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第80話 危険な会合

 アルジェンが俺の体の異変を察知していた…エマさんにアレをやるようにとアドバイスし、エマさんもその気になっている。


 倫理観が少し違う世界だから婚前交渉に対する抵抗が薄いのも頷ける。

 後は俺が納得するかどうかの問題だ。


 それはさて置き、ドランさんがコーラ擬きを飲んだのが原因なのか、それとも丁度そのタイミングだったのかは知らないが脱皮を始めてしまった。

 脱皮が完了するまではダンジョンに向けて出発出来ないので、冒険者ギルドに帰還の報告をしに行くことにした。


 ライエルさんから換金性の高い品物が欲しいとお強請りされたが、アイテムボックスが使えなくなった俺はマジックバッグに入れてある物の中から探すしかない。

 サッと目に付くものでこれと言って価値のありそうな物は無い。


 アルジェンはドランさんが心配らしくて家に残っているから、アイテムボックスの中の物も漁れない。


「けど、ウチもお金が足りない時は商業ギルドから借り入れてるから。

 レイドルに現金を渡してくれて構わない。

 手間を考えたらそっちの方がラクかもな」


 …それなら最初からそう言って欲しいと思うが、これがライエルさんのペースだから仕方ない。


「お金の話は置いといてだ。

 エマ君からダンジョンの現状については聞いているだろ?

 君が計画したように、あのダンジョンは木材の生産拠点として活用させてもらうが、木材の買い付け自体は当初の予定通り行うので君にも動いてもらいたい。

 それに貯水池周辺の開発状況の視察もある」

「それにマジックハンドコンテストの進捗状況も確認してもらわんとな。

 他にもガバルドシオン雑貨店の献上品もある。

 吞気にダンジョンに籠もっている暇は無いぞ」


 それだけ言われると優先順位が分からないぞ。俺としては、ダンジョン優先で行動したいんだけど。


「あの、木材の買い付けですけど、今のクレストさんの冒険者の評価って変わりませんか?

 魔力が無いので護衛任務を出すのはどうかと思うのですが」


 極力、アルジェンが魔法を使えることを知られないようにする方針であり、そうなると俺の戦闘能力は一般人並だと思われるだろう。

 それだと冒険者として請けられる依頼はかなり限定されてくる。


「以前にも出た、戦闘能力と信頼度のランクを分けるって話になるな。

 考えるのが面倒だ…よし、お前は冒険者を引退して商業ギルド一本に絞って活動すれば問題解決だ」


 レイドルさんがしてやったり!と言う顔をすると、ライエルさんがそっぽを向いた。


「クレスト君は冒険者ギルドの若手から人気があるんだ。それならウチの職員に採用だ。

 それに魔力が無い状態はいずれ修復される筈だからさ。冒険者を引退する必要は無い」


 おっさん二人からラブコール受けてもなぁ…。


「それならクレストさん、クランを設立しませんか?」

とエマさんが提案してきた。


 クランとは冒険者がパーティーの垣根を越えて結集した一つの団体で、正式に認可されている制度ではない。

 仲の良いパーティー同士が合同で依頼を熟す内に、一つのグループになったようなものだと思えば良い。


 クランとして活動するメリットは、人数が増えることでメンバーの組み合わせが効くようになり請けられる依頼が広くなることだ。

 デメリットは当然ながら人数が増えた分だけ一人当たりの分け前が減ることだ。


「クランか。面白いけど、俺の下に入ってくれる冒険者なんてそうは居ないだろ?

 それに…彼らの相手をするのはゴメンだからね」

「ゴベンチャーね…確かに…」


 俺のことを兄貴と慕うのはまだ良いとして、エマさんを姐さん扱いしているからな。

 是非とも彼らとは一定の距離を保ちたいものである。根は悪い奴らではないのだが…頭が悪い?


「ウチとしては彼らの面倒も是非ともお願いしたいが」

とライエルさんが問題児を押し付けようとしているようだから、やはりクランなど作るべきではない。


 それにクラン同士の争いもあり、極端に悪く例えればマフィアの抗争が繰り広げられているような感じがするのだ。


「それなら普段はリミエン商会の従業員として働いてもらい、冒険者ギルドの依頼を請ける時だけ冒険者活動をすると言うのはどうだ?」


 普段は新聞記者のアメコミヒーローか、または企業に所属するスポーツ選手みたいな感じだね。

 でも大企業じゃないとスポーツ選手を囲うことは出来ないだろうし、残された側は苦労するんだろうな。


「良いアイデアかも知れないけど、今回はパスで。リミエン商会は少数精鋭でやってるから」

「それならもう一つ商会を立ち上げるのはどうかな?

