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第66話 キャンプ地の朝

 いつもは私達が朝起きた頃には、もうクレストさんは外に出て剣の稽古をしているのに、今日は寝坊したのかしら?

 それにベルさんとルケイドさんも今朝は遅いわね。


 タイニーハウスの前にはミハルと名付けられた樹の魔物が居て、その大きな幹にはゲラーナと名付けられたカブトムシの魔物がしがみついている。

 どちらも普通に遭遇したなら脅威となる魔物達だけど、クレストさんが関われば恐ろしい魔物もペット扱いとなるのよね。


「アヤノ、皆遅いのね」


 私より少し遅れてタイニーハウスから出て来たセリカがいつも通りではない景色に不思議がっている。


 昨日は黒装束の集団と戦闘になったけど、クレストさんの指令で一人も殺さずに戦闘を終わらせて味方にしてしまったり、転送ゲートを通って黒装束集団の住んでいたキリアスに向かったりと忙しかったのよね。


 その転送ゲートは…どうやら寝ている間に消えてしまったみたいね。元々今日のお昼頃には消える予定だったから、予定より早く消えたのかな。


 黒装束集団の皆は、テントを張ったり適当な布をタープの替わりにしたりして一夜を明かしたみたい。

 今日からは頑張って家を建てないといけないんだけど、千五百人分の家…完成までに一体何日かかるのかしら?

 木を伐るところから始めるんだし、これって大変なんてレベルじゃないわよね。


 ルーファスさんや幹部の人達はいずれリミエンで暮らすことになるだろうけど、暫くはここで皆と暮らすそうだし。

 まずは幹部用の家から建てることになるのかな?

 でも生木と木材は全然違うって聞くけど、そこはどうするんだろ?


 それに私達『紅のマーメイド』はコレからどうすれば良いのかな?

 ダンジョンアタック自体はもう終わりと考えても良いだろうけど、クレストさんは彼らがここで安心して暮らせるようになるまでここに通い続けるようなことを言ってたし。


 衣食住を用意して仕事の斡旋までするつもりらしいけど、一体どれだけのお金が掛かるのか想像も付かないわよ。

 エマさんがリミエン伯爵を説得出来たとしても、リミエンにもそんなに経済的な余裕は無いって聞いてるし。


 食べるだけならダンジョン内で狩りや採取をすれば多少はどうにかなるだろうけど、それでもこの人数を賄うのはかなり厳しいだろうな。


 難問山積だけど、クレストさんならきっと上手く切り抜けてくれると信じるしかないわ。

 どうやらサーヤとカーラの準備も出来たみたいだから、日課の走り込みから始めようっと。


 馬車のすれ違える程の幅がある広い道路がダンジョンの中にあるのは不自然だけど、このダンジョンは元々広大な森林になっていて、それにクレストさんが手を入れたから普通と言う言葉は通用しないのよね。


「あそこにベラウメェヤ!

 あっちはメロメロン!

