その溶鉱炉は特殊な岩石製の魔道具で、断熱性能が尋常じゃない。

 部屋の温度は銑鉄を出した時にしか上がらないんだ」


 溶鉱炉が魔道具だって?

 ちょっと意味不明なんだけど。


「かなり古いもので原理は全然分からん。

 恐らく魔法の勇者の時代より前に作られたもんなんだろう。

 ロストテクノロジーってやつだ。

 当然動かすのには結構魔力を食うが、魔力を少しずつ溜めていける機能付きだ」


 魔法の勇者が魔道具開発の第一人者だと聞いていたが、それより前の時代には魔道具の技術ってもっと発展してたと言うことか。

 それは完全に初耳だ。


「キリアスの五大勢力の連中は、何らかのロストテクノロジーの魔道具を持っている。

 この溶鉱炉みたいな、直接戦闘に用いるような物じゃなくて生産系のやつをな」


 なるほど、長期間に渡り内戦状態にありながら、未だ滅びることのないキリアスを支えているのはロストテクノロジーだったのか。

 ダンジョンで採れる食料だけでは不足すると思っていたので、やはりと言うべきか。


 羨ましいと思う反面、そんな便利な物があるせいで戦乱が続くとなると、技術って進歩すれば良いっていうもんじゃないんだなとシミジミ思う。

 この世界にはまだ無いようだけど、火薬や核がその最たる物だよね。


 鋼鉄王の所にもこんなチートな溶鉱炉は無かったのだろう。

 興味を持ったアレニムさんが担当者にアレコレ質問を始めたようだ。


「製鉄関係はアレニムさんに任せれば良いんだな?

 国に返すつもりは無いんだろ?」

「あの様子を見ると、帰れと言っても居座りそうだよね」


 まるで新しい玩具を買ってもらった子供のように溶鉱炉にベタベタ触れては嬉しそうに顔をする魔族の王子…王子ではなかったな。

 まぁ本人がここで作業をやる気になったのなら、そう悪いようにはならないだろう…多分ね。


 アレニムさん達以外にも、工場の中には設置された機械を試運転する作業員が何人も騒いでいたので、

「お前ら、適当な時間で切り上げろよ!

 もうすぐ晩飯だぞ!」

とルーファスさんが怒鳴って工場を後にした。


 その後ろを魔猫騎士ドラジェンの二人組が機嫌良く付いて歩く。

 猫に乗る美少女フィギュアか…こんなの売り出したら馬鹿売れしそうでヤバいな。

 ガバルドシオンで売り出そうかな。


 そうか、芸術家の卵に食玩みたいなフィギュアを創ってもらえば、それも商品として十分通用するな。

 ドラジェンをシリーズ展開して…漫画家も育成しなきゃいけないか。またやりたい事が増えてしまった…どうしよう。


 優先順位は低い筈なのにドラジェンの企画が頭の中の大半を占め、他のことが頭に入らないまま夕食の支度をしている調理場に入る。

 今日収穫したアテモヤをマジックバッグから出して、調理のおばさん達に渡すためだ。


 見たことの無い不細工な外見の物体を目にした一人が邪魔するなと言いたそうな顔をする。

 まぁ当然だな。

 赤やオレンジ等の暖色系か、葡萄やブルーベリー等のようなアントシアニンを連想させる紫系が美味しそうに見えるもんね。


 そんなおばさんの刺すような視線は無視して、まな板に乗せたアテモヤを包丁で勢い良くバッサリ!

 二つに別れた瞬間から梨のような甘い香りが漂い、思わずゴクリと唾を飲む。


「クレスト様! その果物は一体何ですかっ?」

とさっきまでの視線が一転、蕩けたような視線に変わったおばさんがドタバタと詰めよってきた。


「これはアテモヤ。横っ跳びする白い猿も大好きな果物だよ」

「横っ跳びする猿? 魔物です?」

「そうだよ。危ないから一人で採りに行かないでね」


 そう言って六等分の櫛切りにしたひとつをおばさんに渡し、俺も自分の分を一口パクリ。濃厚な甘さと程よい酸味があり、洋ナシに似た味と舌触りは大人も子供も大好きな筈。

 味見したおばさんも目を丸くして、その旨さにビックリしてる。


 本来なら大きな種があるはずだが、このアテモヤには種が無かったのはダンジョン産だからかな?

 種が無いという事は、ダンジョンの外に植えて増やせないってことになる。つまりこのダンジョンの特産品にできる訳だ。


 今日は頑張って三百個弱収穫したが、今からカットしていては晩御飯には間に合わない。

 調理のおばさん達は三十人で千五百人の食事を用意しているのだから、鬼のように忙しいのだ。

 美味しいからと言って、今から追加でカットを頼んだら間違いなく刺されるだろう。


 それにしても、よく短時間でこれだけ大きな調理場をこしらえたものだ。

 炊き出し用の大鍋やフライパンがズラリと並んでいるが、一体何処から調達したのだろう。

 まさか領主軍の備品とか言わないよね?