 君は子供の教育にも力を入れるつもりなんだよね?

 冒険者デビューを果たしたばかりの子達の教育も請け負って貰えると助かるんだけどさ」

「それ、冒険者ギルドがやるべきことでしょ」


 義務教育の無い社会で子供達に学びの機会を与えるのは簡単じゃない。

 冒険者には読み書きの出来ない人も居て、そう言う人達は残り物の依頼を受付嬢に読んでもらって選ぶことになる。

 本当ならもっと報酬の良い依頼を請けることが出来るかも知れないのに勿体ないことである。

 ライエルさんがギルドマスターに就任してから、時々勉強の機会を設けているそうなんだけど。


「アウトソーシング推進の一環だよ。

 それに新しい魔法の使い方もあるようだしさ。

 ベルをトップに据えれば何とかなるだろ?」

「そうだな。スラムの対策にも多少は役に立つかも知れん。衣食住は公費である程度用意して、不足分を自分達で稼がせる。

 上手くいけば儲けものだ。

 伯爵様もスラム対策には苦慮しているようだし、魔力が無くて戦えんお前には丁度良い仕事だな」


 ライエルさんとレイドルさんが勝手に俺に新規事業を押し付けようと画策を始めたようだけど、はっきり言って手を広げる余裕は無い。


「ちょっと待ってよ。俺の体は一つしかないんだから、どれを優先するのか決めないと。

 現状でも手が一杯で、新しいこと始める余裕は無いんだ。

 それに不足分の予算は俺のポケットマネーをアテにしてるんだろ?」


 スラム対策の重要性は分かってるけど、少々の資金を投入しても意味は無い。

 やるならスラム街を無くすぐらいの覚悟でやらないと、結局お金をドブに捨てることになる。


「あの、それより結局クレストさんは買い付けに行って良いのですか?

 ダメなのですか?」

「暫くは職員扱いだから行かせないよ」

「戦えん奴は行くべきじゃない」


 その答えに満足そうに頷くエマさんだけど、俺の反応は違った。


「嘘っ! 俺は今でも行く気満々だよ!

 地面からお湯が出る場所があるんだよね?

 地獄巡りってやつをさせてよ」


 木材買い付けの為に向かうお隣さんには恐らく天然温泉が存在するのだ。温泉大国から移住した俺がその地に興味が無いわけないだろ?


「ノーギャラで、かつ他のパーティーを護衛に付けるなら行っても構わないかな。

 その場合はギルド職員の立場になるから、好き勝手な行動は慎んで貰うことになるけどね」


 それだと温泉の調査が出来ないよね?

 どうして皆は温泉資源の活用を考えないんだろ?


「それなら俺個人の旅行ってことで行くよ」

「やたら熱くて変わった青色のプールに白いプールに赤いプール。

 それと時々熱湯が噴き出す危険な場所だ。

 しかも独特の匂いがあって普通の人は立ち入らん。

 わざわざそんなの見に行ってどうする?」

「天然の露天風呂が作れないかなって。

 お湯の種類によっては肌に良かったり、冷え症に良かったりって言う効能があるかも」


 青に白に赤って、別府の真似してんじゃないかと思ってしまうよね。


「ぜひ行きましょう!

 どうしてもっと早く言ってくれなかったんですか!」

「可能性に過ぎないから。期待ハズレだと申し訳ないし。

 それにリミエンでも深めに掘ればお湯が出るかも知れないし」


 何となくだけど、周囲に海が無いリミエンなら温泉は塩化物泉じゃない可能性が高そうだ。掘って出るならアルカリ性単純温泉で美肌効果を期待したい。


「掘ればお湯が出るのかい?」

「地質にもよるけどさ。

 西の領地で地獄巡りが出来る場所があるんだから、ここでも出る可能性はある。

 市街地は下水道が通ってるから掘ったらダメですよ」

「掘るだけで良いのか?」

「どれだけ掘れば出てくるかは分からないけど。地下が硬い岩盤層じゃなきゃ良いけど」


 土属性魔法でやるにしても、千メトルも地下を掘るのは難しいだろうな。それさえクリア出来ればワンチャンありそうなんだけど。

 骸骨さんの『星砕き』を使えば意外と簡単に…いや、本当にこの星を破壊しそうだからやめておこうか。


 掘るのはともかく、間欠泉があるってことから種類は火山性温泉である可能性が高い。

 でも火山が近くにあるとは聞いて…いや、俺の『火山噴火』を聞いても何かと尋ねて来なかったってことは、エマさん達も火山を普通に知ってるってことだ。

 地震は大丈夫なのかな?

