第68話 ダンジョンでは仲良くしようね
カンファー家所有の山にあるダンジョンに向かっていたら、新しいダンジョンが見付かってしまったの。
あの山は私達が…私は特に働いていなかったけど、怪しい物は無いかと調査をしたんだよ。
その時は何も出て来なかったから、最近になって生まれたダンジョンだと思うの。
洞窟や地下通路的な物はダンジョンに化ける可能性があるらしいってラビィが言ってたけど、あの山には魔界蟲が空けた穴が無数にあるだろうから、それがダンジョン化したのかも。
「二週間程前に山の調査は済ませたからね。
魔力の活性化に誘発されて新しく出来たのかもね」
腕を組んでそう言うライエルさんの頭の中には、恐らくクレストさんが火山噴火をさせたりダンジョン管理者になって大量の魔力を使ったことで、すぐ近くにあった穴が影響を受けてダンジョン化したと言うストーリーが出来ているのね。
「さてと、新しく出来たばかりのダンジョンなら、私と『丘の鯨団』が居れば手早く処理出来ると思うが。
いや…切角だからリリー君とエマ君にも入って貰おうか。
書記係が同行しているから、報告書作成がラクで良い」
私のマジパッドを使えば、ダンジョンの中を歩きながらでも書き物は出来ますよ…ライエルさんに見せるんじゃなかったと少し後悔。
「それなら私も少し中に入ってみたいのだが」
何故かリミエン伯爵までそんなことを言い出しちゃった。
それ聞くとあの二人が黙っていないと思うのよ…
「僕もダンジョン行きたいっ!」
「ルーも行くっ!」
ほらね…多分ルーチェちゃんは良く分かっていなくて、ロイ君に付いて行きたいだけだと思うけど。
「照明の魔法は俺も練習したから使えるぞ」
レイドル副部長も行く気になっちゃってる。どうして?
クレストさんが時々クチに出す『後、楽、よん』?…じゃなくて『アトラクション』と間違ってるよね?
でもね、ダンジョンは生ものなのよ!
出来たばかりのダンジョンが危なくない保障なんて無いんだから。
列を作ってお父さんと鯨団の居る方へ歩いて行く。ちなみに伯爵様がルーチェちゃんを背中に背負ってる…ルーチェちゃんが軽いと言っても二十キロはあるんだよ。
絶対へばると思うなぁ…。
ダンジョンを見付けた鯨団に案内されて向かった先には、確かに大きな岩をくり抜いた入り口があって、明らかに自然に出来た物じゃない。
場所は山裾の端ギリギリって所ね。
「これはまた…如何にも入ってくれと誘っているって感じだね」
と感想を漏らすのはライエルさん。
少し風化した石造りの神殿の入り口にも見えなくないその岩を、私達が見落とした筈はない。
「面白そうだ。入ってみよう」
と言うのはリミエン伯爵。このメンバーの中で貴方が一番軽率な行動を取ってはいけないと思うのだけど。
意外にもルーチェちゃんを背負って歩いてきたのにピンピンしているのにはビックリよ。
「伯爵様! 軽はずみな行動は差し控えてくださいっ!」
「そうです! 伯爵様に何かあったらリミエンは…」
初めて二人のお役人さんのセリフを聞いた気がする。
今までは伯爵様に何か言われた時に『承知しました』『待機します』ぐらいの返事しか聞いた事がなかったから、それしか言葉を知らないのかと思ってたわ。
そんな訳は無いと分かってるけど。
「大丈夫。私が居なくてもリミエンには優秀な役人が居るんだ。君達も含めてね。
二人は先に目的のダンジョンに向かって欲しい」
そうじゃなくて、二人はリミエン伯爵の心配をしてるんだから。それとこれとは話が違うと言う物ですよ。
でも偉い人って一度言い出すと聞く耳を持たなくなるんだよね。
「心配するな。伯爵様は私が護衛する」
とリリーさんが左手に右の拳を打ち付けてバチッと良い音を響かせた。
ここで点数稼ぎをする気満々みたいだけど、そうはさせないんだからね!
