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第59話 愛無き妊活反対!

 地下通路に繋がっていたダンジョンでの戦闘が終了した。

 ハーフエルフ達は怪我人を出しながらもオークの部隊を全滅させることに成功したが、魔力を使い果たしようで怪我人の治療は中途半端のままで放置されていた。


 この戦闘はダンジョン管理者が仕組んだ魔力回収が目的だったらしく、回収した魔力はハーフエルフ達が持っていた地図にある道を作る為に使用されたようだ。


 親切と言えば親切だが、ダンジョン管理者の存在や魔力回収について知らない彼らが呆気に取られていたのは仕方ないだろう。


「クレストさん! 無事で何よりです!」

と俺に駆け寄って来たのはあの秘書役だ。名前は聞いたけど…何だったっけ?


 俺に抱き付きギュッと胸を押し付け、人の目が無ければそのまま押し倒したんじゃないかと言うぐらいの勢いでキスをしてくる。

 暫く俺のクチを好きにした何とかさんが、

「やはりクレスト様は勇者だったのですね!」

と勘違いした事を言う。


「何さんだっけ?」

「ガーゼルです!」

「そうそう、ガーゼルさんだった。

 で、俺は勇者ではない。髪は黒っぽいけど、召喚されてもいない。

 偶然か事故かでこうなっただけだから。

 それはともかく、休んだら先を急ごう。また襲撃されるかも知れないから」

「はい!

 新しい愛の巣に直行しましょう!」

「しないよっ!」


 愛の巣なんて久し振りに聞いたぞ。死語だと思ってたよ。


「この女! ママを差し置いて図々しいにも程があるのデス!

 今なら事故に見せ掛けて消せるのデス!」

「…もう戦闘は終わってるけど、どんな事故だよ?」

「…放送事故…ポトリがあるかも…首がポトリ…なのです!」

「発想、怖すぎっ!」


 少しキレ気味のアルジェンが俺の頭をポカポカと叩く。

 鬱陶しいのでガーゼルさんの頭に乗せると、更にエスカレートしたようだが知った事ではない。


 それにしても、神狼が出てきたのに骸骨さんが出なかったのは『鋼鉄王の結界』の事を知っていたからかな?

 どう考えても最後の一撃は骸骨さんの出番だったろ。


 隊長マークのベルトラさんが恐る恐るカマキリの遺体を棒でツンツン…ウ○コじゃないんだから。


「ダンジョンに吸収される前に魔石を回収しろ!

 オークも上位種優先でな!」


 おー、やっとこの人が隊長らしいとこを見せたよ。

 ルーファスさんと比べて、かなり影が薄いんだよな…まぁ、黒装束軍団に比べると、ハーフエルフ集団は全体的に存在感が薄いんだよな。


 黒装束軍団の二番煎じみたいなもんだからか?

 コイツら、どうして集落から逃げたのかもイマイチ分からない。

 単に魔力が濃い場所に居たら云々のドランさんの話だけで決めたのなら、理由として弱い気がする。

 もう少し説得力や危機感のある理由が欲しいと思うのは俺の身勝手か?


 そりゃさ、バルム婆の支配地域に居る人達が、皆バルム婆を慕っていたり尊敬していたりするとは思えないけど。

 それにエルフを産みたがるっているのがもっと意味不明だ。


 エルフで無ければ開けられない宝箱があるとか?

 ゲームなら特定の種族をパーティーに入れないと起きない限定イベントとかあるけどさ。

 リアルでそんなのは無いと思う。


 腐ったエルフのバルム婆を倒せるのはエルフだけだ!みたいな予言や、自分達の中から生まれたエルフが英雄として活躍するって予言があったのかもね。


 だからと言って、俺は種馬として働くつもりは無いぞ。そう言うのは、キチガイの関根さんに丸投げしてやりたいよ。

 アイツがハーフエルフかどうかは一切考えない!