 嘘っ、信じられない!」

と走りながら森の中に実っていた果物を見付けたのか、サーヤが指をさす。

 私には走りながら見付けた貴女の方が信じられないわ。


「これは食料確保に向かうしかないわね!」

とカーラがいつになくヤル気を見せる。

 新鮮な果物ってお高いのよね。いつもラビィが食べてるキキキリンゴは一個で銀貨二枚もするんだから。


「仕方ないわね。バッグは持ってきていないから、持ち帰りやすいメロメロンを採ろうね」

と興味無さそうな素振りをしながら道を外れて森に入る。


 下草を掻き分けながら少し進むと、

『居住地区の範囲外に侵入しようとしています』

と何処からともなく警告が鳴り響いた。


「これはクレストさんの仕業よね?」

「どれだけ過保護なのかしら」

「あの人、無駄に細かいことに気を使うわよね」

「実にクレたんらしい仕掛けね」


 境界線らしき物は見えないけど、きっと踏んだ辺りが居住地区との境界線なのね。

 でもメロメロンの自生地まではもう少しの距離がある。


「勿論行くわよ!」


 警告を無視して少し進むと次に、

『魔物との遭遇確率が上昇します。非戦闘員は速やかに居住地区へお戻りください』

とさっきより強いメッセージに変わったわ。

 メロメロンを前にして手ぶらで戻れる訳は無いもの。ここでも当然先に進んだわ。


 周囲に少しずつ甘いメロメロンの香りが漂い始め、否が応でも早く収穫せねばと足早になったところでサーヤが大きなキリギリスの魔物を発見したわ。

 保護色なのに、よく見分けが付くものだと関心しながら剣を抜くと、

「リーダー、昨日のピンクの鎧は?」

とサーヤが聞いてきた。


「アレはミハルが居ないと使えないのよ」

「そうなんだ。新しくクレストさんから貰ったのかと思った」

「何処ででも使えるセリカの鎧の方が使い勝手は良いわよね」


 セリカの鎧が羨ましくない訳ではない。

 だけど全身を包む金属鎧は私のスタイルにはそぐわない。私はあくまでアタッカーだから、攻撃の手数も威力も落とす訳にはいかないからね。


 セリカはあの特殊な鎧を得たことで防御に特化した役割を担うようになったけど、それでパーティー全体の戦力が落ちたかと言えばノーよ。

 私もサーヤもカーラも以前とまるで別の次元に到達したみたいに強くなったもの。

 殆どクレストさんのお陰だけど、ルベスさんとベルさんのシゴキに耐えたと言う自負もある。


 キリギリスを一刀のもとに斬り伏せ、それから次々と出てくるイナゴやオケラなど虫の大軍を倒すのに大忙し。

 この虫の群れを放置すると、メロメロンを食べられてちゃうからね!


「大技はメロメロンにキズを付けるからダメよ! 各個撃破で!」

「分かってる! アメンボウ・ゼクスバースト!」

「流れ弾が当たったらゴメンね!

 『マナ・ガトリング!』」


 サーヤは六連射で、カーラは指先から連続で圧縮した魔力を高速で打ち出すオリジナル魔法で次々と昆虫タイプの魔物を撃破していく。

 この二人が本気になれば、硬い攻殻を持たない魔物なら幾ら出て来ても問題は無かったみたい。


「ふぅ、いい汗かいたわ。ストレス発散出来て、メロメロンもゲットなんて最高ね。

 私もここに住もうかしら」

とサーヤが大きなメロメロンを抱えて満足げだ。


「ムムっ、このメロメロンはセリカに勝ってるわ!」

「私の胸と比べないでよっ!」


 カーラが言うのでメロメロンを抱きかかえていたセリカを見ると…三つあるように見えなくも…。


 思わぬ収穫に気分良くキャンプ地に戻ってくると、沢山の白い鶏がコケコケとさえずりながらお出迎え…鶏なのにこの子達の朝は早くないのね。

 しかも一羽が先頭を歩き、残りの約百羽が後ろを三列縦隊で行進してるし。


 確か先頭の子はクレストさんの肩に乗るほど懐いていた鶏よね。

 名前は確か…イケヤじゃなくてニワトリでもなくて…カグヤだっけ?

 変わった名前だけど、特殊個体並の頭の良さだし、本人が気に入ってるそうだしね。


 カグヤを先頭にした隊列のままキャンプ地から出ると、コケコケ鳴きながら飛んで行ったわ…。

 どうやら今から朝ご飯を食べに行くみたい。鶏って飛べたんだと関心しながら視線を移動すると、タイニーハウスの上には銀色の甲冑を纏った大きなカブトムシのゲラーナが停まっているし…。

 この子達、クレストさんが居なかったら何でもありなのね。

 で、カブトムシが兜を被る意味はあるのかしら?


