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第49話 風になって

 キリアスのダンジョンに取り残された俺は、アルジェンがリミエンに戻る方法があるところ言う言葉を信じることにした。


 アルジェンは嘘をつかないからな。


 『赤熱の皇帝』と呼ばれる関根さんに壊された転送ゲートがあった場所まで戻ると、そこでアルジェンがパタパタと飛び回り始めた。


「何をやっているんだ?」

「このダンジョンの管理者を呼ぶのです」


 そんなの出来るの?

 それなら何処に居ても出来そうなものだけど。


「おかしいと思わなかったのです?」

「何が?」

「キリアスからの脱出を希望する人達が運良くリミエンに転送出来るゲートを見付けたことなのです」


 …言われてみれば、これはラッキーと言うレベルは軽く通り越して奇跡だよね。

 俺がダンジョン管理者をやっている時には転送ゲートなんて無かった。

 あれば俺に会いに来る前にエマさん達が見付けてパニックになった筈。


 と言うことは、俺から魔界蟲さんに管理者をバトンタッチしてからこの転送ゲートが繋がったってことになる。


「パパは知ってるですが、管理者達はダンジョンネットワークで繋がっているのです。

 ここのダンジョンの管理者が、国外に繋がる転送ゲートを設置するので出口となるダンジョン管理者を募集し、本体さんが手を上げたのです」

「それは、このダンジョンに来る人達を管理者が国外移住させてあげるために?」

「そうなのです」


 俺がダンジョン管理者となって、エマさん達をバンパイアのノーラ何とかから守るためにアレコレやったのと同じように、ここの管理者も住人達を守ろうとした訳か。

 それって多分、ここに暮らす人達と縁のある人が管理者になっていたと考えても良いんだろうな。


 どうやって手に入れたのか聞いていないが、ルーファスさんは転送ゲートを操作する魔道具を所有していた。

 普通に考えて、そんなレアどころじゃないアイテムを都合良く入手出来る訳がない。

 俺が仲間達に渡したように、意図的に用意したものだと考える方がより自然だと思う。


 ダンジョン管理者はそれぞれの考えで自由に後継者を選ぶことが出来る。厳密に言えば、後継者の基準を、だけどね。

 それでバンパイアを倒せるぐらいの強さを持つって条件を付けたウチの前任者の頭はどうかしていると思うが。


 当然だけど今の俺はダンジョンにネットワークにアクセス出来ないから、管理者と遣り取りは不可能だ。

 アルジェンは恐らく本体さんと連絡して、ここの管理者の情報を得たのだろう。


 そいつが俺をリミエンのダンジョンに送り届けてくれるのなら、それが一番手っ取り早いが、問題はダンジョンに貯まっている魔力ポイントだ。

 恐らく転送ゲートを開く為に相当な無茶をしたに違いないから、もう一度転送ゲートを開くことが出来るのかは正直に言って疑問である。


 パタパタと飛んでいたアルジェンが俺の肩に停まる。


「来るのです!」

と言って指をさすと、転送ゲートのあった所に魔力が再び集まり始め、臨界点に達したように弾けるとそこには水晶で出来たような小さなトカゲ?が宙に浮かんでいた。


「初めまして!なのです!」

とアルジェンが挨拶をすると、トカゲがペコリと頭を下げた。


「この子が管理人さん?」

「本人は動けないから、代理を寄越してきたみたいなのです。

 本体さんとスライムダンクちゃん…クレールドリューヌちゃんの関係のようなものなのです」


 動けない本体さんをサポートするために生み出された筈のアルジェンが俺に付いて来ることになったから、代わりに三匹のスライムの内の一匹を本体さんにあげたんだよね。


 宙に浮く水晶のトカゲに手を出すと、スーッと動いて手のひらに着地した。

 少し手のひらから溢れるぐらいの大きさか。

 ヒンヤリとしていて、滑らかな触感は見た目の通り。


「それで、この子を使ってどうするの?」

「えーとね…ふむふむ……ほぉぉ、そうなのですね。

 結論から言うと、転送ゲートは魔力不足で開けないらしいのです」

「やっぱりか。それでどうやって帰るの?」

「陸路か空路を突破するのです。この子はナビゲーターを務めるそうなのです」


 …それってつまり、自力で帰れって言うのと変わらないよね?

 進む方向だけは分かるかも知れないけど、一体何日歩けばリミエンに到着するのやら。俺にはそんな暇は無いんだけどさ。


 で、空路って飛ぶってことだよね?

 この子に乗れと? 無理だろ…


「その不審げな顔は良くないのです。

 この子は小さく見えても千年も生きてるドラゴンなのです」

「マジか?!」

「私は嘘は付けないのです!」

「そうだったな。

 それで、このドラゴンをどうするの?」


 トカゲかと思っていたら、まさかのドラゴンだったのでビックリ。

 考えてみれば、トカゲは宙に浮かないかと後で納得しながら顎の下を指で撫でてやる。


 目を閉じてウットリしているように見える水晶のドラゴンだったが、気が済んだのか身をよじるとスタスタと手のひらから腕を伝い、俺の頭の上に肩からピョンと跳び乗った。


「そこは私の専用シートなのです!」

と抗議するアルジェンだが、それは間違った認識だと後で教えようと心に誓いながらドラゴンが何をするのか見守る…頭の上なので見えないが。


「……ミニミニ魔界蟲さんを貸して欲しい、なのです?」

「ギャウ!」


 俺には聞こえない通信のようなもので管理者と話していたアルジェンが、右腕を光らせると腕に巻き付いた状態でミニミニ魔界蟲さんを取り出し、天に向けて腕を伸ばす。

 勢い良く発射されたミニミニ魔界蟲さんが天井スレスレでUターンすると、ドラゴンさんの回りをグルグルと回り始めた。


 頭上での出来事なので、たまに視界に入る情報での判断だけどね。


 頭の上に二本足で立ったトカゲのようなドラゴンさんが、スッと宙に浮き上がる…自分では何がどうなっているか見えないが、楽しそうに見ているアルジェンに後で教えてもらおうかと思っていると、気を効かせてくれたのかドラゴンさんが俺の目の前へと降りてくる。


