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第57話 腐ったエルフですか?

 名前の割りには脚の速いタートス君とバルム婆の支配する東の領地へと急ぎ足。

 まさか本当に二日間で鋼鉄王の領地を横断出来たことにビックリだ。


「じゃ、ここからは俺一人で行くから」


 心配そうに俺を見るタートス君だが、結構絡みづらい人だったので実はホッとしている。

 とは言え、この先は腐ったエルフが支配するのだから何があってもおかしくはないだろう。


「もし、父さんがキリアスを統一したら、コンラッドに遊びに行くよ」


 来るな!と言わないだけ俺も大人になったものだ。


「決して敵を侮らず、無理はするなと伝えてくれ。

 敵も日々進化しているんだからな」

「分かった、伝えとく。

 今度会ったら一緒に泡の国でハッスルしようね! おねーちゃんも呼ぼうかな」

「アホッ! 呼ぶなよ、絶対に!」


 コイツ、どんだけソープ○ンドが好きなんだよ?

 鋼鉄王の領地がマジで心配になってきたよ。


 タートス君に見送られ、一人と二匹?で森へと侵入する。


『これは魔力汚染が進んでるようです』

「過去に勇者がやらかした結果かも知れないな」


 ラビィがそんな話をしていたような気がする。


「パパの魔力が無い状態でこの森に長時間居るのはマズイ気がするのです。

 いっそのこと焼き払ってみると良いのです」

「いや、それは俺の主義に反する。

 必要以上の自然破壊は毒にしかならない。森は貴重な資源だし、一度失うと回復に何十年も掛かるんだ」

「パパは人にも甘いけど、自然にも甘いのです」


 コッチの世界だと、まだそれ程気にするレベルでの環境破壊が起きているとは思えないが、一度始めてしまうと止められなくのが人間の業なのだ。


「今夜は森の中で野宿なのです?」

「俺の体に異常が出るようなら考え物だが、そうでなければ何処かで休ませてもらおう。

 勿論アルジェンとドランさんを頼りにしてるからな」

「任されたのです!」

『良いけど、なんか不安だな』


 日が沈むと森の中は真っ暗になる。

 そうなる前に野営の出来る場所に陣取り、テントを張っておかなければ。

 そう思ってなるべく開けた場所を探して歩くが、この森は人には優しくないらしい。


「仕方ない。アルジェン、地面を均して大地変形で小屋を作ってくれないか」

「お安い御用なのです!晩飯前なのです!」


 あっと言う間に四畳半の土製の小屋を作りあげたアルジェンに拍手を送る。


「朝まで穴熊生活なのです!」


 その例えはどうかと思うが、窓の無い小屋なので穴に居るのとそう変わらないのか。


 後でルーバータイプの排気口を追加してもらう。火を焚いて二酸化炭素中毒にならないようにね。


 携帯食で簡単な夕食を済ませ、早めに眠ることにする。

 この小屋に近付く人が居れば、アルジェンとドランさんが気が付くだろう。


 よほど疲れていたのか、すぐに深い眠りに落ちた俺をペチペチとアルジェンが叩いて起こす。


「時間的に早朝なのです。

 起きて先を急ぐのです」

「もう朝か。何も無かったんだな」

『人の接近は無かったです。

 魔物はそれなりに来ましたけど』

「そうか。ちょっとトイレな」


 アルジェンにドアを開けてもらい、近くで立ちションベン…本当はやっちゃダメだからね!


 スッキリしたところでナニを元の位置に戻していると、突然音を立てて矢が飛んできた。

 威嚇なのかわざとなのかは分からないが、足下に突き刺さった矢にビビリながら慌ててナニを引っ込めた。


「誰だっ!」

と誰何するが、返事の代わりに矢が飛んでくる。

 アルジェンとドランさんが敵の接近に気が付かなかっただと?


 矢の飛んできた方向に意識を向けるが、人の姿らしきものは全く見えない。だが矢はまた飛んでくる。


「俺は敵じゃない! 攻撃はやめてくれ!」


 ガサガサと音がして、木の枝から迷彩服に身を包んだ人物が飛び降りてきた。


「敵対する奴ほど最初に敵じゃないと言う」


 その言葉の後に何人かが木から降りてくる。

一様に手にした弓を俺に向けているのは、俺を敵と認識しているからか。


「私の探知をすり抜けたのですっ?!」


 声を聞いてパタパタと出てきたアルジェンに矢が放たれたが、軽く回避したようだ。


「ここの魔力を利用したと言うのですか?

