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第73話 捕虜と魔薬の治療方法

 ダンジョン内のキャンプ地でルーファス総隊長とやっと会うことが出来た。

 少し疲れた様子が見えたのは、住民同士のトラブルや衣食住の準備に追われて忙しいからだろう。


 そう言うのは幹部連中が矢面に立つのが普通だと思うが、総隊長は自分も顔を出さないと気が済まない損なタイプだからな。


 ルケイドと言う若い男がキチガイ皇帝の作った薬を服用しておかしくなった連中の治療をするつもりらしいが、そんなのが上手く行く訳は無いだろうと高を括っていたのだが、その一人が突然叫び出したのだ。


「ここはどこだ! ここから出してくれ!」

と、意味のある内容をハッキリした口調でだ。


 キチガイ皇帝の薬を飲むと、理性を失いまともに会話も出来なくなるのが普通なのだ。

 戦場においては赤い鎧を着た同士でない者は見つけ次第虐殺するような、そんな危険な精神状態に導く薬である。


「魔薬が切れたらしいな」


 そんなのはあり得ない。

 過去に何人もの捕虜を捕らえて実験してきたが、一度もこんな事は起きなかったのだ。


 正気に戻った捕虜の話を聞く為に、総隊長が小屋へと入っていく。その後にベル殿、ルケイド殿が続き、私もその後を付いていく。


「臭い!」


 糞尿の匂いに耐えかねて私はすぐに小屋から出た。

 後は総隊長に任せて、リミエン伯爵殿の到着を待つことにしよう。



「さっき怒鳴ったのは誰だ?」


 そうルーファスさんが捕虜達に問い掛けると、一人が立ち上がった。


「お前は戦闘時のことは覚えているか?」

「デカいカブトムシに後ろからやられて…籠に入れられて空輸されたんだ!

 あんなに怖いのは初めてだぞ!

 いや、それよりアイアンゴーレムを倒したアレは何だ!

 あんなの反則だろうが!」

「アイアンゴーレムを使って罪もない市民五百人を殺しておいて反則だと?

 今すぐ両目を抉ってやろうかっ!」


 どうやらクレスト兄がゲラーナ便でダンジョンに送った捕虜のようだね。

 この人だけ偶然薬の効きが弱かったのかな?

 いや、そのキチガイ皇帝はかなりの数の実験を繰り返しているだろうから、薬が効かなかったなんてことは無いと思う。

 それじゃあ何でだろう?


「恐怖を与えたからか?」

「恐怖を与えてやろうか」


 ルーファスさんと同じタイミングで同じようなことを言ったみたいだ。

 言っとくけど、僕は敢えて人に恐怖を与えるようなことは出来ないからね。


「済みません、済みません!

 もう言いません!

 許してください!

 そっちの若いお兄さんもマジで勘弁してください!」


 どうやら僕も恐い人認定されちゃったみたいだね。

 でもこの様子を見ると、精神的にも脳の働き的にも魔薬の影響はもう無さそうな感じがするね。


「ルーファスさん、この人、魔薬の効果が切れてるよ。何故かは分からないけど」

「やはりそう思うか。

 他の連中と何が違うんだ?」

「ひょっとしたら、恐怖による心理的ストレスかも」

「心理的? 先生、難しい言葉を使わず、簡単に説明してくれないか」


 コッチじゃ心理的ストレスって言葉は通じないんだ。困ったなぁ。


「えーとね…むちゃくちゃ怖い目に遭わせてやったら、ビビり過ぎて魔薬が抜けちゃう感じ?

 お酒を沢山飲んだときでも、そう言うのってあるんじゃない?」


 未成年の僕はあまりお酒をクチにはしないけど、飲み水がすぐに用意出来ない場合は仕方なくアルコール度数の低いのを飲む機会がある。


 ちなみに生水を煮沸せずに飲むのは、ファンタジー系の異世界では絶対やっちゃいけないからね!


「怖い目に遭わすのが魔薬の治療法か。

 信じられんが…コイツは空輸されて怖かったと言ってたしな。

 他の奴らも試してみるか…それにしても…確かに臭いな…コイツらトイレも使わないから便器を置いても意味ねえし」

「それなら俺がトイレスライムを分けて貰ってくる。ちょっと待ってろ」


 ベルさんがそう言うとスタスタと部屋を出ていった…あれって完全に逃げたよね?


「それなら僕もゲラーナに繋ぐ籠を用意してくるから」

「先生はダーメっ!」


 襟元を掴まれて逃走失敗…。


「…お前は捕虜だと分かっているな?」

「はっ、ハイ! 勿論です!

 下っ端なので、首を塩漬けにしても意味無いんすよ!」

「そんな事やらねえよっ!