 変化があったと言えば、スリムな体に不釣り合いな羽が生えていることか。

 その羽根を上下に羽ばたかせてのホバリング、そしてクルリとその場でトンボ返りを決める。


 どう考えてもこの体に羽根を動かして飛べる筋肉は付いていないから、やはり飛行系の魔法かスキル持ちで間違いないだろう。


「ギャウギャウ!」

「第一フェーズを完了したそうなのです」

「文字数が全然違うと思うけど、通訳あってる?」

「パパの耳にはギャウしか判別できなくても、ちゃんと通信魔法で会話出来ているの問題ナッシングなのです」


 なるほど、テレパシー的な何かで遣り取りしてるんだ。


「ギャギャウ!

 ギャウゥ!ギャーヴ!」

「外に出て変身する。

 移動は手伝ってやるから、もし戦闘になったら自力で何とかしろと言ってるのです」

「…敵軍の中を強行突破しろと?

 で、その移動はどんな移動で?」

「ギャー、ギャンギャヴ…あ、話せるの忘れてたよ、ゴメーン」

「…それは良かった…」


 きっと羽が生えた時点で進化と言うか、アップデートされたのだろう。

 それは良いけど、どう考えても喋るトカゲってシュール過ぎてあり得ない…声帯とか色々違う筈なので、これもコミュニケーション系の魔法かスキルだと思うことにしよう。


「ドラさん、凄いのです!」

「ドラさんではなくドラン・ザムと申します。

 ドラさんだとゲームの役みたいで気持ち悪いかな」

「トランザムじゃなくてドランザムさんか。

 名付けは転生者だな?

 でもクリスタルドラゴンにドランザムとはなぁ…ファイヤードラゴンならピンと来るけど」

「いいえ、名付け親は産まれも育ちもこちらの世界の人です。ドランが名前、ザムが姓です。

 ドランと呼んで欲しいので宜しく」


 自己紹介を終えて器用にVサインをするドランさんに、こちらも自己紹介しようとしたら知っているので大丈夫だと断られた。

 別に拗ねていないからね!


「話の腰骨を骨折させてスミマセン。

 で、移動の話でしたね。

 ほんとは鳥のように飛行させてあげたいのだけど、これをすると短時間でクレストさんが死ぬので辞めておきます。

 空気抵抗を舐めたらアカン、ですから」

「時速何キロで飛ぶ気だよ?」

「さあ? 自分、不器用ですから。速度調整は苦手なもので、常に全速なんですよ」


 生身でマッハを体感か…怖くて出来ないな。

 それならアルジェンに『飛行』を使ってもらった方が良い…アレは対象が本人だけか。


「なので、クレストさんの重量を軽減させて、速く走れるようにします。

 これならクレストさんも自分で制御出来ます。

 ただし…」

「ただし何が?」

「額に紋章として私の家紋が浮かび上がって格好良いのですが、自分で見れないのが残念です」

「…はぁ、それは諦めて貰うしかないか」


 ドランさんの額にどんな紋章が浮かぶのか知らないけど、それぐらいなら問題無いだろう。

 移動中はリュックの中に入っていてもらうから、ドランさんを誰にも見られることもないし。


「では、今はまだ夜中ですが出発しますか?」

「そうだな。

 アルジェン、それで良いか?」

「私はいつでもバッチこーいなのです。

 空を飛ぶように走るパパを堪能させてもらうのです!」


 結局このダンジョンの管理者に付いては教えてもらっていないが、移動中にでも教えてもらえばよいかと思い外に出る。


「関根さんの反応は無いか?」

「周囲に人の反応無しなのです。

 じゃあドラン、やって良いのです!」

「了解!」

「あ、ちょっと待てょ」


 と手を伸ばしたが、ドランに触れることは出来なかった。

 ドランはキラキラと輝く光になったかと思うと、その光が一瞬にして俺の体を包み込んだのだ。


『クレストさんの中って居心地が良いですね』


 ドランさんの声が直接頭に響くのは、アルジェンが俺の中に入ってKOS化した時と同じなので戸惑いは無い。

 だが入るのならその前に一言ぐらいは言って欲しかった。てっきり魔法を掛けるだけだと思っていたんだから。


「パパの額に紋章が浮かんでいるのです!」

「…そうなるよなぁ…はぁ」


 ドランさんの額じゃなくて、俺の額にそうなる訳だ。何処の漫画の主人公のパクリだよ?


「パパ、嘆く暇があるなら脚を動かすのです!

 フーリンカザンなのです!

 千の風になるのです!」

「縁起でもない! それ、死んでるやつだから!」

「やっと私のターンなのです!

 ママの話は仕方ないけど、子供の話は長過ぎたのです!」

「ロイは俺の家族枠だし。どんな成長したのか知りたいだろ?」

「修羅道に落ちたダークロイなら見たいのです!

 ゴブリン二体で大袈裟なのです!」

「フフフ、私のロイ君に何てことを言うのかな?

 そんな悪いことを言う子は『タンスにドンドン!』」

「エマさんが闇堕ちしてるょ…あ、ムシューダ入れてる?」

「ふふ、勿論よ!」


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