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第86話 最後の捕虜は…

 森の中で白くて可愛いベローシファカとアテモヤの奪い合いになり、自分の弱さを思い知らされた。

 まさか異世界で横っ跳びする猿と遭遇するとは予想外だ。次に遭遇するのはワオキツネザルを希望する!


 それからルーチェが稲妻使いにクラスチェンジしたと知り、将来がかなり不安になってきた。まさか発電所勤務はしないだろうね?


 子供達には心配掛けさせないようにと気遣ったのか、俺が迷子になったと話しているみたいだけど、普通なら一ヶ月は掛かる逃避行だから迷子設定は無理じゃない?

 ドランさんのお陰でこんなに早く帰って来られたから良かったけどさ。


 子供達と暫く手を繋いで歩いたが、村が近付くと嬉しそうに二人が村へと走り出した。村の人達と仲良くやっているみたいでホッとする。


 丁度良いとばかりに迷子の話を聞いてみると、グレン皇帝との戦闘は無かったことにして、転送ゲートが閉じる時間になっても俺が外で遊んでいて閉じるタイミングに間に合わなかったことにしたそうだ。

 かなり情けない設定に涙がちょちょぎれる。

 アルジェンと口裏合わせが必要だが、誰かその設定を教えているのかな?


 俺の帰還を聞いてか、ミハル達の伐採組とベルさん達の討伐組も先に戻って村の入り口で俺待ちしていた。

 俺の顔を見て安心した顔を見せただけのベルさんは流石大人だと思う。


 ゲラーナと先に戻っていたアルジェンとドランさんには、ルケイドから迷子設定の話がされていたようで、子供達相手にしっかり大根役者ぶりを発揮してくれた。

 

 妖精設定のアルジェンと水晶の仔猫の姿をしたドランさんは子供達に大人気となり、すぐに大勢の子供達と仲良く遊び始めた。

 子供達がワーッと歓声を上げながら傍から離れて行ったので、これで真面目な話が出来るとホッとする。


 一緒にキリアスに機械の回収に行ったルーファスさん、フリットジークさん、ベルさん、ルケイドの四人とプラスしてオリビアさんとブリュナーさんにキリアスでの出来事を説明する。

 エマさんは冒険者ギルドの担当者とお仕事の話をしているので、この場には居ない。


「サシでキチガイ皇帝とヤリ合って生きて戻れるのは大将か鋼鉄王ぐらいだぜ。

 それにダンジョン管理者と話が出来るなんて、やっぱり妖精って凄いんだな」


 アルジェンの生まれた経緯を知らない人達には、あの子のことは妖精ってことで押し通す。

 秘密を知る人数は少ないに越したことはないからね。


 そんな話をしていると、運ばれていた丸太の前に伯爵様の派遣している軍の人と林業ギルド、商業ギルドの担当者が集まり何やら話を始めた。


 心配したルーファスさんが話を聞きに行くと、どうやら木材輸送用の荷馬車が足りないとのことだった。

 それだけ伐採のスピードが早いってことだろう。


「いっちょ木材運搬用の台車を作るか。

 大将! 回収した工場を出してくれ!」


 工場や機械はアルジェンのアイテムボックスに収納されているので、子供達と冒険者ごっこで遊んでいるアルジェンを指差す。

 彼がしばらくその様子を見て、急がすのは諦めたようだ。


 それとは別に、捕虜を収容している建物から男性が一人出て来ると、

「今日空中散歩をした捕虜が正気に戻りました」

と報告した。


 最後の一人は中々改善の兆しが見えなかったそうだが、今日はゲラーナの飛び方が良かったのか、普通に会話が出来るまでに回復したそうだ。


 まさかと思うけど、何度も地面にぶつけられた衝撃で治ったんじゃないのか?


「これで捕虜収容所は不要になるな」

「考えたくないが、悪さをした奴が居れば閉じ込めておく施設は必要だ。治安維持部隊の詰め所に流用するか」


 フリットジークさんとルーファスさんとが捕虜収容所に向かいながらそんな話をしていた。

 今は移住したばかりで皆が生きるのに必死だけど、いずれは仲間の中から犯罪者が出ないとは限らないからね。

 複雑な気持ちになりながら正気になったばかりの捕虜に会う。


「自己紹介は出来るかい?」

とルーファスさんが尋ねる。


「鋼鉄王デュークアードが第六王子アレニムだ。現状、俺は捕虜の扱いを受けていると思われるが、貴様らはグレンの手下か?」

「鋼鉄王んとこの息子だとっ!

