表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/194

第5話 呼び方を決めるの一苦労です。

 美少女妖精擬きの正体は実はどうやら魔界蟲らしい。

 そしてこの子はお伴に連れている魔界蟲を自由に変身させられるようだ。

 五百系新幹線型魔界蟲に乗り、テーブルを囲んで手を繋いだ俺達を線路替わりに爆走して楽しんでいる。


「おっと前方に谷間を発見!

 注意して突撃するでありますっ!」


 妖精擬きの操る魔界蟲の先にはメンバー最強のお胸様!


「セリカさん、胸元をブロックしてっ!」

「キャッ!」


 俺の声にセリカさんが反応して腕を動かしたが少しだけ間に合わず、魔界蟲新幹線の一両目だけが滑り込みセーフでセリカさんのシャツの中に潜り込む。


「むーっ! 狡いのです!」


 その様子に揚羽蝶の羽を広げてホバリングする妖精擬きがクチを尖らせる。


「何が狡いのよっ! 誰かこれ取って!」


 慌ててセリカさんが胸元を開き、破壊力抜群の攻撃にルケイドがたじろいだ。

 青少年にそんなダイナマイト級のお色気攻撃なんてけしからんっ!

 何故そこに俺が座っていなかったのかと少し後悔するだろっ!


 俺の目がエマさんの両手で覆われ、

「…クレストさん…絶対見ちゃダメ!」

と叱られた…。


「そう言うセクハラ的なのは、やっちゃダメなの!

 私の子なら言うこと聞けるよね?」

「ハァーイ。分かったのです」


 エマさんに注意されて、分かってもらったみたいで良かったよ。


「パパとその人が二人きりの時にやるのです」

「えっ? ヤルの前提?」

「…クレストさん…絶対ダメだからねっ!

 これからセリカさんと二人きりにはしませんから!」

「…私もさすがに…これは…引きます」


 セリカさんが自分で胸から引き抜いた五百系魔界蟲がウネウネと動く。さすがに紫色の新幹線みたいな蟲がウネウネするのはキモイ。


「仕方ないわ、タイプ・テヴァ、戻ってきて」

「テヴァ…?」

「…ンゲリピョン。長いからテヴァ呼びだよ」

「補足ありがと…」


 これって、あの塗装を施された五百系を知ってる勇者が来てたってことだよね。

 キリアス王国は最近になっても勇者召喚を続けているのか、それとも時間軸がずれているのか。

 出来れば後者であって欲しい。


「明日は手羽先食べたい! 甘辛なやつ!」

「美味しいけど、骨が面倒なのよね…サーヤは上手に食べるよね」

「元猟師を舐めないで!」


 タイプ・テヴァから手羽先に?

 確かに似てるけど…。


「僕はレバニラの方が好きかな」


 なにが「かな」だよ!

 良い大人がメニューのお強請りしてんじゃないのっ!


「じゃあ手羽先は明日の晩メニュー、レバニラは明日のお昼で食べようか。

 明日はルケイドさんとベルさんが当番だからよろしく」


 結局メニューはそれで決まるんだ。嫌いじゃないから構わないけど。


「で、何の話をしてたっけ…?

 この子が出て来てから殆ど話が進んで無い気がするんだけど」

「…そうね。魔界蟲がどうとか言ってたかな?

 あ、でもクレストさんの魔力は回復するらしいし。

 私で良ければ、毎日お呪いしてあげるから」


 少し恥ずかしそうなエマさんがやっぱり可愛い。

 恥ずかしいならそんなこと言わなきゃ良いのに。


「えーと。パパとママがどうしてパパとママかって質問だっけ?」

「あ、それそれ!」


 妖精擬きには独自の考え方や、何かの意味があるかも知れない。

 私をママって呼ぶのは何故か分からないけど、さっきの看板やあの魔界蟲のデザインなんか見たら、この子はクレストさんの子でもおかしくないわね、とエマは既に納得している。


 この認識はクレストを除いた全員が共有していて、クレストだけが俺の子じゃないと反論しているが。


「確かクレたんとエマっちが合体したって証言が」

とニヤニヤ顔のカーラさんだが、カーラさんが想像しているような事実は無い。

 きっと魔界蟲基準的にはそれが合体であり、人間的には合体ではない何かなのだろうと思い至り、妖精擬きに聞いてみる。


「お前は何をもって合体と言ってるんだ?