 単に俺がイヤな事をアイツに押し付けてやりたいだけだ。


 でも俺にはアイツと違って瞬間移動のスキルは無いから、生卵をぶつけてやろうと思っても出来ないんだよな…と言うか、生卵って昔と違って安くないよ。


 まあ、そんな訳だ…馬鹿な事を考えてたら、自分が何に腹を立てていたのか忘れちまったよ。

 兎に角、リミエンに到着してからもなるべくハーフエルフ集団とは接点を持たずに暮らせるように手を打たなければ…マジでヒヒーンと種馬生活になる可能性が高いってことは忘れないようにメモしておこう。


「クレスト様! 死神の鎌が一本ゲット出来ますが、どのように致しましょうか?」

とベルトラさんがニコニコしながら聞きに来た。

 どのようにと聞かれても、活用方法なんて知らないし。


「お前にやるから、好きに使いな。

 それと俺が二つに切ったやつ、あれは鉈とか斧にならないかな?

 リミエンで木を大量に伐採するかも知れないから、出来れば欲しいんだ」

「分かりました!

 死神の鎌を持つに相応しい男になってみせます!」


 そう気合いを入れた隊長だが、どちらかと言うと俺は斧の似合う男になって欲しい。

 武器に作り変えるには結構な手間暇が掛かると思うけど、気長にやってくれと心の中で応援しておこう。


 その後、俺も少し仮眠を取って体を休める。

 魔力が無くても戦闘の後に放出されていたアドレナリンが引いていくと、やはり疲労を感じるのだ。

 しかも俺じゃ絶対に勝てない神狼が出てきたんだから尚更だよね。


 でもKOSと光剣と言うチートを手に入れたって言うのに、キリアスに来てから俺は負けが込んでいるよな。

 もっと強くならないと、ずっと骸骨さん頼みになってしまう。骸骨さんは一応俺でもあるんだから、俺だって頑張れば骸骨さんみたいになれるよね…あの性格はパスだけど。


 いつの間にか眠りに落ち、ペチペチと頬を叩かれて起きる。

「そろそろ出発なのです。

 それと…」


 アルジェンが指さした先には、地面に『鋼鉄王の結界は一度限りだぞ』と乱暴な字が書かれていた…あのさ…骸骨さんが勝手にゲットした能力だから良いんだけど、無駄遣いしたってやつだと思うのは気のせいかな?


 釈然としない気持ちのまま、肩にアルジェンとドランさんを乗せてダンジョンを歩き出す。

 先にハーフエルフの集団は移動を始めていたが、子供達が纏わり付いて変身をせがむのが邪魔くさい。


 こう言う時は、

「アレに変身するたび、俺に掛かっている呪いが進んでいくから、何度も変身出来ないんだよ」

と嘘の設定であしらうに限る。

 だが、

「おにーちゃん、チューニボー患者なんだ!」

「中二病だ! 棒にするな! どんな患者だよ?」

「チューニが怒った~」


 うぜぇ…だから余所のガキは嫌いなんだよ。

 ウチの子を見習えって。


 どうもこのハーフエルフ集団とは馬が合わないな。

 育ちや境遇の違いか?

 ルーファスさんの所は皆が生きていくのに必死で、子供達だってこんな馬鹿なことは言ってこなかった。

 彼らはアイアンゴーレムに村を襲われ、大勢の仲間を失ったと言う辛い経験があるだけに、子供達でさえ仇を討った俺に対する敬意を示してくれる。


 切迫の度合いがまるで違っていて、今回は安易に移住を許可してしまったなと後悔しているのだ。


 次の休憩で隊長のベルトラさんに思い切ってエルフを産みたいと望む理由を聞いてみた。

 すると少し顔を顰め、

「それはな…俺にもよく分からんのだ。

 一応俺が隊長をやっているが、実質はガーゼルが動かしているようなもんだ。

 俺には戦うことしか出来ないが、アイツは頭が良いからな」

と面白く無さそうに言うのだ。


「元々エルフは子宝に恵まれにくいと言われておるが、実はエルフ同士よりエルフと人間のカップルの方が子供が産まれやすいそうだ。

 これは人間の血の力が影響しているからだと推測するが。

 当然だが産まれるのはハーフエルフであって、エルフより大きく魔法の能力が劣る」


 これはゲームでもよくあるパラメータ設定の話だよな。まさかこの世界を作った神様って、ゲームを参考にしたんじゃないかな?

