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第51話 逃走

「クレスポ! 逃げるのは許さん!」


 望楼から拡声器を使って関根さんの声が俺の背中に響いた。

 通信系の魔道具と関根さんの移動系スキルがあれば、この関に一瞬で飛んで来るのも不可能ではないのか。


 もし始めから関根さんが関に居れば、アルジェンが魔力を感知して教えてくれただろう。

 それと関根さんが関に居るってことは、そこにしか瞬間移動は出来ないってこと。

 ならば今のうちに少しでも距離を開けておこう。


『クレストさん、合体ですね!』

「頼む!」


 トカゲモードだったドランさんが光となって俺の中に入ってくる。

 体が軽くなるのを確認したのと同時に、俺のすぐ横に槍のような矢が突き刺さった。


「ゲッッ! 精度高杉!」

「しんさくさんなのです!

 なんて言ってる場合ではないのです!

 キチガイが来る前に逃げ切るのです!」


 アルジェンの中では関根さんはキチガイ扱いか。

 次々と降ってくる矢が俺の進路を上手い具合によって塞ぎやがる。使っているのはバリスタと呼ばれる大きな弩だと思うが、こんな精度の良い武器とは思えない。


 兵の練度がそれだけ高いのか…暇つぶしに的当てゲームをやっているのを知る訳もない。


「アルジェン。カウンタックを装備するぞ」

「矢を防ぐより前に進むべきなのです!

 私が進む方向を指示するのです!」

「分かった。頼む」


 背後から狙撃される恐怖をヒシヒシ感じながら、アルジェンの言う通り前を向いて走ることにした。


「右!なの……」

「あっ!」


 右に動いた瞬間、腿を掠めるように矢が降ってきた。


「逆に動いたらいけないのです!」

「俺とお前の向きが逆なんだよ!」

「あっ…そうなのです」


 移動すべき方向の逆を言うのって意外と難しいのは分かる。でも今の状況でそれをやられると即死コースだからな…。


「高魔力反応! あの赤いのが来るのです!

 速いっ!」


 関根さんの参戦により、バリスタを避けながらの移動からは解放されたが今度はもっとやばい奴だよ。


「アルジェン、ドランさんが入ったままでKOSは出せるか?」

「分からないのです!

 ドラゴニュートとKOSが合体するかも知れないのです!

 メカゴジ○になるかも知れないのです!」

「なら『火山噴火』をキチガイに命中させられるか?」

「動きが速すぎて難しいけど…広範囲魔法なので足止めぐらいにはなるのです」


 関根さんの鎧なら、『火山噴火』を食らっても生きてるかも知れないし。寧ろ俺の方が危ないかも知れないよ。

 アルジェンなら飛んで離れた場所から発動が出来るから…いや、それをやるとアルジェンが狙われる可能性が高いのか。


「ヤルなら早い方が良いのです!」

「やらないよ、とにかく全速で逃げる!

 ドランさん、いざという時は変身して飛んでくれ」

『了解!』


 関根さんが得意技のメガトンフレアで攻撃してくるのを回避しながら荒涼とした野原を駆け抜ける。

 着弾と同時に戦隊ものの爆破シーンのような爆発が起き、土砂が弾け、土煙が立ち上る。


「当たれば大喜利なのです!」

「しょうてん違いだよ!」

『何を言ってるのか分かりません。

 冗談言える余裕はもう無いけど』


 ドランさんの能力で加速した俺に追い付くとか、どんなチーターなんだよ、あのキチガイさんは!

 こんな奴、KOSでも勝てる気がしないぞ。


「中々脚が早いな。ダンジョン管理者探しは諦めて、歩いて戻るのか」

「コッチにも色々都合があるんだよ!」

「その肩のは妖精…? まさかそいつが?」


 俺の隣に並んだ関根さんが息を切らせることもなく、平然と話し掛けてくる。


「アルジェンは管理者じゃないよ。

 ところでアンタの能力は、その鎧のお陰か?」

「そう言うお前は…何処の中二病患者だよ。

 オデコに光る紋章か?」

「うるせえ。これは事故でなったんだから」


 ドランさんが俺の額にって言わなかったからこうなったんだよな。事故だよね?


「あの銀色の鎧を使わないのか?」

「アレは癖があり過ぎて使いにくいんだ。

 アンタの鎧は?」

「寿命が縮む程度で使える便利アイテムだな」

「マジか! どんだけ減るんだ?」

「一分間で一時間減るらしい。大した問題ではない」


 大した問題だろ? 

 三十六分使えば一日分の寿命が減るんだからな。


「それよりこの先は鋼鉄王の領地だ。俺でも奴は倒せない。お前はどうするつもりだ?」

「どうするつもりって聞くなら、その剣を仕舞えよ。なんで斬り掛かってくる?」

「逃げられんようにと思ってな」

「やっぱキチガイさんだな」

「照れるぜ。最高の褒め言葉だ」


 光剣でも断ち切れない関根さんの剣はマジックアイテムだな。ただの鋼の剣ならあっさり両断出来る程の熱量なのだから。

 KOS化していない状況では極めて短時間しか使えなかったが、制御をドランさんが肩代わりしているお陰か時間に余裕があるようだ。


「この先に鋼鉄王とかカーネギさんとか誰が居ようが、俺は俺の道を行く。

 待っている人達が大勢居るからな」

「俺の部下になるより、そっちの方が大事か?」

「当然っ!」


 顎の下から襲ってきた凶器を本能的に察知しギリギリ掠めた程度で回避すると、バックステップで距離を取る。


「いきなり殴りかかるような奴に誰が仕えるかよ。今の食らったら下顎が無くなってたぞ」

「そのつもりだったんだが」

「そんな関根さんでも、鋼鉄王には勝てないのか?」

「奴は全身が鋼鉄で出来たような魔族だ。テツタローさんなんて目じゃ無い」


 それはアイアンゴーレムの名前か?