 それやってたのって、いつの時代だよ!

 塩が勿体ねえだろう!」

「そうそう、コンラッド王国は岩塩が主流だからね。海塩は高いんだよ」

「…そう言う問題なんすかね?」


 勿論そんな問題じゃない。今はこの糞尿の匂いからどう逃げるかの問題だ!

 まともな精神状態の人ならちゃんと便器を使ってくれると思うけど、魔薬で逝ってる人はそんな気配りしてくれないからね。


「お前も一回外に出ろ!

 これ以上は鼻の限界だ!」


 即席の土属性魔法で作った独房のドアを開けると、出て来た捕虜の腰にルーファスさんがロープを巻く。

 手軽な手錠とか無いから逃亡防止はそうなるよね。


「それなら一回自分に『浄化』を使うんす。

 パンツも汚いんすよ」

「『浄化』魔法が使えるのか。凄いじゃないか」

「一日二回が使用限界なんすよ。じゃあ、やりますよ」

「いや、ちょっと待ってくれ。どうせなら彼女に教えてもらおう。

 リリー、カーラ嬢をここに連れて来て欲しい」


 小屋から少し離れた所に立っていたリリーさんが役目を与えられて嬉しそうに走っていく。


 実は教えるのが主目的じゃなくて、魔法を使うと言ってるからルーファスさんは警戒してるんだと思う。


「ところでお前の名前は?」

「アッシはロアン。キチガイ皇帝に滅ぼされた弱小勢力『レイカーズ』に居たんすよ」

「レイカーズも確か召喚勇者の一人だったな」


 レイカーズね…レイカさんって人が召喚されたのかもね。


 トイレスライムを分けてもらったベルさんが戻ってきて、すぐに小屋の中に放していた。

 これで小屋の悪臭問題は少し解決に向かうだろう。


「済まねえ、ベルさん。

 捕虜の扱いってどうすれば?

 今まで全員殺してたんで、生きた捕虜の扱い方が分からないんだが」

「ヒィイ!すんません!何でもやるんで命だけはお助けを!」


 ロアンさんがルーファスさんのセリフを聞いて顔を青くする。今は殺すつもりは無いからベルさんに相談してるんだけど。


「戦時においてなら、捕虜交換をしたり金銭で取引したりするけど。

 今は戦時でもお隣でもないし、連絡の付けようが無いから無理だね」

「何言ってるんすか!

 隣はグレン領なんすよ!

 金銭トレードプリーズ!

 …で、ここは何処なんす?」


 ロアンさんは転送ゲートを通った時のことは覚えていないのか。気絶してたのかな?


「ここはダンジョンに出来た転送ゲートを超えてやって来たコンラッド王国だ。

 俺達はキリアスを捨ててコッチでの生活を選んだんだ。

 あぁ、その転送ゲートはキチガイ皇帝が壊して無くなったから」


 そうそう、それが一番大事。

 戻りたいと言われる前に戻れないってことを伝えておかないとね。


「あの極悪スケベ皇帝!

 何やってくれてんすか!

 …と言っても、アッシの飼ってた牛達はもう居ないんすよね。それならここで牛の世話をするのが良いってことなんすね」

「そうなるかな」


 へぇ、意外とあっさり受け入れるもんなんだ。故郷への想いとか、そう言うセンチメンタリズム的な要素はゼロな訳?

 それともキリアスの人達って何処に居ても命さえあればそれで良いって考え方なのかな?


「で、コンラッド王国って地底王国なんすね」

「そんな訳ねえだろ!」


 二人が真面目な顔で言ってるから余計に面白い。

 でもダンジョンに住むなんて発想は普通出て来ないし、天井があるこの場所で大勢働いているのを見れば、そう勘違いしてもおかしくないのかな。


「それでだな、キチガイ皇帝の投与した魔薬の治療方法が見付かったことはおまえも理解しているよな?」

「へい! そりゃ勿論ですよ!

 それにしても何なんすか、あのデカいカブトムシは!」


 ロアンさんの質問にルーファスさんがミハルに停まっているゲラーナを黙って指差した。


「ゲッッ! アレ飼ってるんすか!

 コンラッド王国って魔族の国なんすか?