 石組みの住宅が多いんだけど。我が家の耐震補強、考えようかな…。


 ところで温泉の話なんてしてるけど、今日は何の話をしに来たんだっけ?

 とりあえず生存報告が終われば目的達成だよな?

 お金の話から急におかしな方向に進んで来た気がする。


「それで明日はダンジョンに向かうんだろ?

 アソコは伯爵様預かりになるから、いつまでもお前が気にする必要は無くなるから」

「それ、移住してきた人に言った?

 言ったら多分反発が起きると思うけど」

「ああ、起きたぞ。お前に仕えたいそうだな。

 だがあれだけの人数を一人の民間人に預ける訳にもいくまい。謀反を企んで居るのかと疑われるだけだ」

「なんか知らないけど、忠誠を誓うとか言われたしなぁ…俺には重過ぎて適わないから伯爵様を頼ったんだけど。友達としてなら付き合うけど、主従関係はゴメンなんだよね」


 ルーファスさんは元々偉い人に仕えていた家系なんだろう。わざと気安い雰囲気を作ってるように見えるんだよね。


「市民権を購入していないお前は現行の制度では市民では無いのに、都合の良い時だけ伯爵様を頼るのはおかしく無いか?

 市民権制度が最良とは言わないが、元は金を取れるところから取ると言う趣旨で出来た制度だからな」

「そうだったとしても、市民はそれを理解せず権威としてしか見ていないだろ。

 そうで無ければ俺も市民権買っても良いけどさ」


 市民権制度が単なる金持ち優遇政策だと思ってたけど、取れる所から取るって言うのが趣旨なら全否定は出来ないか。

 しっかりした教育制度が無いんだから、制度など理解しろと言う方が無理なんだろう。


「お前が素直に爵位を貰ってくれれば、ダンジョンの件は万事上手く納まるし、一番簡単で安上がりなんだが」

「そう言う身分での縛りが一番嫌いなんだよね」


 本気でそう思う。

 身分制度なんて撤廃すりゃ良いけど、それって教育制度が充実してからじゃないと無理だよな。無知な市民に政治を任せることなんて出来やしない。

 やればスポーツ選手議員にタレント議員、アイドル議員にチューバー議員みたいな奴ばっかりになってしまうだろう。

 それなら言われたように教育を目的とした商会を立ち上げるしかないのか?


 明治維新後の民主主義化に向けた改革のこと、もっと勉強しとけば良かったよ…って、おかしいな、なんでこんな大袈裟な話になったんだろう?


「ダンジョン管理専門の地下貴族なんてどうだい?」


 なんですか、その地下アイドル的なすてきな響きは?

 おっといかんいかん。ライエルさんの策略に乗ってしまいそうだったよ。


「領地をダンジョンに限定して、そのダンジョンの管理を一括して行う専門部署的な役目を請け負ってくれれば冒険者ギルドも伯爵様も安心出来るかも。

 準貴族的な扱いの役人ってことでどう?」

「なるほど、ダンジョン管理人に任命するのか」


 ダンジョン管理人! それは面白そうだね!


「だがダンジョンから算出される利益を独り占めさせると、既存の貴族からの反発が大きすぎるぞ」

「基本的にダンジョンから採取された物は採取した人の持ち物になる、これを大前提とする。

 だけど木材や魔石のような公共性の高い物品は専売品化するんだよ。

 魔石は取扱店によって販売価格が違ってるそうだから、価格の統一も図れて一石二鳥だろ?」

「基準価格の設定で大揉めしそうだな」


 やばい、政治的な話になると理解出来なくなってきそうだ。


「我が儘なクレスト君を気持ち良く働かせようと思えば、現行の制度じゃ無理なんだからさ。

 特例措置は必要だろうね」

「それで貯水池の魔石ダンジョンはどうする?アソコも誰かを管理人に任命するのか?」

「入札させるのはどうだい?

 管理人職を高い金額で購入させるんだよ」


 ライエルさんとレイドルさんが楽しそうにダンジョン管理人の制度について語りだし、俺とエマさんはしばらく置いてきぼりを食うのだった。

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