 でも途中で飽きて中途半端なシステムで終わらせたのでは?


「それでな。純血種のエルフは既に滅んだと言って良いのだ。魔道兵器として利用するのに都合が良かったからな。

 そのせいで見付かれば拉致され戦場送り…バルム婆が腐ったのは仕方ないだろう」


 はい? 隊長はバルム婆容認派だったの?


「だが、婆はハーフエルフなど出来損ないだと、使い捨てるように戦闘の激しい地域へと派遣を続けた。

 俺らも鋼鉄王との防衛ラインの一部としてあの森に回されていたんだ。

 特に魔力が濃い場所で、人間には厳しい場所だがハーフエルフならエルフの血が混ざっているから大丈夫だと言ってな」


 容認派ではなさそうだな。安心したよ。


「それで何処からか、ハーフエルフ同士でナニをやると、低確率でエルフが産まれると言う噂が広まってな…バルム婆にはハーフエルフが産んだエルフしか勝たん…と、そんな空気になってしまったんだ」


 おいおい…モンスター同士の掛け合わせで低確率でレアモンが産まれるゲームじゃないんだぜ。

 そんなだろう運転でガーゼルは集団の行動方針を決めやがったのか?

 出来る秘書風のように見せ掛けた、ただの馬鹿だろっ!

 そんなことで俺を種馬にしようと?

 それこそ何処のアンビリバ棒だよ。


 だがまあ、なんだ。ハーフエルフ同士で積極的に妊活に打ち込むって方針で…愛無き情事にふけてた訳だ。

 それでクォーターが産まれようが、ワンエイスが産まれようが、仲間を増やすと言う目的であればそれで良いのかも。


 もし本当にエルフが産まれたなんて奇跡が起きれば儲けもの。可能性は限りなくゼロに近いだろうが、ここはマナと魔力と魔法がある世界。

 どんな奇跡が起きても不思議ではないからな。

 だがその結果、俺を棒扱いするガキが産まれたのだから、絶対にこんなやり方間違ってる!

 えっ…何か違ってるって?


「パパ、やはり濃い魔力は体に悪いのです。

 パパが苦労した現象が起きている可能性が高いのです。

 そうで無ければ、ただの逆セクハラアホハーフエロフ集団なのです!」


 俺の中に魔界蟲本体さんが居た時みたいな状況に、あの秘書役達がなっているって?

 確かにあの時は俺もかなりヤバかったからな…。

 でもそれなら溜まりすぎた魔力を出してやれば症状は治まるのだから、ドンドン戦闘すれば良いだろう。


 ダンジョン管理者も放出された魔力が欲しいんだから、適度な戦闘が行えるレベルの魔物を出し続けくれたら種馬問題って解決しないかな?


 休憩が終わってまた何時間か歩き始続け、煩いガキ共がやれ晩飯だ、やれ疲れたと当然の欲求を表に出し始める。

 恐らくはダンジョンを抜けるまで約一日と言うのは大人の脚に合わせた時間だ。子供達を連れた行軍なら二割、三割増しは当たり前で考えておかなきゃね。


 それに非戦闘員も怪我人も居るのだから、俺もここでの野営に賛成だ。

 俺はアルジェンとドランさんに守って貰わないと貞操の危機なのが問題だけど。

 ダンジョンの地面には『大地変形』が通じないから、森の中で作った小屋はここでは作れないのが地味に痛い。


 夕食後、二人に見張りをお願いしてすぐに眠りに入る。

 そして今度は魔法が爆発した音で目が覚めたのだった。

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