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第58話 分かれ道

 バルム婆の領地に入って襲撃されたら、抱いてくれと言われた…無理だろ?


 ラサベラさんは骸骨さんがヤッタ訳だし…以前なら、骸骨さんが出ている時も俺の意識はあったのに。

 えっ? エッチが楽しめなくて残念なんて思ってないからね!


「えーと、何とお呼びすれば?」

「私はガーゼルです」

「ではガーゼルさん、俺は無節操に女性を抱くことは致しません」

「無節操ではない! れっきとした家族計画だ!」

「いえ、私の中では伴侶と決めた女性以外との行為は禁忌なのです」

「なら何故ラサベラとは?」

「それは…俺の中に居るもう一人の俺の仕業です」

「それって…チューニ病…しかも重症…おつ」


 チューニ病をこの世界に広めた勇者共!

 復活して詫び入れろや! 腹立つわ!


「男なら皆が多少のチューニ要素は皆持っています! 俺が特別ではないから!」

「言い訳はいいから。で、もう一人の俺は出せるの?

 出せたら信じてあげるし、移住も考えて良い。

 だけど、出せなかったらエルフが産まれるまで種馬としてここで頑張って貰うから。

 悪い取引ではないでしょ?

 三食女付きで気持ち良いことし放題。男の子の夢よね?」


 コイツ、都合の良いようにべらべらと鬱陶しい。

 俺が久し振りにマジ切れしそうになったところで、運良く?意識を失った。



「…またか、しか言うこと無いや」


 骸骨さんが出てきてくれたのは有難いけど、やはり意識を失うと言うのは厄介だ。

 敵の前で無防備な姿を晒すのだから。


 でもガーゼルさんの言い方にはマジで腹が立ったから、骸骨さんが出るのも当然だろう。

 あんな感じの自己チュー女、あの人は大嫌いだからね。


「アルジェン、ドランさん、居る?」


 いつもならすぐ飛んでくるか、起きたら察知してくるのに今回はその気配が無い。


 ドランさんに思念を送り、起きたことを知らせると、

『今食事中です。

 ここの果物は絶品ですよ。早く来てください』

と餌付けされていたらしい。


 来いと言われても場所が分からない、と思っていると、アルジェンの声が聞こえたのでそちらを目指す。


 どうやらそこは食堂になっているらしく、大量の果物が二人の前に用意されていてご機嫌のようで何よりだ。


「パパ! 起きたのです!」


 手と顔をベタベタにしたアルジェンが突撃してくるのはいつものことだ。


「クレスト様…我々をこの地から解放して頂けませんか?

 聞けば西のキチガイの領地に居た者達を保護し、その時にこちらに取り残されたとのこと。

 我々約二百名、クレスト様に命を捧げる覚悟です」


 頭に隊長マークを付けて居た男性がテーブルに頭を付けると、他の人達も同様に頭を付ける。

 何かの儀式みたいで気味がワルい。


「でも、ここはまだバルム婆の領地に入ったばかりだよね。

 ここからコンラッドまで、どのぐらいの距離があるの?

 それにバルム婆は問題無いの?

 性格悪いんでしょ?」

「コンラッドまではダンジョンと放棄された地下通路で繋がっております。

 一日も歩けばコンラッドに脱出出来ます」

「地下通路があるのは想像通りだけど。

 それって何本もある?」

「恐らくそれ程多くは無いでしょう。

 魔法を使ったとしても掘るのは大変ですから。安全確保もしないといけませんし」


 多くは無いのか。

 それなら、これから通る地下通路も破壊して行けばコンラッドの危険が減る訳だし、そうすべきだろう。


「地下通路はバルム婆にはバレていないのか?」

「そうは断言出来ませんが。我々がここから居なくなったとして、それに気が付くまでの時間差を考えれば問題無いかと」

「そんなモンなの? じゃ、早く行こうか?」

「はい! 準備は調っております!」


 用意が良いね。俺が寝てる間に終わらせたんだ。それか、いつでも逃げ出せるように用意していたのか。


 でも二百人も追加か…参ったな。別の団体さんだから、ルーファスさん達と一緒と言うのはマズイよね?