 後でリミエン伯爵様からレンタル料の請求書が来ないことを祈っていよう。


 マジックバッグごとおばさんに渡し、いつか晩御飯のデザートに出してくれとお願いして調理場を出ると、

「マイク、テステス、聞こえますか!

 クレスト様、クレスト様! お客様がお見えになられております。

 ミハル村管理棟までお戻りください!

 繰り返します…」

と拡声器で俺を探す声が聞こえた。


 便利な物を作ったもんだと感心しながら、幹部が集まる建物が管理棟だと当たりを付けて急いで向かった。


 二階建ての建物に入ると、いや、入る前から聞き覚えのある豪快な笑い声が聞こえてくる。

 一瞬だけ回れ右をしようかと馬鹿な考えが脳裏に浮かんだが、それでは問題解決にならないと諦める。


 ドアを開けると視界に飛び込んで来た大きな怖い顔が、

「お、クレスト来たか!」

と笑顔を向けた。

 勿論スオーリー副団長だ。


「おっさ…スオーリー副団長、ようこそおいでくださいました」

「ここではおっさんで構わんぞ。煩い連中は皆リミエンに置いてきた」


 お目付役が必要な副団長って問題じゃないの?

 まぁお陰で気楽に話せるのはありがたいけどさ。


 管理棟にはブリュナーさんと子供達を除いてリミエンから来た関係者一堂と、ルーファスさん達幹部が全員集まっていた。

 コンラッド王国軍の重要人物がわざわざ来てくれたんだから当然だが、部屋がめちゃくちゃ狭い。


 副団長が猫の姿のドランさんを頭に乗せ、アルジェンとラビィを左右の肩に乗せてご満悦なのはこの際どうでも良いことにしよう。


「パパ、来るのが遅いのです!」

とアルジェンからいきなりのダメ出しだ。


「悪い悪い、今日見付けた果物を調理場に預けてきたからな」

『クレストさんがわざわざ採ってきたの?

 それって特別な果物?』

「今夜のご飯には間に合わないけど、そのうちデザートに出してもらえるから期待してて」

「楽しみなのですっ!」


 果物で釣れるとはチョロい妖精…擬きの魔界蟲だ。元のワームみたいな見た目だと、果物なんて食べそうにないのに不思議なもんだ。


「それは儂に味見をさせてくれんのか?」

「ここではみんな同じ物を食ってんだよ。

 副団長でも抜け駆けはダメ!」


 食料が十分でないのだから、王様だろうと何だろうと特別扱いは出来ないのだ。

 残念ながらブリュナーさんは料理に手間を掛ける為、大量に作るには向かないのでここでは料理を作らないことにしているようだ。


「スオーリー殿は副団長…ですよね?

 大将は『おっさん』呼びしてるが、大将とはどんな関係なんです?

 その呼び方で不敬罪には?」

とルーファスさんがそう疑問をぶつけてきた。しかも慣れないのが分かるような丁寧な口調だ。

 俺と副団長の遣り取りを見て、他のキリアス組も揃って不思議な顔をしている。

 

「クレストは出来の悪い息子みたいなもんじゃ。初対面で儂にビビらんかったから可愛がっておるんじゃ。

 こんなクチのきき方をするのはクレストぐらいなもんじゃ」


 へぇ、一応自分の顔が怖いと自覚してんのか。


「それだけか…ですか? 親戚とかじゃなくて」

「こんな親戚がおったら大迷惑確実じゃな」

「…それはそうだ…うちの大将だし」


 俺のどこに納得する要素があるのか少々問い詰めてみたくなるが、無用な精神的ダメージを食う恐れがあるのでやめておこう。


「クレストが非常識なのは皆が知っておる。

 何をやらかしても誰も怒らんだろ?」

「そんなもんなのか……ですか」


 ルーファスさんの喋り方に違和感があり過ぎる。

 本人はいたって真面目なんだろうけど、見ていてつい軽く笑ってしまうと、

「…全くコイツは。少しはルーファスを見習え」

と呆れた顔の副団長から小言を貰ってしまった。


「パパはゴーイングマイロードなのです!」

『それは誉めてるのか、けなしているのか。

 クレストさんの魅力は相手によってそれほど態度を変えないところだね』

「結婚してからは付き合う連中が変わるのは理解しておるのか?

 少しは喋り方を気にせんと痛い目に遭うかも知れんぞ」

「善処します…なるべく」


 エマさんを嫁に迎えるなら、ヒューストンさん絡みの貴族階級の人達と話す機会が来るかも知れない。

 エマさん達に恥をかかせないように、今から気を付けるようにしなきゃ…でも副団長相手に敬語を使うのは無理!

 だってマル暴の人にビビってるみたいで負けた気になるからさ。


「クレストのアレコレは置いといてだ…それにしても、国に内緒でこんな面白い事をやっとるとは許せんのぉ」

と副団長が四角い顎を撫でながら何か考えている。


「伯爵様から連絡は行ってないのか?」


 まさか必要な報告が出されていないのか?

 それとも単に早馬か何かがまだ届いていないだけなのか?