でもダンジョンにはダンジョン管理者が居て、その管理者の好みによってダンジョンの中はアレンジ出来るんだけど。
一つ気になるのは、出来たばかりのダンジョンにも管理者が居るとして、その人?はどこから来たのかってこと。
クレストさんは前任者と入れ替わる形で管理者になったけど、初代管理者ってどうやって決めるんだろうね。
まさか、穴の中に居た虫やモグラが管理者になれるとは思えない。だってある程度の知性が無いと管理は難しいだろうからね。
そうなると、クレストさんみたいに死にたてホヤホヤの人を瞬間移動で引っ張ってくるのかな?
多分だけど、精神だけあれば魔力で何とかなりそうな気がするのよね。
もっとも、死んだ人に精神が在るのかどうか分からないけど。クレストさんは元々前任者の条件に一致してたから死んですぐ役目に就いたのよね。
きっと神様的な人が出て来て『お主はたったいま亡くなったのじゃが、ダンジョン管理者に就任するつもりはあるかの? イエス オア ノーで返事せよ』みたいに訊くのかも…あ、私もクレストさんみたいに長考モードに入ってたかも。
冗談は半分置いといて、その管理者次第でダンジョンが変わってくるのだから、新しいダンジョンは規模が小さいと言っても油断は出来ないわ。
伯爵様にギルドの重鎮が二人、リリーさんはどうでも良いとして子供達二人…不安しかないわね。
丘の鯨団の面々は私の顔を見て『本気なのか?』と言いたげだし。
でも貴方達が先頭に立って入るべきじゃないかしら?
アルジェンちゃんが居たら、『伯爵様が入りたいと言ってるのです! 鯨は矢除けになって欲しいのです!』と言ってたかもね。
仕方なく鯨団のバレイアさんに手でダンジョンに入れとサインを送る。
ライエルさんが大金貨級相当なのでルール的にも鯨団がダンジョンに入って良いのよね。
諦めたような、それでいてワクワクしたような顔をしたバレイアさんとアンバーさんが伯爵様達に会釈して、それから先陣を切ってダンジョンに入って行く。
聞こえて来る声から、大柄な二人だと並んで歩くのが精一杯な感じだと分かる。
鯨団に続いてライエルさんとブリュナーさん、伯爵様とレイドル副部長、子供達、最後に私とリリーさんの順番で岩の門をくぐり抜けた。
お父さんはダンジョンには入らなかった。そんな暇があるなら、さっさと仕事の続きをしようってことらしい。
お父さんの護衛役の鯨団がダンジョンに入るので、本当ならお父さんはテント村に帰るべきなんだけど、このあたりには魔物は居ないから一人で大丈夫だとか。と思ったらオリビアさんが護衛を務めてくれることになった。
それならまぁ良いかって事で、お父さんと別れていざダンジョンへ。
中はびっくり! まさかの石造りの通路が続いていたの。通路の天井には光石がズラリと綺麗に整列して並んでいたので、照明魔法は無くても明るいわ。
通路を進むと左右の壁にドアがあったり、十字路があったり。まるで大きな建物の中に居るみたい。
「ダンジョンって、こんなになってたんだ」
とロイ君がポカンとクチを開けた。
初めて入ったダンジョンがこんなタイプだったから勘違いしてるけど、普通は土や岩で出来ていて、人が作ったようなダンジョンはレアだからね。
ドアは木製で重厚な作りになっていて、大きなコの字型のドアハンドルが付いている。
名前は忘れたけど鯨団の一人がハンドルに手を掛けて押すと、ギィィと軋む音を立ててゆっくりと開いていく。
中には古くてボロボロのテーブルと椅子があって、人が居たような雰囲気を醸し出しているけど、ここはまだ出来て二週間程のダンジョン。
明らかに時間経過がおかしいから、多分管理者がこう言うコンセプトで設定しているんだと思う。
「エマ君! マッピングを頼む!」
あれ? ライエルさんの何かのスイッチが入ったみたいで、普段見せないニヤついた顔になると、鯨団を残してさっさと次の部屋のドアを開けてしまったの。
「おっと、トラップか」
飛んで来た矢を右手でこともなげに掴むと、そのままバキッと折ってポイって捨てたライエルさん。一体どう言う反射神経をしているのかと唖然としてしまう。