 地下通路の入口は建物の中にあり、仕掛けによって隠されていた。

 戦う考古学者の気分を味わいながら入口をくぐり抜け、最後の人が入口を塞いでロックした。

 それだけでは心もとないので、アルジェンに大地変形で入口を完全に埋め、硬化処理まで施しておく。


 もし入口を発見されても、これで時間が稼げる筈だ。

 狭く足場の良くない通路を大勢が歩くのだから、そのスピードは決して速いとは言えない。

 光の魔法を頼りに黙々と歩き続けるが、体力差が明らかになって次第に遅れていく人が増えてくる。


 それに地上に居る人に気が付かれないように黙々と静かに歩くのだから、子供にはかなり厳しい行軍なのだ。

 だがそこはやはり度重なる戦闘で鍛えられた精神力は子供達も遺伝しているのか、一人二人を除いて大して弱音を吐くことはない。

 自分の行動一つで全体の危機を招くと分かっているのだろう。


 先頭集団が地下通路を通り抜けてダンジョンに到着し、最後の人がダンジョンに辿りつくまでに五分程の時間を要した。


 その間に先頭集団はダンジョン内部の確認を行い、過去の資料と差のないことを確認したようだ。

 でもダンジョンを通るのはどうなのだろう?

 ダンジョンは管理者の気分一つで変えられるのだから、調べた範囲が昔と同じだからと言って残りが同じとは限らない。


 俺はそんな一抹の不安を感じていたが、ダンジョンを歩きだそうと動き始める先頭集団には俺の気持ちは分からないだろう。

 それより建物にあった入口と同様に、この地下通路の出口もしっかり塞いで固めておくのは忘れない。


 こんなことをしても、それなりの魔法の使い手なら硬化処理を解除してしまう可能性があるので過信は禁物か。


 敢えてクチには出さないが、エルフで性格が悪いとなればこの逃避行を察知していても不思議ではないと思う。

 それは俺がトラブルホイホイの異名を持つからこその発想なのかも知れないが。


 ダンジョンの中は所々に光石が天井に生えていて、灯りを手に持たなくとも先が見えない程ではなかった。

 そこだけ比べれば地下通路より遙かに親切だ。


 だが魔物の出現にトラップなど、命の危険は付き物である。

 アルジェンとドランさんに魔物の探知をお願いし、魔物が出てくるハタから矢と魔法で撃破するのはさすがハーフエルフの集団と言うところか。


 だがその快進撃も地図にない分岐点の出現によって終わりを告げた。

 頭に隊長マークを付けたベルトラさんがどうしようかと頭を悩ます。


 しかも間の悪いことに左右どちらお別れ道からも魔物がやって来るのだ。


「ヤバイ! マンティス! 死神だ…」

と右側から現れた緑色の巨大なカマキリに怯え始めた。


「左側! ヤバイのは居るか?」

「こちらは…オークの群れです!」


 それならヤルことは一つしかない。


「カマキリは俺がヤル!