「ダンジョン発見の報告は義務じゃし、リミエン伯爵からの報告は王宮に届いておる。

 じゃがダンジョンに住むことも開拓も想定外じゃからなぁ。

 報告の義務は無いわい」

と答えが帰ってきた。

 俺が言うのはおかしいけど、義務じゃないから報告しなくて良いって単純な話じゃないと思う。

 何かあったら、なんで言わなかったんだと文句言われることって多々あるもんね。


 このダンジョンは訳ありだから、人が住むことも出来るし、畑も作れる。

 雨風を気にしなくて良い分、むしろ逆に最高の住環境かも知れない。

 他のダンジョンだと一時的に隠れ住む人は居るかも知れないけど、普通は定住なんてしないから法律も何も無いのは当然だ。


「ダンジョンを発見した後に、手に負えんようになってから王軍に泣きついてくる馬鹿な領主がまれに居るがのぉ。

 そうならんように、常に魔物は減らしておけよ。言わんでも分かっておると思うがの」

「勿論だ、です。

 冒険者ギルドからの依頼も入る予定です。既に仮の出張所も出来て、担当者も来てくれていますから」


 冒険者ギルドの受付嬢の制服を着た女性がそこで頭を軽く下げる。俺の知った顔ではないので、新しく雇ったのかもね。


「もし、このダンジョンが氾濫を起こせばお主らが被害に遭うだけでなく、リミエン伯爵がよその領主から無能扱いされるじゃろう。

 ここは…事情が事情じゃから、確実に伯爵のすげ替えになるだろう。

 お主らはここに住むことを認めてくれた伯爵に恥をかかせんように励むことじゃな」

「ええ、勿論そのつもりです」


 副団長がルーファスさん達にそう釘を刺す。

 恐らく各ギルドの出張所が出来ているのは、単に支援の為だけではなく、監視の意味合いもあるのだろう。

 領主軍の派遣は期間限定であり、撤退後もリアルタイムに近い情報収集を期待して出張所を設置させたに違いない。


 少し大人の事情の裏側を勘ぐっていると、ここでエマさんの横に並んで座っていたオリビアさんが手を挙げた。


「キリアスや他国の住民が一度に大量に移住してきた場合、何かしらの規制や義務みたいなのは生じるのですか?」

「集団移民などコンラッド王国が出来てから記録に無いしのぉ。

 冒険者みたいな連中が少人数で移住してくることはあるが、一度に大量にと言うのは想定外じゃ。

 じゃが人数が多かろうがお主らは住民登録が終わっとるのじゃから、もうコンラッド国民となんら違うことはない。

 実際には市民権と言うコンラッド独自のルールがあるが…」


 副団長が俺をちらりと見る。

 多分俺が伯爵様から市民権を貰ったことは知らないんだろう。


「俺は昨日、伯爵様から第三級市民権を貰ったから」

と少々複雑な心境で報告すると、エマさんがパッと顔を明るくさせた。

 やっぱりその事は気になってたのか。


「やっとか。嫁に貰うのがエマ殿なら当然じゃな。

 お主らが宝石店に二人で入ったのも聞いておるぞ」

「それ、今言うことかよ?

 あれはブリュナーさんへのプレゼントついでに、家族皆にお揃いのペンダントを作ったんだよ」


 エマさんとオリビアさんが同時に胸元に視線を送るのを見て、

「ん? ほぉ、同時に二人娶るのか。それでこそクレストじゃ!」

と副団長が大きな勘違いをして大声で笑う。


「いや! そう言う家族じゃなくて…そう、これは仲間の印だよ!」


 オリビアさんには恥をかかせることになるが、ここは断固否定せねば。俺にはハーレムルートなんて存在しないのだから。


 オリビアさんがスッと立ち上がると、

「スオーリー副団長、クレストさんは今のところ私を娶るつもりはありませんよ。

 それは私も承知しております。

 このペンダントはロイ君、ルーチェちゃん、ブリュナーさんとメイドのシエルさんも持っています。クレストさんの言う通り、仲間の証とお考えくださいませ」

と言うと、静かに椅子に座る。


「ふぅむ、そう言うペンダントなのか。それなら高価な隊員証のような物だな。

 勇者の世界にはカップルがお揃いのアクセサリーを付ける習慣があるそうじゃしな」

と半分納得、半分不服そうな表情で副団長が腕を組む。


「じゃがなぁ、第四級にしてマーメイドの二人も一緒に娶るのが…」

「だから俺にハーレムはいらないのっ!

 なんでそう言う発想になるんだよ?」


 金持ちにはバンバン子供を産ませて消費を増やそうって言う、経済的側面からハーレムを推奨する雰囲気がこの国にはある。

 意図は理解出来るが、俺の倫理的には完全NGだ。俺は漫画や小説に出て来る主人公とは違うのだ。


「お前は金持ちだし、甲斐性もある。魔力は無くともその妖精やドラゴンも連れておる。コンラッドでも注目度はナンバーワンじゃ。

 そんなお前には、今後幾らでも押し掛け女房がやって来る可能性が高いんじゃろ。

 それなら先に第四級の婚姻枠を埋めておく方が厄介払いがラクになるぞ」


 その副団長の言葉にオリビアさんが『あっ!』と言う顔を見せたのだが、まさかそんなつもりは無いよね?

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