普段の態度や口調からは凄腕冒険者とは思えないけど、さすが『青嵐』の一員と言うところね。
「壁際のテーブルの上に箱が置いてあるよ」
ライエルさんが指し示した先には確かに木の箱がある。カボチャが二つぐらい入りそうな大きさかな。
「宝箱っ! 開けたい!」
とロイ君が言うけどこれは却下ね。
でもまだ戦闘もしてないし、入ってすぐだから宝箱とは違うと思うわ。
それにこの部屋にはまだトラップがあるかも知れないわ。
「鯨団、罠の鑑定は?」
「筋肉で解決して良いなら」
ライエルさんがバレイアさんに訊いたけど、予想通り聞く相手が悪かったみたい。
「中のモノが壊れちゃ意味がない。
仕方がない。貯水池ダンジョンに派遣している子達の帰りを待とう。
エマ君、メモしておいて」
「分かりました」
少し離れた通路から聞こえる戦闘の音が気になりながら、マジパッドにスラスラと書き込んでいく。
どうやら鯨団がコボルトと呼ばれる犬の頭をした人型の魔物の群れと戦闘をしていたみたい。
コボルトは二本足で歩くことが当たり前になった犬だと思えば良いわね。正直言って、訓練された犬の方がよっぽど強いわ。
でも噛まれたり引っ掛かれたりすると病気になる可能性があるので、弱いからと言って馬鹿には出来ないのよ。
「コンラッドの男は犬頭相手に武器を使うのか」
素手でコボルトを一匹倒したリリーさんが、鯨団を馬鹿にするような事を言う。
コンラッド王国では格闘って蔑まれている事をリリーさんはまだ知らないみたい。
「リリー君。国によって文化は違うことを理解しなさい。
この国では過去に格闘技を魔王の技として禁じていた時期がある。その影響でこの地では格闘技がそれ程根付いていないんだよ」
とライエルさんが鯨団が怒り出す前にフォローした。
こう言う時は、ギルドマスターらしい対応をしてくれるのよね。
「俺は武器は使わんぞ。
殴り合う方が性に合っているからな」
とレイドル副部長。
商業ギルドの重鎮なのに、そんな事を笑顔で言わないで欲しい。
まさか、お客様の前ではそんな事を言ってないよね?
剣や槍が壊れた時の応急対策として、軍では少しだけ格闘技の訓練もしているそうだけど、本格的な指導者が居ないのが悩みらしいわ。
騎士や兵士は予備の短剣やナイフを持つから、素手の訓練に必要性を感じていないとも言われているし。
「レイドルは特別に異常だが、行商人には護身術としての格闘技を身に付けて居る者も居るし、それにリミエンには最近格闘で大銀貨級になった冒険者…も居るからね」
ライエルさんの言葉に少し間があったのは何故かしら?
確かに最近クレストさんは木剣を愛用しているから、格闘オンリーとは言えなくなってきたけど。
「そうなのか。それは悪かったな」
とリリーさんがそれ程悪いと思っていない顔をして謝罪の言葉を述べ、
「一度その冒険者と手合わせしてみたいものだ」
と笑みを浮かべた。
「クレストさんは貴女なんか相手にしないわよ!」
いけない、ついクチに出してしまったわ。
魔力の無くなったクレストさんは強化系スキルが使えないから、恐らく今は少しだけ強い人ってところだと思うの。
それに女性相手に素手で? そんなの絶対私がやらせないんだから!
「ふぅん、お前の男なのか」
とニヤつくリリーさんにムカッとしたけど、考えてみれば否定する必要は無いのよね。
寧ろアピールしておくべき?
「そうよ。いずれ私とクレストさんは結婚するの。
貴女と遊んでいる暇は無いわ」
と堂々と答えてやる。我が家は両親共に結婚に賛成だから支障は無いもの。
後はどうやってクレストさんをその気にさせるかだけなのよね。
「えーっ! クレ兄とリリーのファイト見たい!」
…まさか後ろから矢を撃たれるとは。
「クレスト君はリミエンで四番目か五番目に忙しい男だから、やるなら冒険者ギルドからの依頼に支障をきたさない程度にね」
「商業ギルドが優先だ。カードのランクはこちらの方が上だからな」
「はい? 何を言ってるのでしょうか?」
ロイ君だけじゃなく、ライエルさんとレイドル副部長も手合わせを見たいの?
ところで大銀貨級より上って、クレストさんは金貨級のギルドカードを持ってるの?
そんなの聞いてないわよっ!