 オークは任せた! 上位種が居ると思って警戒しろ!」

「パパ! KOSでヤルのデス!」


 アルジェンには言わなくても分かったようで、即座に変身のシーケンスに入った。


 その間に急速接近するカマキリにハーフエルフ達が悲鳴を上げていたが、そんな暇があるならオークを一体でも倒せと腹が立つ。


 死神と異名を持つ所以となった鎌が俺の体に振り掛かったのと光剣が熱を帯びて戦闘モードに入ったのはほぼ同時。


 風音を残して俺の胴を薙ぐように振られたり鎌が両断され、もう一方の鎌も呆気なく根元から切り落とされた。


「しまった! コイツ、高く売れたのに…」


 スオーリー副団長への賄賂にもなるのだから、もう少し五体満足に残しておくべきだったか。


 そんなアホなことを考えつつ、カマキリに留めを刺してその背後にいた狼に光剣を向けた。

 全体が綺麗な青白いオーラに包まれ、神々しいと言っても過言ではない。


「コイツ、ヤバイよな?」

『パパの頭にある魔物リストから近いのをあげるなら…』

「神狼…フェンリル!ぽいな。勝てるのか?」

『…負けたいのです? でもKOSでもスピードで負け…』


 その時、反射的に動いた体に感謝する。

 もし立ったままで居れば、俺は鋭い爪の餌食になっていただろう。

 目の前を高速で通過した神狼は、それから俺を弄ぶかのように体当たりを繰り返す。


『完全に玩具にされてるのです!』


 距離を置いて威嚇する神狼に、アルジェンがそんな感想を漏らす。


「時間稼ぎか? 俺を足止めするために」


 やろうと思えばいつでもやれる、それぐらいの実力差をヒシヒシと感じながら、体当たりをされて転がされては起こされてを繰り返す。


 そしてKOSを維持出来る時間が過ぎ、俺は生身で神狼と対峙することになる。

 鎧を失った俺が体当たりを一度でも食らえば…冷や汗が流れ落ちる。


 舌舐めずりをした神狼が目の前から突然消えた…死ぬっ!

 根拠も無く死を覚悟した俺に背後から大きな衝撃が加わり、大きく前へと弾き飛ばされた。


『クレストさん!』


 アルジェンが俺の中から出たことで、代わりにドランさんが俺の中へと入ってくる。

 スピードを上げたぐらいでどうこう出来るとは思えないが、黙ってヤラレル訳にはいかない。


 執拗な体当たりを回避し続けている間に、ハーフエルフ達からオークの群れが全滅したとの声が上がった。

 だが魔力も矢も尽き、こちらの援護は期待出来ないようだ。もっとも近くに来られても邪魔にしかならないが。


 オーク全滅の報さは神狼の耳にも届き、満足げな顔をした…ように俺には見えた。


『これで最後だ』


 神狼からの念話が脳に直接響いた瞬間、俺は確実な滅びを予想していた。

 遙かに格上の存在が何故今まで俺を殺さずに遊んでいた?

 ヤル気ならアクビ一つの時間でヤレタ筈だ。


 防御も回避も神狼の前では意味をなさない、そう諦めて目を閉じる。

 いや、その時間もなかっただろう。

 眼前に迫った神狼の真っ赤なクチが俺の頭に食らい付こうとした瞬間、体に電気のような物が流れたのだ。


 そして体が一切動かせないままで神狼に噛み砕かれるのを待つが、俺の頭を咥えた状態で神狼の動きが止まった。


『鋼鉄王の結界だと?

 何故お前がそんな物を使えるのだ?』


 驚いたような神狼の念話が届く。

 いや、俺もそんなの知らないし。


『お前は鋼鉄王か?…違うな…鋼鉄王に愛されたか? ビーエル…』

「違う! そんなのやってねぇ!」

『ならば…鋼鉄王の血を受け継いだ…契りを交わしたか…やはりホ○』

「やってねぇ! ラサベラさんとなら…ヤッタみたいだけど…」

『娘か…愛されたのだな…』

「ヤッタのは中の人だから、愛されたのかは知らねえし」


 開けたままのクチを離すと、神狼が興味を無くしたかのように急に踵を返した。


「俺を殺さないのか?」

『それなりに楽しめたからな。

 それに魔力も回収出来たようだ。道を開いてやろう』

「格好つけやがって」

『次に遭うときまでに、もっと強くなっておけ。

 今のお前で遊んだところで全然物足りんからな』

「もう遭う予定は無いぞ。

 俺はバトルあり、陰謀ありの生活から抜け出して、田舎で普通の生活を送るつもりだからな」

『…ふん、出来るものならやってみろ。

 人の生き方はそう簡単には変わらぬ物だ』


 それだけ言うと、神狼は数歩進んでふっと姿を消した。

 俺の頭にべったりと涎を残したままで…。


「パパ…バッチイのデス! 『浄化!』」

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