 俺もエマさんも納得デキなければ認知しないぞ」

「いきなり私生児宣言?!

 パパ酷ーいっ!

 私がママの中に居た時に、パパがママの中にたくさん注いだじゃない!

 ママだって気持ち良さそうにしてたんだし」

「そんなことやってないだろ!」

「そうよ! まだ手を繋いだことしかないよ!」


 身に覚えが無いんだから、当然俺とエマさんが必死に否定する。


「それをここで言っちゃ可哀想…」

「…うん、でも誰も咎めないよ、公認だし。

 バラされたのは事故だと思ってさ」


 サーヤさんとカーラさんが同情するような顔をする。


「だから違うって!

 それってお前の勘違いだろ!」

「私が魔界蟲だと思って馬鹿にしてない?

 と言っても本体は泉の上で回ってるけど」


 本体は泉の上…と言うことは…


「えっ、それマジ?

 じゃあお前ってダンジョン管理者になってくれたあの魔界蟲の一部的な?」

「そうだよっ!

 本体は動けないけど、ダンジョンの魔力を使って分体を作って動いてるんだょ!」


 それが本当ならコイツも恩人じゃないかよ。

 性格はアレしてそうだけど。

 

「パパが『格納庫』スキルで自分の中に私の本体を入れたでしょ。本体にはアレが結構居心地が良くてね。

 だから出そうとしても出なかったでしょ?

 グルグルと必要以上に回って抵抗してたんだよ」


 アイツ、あのドリルみたいな状態で意思があったのか。驚きだな。


「私はパパの魔力の流れに乗ってパパの中を回ってたの」


 それはフィギュアサイズではなく、当然魔力としてだよね?

 さすがにこんなデカイのが俺の中を流れてる筈はない。


「でね、本体が調子に乗って魔力をいっぱい作ってたら、パパが少しおかしくなったでしょ。

 道路工事の時は魔力をバカスカと使ってたみたいだけど」


 やたら魔力が多いと思ってたのは、その本体さんのせいだったのか。一つ謎が解けたけど、あの時は下半身的にはかなり迷惑だったよ。


「パパとママはよくお手々繋いでたからね、工事の無い時はパパの左手からママの右手を通してママのスキルの中に入って遊んでいたんだ。

 パパの魔力がいっぱい注がれて、気持ち良かったよ」

「…だから魔界蟲の出す魔力で魔力多寡状態になっていたのが解消されてたのか」


 どうやらクレストさんには納得出来たみたいね。

 でも私の『タンスにドンドン』の中にこの子が居たの?

 いつの間に出入りしたんだろ?

 全然分からなかったわよ。

 エマは妖精擬きの言っている内容が直ぐには理解出来ず、スラスラ理解していたクレストはやっぱり凄いなと感心していた。


「ちょっと分からないんだけど、あなたはあの魔界蟲の中の人ってことで良いのかしら?」

「人かと聞かれたら人とは違うけど、意味合いは正解なの!

 『パパの中のもう一人のパパ』、そんな存在なの」


 ちょっと待って。

 言葉は分かるけど、理解が追い付かないわ。


 結局のところ、合体と言うのは魔力的な結び付きみたいな感じのことで、肉体的な接触は含まれていないのよね?

 もー、紛らわしいこと言わないでよっ!


「せっせっせーのヨイヨイヨイ!」


 って! クレストさん、もう馴染んで遊んでるの!?

 クレストさんの人差し指を両手で掴んで、キャッキャと喜んでいる妖精擬きの魔界蟲にほっこり…。


 じゃないわよ!

 もう少し悩んでも良いところじゃないの?


「あんちゃんの非常識さを舐めたらアカンで。

 世界を取れるストレート持っとるんやから」


 ストレートは関係無いと思うのは私だけ?


 …それも違うっ!

 どうしてそんな簡単に受け入れられるのかってことよ?

 自分が何を悩んでいるのか分からなくなってきたじゃない。


「それでは!

 新メンバーの名前を決める会議を行いたいと思います!

 各自最低一つの候補を考えてくださいね!」


 配膳に使ったお玉を右手に持ったアヤノさんが、この場を仕切ってる。適応能力が高いと言うか…こう言うイベントが好きなの?

