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第63話 一つの別れ

 コンラッドに三十人のハーフエルフを連れて行くことになった。

 余生を争いの無いコンラッドで過ごしたいと希望する年寄り中心のグループだ。

 ハーフエルフは人間の二倍近い寿命を持つらしいので、平均寿命は百二~三十歳と言ったところか。


 爺ちゃん、婆ちゃん、父ちゃん、母ちゃん、子供二人の三世帯の家庭が三軒あって、その家族はここには居ない曾爺ちゃん、曾婆ちゃんがエルフらしい。

 つまり爺ちゃん、婆ちゃんがハーフエルフ、父ちゃんと母ちゃんがワンエイスで、子供達はワンシクスティーンスなので、爺ちゃん婆ちゃん意外は実質人間とほぼ変わりない。

 そうなると爺ちゃん婆ちゃんより父ちゃん母ちゃんの方が先に寿命が来る可能性が高い訳で、それを考えるとエルフなんて存在しない方が良かったのにと思ってしまう。


 Y字路を右に曲がり、俺に付いて来ようとするバルムさんだが、彼女には城下町に向かうベルトラさん達を引率してもらわないといけないのだ。

 イライラしながら追い返そうとするが、なかなか手強い。

 やはり転生者で長生きしているだけのことはある。


 付いて来るハーフエルフ達がバルムさんと舌戦を繰り広げる俺をまるで勇者でも見ているように熱い視線を…違うな、冷めた目で見ているが見ている気がする。

 恐らく選択を誤ったかと思っているに違いない。


「クレストぉ、良いではないか!

 嫁にはならんが、儂の体を好きにして構わんからのぉ!」

「うぜえ! ベタベタくっ付くな!

 そう言うのが嫌いなんだよ!」


 難敵だと思っていた腐ったエルフのバルムさんは…別の意味で難敵だった。


「儂は後五十年程しか生きられん予定じゃ。

 余生をお主と暮らすのも悪くあるまい!」

「何でキリアスに暮らす女性って、こうも…」

「お主、そちらの穴派か!」

「…極端なんだ…よ…。

 はぁ、何言ってんだ…もう帰ってくれよ」

「お主と焼きそばパンを両端から一緒に食うまで帰らんわい!」


 焼きそばパン?

 二人では食べにくそうだけど…焼きそばもたまにはいいな!

 ナポリタンは材料が揃うから作れるけど、焼きそばソースは開発しなきゃダメか。

 材料は野菜と果物と酢と砂糖で作ったウースターソースを煮詰めりゃ出来るのか?


 焼きそば用の麺も手打ちかな。

 小麦粉にも強力粉や薄力粉があってどう選べば良いのか知らないし。重曹とか鹹水がいるんだよね。海の無いコンラッドじゃ作れないぞ。

 逆にパスタ麺には鹹水を使わないからコンラッドでも作れるんだよね。


 けど、そうやって作り始めてから味に満足出来るまでに何年かかることか…。

 キリアスは戦争ばっかりしてるから、料理はそれ程発展してないんだよな。


「お主! 何をボケっとしておる!」


 バルムさんが長考モードに入った俺の肩を揺すってモードを解除した。


「あぁ悪い、焼きそばが作れるか考えてた」

「…それ程儂と焼きそばパンを食いたいのか!」

「食わないよ!

 単にパスタじゃなくて焼きそばも食いたいなって思っただけだ!

 ソースと麺の作り方を考えてんだ。

 海が無いから鹹水が取れないかなって」


 そう言や、キリアスって北と西は海に面してるんだよな。

 そこで塩は作ってんのかな?


「海ならダンジョンにあるぞ」

「…何でもありだな、ダンジョンって」

「有難いことにな。どう言う原理か知らんが、海には四季があるらしい。季節によって獲れる魚が違うんじゃ。

 それに海域によっても変わってくるし、年によっても漁獲量が大きく変わるぞ」


 どうせダンジョン管理者が気分で変えてるんだろ。

 本体さんにお願いして、リミエンのダンジョンにも海を作ってもらおうかな…でも、何でもダンジョンで賄うと、南の『シャリア伯爵領』で進めてる塩作りに影響が出るのか。


 木材は緊急措置としてダンジョン産で賄う必要があるけど、それ以外の物は従来通りのやり方が良いんだろうな。

 くそ、何で転生してから政治的な事にまで首を突っ込むことになったんだ? 元は普通のしがない大学生だったのに。


「ダンジョンの海が夏になったら海水浴に行くかの?