 こりゃ、大物を引き当てちまったな」


 思わず頭を掻くルーファスさんだが、俺も気持ちは同じだ。


「俺はルーファスだ。数年前にグレンの遣り方に嫌気がさしてジー君と出奔した。名前ぐらいは知ってるだろ?」

「ルーファス…『貫きのルーファス』か?」


 鎧を着ててもダメージを与える技の持ち主だから、貫きの二つ名が?

 けど、俺ならダサくてノーサンキューだ。


「かっこ悪いから、そう呼んでくれるな」


 おぅ…本人もやっぱりイヤなんだ。


「ここはレジスタンスのアジトなんだな?」

「いや、コンラッド王国にあるダンジョンの中だ」

「コンラッド? 随分遠くだな…まぁ良いか。

 それで捕虜を取ってどうするつもりだ?

 分かっていると思うが、グレンにとって俺は価値はない。

 オヤジは…分からん。喧嘩別れして家を出たからな」


 見た目は三十代前半に見えるが、鋼鉄王の息子ってことはバリバリの魔族だから見た目年齢は全くアテにはならない。


「アレニム王子、初めまして。

 冒険者のクレストです。

 つい先日、ダンジョンに出来た転送ゲートを通ってキリアスに入り、鋼鉄王様と東方地域を支配しているバルム婆の二人に会ってきたばかりでな」


 アレニムさんに会釈をしてからそう話し掛けると、不審そうな顔を向けられた。

 そりゃ、そんな都合の良いことがある訳ないと思うだろう。


「バルム婆に、国境の森に潜む魔物退治を頼まれている。

 それが終われば報告しに行くんだけど、一緒に来る気はないか?

 王子なら鋼鉄王様の領地に戻って欲しいんだ」


 ぶっちゃけて言うと、どんなトラブルを起こすか分かったもんじゃないから王子なんて身分の人にはここに居て欲しくないのだ。


「バルムとオヤジは犬猿の仲だ。俺が行けばよけいな争いが起きるぞ」


 今までならその可能性は高かったかも知れないが、今ならバルム婆が鋼鉄王と融和路線に舵を切るつもりになっているので話が変わってくる。

 が、それを言っても簡単には信じて貰えないだろう。


 それにバルム婆と部下との考えが違っている可能性もある。

 精神体の魔物退治はリミエンとしても必要なことなので早めに実行するとして、バルム婆の所の状況も確認しておかないとマズイだろう。

 確かふんぞり返った大臣がどうとか言ってたから、やっぱり融和路線は出来ませんって結論になってるかもしれないもんな。


「それは先に俺が行って確かめる。

 バルム婆って政治には無関心で部下に何もかも丸投げしてるらしいから」


 でもバルム婆に会うと、その流れで鋼鉄王の所まで連れて行かれそうだから本当は行きたくないんだけど。

 ライエルさんが精神体の討伐をヤルって言ってくれたから、その後のことも丸投げするつもりだったし。


「ちなみにだが、アレニムさんって何か特技はあったりする?」

「錬金冶金のことならそれなりに分かるが、戦闘はまるっきりダメだ」


 アレニムさんの見た目は何処にでもいるオッサンを少し格好良くした感じだ。

 ザ・脳筋の鋼鉄王の息子とは思えないが、第六王子ともなると家督争いにはそれ程関わらず悠々自適の生活を送っていたのかもな…実に羨ましい。


「錬金冶金なんてのがあるのか。それなら鉄より軽くて丈夫な合金とか作れるの?

 出来れば三分の一ぐらいの比重で」

「ここにある炉と原石次第だな。

 お勧めはアルミンと言って銀色で軽い金属だな。合金にすれば強度が出る」

「マジっ? アルミ合金が作れるのかっ!

 それなら国に帰ると言わずにずっとここに住んでくれ!」


 アルミン合金と聞いて思わずアレニムさんの肩をガシッと掴んでしまった。俺が一番欲しい金属だよ!

