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第4話 妖精ですか? いえ、蟲らしいです。

 俺とエマさんの子供が現れた…身長二十センチ程でしかも喋る子供が。


 どう考えても人間じゃないだろ。

 高度な知性を持った魔物だと考えられる。妖精?…ってこの世界にいるのかな?


 それにしてもゴスロリ風のメイド服、ミニスカートと白いフリルの付いたニーソックスで絶対領域を演出するとは…かなり現代日本のメイド文化に詳しい魔物だな。

 

 まるで俺の頭の中をサーチして、俺好みの姿に化けて出て来たんじゃないかと考えてしまう。


 おっと今は絶対領域に視線を注いでいる場合じゃないな。


「クレストさん…この子、スカートが短すぎませんか?」


 やばい…これは質問の形を借りた、俺に対する警告に違いない…『これ以上その子の太腿をガン見したら、ただじゃおきませんからね!』って感じの奴だろう。


「そ、そうだね!

 でも、可愛いし似合ってるよね?!」

「…それはそうだけど…クレストさん、破廉恥です…」

「エマっちがあの下着とこのスカート履いたら、クレたん悩殺間違い無しだよ!

 子供もバンバン産まれるかも!

 クレたんだけじゃないかもだけど。

 ルケたんはどう思う?」


 ルケたん…初めてその呼び方を聞いたよ。

 クレたんもアレだが、ルケたんも酷いよな?