 儂のダイナマイトバディで悩殺してやるわい」

「いや、行くならリアルの海に行くよ。

 コンラッドはダンジョンにオンブにダッコされてないから、今のやり方を変えるのはマズイ」

「そうか。詰まらんヤツめ。

 一夜のアバンチュールにしけ込むのも悪くなかろうに」


 バルムさんがわざとらしく大袈裟な溜息をつく。

 アンタの貧相な体には萌えないんだとクチには出さないし、相手が違う女性であってもお誘いに乗るつもりは無い…多分ね。


「長話もボチボチ終わりにするか。

 森の件が片付いたら連絡に来てくれ。警備の方に妖精を連れた勇者崩れが来たら城に案内するように伝えておくわぃ」

「俺が行くこと前提だな。別の冒険者を派遣するぞ。言っとくけど、俺は暇人じゃないからな」

「どうせ知識チートで自分の首を絞めとるんじゃろ?

 程ほどにするか、最初から無いものは無いで諦めんとシンドイだけじゃ。若いから難しいかも知れんがな」


 腹立つぐらいに図星だよ。

 ビステルさんや他の転生者は我慢してるみたいなのに、俺だけアレコレやっちまってるんだよね。


「それならお主のやり方で良い。束縛する女は嫌われるからのぉ。

 ちなみに束縛する男も嫌われるから気を付けろょ」


 コイツは仕事を人に丸投げして、自分は趣味にのめり込んでいるから余計そう思うんだろうな。

 だが譲歩してくれたみたいだし、甘んじて受け入れよう。


「じゃあ今度こそ帰るからの。

 気を付けて帰るのじゃぞ」

「そっちもな。ハーフエルフの皆を宜しく頼む」


 手を振るバルムさんに手を振り返して挨拶すると、ベルトラさんが俺に挨拶しに来た。

 ガーゼルさんは彼から少し離れた位置で頭を下げただけだが、まあ嫌われていると分かって貰えて何よりだ。


「クレスト殿、ここでお別れとなると少々寂しいが、コンラッドに移住する仲間達を宜しく頼みます」

「えぇ、何とかやってみます。

 向こうは土地は余ってますからね。畑さえ出来ればどうとでもなりますよ」


 何処に住んでもらうか、何をやってもらうかは伯爵様次第なんだけど。

 ベルトラさんに別れを告げる移住者達の挨拶が終わり、それぞれのグループが手を振りながら別れを告げた。

 涙を流さないのはきっと今までにもあちらこちらに移り住んできたからだろう。一緒に居たくないと考えていたとは思わないように…。


 前に向いて進み始めたハーフエルフ達の足取りは軽い。


「儂らの第三の人生は今始まったばかりじゃ!」

「ギャハハ! それは終わった時のセリフじゃわい!

 儂らの戦いはこれからじゃ!」

「それも打ち切りエンドぞぃ」


 コイツら…いままで猫被ってたのか?

 今まで影が薄くて大丈夫かと心配してたけど、急に元気になりやがった。

 元気なのは良いけど、頼むからトラブルだけは起こさないでくれよな。



「なかなか楽しい男じゃったな」


 クレストと別れて左の道を進むバルムが顔をニヤつかせながら足を進める。

 城に戻れば鋼鉄王との不戦協定の締結に向けて動かなければならない。そう言う面倒な仕事は他の者に任せっきりだったが、今回は自身が動かねばならないだろうと諦めている。


 バルムはエルフに転生して約三百年。

 クレストに言ったことに嘘は無く、魔法と武術の訓練を百年続けた戦闘狂の一面もある。

 それは自分が生き残るための選択であった訳だが、力こそ正義を地で行くキリアスでは桁外れの武力を持ってしまったバルムが上に立つのは当然の帰結だ。


 本人が望まぬうちにいつの間にか有力戦国大名の一人のように扱われ始め、本人が知らないうちに配下が揃い、部隊が揃い…気が付けばキリアスの五大勢力の一つと呼ばれるようになっていたのだ。