 ピンク色じゃなくて良かったわ…。


 少し現実逃避をした後、もうクレストさんが起きているだろうと思ったらベルさんとルケイドさんは起きていたけど、クレストさんは居なかったわ。

 代わりに黒装束集団の…もうこの呼び方はやめて、別の呼び方にしようかしらね…幹部の人達は名前を聞いてることだし。


 クレストさんの代わりにルーファスさんとフリットジークさんがベルさんの隣に居たわ。


「おはようございます。

 あの、クレストさんは?」


 私の質問にルーファスさんとベルさんが顔を見合わせると、

「驚かないで聞いて欲しい」

とベルさんが前置きをして、クレストさんの失踪について説明してくれたの。

 驚くなと言われても驚かない訳がないでしょ。


 寝不足はお肌の敵だといつも通りに眠っていた自分達が知らないうちに、なんてことしてくれたのよ!と最初は憤った私達だけど、クレストさんの行動は誰にも止められないと分かっている。

 だから私も他の誰もルーファスさんに怒鳴ることはなかった。


 正直に言えばクレストさんではなくルーファスさんが皇帝の前に立つべきだったと一瞬は思ったけど、それでクレストさんの後を追って皇帝がここに来たのなら周囲に被害が出ただろう。

 それはクレストさんの望むことではないから、クレストさんの取った行動には納得が行くけど…頭では理解出来ても気持ちは別よね。


 後で聞いたんだけど、セリカは『気高き女戦士の鎧』を纏った自分がそこに居れば、クレストさん一人を残すことは無かったのにと自分を呼ばなかったクレストさんに腹を立てたらしい。

 けど、ヒルドベイルは熱に弱いことを思い出して、アイテムの性能に頼りきりの自分が何を偉そうにと反省してたって。


 サーヤは『アメンボウ』やセリカの鎧など国宝級のアイテムを幾つも持つクレスさんトが、同じ人間相手に負けるとは考えもしなかったそうね。

 それよりも、エマさんがこれを知った時にどうなるのかとそれだけを心配してた。


 カーラもクレストさんが負けるなどとは微塵にも考えず、キリアスでどんな騒動を起こすのか、クレストさんに惚れ込む女を増やしているのではないかとそっちを心配してた。


 私達に出来るのは、エマさんがここに戻って来る前にクレストさんがリミエンに帰還するようにと祈ることだけかしら。

 きっとクレストさんなら大丈夫。

 一週間もすれば、ひょっこり戻ってくるに違いない!


 それから朝ご飯を食べて、伐採グループ、食料調達グループ、整地・工事グループ、それと幹部達の特別グループに別れて行動することになったわ。


 この広場は恐らくクレストさんがダンジョン管理者の魔界蟲さんにお願いしてかなり広くしてもらったんだと思う。

 テントやタープで寝床を確保するだけならかなり余裕があったけど、家を建てるとなると狭い家でもテントの何倍もの床面積が必要だわ。


 それに道路もキッチリしておかないといけないし。

 計画的な街づくりをしないと、後で直すのは作るより大変だからね。


 それとは別に、特別グループには大事な仕事があるのよね。

 それは『赤熱の皇帝』グレンノードが薬物によっておかしくした兵士の治療よ。


 昨日鹵獲した荷馬車から大量の薬品が出て来たから、これを分析して解毒薬を作るつもりなの。

 ルケイドさんの『植物図鑑』スキルで植物由来の成分なら少しは分かるかも知れないそうだから、それに期待してるそうよ。


 昔から薬物や魔法を使って兵士を操るような研究はされてたらしいけど、いざその犠牲者を目の前にすると人にして良いことだとは思えない。

 捕虜として連行してきた訳だけど、治療の為の被験者としての側面が強そうね。


 だけど、仮に解毒薬的な物が出来たとしてももうキリアスには行けないのだから役に立たない気がするんだけど。

 出来た薬は他の症状にも効くのかな?

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