 俺の急変ぶりに肩を掴まれたアレニムさんだけでなく、ルーファスさん達が唖然としたが、この人を無くす訳にはいかないのだ。


「大将、さっきは王子に国に帰れと言ってたよな?

 その何とか合金がそんなに価値のある物なのか?」

「当たり前だよ! その金属があれば生活が一気に変わるぞ!」


 軽くて錆びないってことだけでもアルミンの利用価値は多い。

 それがアルミン合金まで作れるのなら、アルミン合金フレーム製の馬車だって可能になるんだ。技術大革命が起きるようなもんだよ。

 そのアルミンと言うのがアルミニウムのことならば、だけどな。


「アルミン製錬には錬金の腕前がかなり必要だ。

 しかも粉を吸い込むと肺に異常をきたす。少々扱いが厄介だが、それでもやるのか?」

「技術の進歩の為には少々の犠牲は…と言いたいが、防毒マスクを作る予定がある。

 もしアルミン合金の材料が揃うなら、マスクが出来次第、生産に入って欲しい」


 ジョルジュさんの船がいつ戻ってくるかな?

 もうソロソロだと思うんだよな。椰子の実を燃やした灰が活性炭に使えると期待してるんだよ。


「念の為に聞くが、ここはルーファスが仕切っていてクレストはただの冒険者だろ?

 ルーファスはコイツの言う通りに動くのか?」

「キリアス組のリーダーは俺だが、この場での大将はクレストさんだ。

 たまに頭のおかしいと思うようなことをやらかすが、俺らは温かく見守りながら付いていく」

「それ、貶してないよね?」

「…さて、体調に問題無ければ独房から出てくれ。一度部屋を掃除する」


 明らかに急に話題を捩じ曲げたよね?…気にしないけど、まさか本気で貶されたのか?


 少しいじけている俺には構わず、独房から出たアレニムさんが大きく背伸びする。

 今のところはおかしな様子は見られないが、魔薬の影響ってそう簡単にゼロになるのかな?

 魔力的な要素が強くて、一度抵抗に成功すれば効果が消えるようなものならラッキーなんだけど。


 先に回復した三人も、今のところ変わった様子は見られないからそれ程心配しなくても良いのかも知れないが、未知の薬を使われたのだから何が起きるか分からないと考えておくべきだろう。


 いざという時にはルケイドが作った麻酔薬を使うそうだが、病院に麻酔科があることでも分かるように、人を強制的に眠らせるのは危険が伴う行為であり、無闇には使ってほしくない。


 ちなみにこの捕虜達が寝泊まりする場所は今のところ此処しかないので、夕食後は収容所に逆戻りするとのことだ。

 まだ住民の住む家も揃っていないのだから、捕虜なんて後回しになるよね。


 時刻も夕方になり、天井の光石から差す光が弱まってきたころ、コケコケコケと騒がしい鶏の群れがバタバタと飛びながら村に戻ってきた。

 その群れを追うように子熊モードのラビィが走ってくる。ひょっとして牧羊犬的なポジションなのだろうか?


「あんちゃんやっ!」


 そのラビィが目敏く俺を見付けるとダッシュで俺の足下にやって来て、ハアハア息をしながら体をスリスリ。

 ハアハアしてるのは走ってきたからであって、興奮とか発情している訳ではない!


「そや、あんちゃん!

 ちょっと遠いんやけど、大きい川があってな。そこに魚がぎょうさんおったんや。

 あれ、養殖したら食べ放題にならへんか?」

「養殖するなら、それ用の水路やプールが必要になるけど…広い場所が必要だから結構魔力食いそうだ。

 アルジェンからお願いしてもらおうか。

 どっちみち水路は頼む予定だったし」


 どんな魚が居たのか知らないけど、養殖に成功すればキリアス組の収入アップに繋がって結果的にリミエンからの援助を減らすことになる筈。

 そう言うカードは少しでも持たせておきたいよね。


「お願いとは何だ?

 誰に頼むんだ? 領主か大臣か?」


 アレニムさんが俺達の会話に聞き耳を立てていたようで不思議そうに聞いてきた。


「それは企業秘密。教えても信じられないだろうし。

 ドラゴンに頼むようなもんだと思ってよ」


 魔界蟲さんはドラゴンではなく細長いワームだけどね。胴体だけなら東洋の竜に似てるか…。

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