 さっきまでルケイドさんにストッキングや靴のことを問い詰めてたみたいなんだけど。

 私も後で聞いてみようかしら。


 それより何でルケイドさんが脚を綺麗に見せる靴選びとか知ってるんでしょ?

 実は女装の趣味があるとか?

 実家が一応貴族だから、人には中々言えない趣味があってもおかしくないだろうから、問い詰めたりはしないけど。


「銀だったらエージとか」

はベルさん。

 男の子みたいな名前だね。

 そう言えば、この子が本当に女の子なのかも分からない…妖精擬きの魔界蟲に性別なんてあるのか知らないけど。


 見たところ、揚羽蝶のような綺麗な羽根を持つのは、クレストさんが決めた紋章の影響かしら? 三日月に蝶だもの。

 ご飯は魔力で良いのかな?

 やたら繁殖するようなことはないよね?

 起きたら部屋が妖精擬きだらけになってるなんて、それは可愛いを通り越してホラーだからね。


「じゃあロック、ナナ、ハッチかストイコビッチ」

はルケイドさんの案。

 多分自分が考えた名前にならないようにわざと外そうとしてるな。最後のは妖精でも勇者の世界のピクシーの筈。


「スットコドッコイは酷いわよ。

 ミント、ペコ、カモミール、ジャスミン」

はオリビアさん。

 紅茶関係で攻めて来たのね。

 悪く無いと思うけど、アヤノさんの頭に座る本人が頷かない。


「エルメウス、バキーン、イブさん」

「スラッシュ、タンク、ヘイト、ガード」

「アロー、クレイン、ファイヤーかバースト!」

「ターマヤー」


 これはマーメイドの四人。

 ちなみにターマヤーはこっちでは勇者用語で魔法を撃つときの掛け声のひとつね。

 こんな声では攻撃魔法を撃って欲しくないと思うのは私だけかな?


「リンゴ、サーモン、ハンバーグ、ハチミツはどうや?」

「お前の好物は関係無いからね」


 ラビィの案に即座にクレストさんが突っ込むわ。リンゴを食べさせてあげている姿は微笑ましいわね。


 それにしても、ここまでの名前では妖精擬きは首を振らない。

 次は私ねっ! 最高の名前を付けてあげる!


「妖精の名前よね…チャオス、ドスコイ、ヨーダ、カルメン、ブラックロッド、ハリセンボーン…それから…」


「パパ…」


 ちょっとっ!?

 どうして私の時だけそんなに残念そうな顔をするのよ!

 ラビィのより凄く良いでしょ!

 クレストさんに助けを求めるなんて酷いじゃない。


 最後はクレストさんね。ここで決まらなかった二巡目…次こそはママの意地を見せなきゃ!


「じゃあ銀関係で…ジル、アルジェン、プラ…」

「パパ、ストップなのです!

 アルジェンです!

 とってもビビッと来たのです!」


 嘘、いきなりヒット?

 もう少し可愛い名前でも良いと思うんだけど…魔界蟲好みな名前なの?


「アルジェンで本当に良いのか?」

と念押しするクレストさん。彼も気になるみたいね。

 だけど、

「はい! やっぱりパパは凄いのです!」

と言ってクレストさんのほっぺにキスをすると、嬉しそうにクレストさんの周りをパタパタと飛び回るアルジェンにホッコリ。


 余程嬉しいのか、羽根から金色の光が溢れ落ちてるし。


 その舞い飛ぶ姿はまるで本物の妖精のように見えるけど、実は魔界蟲の中の人?のアルジェン。

 少し前まで何て呼べば良かったのか分からなかったけど、これからはアルジェンと呼べば良いのね。


 でも私にはネーミングセンスは無いのかしら?

 いつか産まれてくる子供の為に、今から良い名前を考えておかないと!


 気が早すぎるって?

 でもこう言う言葉を勇者は残してくれてるよの。『前科挑め』ってね。

 以前失敗したからと言ってそれで諦めたらダメ、何度でも挑戦しなさいって意味だと思うの。

 クレストさんをガッカリさせない為にも!

 『膳は急げ、猫まっしぐら』って言葉も有るからね!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