 中々やる人達なのです!」


 この森は他の場所より魔力が濃いらしいが、その魔力を有効利用したと言うことか。

 それだと他にも手を打ってくる可能性があるかも。


「俺はダンジョンのトラブルでコンラッドからキリアスに飛ばされてきた。

 コンラッドに帰る途中だ。貴方達と争うつもりは無い」

「それを信じろと?

 随分虫の良い話だな。それでデュークの土地を通り抜けてきたのか?」

「そうだ。話せば分かる人だった。あ、魔族だったが正解か」

「それはつまり、デューク派と言うことだな。

 敵陣営の者を生かして通す訳があるまい」

「だから敵対するつもりは無いの!

 とにかく急いでコンラッドに帰りたいんだ。通して欲しい」

「コンラッドに戻り、デュークとこの地を挟撃するつもりだな?」

「そんな訳があるかよ。

 そんな役目を持ってるなら、ここで吞気に野営なんてしないだろ。俺は誰とも争いたくないの!」

「スパイの可能性もある。

 こんな胡散臭い奴を放置出来ると思うか?」


 この人達、ヤダ! ろくに人の話を聞いてくれない!

 かと言ってKOSで暴れて解決って場面じゃないだろうし。


「スパイ容疑と軽犯罪法違反で連行だ」

「それって立ション?」

「当然だろ」


 異世界に来て何でそんな事で捕まるんだよ。

 普通にその辺でもよく見るぞ。


「あの、大の方は?」

「少し我慢しろ」


 朝のルーティーンが崩れるじゃないかよ…。

 アルジェンの作った小屋を元に戻し、リュックを背負って肩にアルジェンとドランさんを乗せて大人しく迷彩服の集団に連行される。


 男女はほぼ半数か。指揮官は赤い鳥の羽を帽子の天辺に付けてある。有名なロボットアニメの敵軍の隊長マークみたいだな。


「貴様、何をジロジロ見ている?」

「その羽が格好いいなと思って」

「そうか! この良さが理解できたか!」

「隊長、お世辞を本気にしないでください」


 惜しい…切角隊長と良い関係が結べるかと思ったのに、秘書に邪魔された感じだな。


 おトイレを我慢して三十分程歩き、森を抜けて開けた場所に作られた集落へとやって来た。


「おトイレ貸して!」


 まずは最優先事項はこれである。

 呆れた顔をする面々だが、仕方ないと諦めたように片隅にある小さな小屋を指さしたので、ありがとうと、礼を述べてドアを開ける。


 爽やかな画像と曲で時間を繋ぐようなシーンは全カットして、スッキリしたところでまた弓を向けられた。


「敵じゃないし、逃げも隠れもしないって」


 お腹が減ってイライラしてるけどね。


 隊長マークを付けた人は居なくなっていて、秘書役がキツい目付きを向けながら付いて来いと命令する。


「ねえ、パパ。魔力が濃いけど、体調に変化は無いの?」

とアルジェンが気遣ってくれる。


 自覚するような症状は何も無いが、それ程気になるのか?


「ねえ、そこのお姉さん。

 この濃い魔力の中に居て体調はおかしくならないのです?」

「我々エルフの血を引く者が、この程度で体調を崩す訳があるまい」

「えっ! 皆、ハーフエルフなの?」

「ならどうした? 嘲笑うか?」

「なんで? 俺もハーフエルフだし」

「なんだとっ!?」


 キツい目付きの秘書役が俺の頬を両手で挟む。それからグイグイ動かし、頭をテチテチと叩き、耳を引っ張り息をフッと吹き掛ける。


「最後のは必要あったの?」

「ない!」


 ドヤ顔で言うな! 焦ったじゃないか。


「なるほど、分からん」

「え? 普通なら今ので『お前はハーフエルフだったのか!』と驚くシーンでしょ?」

「外見的特徴が乏しい上に、魔力回路を損傷している状態では判別出来る訳がなかろう。

 一つ確かめる方法はあるが、ヤル気は無い」


 どんな方法なのか気になるけど、ヤル気が無いなら無理にとは言わないでおこう。

 恐らく藪蛇になるだろうからね。


「それならギルドカード見てよ。種族も書いてあるから」

「なんだ、持っているなら先に言え」

「アンタがいきなり頬を挟んだから言えなかったんだよ!」

「人のせいにするな!」


 コイツ、絶対後で泣かせてやるからな!