「かなり攻めてるけど、こう言う新しいファッションは有名人が着始めれば結構広がる物だからね。

 それに布地の量も減らせるから、適度な長さなら良いと思う。

 それと見られても良い下着…と言うか、下着の上に穿く下着的なものもあると安心だね。

 それと靴とストッキングで脚を綺麗に見せることも出来るから…えっ? 何?」


 ルケイドの最後のセリフで女性達の視線が一気に彼に集中した。

 女性の前で綺麗に見せる方法があるとか言ったら、飛び付かれるのは当たり前だろ。


「エマさん、ちょっとマジメモ貸して頂けるかしら?」


 マジメモとは俺がダンジョン管理者をやってた時にエマさんにプレゼントした電子メモ帳の魔道具のことだ。

 タッチペンで文字や絵が描けるんだけど、魔法の勇者でもここまでの魔道具は作れなかっただろう。

 何せこのダンジョンからドロップする予定のアイテムの中で一、二を争う価値を持つ品物だったから。


 アヤノさん、セリカさん、そしてオリビアさんがルケイドに脚が綺麗に見える方法を早く教えろと迫り出す。

 ルケイドが何処まで知ってるのか分からないけど、上手くやってくれ。俺はファッションのことには詳しくないから、手助けしてやれないからな。


 それに今は脚のことより重要な問題が残ってるんだし。 


「どうして俺がパパで、エマさんがママなんだ?」

「だってパパとママが合体したから出来たんだもん」


 俺の手に乗るフィギュアサイズの美少女が…見た目はそうだが、どう考えても人間ではない。

 仮にもし俺とエマさんの子供が産まれたとしても、身長二十センチの子供が産まれる訳が無い。

 それに断じてエマさんと肉体関係を持った訳でもない。


「合体…って?」


 本気で分からない様子のエマさんに、分からないままで良いからと思っていると、

「愛し合っている男女が…こうね」

とカーラさんが親指と人差し指で作った輪に、反対の手の指を抜き差しするようなジェスチャーをしようとした。


「ストーップ! ヘンなこと教えないの!」

と隣に座っていたサーヤさんがその手を抑えてやめさせたのはナイス判断だ。


「それも気になるけど、それより君の正体を教えてくれないか?」


 ベルさんはこの子が一体何者なのかが気になるようだ。

 俺としては、正体よりパパママ問題の解決が優先なんだけど。


「私? …そうね…こんなのはどう?」


 少し考える素振りを見せると、魔界蟲が変身して出来た剣を引き抜き天井に向けて掲げる。

 そして、「『マジカルサイネージ!』」と叫ぶと刀身から白く横長に光が放出されていく。


 やたらと細長い長方形の板が出来ると、やがて文字が右から流れ始める。とても小さな字なので目を凝らして見ると、

『我が輩は妖精(をイメージして産まれた魔界蟲)である。名前はまだない』

と表示されていた。


「ごめん、小さくて見えない」

とテーブルの反対の端に座るカーラさん達からの声が届くと、

「仕方ないわね…

『倍率ドン! さらに倍!!』」

のセリフで光の看板?がドドーンと大きくなった。


「ありがとう。これで見えたわ」

と例を述べるカーラさんに対し、

「なあ、上に何が居るねん?」

と地面の上で食事をしていたラビィが不満げだ。


 仲間外れも良くないのでラビィをうずんで膝に乗せてやると、

「なんや? これまたけったいな…アイドルはワイだけでええのに」

とガッカリした様子を見せるラビィだが、いつお前がアイドル枠に収まったのかと少々問い詰めたい。


 確かに外見だけは子熊に見えるが、人の言葉は喋るし中身がオッサンだ。


「そこのミートボール、取ってくれへんか?」

と目敏く俺の皿を見て催促する奴がアイドルな訳はない。


 慌ててフォークに自分のミートボールを突き刺して確保したベルさんが、

「妖精は自称で、正体は魔界蟲ってことだね?

 魔界蟲は死んだら別の生き物になるってことかい?」

と混乱している。

 それはベルさんだけでなく、魔界蟲と戦った全員が不思議に思っているだろう。


 地上で対戦した魔界蟲三匹とダンジョンで倒した三匹のうち、死んで元のドリルみたいな形に戻ったのはラビィが倒した一匹だけ。

 地上の二匹は冒険者ギルドにサンプルとしてベルさんが持ち帰った部分以外はスライム達の餌になっているし、ダンジョンの三匹は時間経過によりダンジョンに吸収されている。 


 ちなみにダンジョンが倒れた魔物を吸収するのは、ダンジョン内部を衛生的に保つためなのだ。このことは管理者になったときに知ったからね。

 他にもダンジョン管理者になって知れたことはあるけど、そんな豆知識より本題に戻ろう。


 魔界蟲は魔力の塊みたいな物だとは言われていたが、意志を持つ生物の筈。

 この世界には遺伝子情報と言う生物の設計図があれば、魔力融合によって別の姿へ変身する事が可能である。


 そのことは俺が骸骨さんとスライム達との合体で証明している。

 それに魔界蟲が直径一センチ程の小さなドリルみたいな物から直径五十センチ程の巨大な蟲へと変身出来るのも、恐らく遺伝子情報と魔力融合が関係しているのだろう。


「魔界蟲でもさすがに死んだら復活出来ないから、そこは間違ってるよー。

 魔界蟲の体を維持できなくなるだけの魔力攻撃を受けた時に、低い確率でコア化は起きる現象だし」

「コア化?」

「ドリルみたいな形に戻る現象のことか?」

「そう、さすがパパね! 良く分かってる。

 そっちのおじさんはイケてないね」


 イケてないと言われてベルさんが落ち込んだ。でもそれ魔界蟲基準だから、そんなに気にする必要は無いと思うけど。


 それはともかく、魔界蟲に魔法は殆ど効果がないから、物理攻撃で倒すのがオーソドックスな倒し方だ。

 魔力攻撃での留めはそう出来る物ではないだろうし、更に低確率だとすればラビィがコア化のことを知らなくても無理はないか。


 考え事をしている間に、ラビィが俺の皿にクチを突っ込んでミートボールを平らげてしまったが、今の俺には食欲がそれ程無いので許してやろう。


 だが悲劇が起きる。


「あっ! こらラビィ。

 服にソースを擦り付けるなよ」


 ミートボールのソースが付着したクチを俺の服にグイグイ押し付けナプキン替わりにしやがったのだ。


 まぁ、それぐらいなら、

「『浄化』」

の一言で…。


「魔法は使えないの、忘れてるね」


 しょうが無いわね、と苦笑しながらエマさんが濡らした布巾で軽く拭いてくれる。

 今までクリーニングも洗濯も必要無かっただけに、これはかなり不便になったとへこんでしまう。


 原理不明の謎魔法は馬鹿みたいに魔力を消費する。『浄化』もその一つなので、普通の人には使えないのだ。


「早いとこ魔法が使えるようになりたいな」


 『浄化』もだけど、医学が進歩していないこの世界にはまともな医者が殆ど居ないのだ。

 『治癒魔法』の使える人は、『魔熊の森』の騒動が終結したことで町に戻りつつあるらしいが、それでも一日に二度も使えれば優秀な方だし、セリカさんの腕を治した反則級の治癒魔法なんて使える人は居ないだろう。