 特段本人は政治や軍事にクチを出したことはない。


 誰かに頼まれて数度は戦闘に参加した記憶はある。

 どれも大した戦闘では無かったようで、魔法を数発撃ち込んで適当に暴れまわっている間に戦闘が終わったのだ。


 一度だけ鋼鉄王と言う魔族と戦ったことがあり、この男だけは倒すには至らなかったが個人的な恨みや感情は一切ない。

 寧ろ正々堂々殴り合ったのだから、仲が悪いと思っていない。恐らく町で会えば、気軽に挨拶して擦れ違えるだろ。


 ただ政治的な話で会いに行くのは、お見合いみたいで面倒だと感じているのだ。

 別に自分がキリアスを統一しようなどとは思っていないし、今着手しているマジピューターの開発に没頭出来るなら、いつの間にか座らされていた行政トップの座などアッサリ蹴ってクレストに世話をしてもらおうと本気で考えている。


 思えば自分から配下に対して何をしたいと言ったことは無い。

 それでもしっかりした行政基盤が出来上がったのは、それだけ優秀な人材が勝手に仲間に入って才能を発揮した結果なのだと改めて思う。


「よし! 鋼鉄王と話を付けたら引退するぞ!

 ベルトラ、ガーゼル!

 お主らはまず仲間の衣食住を整え、快適に暮らせるように尽力せよ。

 クレストの活躍に恥じることの無いよう励め! 

 励めと言ってもエッチな方向じゃないからの!

 じゃがもし好き合っておるなら、そっちもどんどん励めよ! 子は宝じゃからな!」


 個人的にはこれで決まった!と大満足。

 二人にこのハーフエルフ集団の面倒は丸投げしておこう。

 住む場所なら適当に整地して作れば良いからのぉ、とお気楽なものだ。


 丸投げされたベルトラとガーゼルは、トップがこんなに適当で大丈夫かと心配になりつつも煩いことを言われないなら有難いと思っていた。

 それに体の相性も悪くない。堂々と付き合うことが出来るなら、毎日ウフフな生活を…と妄想するのだった。


 ダンジョンを抜け、幾つか枝分かれしている地下通路を通って地上に出る。

 出入り口は小さな建物が覆うように建てられていて、先頭を歩くバルムがドアを開けると二人の警備兵が敬礼をする。


「無事のお帰りに安心いたしました。

 予定時刻を過ぎているようですが」

「済まんな、客人を連れて来た。休む広い場所…建物は近くにないか?」

「それなら…えっ、何人ですか?」


 ワラワラと出てくるハーフエルフ達の数に驚く警備兵。数えるのを諦めて軍の屋内訓練施設なら入れるとバルムに言う。

 入れるが休めるかは別問題だが、それは二人の知った事ではない。有事の際には避難所となる訓練施設なら、椅子や寝具もそれなりにあるだろうと思っていたし、それは正解だった。


 バルムが直々に引き連れて来た集団に顔を引き攣らせた軍関係者達の気苦労など知る訳もなく、バルムとベルトラ達は訓練施設に到着した。


「ここならトイレも食事も寝るのも問題ないな。

 落ち着いたら代表者は人数や至急必要な物を纏めて城に知らせてくれ。

 いや、こちらから聞きに行かせるか。暫くゆっくりしてくれ」


 バルム帰還の報せを受け、実質上は政務のトップである宰相が慌てて訓練施設にやって来ていた。

 予定外の集団の移動に面喰らい、この集団の面倒を見るようにと丸投げされて更に面喰らい、今から鋼鉄王の所に行ってくるからと言われて留めを刺された。


「ついに鋼鉄王との決着をお付けになる覚悟をお決めになられたのですね!」

「そうじゃな、キリアスの中でお山の大将を争っても意味がないから仲良くすることにした。

 共通の友達の紹介じゃ」

「鋼鉄王と結婚なさるとっ!」

「はぁ、何を言うのじゃ? 仲良くするだけで結婚などせんよ。

 これからはコンラッドと交易を行うことになる。北と南の戦闘狂が居なくなれば、お主もそれ以上禿げずに済むし、一石二鳥よな」


 この人、何を言うとん?と漏らした宰相は多分悪くない…。

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