 アルジェンが出したギルドカードを持って本人確認をして、やっと俺がハーフエルフでキリアス出身だと納得してくれたのだが、

「腐ったエルフの里にようこそ」

と態度が急変したのはちょっと許せない。


「で、腐ったエルフって?」

「キリアスでは長年ハーフエルフの事をそう呼ぶのだ。知らんのか?」

「俺、キリアスに居た頃の記憶が無いから」

といつもの設定で答える。


「じゃあ、バルム婆もハーフエルフなの?

 デュークのところで聞いたら腐ったエルフって言ってた」

「…バルム婆は…まあ、察してくれ」


 本当に腐っとんのかい!


「でな、外から来たお前に頼みがある」

「出来る事なら構わない。痛いのと殺すのはイヤだけど」

「それなら問題ない。

 女を数人抱いてくれ」

「はあっっ! 冗談だろ!」

「本気だ。

 上手く行けばエルフが産まれる。この里の男とは試しているが…後はお前だけだ。

 十二人ぐらいなら楽勝だろ?。

 秘伝の強精薬もある。一晩三人で四日のお勤めだ」


 ちょっとさ…二日前に骸骨さん…決して俺ではない…がラサベラさんとハッスルしたばかり。

 俺は種馬じゃないんだし、そんなに出来る訳がないだろ。


「俺は一日でも早くコンラッドに戻りたいの。好きな女性が待ってるから」

「それなら予行演習にもってこいだな。

 今から始めるか?」

「やらないし、やっても出ないよ!」

「…昨日、一人で? 哀れな奴」

「違うっ!

 二日前にラサベラさんと…今の無しでっ!」

「ラサベラ? デュークの娘のか?

 あんなのが好みか…仲間に居るかな?」

「好きでやったんじゃない! 嵌められたんだよ!」

「はめたのはお前だろ…?」

「違ってないけど、違う!

 マジで俺の意思じゃないんだ!」

「その手があったな。すぐ手配しよう」

「しなくて良いから!」

「じゃあ、自分の意志で抱いてくれるんだな。恩に着る」


 何と言っても都合の良い方に解釈しやがる。

これじゃマジで十二人とやる羽目になりそうだ。

 と言うか、キリアスってこんなのばっかりなのか?


『ここの魔力濃度の影響を生殖機能が受けているのだと思われます。

 クレストさんは外から来たのでキリアスの魔力に毒されていないようですが、鋼鉄王の支配地域も魔力は濃かったので。

 それでラサベラさんが焦っていたのでは?』


「トカゲ! それは本当かっ!?」

『可能性として。元々生殖機能の弱いエルフ族ですから、この魔力で影響を受けていないと断言は出来ないです。

 この地に未練が無いのなら、一度離れて体から魔力を抜いてみるのが良いのでは?』


 ドランさんの言葉に頬に手を当て考える秘書役。


『それが無理なら、魔力浄化をすることをお勧めします。

 魔族でもない人間に、この濃い魔力は害にしかならないのですから』

「だがこの魔力の恩恵を受ける事で我々は…」

『恩恵と滅亡、どちらが大切ですか?

 とは言え、私の説は仮定の話です。間違っているかも知れないので、強くは言いません』


 仮定と言いながら、ドランさんは確信してるんだろうな。下手に希望を持たせるような事を言うトカゲ…じゃなくてドラゴンじゃないからね。


「だが、やはりエルフが産まれるとしたらハーフエルフ同士…確率を上げる為にも、クレストさんに協力して欲しい。

 いえ、私を抱いてくれ!」


 極端から極端に振り切れてるよ、この秘書役さん。タイプじゃないし、どうやって断ろうかな。

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