 それとも魔王が支配してるんすか?!」

「勿論人間の国だし、魔王なんて居ない。

 ゲラーナは特殊個体で頭も良いから、クワガタ派だと言ったりG扱いするとヤラレルからな。

 面倒だから墓を作るような手間を掛けさせてくれるな。魔物葬希望ならラクで助かるが」

「カブトムシの話から魔物葬って話が飛躍し過ぎ! アンタら鬼ですか!」


 そう言やお墓も必要だよね。

 コンラッド王国では埋葬が主流だったけど、広い墓地が必要になるから火葬に切り替える検討が進められている。

 でも薪が大量に必要なこと、灰になるまで時間が掛かること、それに匂いと火葬場建設地の問題がある。

 魔道具の小型化、低価格化が進まない間は火葬は普及しないだろう。


 さっき魔物葬って話があったけど、スライム系の魔物を使ったやり方で実はこれが一番合理的。

 スライムって下水道やおトイレを綺麗にするのに欠かせない存在なんだよね。


「俺が鬼? それで結構。

 自己満足かも知れんが、魔薬の治療方法が見付かったからもう捕虜は必要無い。

 しかも赤鎧の連中に食料を燃やされたお陰で食料が不足している。

 故にお前らに食べさせる分が無い訳だ。

 勿論協力してもらえるよな?」


 森に入れば魔物や果物は沢山とは言えないけど採れる。それが今居る人数を食べさせていくのに充分かどうかは分からない。

 だから畑を切り拓く予定はあるし、出来れば家畜も増やしていきたい。

 そんな状況だから、無駄な食料消費は抑えたいって気持ちがあるのは当然だろう。


「なに言ってんすか!

 アッシが火を付けた訳じゃあるめえし!

 そもそもアッシはグレン軍の捕虜になって、あの現場に連れて行かれたんすよ!

 捕虜から捕虜のハシゴってなんすか!

 挙げ句に籠に乗せられて死のダイビングを体験したんすよ!」

「ふぅん、不運だな」

「なにを巧いこと言って誤魔化そうとしてんすか!」

「そのダイビングを企画した人は、キチガイ皇帝のせいでキリアスに一人で残された。

 それに比べれば、ここは天国みたいだと思うがな」

「天国の意味、間違ってないんすよねっ?

 本気で殺そうとか思ってないすよね?」

「……」

「え?」


 ロアンさんの額に冷や汗が流れる。


「冗談はヨッシーちゃんすよ!

 真面目に働かせていただくすよ!」

「それなら…このダンジョンで野菜や果物の増産に役立つ、又は食肉類の確保に役立つと証明してもらおう」

「それならアッシはレイカーズで牛を飼ってたんすよ!

 放牧して移動する生活を送ってたんで、キャンプ飯なんかも得意なんすよ」


 そう言えば、ルーファスさん達は牛を飼っていたけど、襲撃に遭って酪農家が不在になってるそうだ。

 コッチに牛を三頭連れて来ていて、当番で面倒見ているけど素人には大変みたいだ。


「それならウチの牛の面倒を見てもらおうか」


 牛の扱いはルーファスさんのもとにどうにかして欲しいと要望が来ていた件なので、丁度良いかも。

 問題はロアンさんの言ってる事が嘘か本当かだ。牛飼いに化けて悪さをしていた可能性もある。

 当面は監視を付けることになるだろうね。


「他には…まだ正気に戻っていないのが三人居るが、捕虜だったか分かるか?」

「グレン軍は正規兵には左腕に所属を示す魔法刻印を入れ、捕虜には首の後ろ側に名前の入れ墨を入れるんすよ。

 手脚だと落として脱走されるかも知れないが、首なら落ちれば死ぬだけで損は無いとグレン皇帝が言ったそうなんすよ」

「俺が居た時には刻印なんてしなかったが」

「何でも目に掛けていた部下に裏切られてからら、そうするようになったそうなんすよ」

「…俺か…」

「とことん腐った野郎だな」


 どうやらルーファスさんの行動が魔法刻印や入れ墨を入れる切っ掛けになったらしい。

 その魔法刻印って、居場所が分かるとか孫悟空の頭の輪っか的な効果を持ってるんじゃないかな?

 最後にベルさんが言ったのは、僕と同じ事を考えたからだろう。


 そんな話をして時間を潰していると、マーメイドの四人を連れてリリーさんが戻ってきた。


「これからカーラさんに『浄化』の魔法を教えるから覚えて欲しい」

「『浄化』を?

 ルーファスさん、使えたんですか?」

「いや、教えるのは捕虜だったロアンだ。

 パンツの汚れが気になるから、早いとこ頼む」

「…臭いもんね。ほら、早く教えなさい!」


 クレスト兄に合う前は、覚える魔法は数を制限しなきゃいけなかった。

 でも今はラビィと魔法の勇者のメモのお陰で『モジュール化』をした魔法の使い方が出来るようになり、その制限は事実上無くなったと言って良い。


「ミニロリ魔女っ子が生徒なんすか?

 大丈夫なん…ヒィェっ!」


 ロアンさんの足元に『魔素弾』の連写で威嚇射撃をしたカーラさん。


「次に言ったら大事な所に当てるから」


 コクコクと頷くロアンさんの抗議と講義がそれから始まるのだった。

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