 それに魔族ってことは寿命も人間より長いかもな。


「それなら鋼鉄王に会うのも良いな。

 何か伝言しようか?」

「…本気か?」

「会えればね」


 偉い人にそう簡単に会えるとは思えないし、そんなことで時間を浪費するつもりもない。 

 ちなみに何を吞気に喋っているのだ、と思われるかも知れないが、容赦ない攻撃を躱すのにずっと必死なのである。


「光る紋章は飾りか?

 何故攻撃をしてこない?」

「無闇矢鱈と人に斬り掛かる趣味は持っていないんだよ」

「そんな甘っちょろいことで、この世界を生き延びられると?」

「あいにく…関根さんと違って育ちが良くてな!」


 打ち合えば、こちらの体が軽くなる制御を受けていることがバレるのだ。下手に攻撃を繰りだす訳には行かないのは当然だ。


「つまらん」


 ボソリとそう言うと、キチガイさんが赤い鎧を解除した。セリカさんの『気高き女戦士の鎧(ブリュンヒルド )』と同じ仕様のようだ。


「一撃だ。次の一撃を受けるなり回避するなり出来れば好きな所に行くが良い」

と言うと、大上段に剣を構えて炎を纏わせる関根さんの目はキチガイでは無く武人の目だった。


「…それ、メガトンフレア、何発分だ?」

「さあ?

 一キロ先まで灰燼と化すらしいが、計測したことは無い」

「生かすつもりはゼロだろ?」


 関根さんはただ振り下ろすだけで広範囲に攻撃可能なのだ。そんなのどうやって回避しろと?

 


『ヤラレル前に』

「ヤルしか」

「ないのです!」


 後ろがダメなら前しかない。

 鎧を外したと言うことは、恐らくはこの先に行くのなら俺を殺せと言う関根さんのメッセージなのだから。


「逝くぞっ!」


 剣に溜められる魔力が限界に達したのか、額に汗を流した関根さんがそう呟く。

 剣が振り下ろされようとした瞬間、俺は意識をポックリと失った。



「…あたっ」


 硬い物を枕にしていたのか、寝返りを打つと頭にゴツンと衝撃が来た。


「やっと起きたのです!」

『良かった! 死んでなかった!』


 目の前には宙に浮かぶアルジェンと透き通る水晶のようなドランさん。

 急に頭に響く声にキーンと脳が震えたような気がする。


「…関根さんは?」

「先に敵の心配するとは、さすがパパなのです」

『中の人が倒したんだよ。生きてるけど』


 中の人って骸骨さんが?

 そう言えば、皮ジャンの両袖が無くなってるよ。今着てるのはスペアの方だから、もう替えが無いんだよ。

 バンパイアのノラとの戦いで一つダメにしちゃったからね。

 帰ったらルシエンさんに注文しなきゃ。


 いや、皮ジャンの事より骸骨さんだよ。

 骸骨さんとスイッチしたからと言って、今まで意識を失ったことは無かったんだよ。

 それは今までは骸骨さんなりに気を効かせてくれていたのか、それともそう言う仕様に変わったのか。


『中の人…骸骨さんは僕の魔力を使ってシールドを張ったんだ。両腕は…アルジェンが治した』


 特に腕に違和感は無いが、肘から下の袖が無いのはつまり…そう言うことか?


「さすがにアレは、元魔王でも借り物の魔力では無傷とはいかなかったのです」


 ありがとよ、骸骨さん。命拾いさせてもらったみたいだな。

 礼を言っても返事は無いだろうけど。


「シールドでギリギリ防いで、頭突きの連打でノックアウトさせて、その後はドランさんが制御してここまで飛んで来たのです」

「そうか、すまないな。

 それでここは?」

「現場から東に十キロほど先の森なのです。

 ゴブリンしか居ない平和な場所なのです」


 ゴブリンが居る時点で平和では無い気がするけど、そこは人間と魔界蟲の根本的な強さの違いってやつか。


「森の外れにはキチガイさんの軍に対抗する関があって、攻撃してきたので軽くお仕置きしてあるのです」


 …そこ、何とか穏便に出来なかったのか?

 骸骨さんとアルジェンの組み合わせじゃ、それを期待するのは無理かも。


 時間が惜しいから、さっさと先を急ごうか。


「動く前に食事をお勧めするのです。

 お仕置きついでに水と食べ物などを少しだけ戴いてきたのです!」


 それって全部俺がやった事になってるよね?

 今からこの領地を歩くんだけど、それってどうなの?

 濃紺の髪の人がコンラッドより多いそうだから大丈夫!とか安易に考えてないだろうね?


 食事はお鍋に入れてお湯で温めるだけで食べられるように加工した保存食が何種類かあり、予想以上に美味しく頂けた。


 だがモグモグ食べながら、また次に関所や城門を通過することになったらどうしようかと心配になってきた。

 なるべく戦闘にならないようにと思うのだが、相手の出方が分からないからね。


 通行料さえ払えば通れるのか、それともスパイ容疑で逮捕されるのか。

 リミエンのギルドカードで身分証明が出来るのなら良いけど、さてどうなることやら。

ブックマークを付けてくださった皆様、ありがとうございます。

休載前までブックマークはゼロだったのでビックリです!

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