「クレストさんは魔法が使えないぐらいでちょうど良いのよ」

と笑いながらエマさんが俺を慰めてくれている。


「魔力回路の損傷だとしたら、完治はかなりの時間を覚悟しないといけないよ。

 クレスト君がそうなった原因が全く分からないから、一時的なものかそうでないのかも分からないんだよね」

と同じような症状の人を見たことのあるベルさん。下手な慰めは無しのようだ。


「パパ、魔法使えないの?」

と妖精擬きの美少女魔界蟲?が心配そうに俺を見る。

 言ってて自分でも訳が分からない。コイツをなんて呼べば良いんだろ?

 見た目に魔界蟲ってイメージはまるで無いから、とりあえず妖精擬きと呼ぶことにしよう。


 で、その妖精擬きが綺麗な揚羽蝶のような羽を広げて俺の周りを優雅に一周回ると頭の上に着地する。


「『アナライズ!』」


 どうやら解析してくれているようだな。どんな結果が出るのかな?


「なる~。こりゃ…やっちゃったってやつ?

 そかそか、きっとパパと私の本体が分離した時に、メインの魔力回路が損傷したんだね。

 それだけ本体との融合が進んでたってことね。うん、さすがパパ」 


 魔力回路に損傷だと?

 さっきベルさんが言ってた治療に時間がかかる症状だね。

 それに本体とか融合とかって何?

 かなり不穏な単語だけどさ。


「でも大丈夫だよ。パパなら数年で治るから、ツバ付けて放置すれば治るから」

「そうなのか!」


 診断の精度が気になるところだが、気休めだとしてもそれなら有難い。


 これでやっと、どうしてパパとママなのか話が聞けそうだ。


「『時は枷なり』って勇者も言ってたし。

 意味はよく知らないけど」

とベルさんが間違った格言を披露する。

 『枷』じゃなくて『金』が正解なんだけど、確かに俺に取ってその時間は枷になるか。


「じゃ、遠慮なく…」


 隣に座るエマさんが人差し指で舌を拭い、その指で俺のオデコにピタリと抑えるのは何かのお呪い的なやつ?


「それ、オデコじゃなくて本当は舌にやらないとイケないんだよ。

 それと指は使わずに舌同士なのがツバ付けの正統派だって勇者が言ってるよ」

と妖精擬きが解説するが…何でこの子が勇者の言った言葉を知ってるんだろ?

 魔界蟲の世界にも碌でもない勇者語録が浸透してるのか…?


「それは…ゴメン、無理…」

とエマさんが顔を赤くする。

 俺も人の見てる場所では恥ずかしすぎて無理だね。


 それにしても、脱線ばかりでパパママ問題に辿り着けない。

 しかも俺以外はその問題に興味を然程示していないし。どんな形であれ、子供だと言い張ればそれが事実として受け入れられちゃうの?


 人間じゃないのは問題じゃないの?

 頼むから皆ももう少し現実見てよ!

 剣を魔界蟲に戻し、上に乗ってテーブルの上を皿やカップを避けながら縦横無尽走らせるような怪しい妖精擬きを子供認定できるの?


 そりゃ魔界蟲が五百系ぽく変身してるから不気味さは消えてるけど…何故に五百系をチョイスした?

 確かに生物ぽく見えなくもないけど…ロボにも見えると思うんだよね。


 あっ! まさかこの子、俺に話が脱線してるって伝えたかったのか?!

 だから新幹線をチョイス…それじゃ遠回し過ぎて分からんだろっ!


 でも見てる皆は滅茶苦茶楽しそうだね…Nゲージを販売したら絶対儲かりそう。

 でもやるなら馬車鉄道の方が先だよな。

 最初はやっぱり王都本面行きだよな…って結局自分から脱線するんかぃ!

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